1-2話
街に出た正義はまず、街にあるカフェを目指すことにした。
この手の街のカフェは、昼は喫茶店、夜は酒場として経営している店が多い。特に祭りが目と鼻の先の期間では、きっと大入り満員といったところだろう。
そういう場所に情報というのは集まりやすい。現代ではネットという、多くの人が扱う情報媒体を用いて調べていたが、それと根本的なところは変わらない。人が集まるところというのは、得てして情報も集まりやすいのだ。
しばらく街道を歩いていると、オープンテラスのカフェを見つけた。木製の店の軒先に吊られている看板には『フリュード』という店名と、その下に『カフェ&バー』と書かれている。探していた条件の店には、案の定多くの人が利用していて、なかなか繁盛している様子だ。
正義はカウンターの開いてる席に座った。
しばらくすると、エプロン姿の女性店員が注文を聞きに来た。
簡単にコーヒーの注文を済ませ、店内を見渡す。
カウンター席に円卓のテーブル席が並び、外側には数席程度だがオープンテラスが軒を連ねている。さらにステージ場が店の奥にあり、夜はジャズの生演奏があるのだろうか。
「いらっしゃい。初見さんだね」
カウンターの妙齢の店員が話しかけてきた。
「はい、観光で立ち寄りまして。何かの祭りですか?」
「ああ。この街にはあの魔王を討伐した勇者の一人がいるのよ。その討伐から1周年の祭りでね。それですっかり盛り上がってるのよ」
「なるほど、それでね……」
正義はそう言って出してもらったコーヒーに口をつける。
彼はこの世界に来てコーヒーがあったことに驚いていた。それだけではなく、ビールなどの発泡酒をはじめ、様々なものがこの世界と前の世界と酷似していたことに驚いていた。さすがにないものも確かにあるのだが。
「ところで、その勇者ってのはどんな奴なんだ?」
「あんた、何も知らずに来たのね」
ため息をついた彼女は簡単に説明してくれた。
「名前はレント・オキサワ。剣と魔法両方扱う万能系の人よ。特に剣に魔法の属性を付加させて戦うことから『ステータス・ワン』って言われてるわ。まあ顔はそこそこなんだけど、結構女好きで評判よ。周りにいる仲間の人たちも若い女の子ばっかりで、女ったらしは本当みたいね」
そう言って、彼女はため息をついた。
そんな彼女を、正義はじっと観察していた。
彼の予想以上にこの店員は情報通らしい。
「周りにいる仲間?」
彼はついでに、ターゲットの周辺についても情報を仕入れておくことにした。現状、彼らはターゲットではないため殺す必要はない。しかし場合によっては戦闘になる可能性があるため、情報は必要不可欠であるという判断からだ。
「ああ。どの娘もかわいい娘たちさ。エルフ族のアーチャー、シルフ。黒魔導士のレイラ。男以上の腕っ節をもつ格闘家、ツェン。そして聖騎士ジャンヌ。彼女らとレントのパーティーは、それはもうお騒がせの一団だったわ」
「……」
正義は思う。
どこか懐かしむように語るこの店員は、もしかしたら、彼女たちの知り合いなのかもしれない。
「……もしかして、連中と知り合いなのか?」
「ああ。あの人たち、この店の常連だったのよ。今でもたまに来るんだけど、来るとしたら夜中だね。忙しいみたいだし、あいつらも」
なるほど、これは好都合だ。
夜に来れば、うまくいけばターゲットに近づけるかもしれない。
そして、最大の隙をついて仕留められる。
そうと決まれば、今はここを出よう。
物騒な思惑を胸に、正義は席を立った。
「ごちそうさま。また夜に来るよ」
「ん? あいつらが来るかわからないよ?」
「ここ、夜は酒場なんだろ? 酒も好きだし、ここが少し気に入ったから」
「そうかい、嬉しいね。またおいで」
笑顔で手を振る店員に支払いの銅貨をおいて店を出た。
今回は幸先がいい。案外、さっさと仕事を済ませられるかもしれない。そう思った。
そして手土産を忘れて家に帰り、トウカにとても怒られた。
無言で抗議するようにポカポカ叩く彼女は、彼の娘と被るところがあって、とても彼の心が痛んだ。
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