第4話 初めての出社
あれよあれよという合間に、私は初めての出社日を迎えていた。
この前と同じ会議室に案内される。説明会の内容では若干名の採用とされていたものの、会場に入ると十人ほど新入社員らしい同僚が着席していた。
意外と採用倍率は低いのかもとそんなことを思いながら、窓口に続いて会議室の入り口で改めて受付を行い部屋に入った。座席は、一人ずつ間隔をあけて座る場所が指定されていた。
指定されていた席に座る。
きっちり十時からオリエンテーションが始まった。各種書類の提出や、社内システムの利用方法。勤怠管理など基本的な会社でのお作法部分をレクチャされていく。
支給されたPCはWindowsだった。MAC派の私としてはなんとも少し残念に思う。
その後、名刺の支給があって、そこには調達部管理課という記載が踊っていた。
昼休みになって、耕太からlineでランチに誘われる。すぐに行く旨を返しておいて、立ち上がる。
「あの」
すると、ちょうどこちらに声をかけようとしていたらしい女性とぶつかりそうになる。
慌てて謝ると、向こうも気の毒そうに謝り返してくる。
「ごめんなさい、急いでいたみたいで。もしよかったら、ランチでもどうかしらとおもったのだけど」
「あー、いいですよ。ごはん行きましょう」
哀れ耕太よ。私はお前さんよりも、かわいらしい女の子とのご飯を優先する。許せ。
視界の片隅に待ち合わせ場所を伝えてくる耕太のメッセージがポップアップするのがちらりと見えたが、見えていないことにする。、浅上さんとランチに行く道すがらで、行けない旨送っておこう。そんなことを考えていると、なにか迷っているとでも思われたのか心配そうに浅上さんが聞いてくる。いい人だ。
「なにか急いでいたみたいだけど、いいの?」
「大した用事でもなかったので。あらためてまして、奥村です」
「浅上です」
軽く挨拶を交わして、ランチ場所を求めて外に向かって歩き始める。たしかアルバイトしていた頃に通っていた洋食屋がまだある筈と記憶をたどり寄せて、このあたりに不案内らしい浅上さんを案内する。
時間帯によってはカフェタイムもやっているその店は近所でも人気のランチスポットだったものの、説明会の休憩が十一時半に始まってくれたので、悠々と席に着く事が出来た。
私はおススメのドミグラスハンバーグを注文する。浅上さんは私の注文からアボカドをトッピングして、ライスをハーフにしたものを注文していた。
「さっき、奥村さんが入ってくるまで周りが男性ばかりでちょっと気まずかったんです」
注文を終えてほっと一息つくと、浅上さんが話し出す。思い返すとたしかに十人ほどの中で女性は二名だった。
ただ、男性陣はアジア系の外見の人がゼロだったのももう一つの事実だ。アングロサクソン系、中東系、アフリカ系、ラテン系という具合に一瞬私もとまどったのは事実だ。
アルバイト時代は周りがほぼ近所のおばちゃんで、とりまとめ役の人だけ日本風の男性だったのとは大違いだ。
「たしかに男女比率は偏っていたよね」
「そういえば、奥村さんは前職何をされていたんですか?」
「MRですね。ここでは調達部」
「エリートじゃないですか」
「そうなの?」
「この会社だと物流部と調達部が二大出世街道ですよ」
「なんか、浅上さんずいぶん詳しいんだね」
「私は前職、大手会計事務所の秘書業務をしていまして、担当していたエグゼクティブの主要顧客の一つが物流局だったんです。あ、もちろん別にそのラインからの情報ではないですよ。ただ、秘書仲間での情報交換といいますか」
「なるほど」
とりあえず、浅上さんを敵に回すのはダメなんだろうなということはわかった。
「それなら、安泰じゃない? どうして、転職を?」
「外資系の会計事務所なので、どうしてもパフォーマンスが上がっていないエグゼクティブが他所へ移ったり、独立したり。一人につき、最大で三から四名のサポートにつくのですが、私は上級エグゼクティブのお世話をしていましたので、基本一人につくか隊だったんですよ」
その人が引退して、静かに余生を過ごすことにした為、浅上さんは新たに担当する人が割り当てられることになったのだという。
