第7話 砂風呂屋
俺とリコは階段を一番下まで降りる。
そこには壁に空いた入り口が一つ。
「ここかな? 失礼しまーす」声をかけながら入り口の布をめくる。
「きゃっ、まぶしい……」と小さな悲鳴。
リコの照らす光の中には、一人の少女。片手を掲げて光を遮っている。レプリの肉体年齢よりかは年上だが、成人はしていなさそうな見た目。
「あ、ごめん」俺は腕の中のリコを横に向ける。
少女は少しの間、目をしばしばさせてから口を開く。
「あなたはだれ? 見ない子ね」
「俺はレプリ。こいつはリコ。ガッソに連れられて来たんだ。ここ、風呂があるとこ?」
「私はセフィア。みんなセフィと呼ぶわ。」と、微かに膝を曲げ、視線を下げてくる少女。まるで子供を相手にしているかのその様子に、そう言えばこの体は子供だったと、俺は改めて認識する。
「ガッソさんが連れてきたのか。よろしくね、レプリ君とリコちゃん。ここが砂風呂屋よ」
俺はガッソから預かった物を差し出す。
「これ、ガッソから」
「あら。はい、確かに。ガッソさん、滞納分はこれでなしね。全くあの人もずぼらなんだから」
俺はガッソの部屋の様子を思い出しながら内心で頷いておく。
「それでレプリ君は砂風呂に入りに来たのかな?」と俺の全身を軽く眺めながらセフィ。
「ああ、そうだ」
何故か生意気な子供を微笑ましく眺めるような顔をするセフィ。
「そうね、だいぶ歩いてきたみたいね。お風呂代はガッソさんにつけておくわ。レプリ君は砂風呂の入りかたはわかる?」
「いや、わからないな」
「じゃあ説明しながらね。こっちよ」と奥に進むセフィ。
壁に無数の石が並んでいる。均等に切り揃えられた拳大の立方体のそれ。
「はいこれ。広げて持って」
セフィが袋を差し出してくる。
俺は受け取り、言われた通り口を広げて持つ。生物的な質感と見た目。
──何かの胃袋か腸か?
俺が首を傾げていると、セフィは壁から石を取り、両手で袋の上に持ってくる。
「袋、動かさないでね」
そう言うセフィの手の中で、一気に闇が噴出する。
闇が手の中の石を包み込むと、蠢き出す。
すると、闇のなかから、さらさらと砂が落下してくる。
俺は思わず目を見開く。
あっという間に石が全て砂になったのか、闇が消え、セフィの手の石が消えている。
俺は片手で袋の中の砂を触ってみる。
「温かい……」それはこれまで触ったことがないぐらいにキメの細かい砂。いやもうそれは、粉だった。
──凄い、これが闇属性魔法っ
俺の驚きに気づいた風もなく、当たり前の顔をして説明を続けるセフィ。
「それが洗い砂よ。汚れが落ちやすいの。こっちの奥の部屋で、それで体を洗ってね。落ちた砂はこの箒で部屋の角の穴に捨てて。それが終わったら部屋出て右へいくのよ」と歩き出すセフィ。
慌てて追いかける俺。
着いた先はやや広めの部屋。
中央には数人は入れそうな大きさの砂風呂があった。
縁を石で囲われたそれは思っていたよりもしっかりとした作りをしている。
「うーん。少し冷めちゃったかな」と片手を砂風呂に入れて呟くセフィ。
そのまま両手を砂風呂に突っ込む。
両手を中心に、噴き出す闇。そのまま、闇が四方八方に広がる。
あっという間に砂風呂全体が、闇に覆われる。
闇の中でジジジと音が響く。
すぐに闇が消え、立ち上がるセフィ。
「うん、こんなものかな」
「セフィ、何したの?」思わずきいてしまう俺。
「うん? ちょっと冷めていたから温めたの。砂を細かく動かしてあげると温かくなるのよ」
俺は絶句する。
(摩擦熱で温めているのか?! 洗い砂とやらが温かかったのも、闇魔法で石を粉にしながらさらに撹拌して温めていた?)
「さあ、リコちゃんは預かってあげるから、入ってきて」
俺はリコをセフィに手渡すと、言われるがままに、今人生初の砂風呂を体験した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます