1-7話

「―――――標的、抹消」

 ビル風の吹き荒ぶ監視塔にて、正義は呟く。

 全ては、正義の計算通りに働いた。

 ジャンヌに強襲をかけ、自分のもつ得物を強く印象付ける。

 そうすることで、レント達に『敵が近づくであろう距離』を想定させたのだ。

 予想通り、パレードの通り道近辺には警備兵を重点的に配置させ、反対にこの監視塔への配置を薄くさせた。

 警備が手薄な監視塔の制圧は、そう大した労力を使うことはなかった。

 パレードから500 m程度距離が離れ、尚且つターゲットから気づかれにくいこの塔の存在は、正義にとってはおあつらえ向きだった。

 そして、このアンチマテリアルライフルを用意したことにも、理由がある。

 もともと対戦車用のライフルで人を撃てば、粉微塵になるのは道理だ。

 だが、普通のスナイパーライフルでは威力不足になるだろうと予想していた。

 パレード中の襲撃を考慮して、防御壁を張るだろうことを、正義は予想していた。

 その防御壁を、力技で突破しようと用意したのが、この銃だ。

 これが効果がなかった時の場合を想定して、別の用意もあったのだが、使う必要はなかったようだ。

「……」

 スコープを覗き込み、ターゲットを観察する正義。

 レントは最早原型すら留めてはいない。目標は達成だ。

「……ん?」

 視界の端に違和感を感じ、彼はスコープをずらす。

 視界の中心には、白銀の鎧を纏った少女が映る。

 間違いない、あの夜に会話し、強襲した少女、ジャンヌだ。

 何かを必死に探すように頭を動かす彼女は、文字通り鬼気迫る迫力を伴っていると、離れた距離にいる正義にさえ感じられた。

 「……」

 こういう時彼は、どうしようもない罪悪感に苛まれる。

 彼女があんな感情を剥き出しにしているのは、他でもない自分が原因なのだ。

 それでも、彼には目的がある。

 どんなふうに思われようとかまわないと心に刻み、正義はスコープで覗き続ける。

 そして、目が合った。

「……!?」

 思わず、スコープから目を外す。

 久しぶりに味わう、明確な殺意。

 それも、大切な人を殺されたことによる恨みからくる殺意だ。

 殺意と恩讐の籠る彼女の目は、歴戦の暗殺者に冷や汗をかかせたのだ。

 このような意思を持っている人間は、彼の経験上、この上なく厄介で恐ろしい。

 ふと、強い熱を感じる。

 まだ朝にも関わらず、こんな熱いのはおかしい。

 そんな違和感に、彼は視線を移す。

 それは、火球だった。

 塔の頂上を飲み込まんほどの巨大な火球が、彼に迫っていた。


 

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