「ただ、私もそろそろ手に職をつけたいなと思いまして」
浅上さんの語る世界は私とは違う世界だ。でも、また違った大変さがあるんだろうなと思う。
「ちなみに私は総務部の所属になりました」
「じゃあ、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ」
惚れ惚れするような綺麗な笑みだった。口角がいい感じに上がっている。
早速、社内の友人が一人できたところで同時に運ばれてきたお互いのハンバーグに向き合う。
つなぎにはパン粉などの通り一遍のものしか使っていなさそうな味なのに、こねる時の腕前の差か自分で創るよりもよほど、肉の硬さがちょうどいい。
付け合わせのカットされ、ボイルされたニンジンやブロッコリーも付け合わせのソースとの絡み合いが抜群で空腹だった私を静かに満たしていく。
浅上さんの方を窺うと、彼女も満足してくれたようだった。惜しむらくは私の頼んだハンバーグを筆頭に、週替わりメニュー以外はランチと言えど千円札では収まらない為、ニートでは来るときに一瞬の躊躇が生まれることくらいだろう。
収入が福沢諭吉お一人未満の時代に、お札を出すのは意外と私でも躊躇してしまうらしい。ゼロではないのはちょうどいい機会だからと色々なものを売り払ったからだ。
ちなみにこの店には凡そ一ヵ月のニート時代に、四回しか来ることが出来なかった。
「そういえば、物流局にはLGBTの方を積極的に採用する風土があるとか」
「LGBTって、ああ」
「私、この会社もっとお堅いところかなとおも思ってたんですけど、どうも違うみたいですね」
「たしかに私もそれは思った。なんか、結構頭が柔らかいところなのかも」
浅上さんもそれなりに食べるのは早いようで、私が食べ終わってからほどなくして食事を終えた。
満足げな浅上さんと共に最初の会議室に戻る。
午後の説明は午前中の続きで、基本的に今日はオリエンテーションで一日終わるらしい。
支給されたノートパソコンを立ち上げて、午前中に説明された各種社内ツールの置いてあるサイトへのアクセスや、既に届いているメールの確認などを行う。
それで一日が終わり、翌日は午前中にもう少しオリエンテーションがあった後、各部署毎にわかれるらしい。
ひとまず一日目が終わった解放感で脱力する。
支給されたノートパソコンはそのままセキュリティケーブルをつけて、会議室においていっていいらしい。お言葉に甘えて、パソコンは置いたままで帰ろうと思い、もう少し今日は支給された電子ファイルを確認してから帰ろうと思っていると、素早く帰り支度を整えたらしい浅上さんに話しかけられる。
「今日はランチにいってくださってありがとうございました。そういえば、連絡先交換してませんでしたね」
ああ、と確かにランチにあわただしくいって、戻ってきただけで交換していなかったなと思い携帯電話を出してお互いの連絡先を交換する。
「では、また明日。お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
さらりと浅上さんと別れて、ノートパソコンでもう少しだけ各種資料を見てからシャットダウンさせ、私もぼちぼち帰るかと立ち上がって外へと歩き出す。
外に出ると、空が茜色に輝いていた。考えてみれば、この時間に会社から出るのはかなり久しぶりな気がする。
母に今終わったけど、なにか買う必要のあるものあると連絡しつつ、駅までの道を歩き始めた。
翌日。午前中のオリエンテーションが終わり、お昼を挟んで午後から部署毎に移動となる。
人事の人達がそれぞれの部署へ案内してくれるらしく、ずらりと会議室の前面に並んでいた。
調達部の案内は耕太が行うようだ。
調達部は私一人だったようで、案内についた耕太の後ろをついていくのは私一人しかいなかった。総務部の方へ移動していく浅上さんと手を振ってわかれると会議室を出て、耕太に案内されるままについていく。
「早速の説明なんですが、まず斉藤さんの所属する調達部の部署フロアは」
