第8話 与えられた仕事
レプリとしてはじめて砂風呂を体験してからしばらくして、俺はセフィの下で砂風呂屋で働いていた。
俺はガッソとの会話を思い出す。
「さて、坊主。ここには数人、お前さんみたいな訳ありの人間がいる。闇属性以外のな。それぞれが自分のカーストを離れてだ。坊主もその年なら闇属性の扱いは知ってるだろ?」
俺はレプリの記憶をたどって答える。
「差別されてる?」
「差別か。まあそう言う言い方でもいいがな。まあ、奴等の言葉を借りたら闇属性ってのは、穢れた属性って奴さ。だから基本的に居場所の無くなった人間が、ここに逃げてくる訳よ。で、訳ありで闇属性以外の人間はそれぞれが自分の属性で出来ることをして貰っている」
そこで一度言葉をきり、俺を見るガッソ。
「ただなあ、養育院出てない奴が来るのは初めてなんだわ」
「つまり?」俺は続きを促す。
「まあ待て。でだ、闇属性の人間は殆どが狩りをしているんだ。だがよ、当然闇属性魔法が使えないと狩りにもつれていけん」
ふと気になって、俺は訊ねる。
「闇属性の養育院はないの?」レプリの記憶を思い起こしても、闇属性の養育院の存在は出てこなかったのだ。
「ない」
少し渋い顔で答えるガッソ。
「え、ないの?」
「まあ、知らなくても仕方ないがな。闇属性の親からは闇属性しか生まれんのさ。俺らは属性検査も受けん。しかもな、片親が闇属性だと相手がどの属性でも必ず闇属性になる。穢れが移るといって、最大の禁忌なんだぜ」と、がははっと大笑いするガッソ。
俺は思わず顔を俯ける。
──闇属性への迫害って、ここまで酷いのか。だから闇属性も持ってる俺も追放されたって訳ね。
「まあ本題に戻るとだな。ここまで言えばわかるだろ? さすがにただ飯食らいを置いとく余裕はねーんだわ。坊主は砂風呂屋で働けや。セフィだけだと男手が足りんから、ちょうどいいだろ」と一気に軽い調子で話すガッソ。
そんなこんなで、今、俺は砂風呂屋で働いていた。
今日はこれから砂風呂の砂の入れ換えをするらしい。
「砂の入れ換えといっても、全てを入れ換える必要はないの」とセフィ。
彼女が手をかざし、その噴き出した闇が砂に浸透する。
すぐさま彼女のかざした両手に闇の塊が現れる。
前に砂風呂を温めた時とは微妙に違う挙動。闇の塊がセフィの手からだらだらと垂れたかと思うと、砂風呂を覆う。
そしてモコモコと膨らむ。
しばらくしてセフィの産み出した闇が消える。
「はいこれ」とセフィがスコップのような物を差し出してくる。
受けとる俺。軽い。生き物の骨で出来ているようだ。
「それで、砂風呂の表面に浮き出て汚れをすくって捨ててね。少し深めに掘って、砂の部分からすくうようにするのがコツよ」
そういって、自分用のスコップで汚れをすくい始めるセフィ。
どうやら先程の闇属性魔法は、砂と汚れを分離していたようだ。
──闇属性魔法、万能かよ。原理が全然わからん。
俺も言われるがままに、汚れをすくい始める。
中央に行くにつれ、難易度が増すがセフィの様子を横目に見つつ、やり方を盗んでいく。
──どうやらいかに体重を分散するかがポイントみたいだな
汚れを無事に全て角の穴に捨てると、セフィが言う。
「はーい、お疲れ様。レプリが居てくれて助かるわ。じゃあ次の砂風呂ね」
──ですよね。わかっていましたとも。
俺は無言でセフィに続く。
またセフィが闇属性魔法で汚れを分離すると、同じように汚れをすくい始める。
俺は作業しながら声をかけてみる。
「セフィ、闇属性のこと、教えてもらっていい?」
「んー? 何が聞きたいの?」
「何が出来るのかなって。ガッソが狩りに必須って言ってたから」俺は子供っぽく聞こえそうな言い訳を付け加えて、ちらっとセフィの様子を伺う。
「レプリも男の子ねー」と珍しくクスクス笑う様子のセフィ。
「そうね、いいわよ。ほらほら、手が止まってるよ」と苦笑しながら指摘するセフィ。
俺は作業に戻る。
「それで闇属性ね。出来ることは二つよ。闇を見通す目と、闇を操る事、それだけ。さあ、おしまいね。今日はこれで帰って良いわよ」
「はーい」
俺は仮住まいのガッソの家に向かいながら、必死に頭を巡らしていた。
──とりあえずは、闇属性魔法を覚えるのが当面の目標だな。
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