第158話 元血徒の王 エヴィラ・ブラッドフォルナ




「全くもう、少しは前を向いて歩いてくれないかしら……あら、貴方たち」


 女性は2人の姿を少し舐めまわすように見て、どこか不気味な笑みを浮かべるも敵意は全くない感じで彼らに接していた。


 彼らからわずかにあいつの匂いがする。もしかしてと思い彼女は胸元から一枚の写真を取り出すと2人に見せた。


「へえ、話には聞いていたけど、そうね……貴方たち、この男を知っているでしょ?」


 それはまごうことなく伯爵の写真であった。どうもこの女性も伯爵と関係があるようで、2人は上品な振る舞いを見せながらも底知れぬ力強さを感じるこの女性は、一体何者なのかといつでも逃げ出せるようにしていたのであった。


「これは、伯爵の……!」


「知っているならば彼のいる場所を教えなさいな」


「一体貴女は誰なのですか?この人を知っているということは……まさか!ルべオラさんの仲間?それとも17衆?」


「元、よ。でも、これで確定ね。血徒という言葉を知る人間ってのはまずいないの。この世界では特にね」


 向こうから必要な情報を話してくれたことに、彼女はいつになく笑顔で2人に接し、自身の名前を明かすことにしたのであった。


「……ああ、名前を言わないとね。私は、エヴィラ。エヴィラ・ブラッドフォルナ」


「エヴィラ……まさか先生や伯爵が言っていた、U=ONE(アルティメット・ワン)!」


「この人、いや、人ではないのか。へえ、凄く美人な人だとは思わなかった」


「フフフ、そういう言葉はもっと欲しいわね。私も、血徒をせん滅するために動いているのよ。伯爵もそうだけどね。止めなければ、全生物滅亡も普通にあるわ」


「でも、さっき元と……どういう事?」


 名前を聞いた響と彩音は、元血徒という言葉がすごく気になっていた。もしかして敵ではないのか、そう思うも彼女もまた血徒を倒すために動いていると話す。


 それを聞くと何故だか少しほっとした二人であった。


「ええ、でも話が複雑だから、まず伯爵のいるところまで連れて行ってほしいわ」


「伯爵さんのように微生物で探知できないのですか?」


「……私昔からそれが弱くてね。ウイルス界系の宿命ともいえる弱点なのよ。向こうが迎えに来てくれればいいのだけどどうもその気はないわ。あーあ、私凄く頑張ったのになあ」


「ルべオラさんから話は聞きました。よくやりますね」


「そうでないと、あの裏切者たちの居所が分からないもの」


 伯爵はいつも菌探知で探し回っているのを知っているため、同じ仲間ならできるのではないかと質問した彩音だったが、どうも微生界人でも何系かで差がかなりあるようで、だから昔はふらふらと移動しては伯爵を探していたという話に納得せざるを得なかった彼女であった。


 取り合えず響は、事務所にいるはずであるハーネイトにまず連絡を取ることにした。基本的に伯爵は緊急時以外は連絡があまりつかないためである。


「先生、連絡したいことがあるのですが」


「どうした彩音、今日は休みでは?」


「ええ、それで外に出ていたのですが、エヴィラという人が先生に会いたいと」


「あぁ……分かった。ホテルまでできれば案内してもらえると助かる」


「わかりました。響、行きましょ?」


「おう、エヴィラさん。ハーネイト先生のところまで案内します」


「助かるわ、フフフ」


 ハーネイトもエヴィラのことを知っていたため話が早く済み、命令通り響と彩音はエヴィラをホテル・ザ・ハルバナまで案内することにしたのであった。


「ホテルに着いたけれど、本当に……大丈夫なんですよねエヴィラさん」


 こうしてホテルの裏口玄関まで案内した2人であったが、どうしても元血徒という言葉が頭から離れられず不安を抱いていた。


 そんな中、偵察を終え空から降りてきた伯爵は、3人の姿を見て普段見せない苦虫を嚙み潰したよう顔を見せつつ、明らかに嫌悪感を含んだ声でエヴィラに向けてこう放った。


「げぇえええ!お前なんでこんなところに。戻ってきたんかいな!」


「全く、ひどいわね伯爵。私も血徒を追って各地を周っていたのに。逃してしまったけど、情報は既にルべオラ経由で渡したはずよ」


「おかげで情報という点では助かったが、手前と俺様とでは事情が違うだろうがよ。俺はお前のこと気に入らねえんだ」


「どちらにせよ……私たちは復讐者よ」


 コミカルな動きを見せる伯爵に対し、終始冷静かつシリアスな感じで話を進めるエヴィラを見ていた響と彩音は、一応この2人が知り合いなのは確かだと感じつつ先行きが不安だなとも思っていた。


「皆、大切な何かを奪われて生きてきた。そういう人たちの集まりなのかもね、このレヴェネイターズも」


「同じ体験をした奴しか、真に辛い気持ちは分からねえ。そうであっても分かり合えない時すらあるけどな」


「ええ……伯爵、本当に、魔界でも血徒が活動的で、辛い思いをしている者が多いの」


「ああ、しかもこの世界にも来ているんだなあいつら。相棒、後であの京子さんたちが持ってきた事件資料見せてやれや」


 伯爵も、エヴィラも、ハーネイトも大切な存在を奪われている。いわば復讐者なのである。


 しかもその相手が世界を滅ぼす存在だから止めるために戦い続けている。


 自分たちは面倒な生き方を強要されているなと伯爵はぼやきながら、エヴィラの質問に対し既に血徒のいくつかの勢力がこの世界にいることを話したのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る