説明を聴きながら、オフィスの案内をしてもらう。しかし、まさかこの年になって、幼稚園の頃から知っている耕太に、さん付けされて呼ばれる日が来るとは思わなかった。
密かな優越感をかみしめつつ、笑いそうになるのをこらえながら歩く。
ため息をつきつつ前を向いていた耕太はこちらを一度ちらりとみたので、手を振ってあげる。もちろん、笑顔でだ。
「ゆかり姉、笑い過ぎ」
そんな私の様子についに耐え切れなくなったのか、耕太が呆れたような声を出す。
「あんたがさん付けするから」
「いや会社だからね、ここ」
会社だと認識しつつもなかなか切れ味の鋭いノリツッコミを見せる年下の幼馴染に多少は申し訳ない気持ちになる。
「わかってるわ」
「本当かなぁ、俺は不安なんだけど」
「あんたが推薦したんでしょ」
「うん。その通りなんだけどね。やっぱりちょっと後悔してるというか。まあ、とりあえずはゆかり姉の上司を紹介するよ。紹介したら俺の案内は終了だから」
「ありがとう。助かるわ」
素直にお礼を言っておく。なんだかんだで憎まれ口を時折叩きつつも、次の行き先を考えていた私に新しい道を示してくれたのだ
感謝しても、し過ぎることはないと思う。
「ちなみにゆかり姉、今週どこかで改めてランチでもどう?」
浅上さんのお誘いによって、一回すっぽかしてしまっているので、今度はできるだけいけるようにしよう。
そんなことを思いながら、頷く。
「別に私はいいけど、いつにする?」
「また連絡するよ。ちなみにここだからね。じゃ。入りますよと」
耕太に案内された部屋の中に先に入る。中は会議室になっていた。
耕太に席に座るように案内され、座ると同時に部屋が暗くなり、前方でビデオが上映され始める。
振り向くと、耕太が操作をしていた。
「何が始まるの?」
「調達部の新人向けムービー。調達部長さんにまずはこのムービーを見せてくれという風に頼まれてね」
「会社紹介ムービーだったらめちゃくちゃ、詰まらなそうね」
面白い会社紹介ムービーは本当に数えるほどしかないと思う。
「まあまあ、みんなそういうけど」
「みんな言うんかい」
「でも、別にこれ。会社ムービーじゃないから大丈夫」
「へぇ、そうなの」
「もう始まるので、前方に意識を集中させて」
耕太が後ろの方の座席に座り、前方では本格的に上映が始まったので画面に意識を集中させた。
それはサンタクロースの物語だった。
トナカイのソリに乗って、子供たちにプレゼントを配るというそれ。それが童話風の水彩アニメーションで描かれている。
子供たちに笑顔を。そういうフレーズの後、企業ロゴがどっさりと並ぶエンドクレジットが流れ始める。
「どうかな、ゆかり姉ならわくわくしてくるんじゃないかと思って」
ムービーを流したまま、耕太が隣の席に座って、一枚の紙を手渡してくる。
「サンタクロースプロジェクトね」
「国家プロジェクトってやつだね。子供たちに夢と希望を与える」
今のムービーで語られていた事は明白だった。物流局や広告代理店、おもちゃメーカーが協力して子供たちへのプレゼントの調達から物流を担うというプロジェクトだ。
「面白そうだけど、規模感が途方もなくて、どっきりじゃないの? こんなの」
「どっきりとは失礼ね」
振り返ると、いつのまに部屋の中に入ってきたのか、ネイビーの高級な仕立てのスーツを着こなした綺麗な立ち姿の男性が立っていた。物流局の次長。藤原旭さんだよと耳元でこそっと囁いてくる。
この人が上役なんだ、とみるのもそこそこに頭を下げておく。
「宜しくお願い致します」
「よろしくね」
この人、おネエさんかな。握手をしながら、なんとなくそんなことを思う。
相手は親交を温めるというよりかは、即座に仕事の話に入りたいらしく握手もそこそこに質問みたいな事をされる。
「前職は営業だったかしら」
「はい。MRを」
「それは重畳。励んでもらうわ。私はあまり無駄な事をしたくないの。まず、キーマンを紹介するわ」
ついてきてというなか、誘われてついていく。
プレートに物流部管理課と書かれている部屋に入る。
奥の方の長になっている部分と
「彼が添田君。元々は鉄道マンでね、運航科でダイヤ改変を担当してたりしてたの」
「こんにちは、斎藤ゆかりです」
