転生チート選び、失敗っ?! ~魔法属性で差別してくる社会で追放されたけど、最高の師匠に会えました~

御手々ぽんた@辺境の錬金術師コミック発売

第1話 属性検査

「ここで、属性を調べてもらうんだ。……元気でな、レプリ」


 両親はそういって僕の両手を離す。ママの手が、これが最後と僕の頭をひとなでし、パパの手がそっと僕の背を押す。


 目の前には煌々と明かりの灯された立派な建物。その灯された光の量で、十歳になった僕にも、そこが偉い人達がいる場所だとわかる。


 優しく、しかし断固とした力で押し出された僕は、ゆっくりとその建物に近づく。真っ白なローブをまとった大人達が、僕と同じ年の子供達を次々に建物の中へと連れて入っていく。


 僕は、最後に振り返る。パパとママの顔は闇に溶け込んでしまって見えない。

 そのまま、白衣の大人に連れられ、僕も建物へと入る。


 そこは少し薄暗いが、それでも十分な灯りがともされた広間。何人もの子供達が、静かにそこに佇んでいる。

 近所の幼なじみのカーミラを見つける。僕は気付いたことを知らせようと、軽く頷く。彼女も頷き返してくる。当然互いに無言のまま。


 そのまま立って待っていると、背後の扉の閉まる音。どうやら今年十歳の子供は、全員揃ったみたいだ。


 その時だった。


 天井から燦々と光がふりそそぐ。


 その先には、一人の大人の女性。他の白衣よりも、豪華な刺繍を施されたその衣装が、彼女が高位の存在であることを示している。

 ふりそそぐ光で白衣が輝き、僕の目をさす。


 その女性が口を開く。


「子らよ。よく集まりました。これから君たちには、その身に宿す属性を示してもらいます」


 そして大きく腕を広げる女性。そして語られたのは、見捨てられし大地の神話。六つの魔法属性と六つのカーストのこと。

 僕は両親から散々聞いたその話に、眠くなりながらも何とか意識を保ち続ける。


 そっと周りを伺うと、どうやら皆、聞き飽きた話なのは同じのようで。あくびを必死に耐えているのがわかる。カーミラは真剣な顔を上手に維持しているようだ。


「では順番にこの扉の奥、裁定の間へと進んでください。その先にある裁定の杯に両手を置いて。中に浮かぶ色が、君たちの属性となります。その後は新たな名を得て、各属性ごとの養育院へと移動となります」


 そこまで話して腕を下ろす女性。どうやら長かった話しも終わりらしい。

 退場する女性。別の男性が進み出てくると、一人一人、子供達の名前が呼ばれ始める。


「カーミラ、こちらへ!」


 まっすぐ前を向いて堂々と裁定の間へと進むカーミラ。

 暫くしてカーミラが扉から出てくる。その胸には白いリボンが輝く。


「カーミラ、新たな名をカーミリアとする。光属性!」と扉の前の男性が叫ぶ。


 無言のどよめきが、子供達の間を駆け巡る。カーミラの両親は地属性だ。子供達の顔が僕も含め、羨望に彩られている。

 そのまま光属性の養育院へといざなわれるカーミラ。


 しばらくして僕の名前も呼ばれる。


「レプリっ! 裁定の間へ」


 僕は小さく息を呑むと、裁定の間へと進む。

 そこには、五人の大人達が一つの杯を半円に囲むように立っていた。

 中央に立つのは、広間にいた豪華な白衣の女性。彼女が話しかけてくる。


「さあ、その裁定の杯に手を。自らの属性を示しなさい。そうすれば君は新しいカーストと、新しい名を得るでしょう」


 恐る恐る裁定の杯に近づき、僕はそっと両手を杯に添える。

 手のひらを通して杯の熱が伝わってくる。微かに振動する裁定の杯。


 次の瞬間だった。


 杯から、光が溢れだす。

 六色の光の玉がくるくると回るように杯から飛び出し、杯の上で回っている。


「ああっ!」


 思わずあがる声。

 その六色の光が、僕の忘れていた前世の記憶を呼び覚ます。


 それは、『笹原 真(シン)』という一人の男の人生の記憶。

 日本での30年間。ただし、その後半は生活するためだけに生きてきたようなつまらない人生。その記憶の最後では、不慮の事故で亡くなり、神と呼ばれる存在と笹原真は邂逅していた。


 そこで神から異世界への転生と、転生特典を一つ、選ぶように言われる『俺』。記憶の中での俺は、魔法のある異世界への転生と聞き、勢い込んで答えていた。「全属性魔法を使えるようにしてくれ! 魔法無双、きたこれっ!」

 そして神の手のひらから放たれる六色の光の玉が、俺にふりそそぐ。そう、それは裁定の杯と同じ色の光の玉だった。


 そこまで記憶をたどった所で、俺は襲いかかる記憶の奔流に負ける。人、一人分の記憶と言う膨大な情報が子供の脳に叩きつけられたことで、意識を失ってしまう。


 崩れ落ちるように倒れる、今の俺の十歳の体。


 俺の手が杯から離れ、溢れていた六色の光も消える。残ったのは驚愕に彩られた大人達の顔。そのうちの一人が、口を開く。


「光主様。見間違いでなければ、そこの少年は六色の光を……」


 それを皮切りに、光主と呼ばれた女性を取り巻く大人達が、口々に騒ぎ立て始める。


「どこの養育院に送るのだ?」「そもそもあり得るのか。誰しもが一つの属性しか持ち得ないはず……」「失神したようじゃな」「やはり、六色とは全ての属性を使えるのか……」「禍々しい。不吉だ」「確かに不吉だ。光と闇の属性など不敬……」


「皆様」と光主と呼ばれた女性が口を開く。


 それだけでピタリと口をつむぐ取り巻き達。


「私達の国を支えるのは、六つのカーストによる秩序です。その子の存在は、争いと混乱をもたらすでしょう。それは、我らが秩序への害となります。しかし、彼は罪を犯した訳ではない。そして我らが持つ属性は神の定めし物。よって、その子のことは神の御手に任せましょう。荒野へと追放と致します。よろしいですね」


 そうして口を閉じる光主と呼ばれた女性。その瞳は冷徹な光をたたえていた。


「仰せのままに。それでは手配はこちらで」と、取り巻きの一人の男が答えると、倒れたままのレプリの体を持ち、裁定の間から立ち去っていった。

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