1-8話
熱が、来る。
まともに受ければ骨も残らないであろう火球が、その大きさと熱量を伴って正義に迫る。
「――――っ!」
正義は即座にロープを塔から垂らし、それを伝って監視塔から脱出した。
急いで脱出したためライフルは置き去りにせざるを得なかったが、致し方ない。
そして、火球が塔を飲み込む。
巨大な火球は塔を燃やし、正義のライフルを溶解させる。
「……銃は、捨てて正解だったな」
正義は冷や汗をかきながら呟く。
迎撃されることは想定内だったが、まさかここまでスケールが大きいものが来るとは思っていなかった。現代にあったら、簡単に一国を堕とせるんじゃないだろうかとさえ思う。
ロープを伝い、レンガ造りの屋根に飛び降り、さらに街路へ着地する。
「! いたぞ! こっちだ!」
「ひっ捕えろ!」
鎧を纏った衛兵が早速正義を発見し、号令をかける。
硬質な鎧とストゥクムに似た盾、そして長柄の西洋槍のランスを手にした屈強な男達が、横陣を組み、彼を包囲せんと迫る。
「――――!」
正義は即座にグロックを抜き、引き金を引く。
前回とは違い、ドラムマガジンを取り付けたその銃は、サブマシンガンを思わせる発射速度をもって弾丸を叩き込む。
「……!? な、なんだ!?」
衛兵達は混乱し、陣形が崩れる。
だが、硬質な鎧を貫通させる程の威力はなく、驚愕はするが死傷者や負傷者は出なかった。
これには、正義も静かに驚いていた。
ジャンヌのような防衛の中心人物だけならまだしも、警備兵にまで堅牢な守りの装備を備えていたことまでは、彼にも予想外だった。
だが、これは彼にとっては行幸だ。
もともと、ターゲット以外の無関係な被害は最小限に押さえておきたかった正義にとって、まさに渡りに船の光景ではあった。
それでも、危機的状況に関しては変わりないのだが。
轟音を轟かせていた銃の弾丸も、あっという間に撃ち尽くしてしまう。
「――――ちっ!」
舌打ちとともにドラムマガジンを捨て、新たなマガジンに再装填する。
「! 今だ! 捕えろ!」
「うおおおおおおおお!」
部隊長らしき男の命令とともに、檄を飛ばして奮起する男達。
正義を捕えんと、膝をついていた者達も身を起こし、彼へと突貫する。
「……!」
正義のリロードの方が僅かに早いが、それでも照準を合わせる前に捕まってしまう。
刹那の間にその思考に至った彼は、外套の内側に備えていた円筒形の物をいくつか、足元に放る。
瞬間、大量の煙が視界を覆う。
正義が投げたのは、スモークグレネード。
筒の内側で圧縮していた煙幕が解き放たれ、彼に迫っていた衛兵達の視界を瞬時に奪い去ったのだ。
「!? 煙だ!」
「息をするな! 毒ガスかもしれん!」
「武器を構えるな! 味方に当たる!」
様々な指令が飛び、場は一瞬で混乱する。
次第に視界が晴れていき、彼等も状況が把握できるようになっていく。
そして、その場にいる全員が見えるほどに視界がクリアになる。
その場に、正義はいなかった。
「!? いない!? どこに消えた!?」
「探せ! まだ近くにいるはずだ!」
「探索型の魔導士を呼べ! 魔術の痕跡を調べるんだ!」
ドタバタと慌ただしく騒ぎ出す衛兵達。
右往左往とする彼等は、急ぎ駆け出す。
その足元の、マンホールにも気づかずに。
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