「どうも添田です」
黒縁メガネをかけた線の細い人だった。こちらに目線さえもくれずに大型のモニタを眺めてなにかを打っている。
MACならわかるもの、ノートパソコンからごついキーボードを伸ばしてそれで売っているせいかタイピングがめためたに早い。
藤原さんは心得たものなのか、そのままにこにこと添田さんを待っている。やがて、十数秒後きりのいいところまでいったのかゆっくりとマウスとキーボードから添田さんは手放す。
まだ視線はモニターの色々な個所を矯めつ眇めつしている。
「そ・え・たくん」
藤原さんから、もう一度呼びかけられると諦めたように添田さんは手をゆっくりとキーボードから離す。
「はい。終わりました。それで、藤原さんが連れてきたという事は彼女がそうですか」
気になることを口にしつつ、何事もなかったかのようにこちらに向き直り、眼鏡のレンズ同士のつなぎの部分を中指で何度か押すと立ち上がってすっと懐から名刺を出してくる。
あまりにも自然で営業で培った私の習性が考えるまでもなく名刺を出そうとして、昨日貰ったまま部屋に置いてきたことに気づく。名刺を出そうとしたポーズで一瞬固まり、既に向こうが差し出しているそれをひとまず頂戴する。
そこには、添田友則と記載してあった。会社名が物流局のものではない。
「添田さんてパートナー会社の方?」
「はい。鉄道会社を辞めた後は、ロジスティクスのコンサルタントをしています」
「なるほど。そしてごめんなさい。私ここの名刺をもらったけど、置いてきてしまったわ」
「いえ、お気になさらず。藤原さんが僕を紹介したということは、今後も顔を合わせる機械は多いでしょう」
「そうよ。彼女は管理官候補ね。推薦するわ」
「転職してすぐですよね。なかなか藤原さんも酷なことをなさる」
「苦労は買ってでもすべきがこの部署の家訓なの」
二人でなにやら裏のある言葉のやりとりをしている。どうも私に重荷がのしかかってくるらしいが、なんだろうか。
話題に割りこんで話を聞く。
「すみません、事情を。事情なり情報を欲しいのですが」
「サンタクロースのムービーを見たわよね」
耕太と同じだ。唐突なサンタクロース。
「赤い服をきて、ポンポンみたいな毛玉がついた帽子をかぶってトナカイ橇に乗るおじいさんですよね」
「そうそれ」
「耕太にも言われたんですが、なんなんです? ムービーを見て、この会社が協賛してるのは分かりましたけど」
「あなたにもサンタクロースになってほしくてね」
「サンタコスプレは二十代前半までで卒業しましたけど私」
「コスプレは別にいいわ」
藤原さんに苦笑される。添田さんは特に何の表情も浮かべていないというか、無表情でまたモニターに向かっている。
「わたし達が直接、恵まれない家庭を一軒ずつ訪ねて、配るわけではないですよね」
「そんなことはしないわ。ついてきて」
そういわれて、おとなしく後をついていく。添田さんはこの部屋に残るようだ。
廊下を歩きながら、大分思っていたのとイメージが違う所にきてしまったなと前を歩く藤原さんや、先ほどの添田さんを見ながら思う。
もう少し官僚的か、あの耕太がなじんでいるというのだからかなりアットホームな感じをイメージしていた。
どうも、どちらの路線でもなさそうな感じがする。
「ここよ」
そんなことを考えていたせいか、すぐに目的地についていた。一応、入り口からここまでの道のりは覚えているから、一人で戻ってと言われても大丈夫だろう。
「ここが物流局東京支部の第七指令センター」
藤原さんがどこか誇らしげに手を広げる。たしかに壮観だ。私たちは二階の位置にいるので、一階にいるオペレータの人たちや前面いっぱいに広がっている巨大なモニターの状況が俯瞰できる。
たまにニュースで見る交通情報センターとかハリウッド映画で見る軍の司令部みたいな佇まいだ。
ここで東京の東側と島しょ部を管轄するらしい。
「壮観ですね」
「でしょう。私も始めてみた時は思ったわ」
「それで、私はここで何をするんです?」
「さっきもいったでしょう。サンタクロースの一味になってもらうわ。具体的には、監理官ね」
「それは、どういう?」
