第2話 荒野

 俺は、頬にあたるジャリジャリとした感触で目を覚ます。


 頭が重たい。ずきずきする。


「あたた……。二日酔いみたいだ、こりゃ」俺は呟く。


 痛む頭を押さえながら、ゆっくりと起き上がる。

 前世で生きた記憶と、レプリとしての記憶がぐるぐると頭の中を回っている。


「ああ。何てこった」


 俺は顔をおさえながら呻くように呟く。レプリの記憶を、前世の知識に照らし合わせて見ると、とんでもないことになったのがわかる。


「こんな世界に……。何てことしやがるんだよ、あの神……」


 俺は閉じていたまぶたをゆっくりと開ける。

 しかし何も変わらず、目の前はは真っ暗なまま。


「こんな異世界に転生させやがって」


 俺は慎重に地面に手をつき、辺りを探る。

 手のひらに伝わるのは、変わらぬジャリジャリとした感触。


 俺はレプリの記憶を頼りに、今の状況について考える。闇に閉ざされた中、自然と独り言が漏れる。


「ここは……多分、荒野のどこか、だよな。俺、いやレプリの記憶から考えるに、光都の光が一切届いていないから、荒野は荒野でもかなり辺境のはず。何で俺、こんな所にいるんだ……?」


 そこで、俺はふと気がつく。


「そうか、属性検査で全属性持ちだと知られて、気絶している間に、ここに捨てられたんだ……。カチッカチに凝り固まったカースト制度の権化みたいな社会だったもんな、今思えば。全属性持ちの俺は、拒絶されたのか。それを考えれば、殺されなかっただけ、ましか」


 俺はゆっくりと立ち上がる。

 そこでふと、レプリのものらしき感慨が泡のように沸いてくる。

(新しい名前、もらえなかった……)


 その思いは不思議と俺の心まで揺さぶる。どうやらレプリ達、あの地の子供達には、属性検査の後に貰う新しい名と言うのは大事な物だったようだ。

 しかし、俺にはそんな物は必要ない。


「俺は、レプリとして生きていくさ。この世界の両親にもらった名前があれば十分。……彼らには悪いことをしたかもな。俺のとばっちりを受けてないと良いんだが。無事か、確認だけでもしたいが」


 そこまで考えて、ふるふると頭をふる。


「ここじゃあ、属性検査が終われば完全に親子の縁は切れるんだった。しかも今の俺は追放の身。帰っても迷惑なだけだ。少なくとも今のままじゃ」


 俺は両親を恋しく思う気持ちを、意識のすみっこへと押し込める。

 それはレプリの『思い』だ。いい大人だっただろ、俺は。


 そうと決まれば後は自力で何とかしなければと。気合いを込め、両頬に、手を打ち付ける。


「ははっ、痛いな。……しかし、転生した記憶が戻って、気がついたら追放済みとか、ハードモード過ぎだろ。まあ今さら仕方ない」


 その時だった。

 闇一面の中、遠くで、ちらっと光が瞬くのが見えた。

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