1-6話

 パレード当日。

 この日はいつにも増して、街は賑わっていた。

 街道には多くの町人や観光客がひしめき合い、観衆がパレードを遮らないように、配備された鎧姿の警邏隊が道を防備する。

 そんな街の様子を城からみるジャンヌの瞳は、祭りの雰囲気とは対照的に緊張の色を帯びていた。

「そんなに緊張するなよ、ジャンヌ。ちゃんと準備したんだから、問題ないはずだろ?」

 ジャンヌの様子を気にしたレントが声をかける。

「……そうだな」

 ジャンヌは彼の声に、僅かに頬を緩ませた。

 レントとジャンヌが用意したのは、パレードルートの周囲に探知系の魔導士を配置することだった。

 探知系の魔導士が髑髏面の男を発見すれば、すぐさまパレードを中止し、総出で敵を捕らえる算段を立てたのだ。

 万が一のために、黒魔導士の には城に待機してもらい、髑髏面の男を発見した場合、遠距離から攻撃してもらう。

 現状で準備できたのはここまでだったが、今できる最善手だった。

 この日を凌げば、他国からの増援が来てくれる手筈になっている。

 ジャンヌはそう思い、自分の愛馬に跨る。

 レントをはじめ、他のパレード参加者もそれぞれの配置についた。ジャンヌはレントの操る馬の後ろに陣取っている。

もし万が一、彼に何かあれば、自分が盾になってでもレントを守る。

 そんな決意を胸に秘め、自然と手綱を握る手に力がこもる。

「……」

「緊張しすぎだよ」

 その声のした先に顔を向けると、レントが笑いながらジャンヌの頬を両手で包んだ。

「……!? お、おい」

「心配してくれるのは嬉しいけど、今日はパレードだぜ。そんなに強張った顔されたら、見てる人達にも心配かけちゃう。だからさ、もうちょっと気楽にしようぜ」

 レントの言葉に、ジャンヌの目が一瞬大きく開き、そして表情が僅かにほほ笑んだ。

 ほんの僅かだが、微かに頬が赤くなってるようにも見える。

「……ありがとう、レント」

「……! ちょっとは元気になったか?」

 ジャンヌに元気が戻ったのが嬉しいのか、レントは手を振り上げて合図を送る。

 城門が開き、眩い光が視界に差し込む。

 完全に城門が開くと、大歓声がパレードの主役である彼らを迎える。

 行進曲のテンポに合わせて列が進み、レントが手を振るたびに歓声がさらに大きくなる。

「……」

 ジャンヌは思う。

 本当に幸せだ。

 彼、レントと出会って以降、いろいろなことがあった。

 冒険譚と呼ぶにふさわしいかつての日々が、走馬灯のように彼女を駆け巡る。

 モンスターの群れとの戦闘や、仲間達との語らい、見たこともない景色に感じた感動。

 それらを総じて、この瞬間に幸福を感じていた。

 ふと、視界の端でこちらに手を振る子供が見える。

 無邪気な顔で手を振るその顔は、とても愛らしく映る。

 その少女に手を振り返し、彼女はほほ笑んだ。

 

 瞬間、轟音が響いた。


 巨大な炸裂音とともに、レントの周りに展開していた防御結界が発動する。

 しかし、その防御結界はいとも簡単に貫通し、レントの側頭部を穿ち、頭部を破壊する。

 英雄だった男の血と脳漿をまき散らし、胴体はその場に落馬した。

 周囲の歓声が悲鳴に変わり、茫然自失となっていたジャンヌは我を取り戻した。

 慌ててレントに駆け寄ろうとした瞬間、さらに轟音が轟く。

 刹那、レントの体が砂埃を上げて爆散した。

 砂埃を上げて四散したレントの体は原型を今やとどめていない。

 どんな蘇生魔法を行使しようが、彼はもう戻らない。

 ジャンヌに向けたかつての笑顔は、もう二度と帰ってこない。

「――――――――!!」

 ジャンヌの声にならない悲鳴が、道に響く。

 地面に膝をつき、嗚咽を吐き出す。

 どれだけ、少女にとって彼が大切だったか。

 どれだけ、彼との思い出が尊かったか。

 その想いが大きかっただけに、彼女の嘆きは終わらない。 

「……」

 やっと悲鳴が止み、少女は周囲を見渡す。

「……どこだ」

 その眼は、目的の人物を探す。

 泣き腫らした顔に怨嗟を籠め、標的の人物を視線だけで殺さんばかりの迫力をともなったまま。

 そして、探し求めた人物を発見する。

「……いた、いたぞ!」

 彼女の指差した先は、塔の先だった。

 この街の外を見張る4柱の監視塔。そのうちの1柱に、存在を確認する。

 黒い外套をはためかせ、スコープ越しに仕留めた標的の亡骸を確認する、髑髏の仮面。

「……スカル、フェイス――――!」

 殺意の籠った視線を、少女は向けた。

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