「クリスマスの夜までの一週間とクリスマス当日の二十時から翌三十時。子供たちが寝静まってから朝起きるまでの十時間以内に国からのプレゼントを贈る仕事さ」
後ろからの声に振り向く。そこには佇まいの凛としたスーツ姿の男性が立っていた。
「彼が東京方面の支局長。。つまりここのトップね。名前は小野鷹也」
「藤原さん、ご紹介くださりありがとうございます」
「小野局長ですか」
「こんにちは、斎藤ゆかりさん。そして、これからよろしく、そしてようこそサンタクロース・ロジスティクス本部へ」
サンタクロース・ロジスティクス。毎年結成されては解散するこの物流局内の組織の最大のミッションは子供たちには極秘裏に幸福な体験を創造する。それに尽きる。
その中のプレゼント配送を請け負っているのが私達、物流課管理課だそう。
クリスマス向けのオペレーションは、十二月の半年以上前から始まる。究極を言えば、クリスマスの翌日から始まっているといえるのかもしれない。
対象とする子供は一歳から、中学卒業まで。もちろん、中退していようとも、引きこもりになっていようとも。海外の寄宿学校に留学していようともプレゼントは届ける。
それがサンタクロース・ロジスティクスの大義であり、誇りだという。
「我々の組織の理念と最大のミッションはわかってくれたかな?」
「わかりました。昔は、父と母が上手い事やってくれたなって思ってたんですけど」
「そこはそれ、極秘ミッションというやつだ」
ニヤリという形容が似合いそうな笑顔で、小野局長が答える。
「仕事でまさかそんな言葉と遭遇することになるとは思いませんでした」
「この仕事ではそういうことも多いと思う。最初は大変かもしれないけど、期待しているよ」
「ありがとうございます」
「この仕事では、時にケースワーカーと調整することもあるんだ」
「ケースワーカーですか?」
「施設の子供や、児童虐待が疑われている子供たちの行政側のケア担当者ね」
藤原さんが補足してくれる。そこでああと気づく。
確かに世の中、家族の形もたくさんあるし、幸せな家族ばかりでもないのだろう。
片親、あるいは両親の顔を知らない子供というのもここ日本でさえ多くいるということに情報では知っていても、実感では思い至らなかった。
「悲しい事にね。そういう子供たちにも希望を持ってもらう必要がある。むしろ、そういう子供たちにこそかな」
「子供は成長という奇跡を常に持ち得ているが、我々大人になってしまった連中がもっているのは、培ってきた経験と作り上げてきた仕組み。それを用いた努力の果ての奇跡だけだからね」
それだけいうと、小野局長はどこかへと去っていった。
「さて、言うまでもないと思うけれどこれらは公然の秘密というやつで、対象年齢の子たちにはしゃべらないようにね」
「そんな世代と子供と交流することもあまりないですが、とにかくわかりました」
すでに高校、大学時代の友人で結婚出産している子もいる。それは素直に喜ばしい事、素晴らしい子tだと思うけれど、我が身を振り返るとあまりそういうイメージはわからない。
「そろそろ、戻るわ」
「はい」
藤原さんの後をついて、先ほどの部屋まで戻ってくる。
「いったん添田君の向かいの席に座っておいて」
「はい」
見ると、添田さんの向かいの席は綺麗に空いていた。支給されたノートPCをPCバッグから取り出してセキュリティケーブルをつなぐ。
「添田さん、改めましてよろしくお願いいたします」
一瞬だけ手をとめ丁寧な口調でこちらに挨拶をして頭を下げてくれたけれど、そこあらつなげて何か話しかけようとしたときにはすでにモニタに視線は戻っていた。
内心でまあ今日の所は仕方ないかと思いつつ、自分の席として割り当てられたスペースに座る。
前職でもらった卓上カレンダーとマグカップを置いて、Macbookを置いたらひとまずのスペースが完成だ。
座椅子用の腰に優しいクッションとブランケットは明日にでも持ってこようと心のメモ帳に忘れないように書き込んで、今日の業務を開始した。
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