第9話 砂風呂屋の一日
俺が砂風呂屋で働き始めてしばらく経った。
砂風呂屋の開店は早い。
ガッソが寝ている間に起き、一人で軽くご飯を済ませると、俺はリコを抱えて階段を下りていく。
もうすっかり通いなれた道だ。
気温が上昇し始めの空気が気持ちいい。
リコの照らす光が無くても通えるぐらい、道を覚えてしまった。
──次の段は端が欠けてたな
軽快な歩調で駆け下りていく。
砂風呂屋につく。
──まだセフィは来ていないな。
基本的にはセフィアは寝坊助のようだ。いつもギリギリ。たまに遅れてくる。
前世の意識ではあり得ない事だが、こちらでは皆寛容なのか。はたまた、寝坊助のセフィとして皆に愛されているのか。
これまでは砂風呂屋の開店はセフィが来てからだったようだ。
砂風呂屋の前にはすっかり顔馴染みの常連客が並んでいる。
ゆったりと座って井戸端会議をしている彼らに挨拶をし、開店準備を急ぐ。
基本的には物々交換、ツケでのやり取りで、しかもこれまでは帳簿の類いは一切なかったらしい。
紙類が超貴重品で、毛皮の需要がバカ高いから仕方ないのかもしれないが。
前世の意識からするとあんまりな状況に、俺はセフィに頼んで薄い石板を作るのをお願いしてしまった。
何をするのか興味津々といった様子で快く闇属性魔法で石板を切り出してくれたセフィ。しかし、俺が探してきた白い石で石板にお客さんの名前と来店回数を書き始めると、急に苦笑して「その仕事はレプリにお任せするね」と。
そんなこんなで、お客さんの受付対応まですっかり丸投げされてしまった。
俺が開店準備を終えた頃、セフィがやってくる。
それに合わせて砂風呂屋を開店する。
ガヤガヤと入ってくる馴染み客たち。俺は一人一人記録をつけ、セフィが洗い砂を粉にして渡していく。
──予め粉にして保管しておければ手間が無いんだけどな。
俺はセフィの様子を横目にそんなことを思いながらお客さんをさばいていく。
あの精度で洗い砂を細かく出来るのはセフィだけらしい。しかも、粉の状態で置いておくと劣化するそうだ。前世のように密封出来れば違うんだろうが、ここじゃそんな物はない。
だからといって洗い砂で洗わずに砂風呂に入られたら悲惨なことになるのは目に見えているしな。
そうこうしているうちに、顔馴染み客は一旦落ち着く。
開店から来るのはだいたいが湯治目的だ。
狩猟がメインの生業となっているこの集落はもちろん。何ヵ所かあるらしい闇属性カーストの別の集落からも湯治目的で来ている人もいる。
俺はこの時間に、洗い場の掃除を手早く済ませる。
だいたいの人はちゃんと角の穴に捨ててくれるのだが、たまに捨て残しがあったりする。手早く隅までしっかりと掃き清めておく。
そうこうしているうちに、狩りから帰ってきた人たちの第一陣が三々五々やってくる。どうやら狩る獲物の種類で時間帯があるようだ。
この時間帯の人らは皆砂ボコりが酷い。
受付を済ませると、入り口から洗い場までを中心に清掃をする。
それが済むと飯だ。
先程の狩りをしてきた人のうち、誰かが持ってきてくれた肉でだいたい済ませる。手早くつまむ。
その後も断続的に狩りから帰ってきた人が砂風呂屋を訪れる。
その間に隙を見て一度砂風呂の汚れを掃除しておく。
最後には、大物の一団が。
狩ってきた獲物の解体、加工を終えた連中だ。
彼らが来ると、セフィも洗い砂を倍、渡していると言えばどれ程かわかるだろう。
しかし加工済の肉を持ってきてくれるので、嬉しい一面もある。
嵐のようにやって来た彼らが帰ると、ようやく終了。最後に砂風呂の掃除が待っている。
掃除が終わり、帰っていくセフィ。
俺は戸締りしておくからとセフィを先に帰ってもらうと、恒例の闇属性魔法の練習を始める。
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