第159話 BW(ブラッドホワイトデー)事件
エヴィラはその中である話を切り出した。それはブラッドホワイトデー事件という、この地球に存在する多くの国が影響を受けた吸血鬼、というか血徒による事件であった。
この春花から遠く離れた地、桃京にて5年前のホワイトデーの日に、吸血鬼とゾンビが合わさったような存在が街中の至る場所で突然発生し、多くの命を奪い死人にしたその事件が発生した。
それはおよそ一月ほどで自然消滅したが、街の破壊や血徒に感染し死亡した人が、血を求め彷徨い続ける屍人として新たに被害を及ぼすなど、数多くの爪跡を残していた。その後全世界で同様の事件が発生し、世界は混乱の渦中に引きずり込まれたという。
中でも桃京から数百キロ離れた原子力発電所が大量の吸血鬼らしきものに襲われ機能停止、メルトダウンから爆発を起こし、周囲一帯は人が住めなくなる事件をはじめ、未だに政府側では情報操作が行われていると言われている。
この事件に関し当時の旧政府は徹底的な情報封鎖を行おうとしたが、それがあだとなり政府の影響力が一気に下がったという。
最も、既に政治内部にも血徒汚染が魔薬経由で広がっており、乗っ取られていたためそうなるのは当然の話であった。
しかもこれは日本だけの話でなく、他国でも同様の事象が起きていた。
その代わりに台頭したのは、桃京住民などに対しシェルターや医療支援、移住支援などを行った複数の企業であり、彼らの献身的な働きは結果的に、日本という国の在り方をも変えてしまったという。
表向きこそ日本としての国の形はあれど、今影響力を最も持っているのは政府ではなく、多企業複合体なのであった。
今彼らの目指す物は、汚染され住めなくなった都市の解放と感染者の早期発見及び排除であった。
その一方で、ウイルス界系微生界人のエヴィラは、長年の活動の中で血徒が大規模な事件を引き起こした珍しいケースについて知る機会を得た。
ハーネイトたちの懸命な調査などからも、BW事件について犯人がほぼ血徒で確定していた話であったが、彼女が直接別の血徒から重要な証言を得たことにより、完全に証拠が固まったのであった。
「ブラッドホワイトデー……事件、か。三鷹兄さんも、桃京で事件に巻き込まれて……ぅう」
「ミタカ?……確か元DGにミタカ・スギヤギという男がいたが。地球からやってきたとか言っていたし、吸血鬼に襲われ死にかけていたらしいが、その事件がBW事件だったのか!そこでも繋がるとは、驚き過ぎる」
いつの間にかいたハーネイトは彩音の言葉にこう返し驚かせた。どうも伯爵の報告を早く聞きたくて事務所からここまで迎えに来たようであった。
「え……それって本当なの先生!?」
「嘘、だろ?」
響と彩音は、ハーネイトの言い放った言葉に驚いていた。それは、死んだはずの知り合いが生きていたということであった。
その人の名前は三鷹という。飄々とした、面倒見のいい伯爵みたいな男だったが桃京に移住した後音沙汰なく、風のうわさでブラッドホワイトデー事件の犠牲者として上がっていたからであった。
「地球から来たと前に話を聞いている。恐らく本人だろう。近いうちに呼ぼうかと思っていたが、知り合いなら色々話がつきそうだ」
「……お願いします先生」
「任せてくれ」
ハーネイトは近いうちに連れてこようとしたため色々都合が良くてよかったと言い、責任もってここに連れてくることを約束したのであった、
「もう一度自己紹介するわね、私はエヴィラ・ブラッドフォルナ。エボラ出血熱って病気は知っているかしら」
「え、ええ……致死率の高いアフリカで以前猛威を振るっていた感染症のことですよね」
「まさか、あんたそれなのか?伯爵も確かサルモネラって言っていたが、あれ?」
エヴィラはもう一度改めて自己紹介を行い、自身の力について説明を響と彩音に行った。そのうえで、自身が本来どのような存在かも教えたが、それはこの世界においてはもう脅威でなくなった病の主であった。
「ええ、でも一番致死率の高かったあの病気、5年ほど前にこの世界では絶滅したはずよ。この理由、わかるかしら」
「ハーネイト先生に、何かしてもらったわけか」
「U=ONEになったから?」
「ええ、そのおかげで私は、考えを色々と改めることができたし、今までの罪も含めて償うために血徒と戦うことにしたのよ。元々、別の事情で戦っていたけれどね。私も世界のためにね」
エヴィラ本人も、自身の抗いきれないほどの能力に飲まれかけたことが幾度もあった。幸い、彼女の精神力と生命力の強さのおかげで人間に手をかけることはなかったけれど、微生界人として生まれたものの定めとして、もはや自暴自棄となっていた。
自分たちは造物主のプログラムによって、命を奪い続け狙われ、終わることのない戦い以外に生きる道がないと悟ったからであった。
だからこそ彼女は、それを乗り越え他者の命を奪わずに、ずっと生きていけるU=ONEと言う力を信じ研究をリードしていたのであった。
その後、多くの同胞がある石碑を持ち出し行方をくらまし、孤独な人生を生きていた彼女だが、血徒と戦う存在が他にいることを知り、その中で出会ったハーネイトの力で、微生界人が持つ力の完全制御。そう、U=ONE(アルティメット・ワン)の力を手にした。それが、彼女の人生における転機であった。
「恐らく既に2人は言ったかもしれない。でも私からも言うわ。この件から手を引いた方がいいわ貴女たち」
「……何故ですか、エヴィラさん!俺たちは事件を追う中で、血徒という存在が結果的に俺たちの村を壊滅に追いやった元凶だって分かった。だから倒したい!」
「何故、そのようなことを言うのですか?エヴィラさん」
なぜエヴィラがそういうのか、納得のいかない響と彩音は彼女に対し強くそう質問する。それに対して、エヴィラは俯きながら静かに答えを言い放つ。
「皆を、血徒にさせたくないからよ。あいつら、以前より力をつけているわ。貴方たちまで彼らに取り付かれたらと思うと、それはすごく嫌なのよ」
「一応対策用の霊量子防御システムは新規に構築中だけど、前にも言ったが血徒は恐ろしい。腐っても微生界人だ。ヴィダールという生命体を仮に神と称するなら、自分たちも含めあれも神の手先。相手によってはこちらですら手負いになることもある」
相手もヴィダールの手先。故にハーネイト及び響たちに施している防御に干渉する可能性がある。
元々ヴィダールの手先全般が最低でも無意識に霊量子を運用できる力を持っているため、力が干渉しあうため防御が困難であるとハーネイトは説明する。最も、ハーネイト及びU=ONEの域にまでなると血徒による攻撃位では動じなくなると言う。最終的には、格の違いという話らしい。
更に付け足し、伯爵たちは血徒に変異が起きていることも話す。それが、響たちを連れていくことに否定的な理由であった。
「だったら、なおのこと放っておけねえなあ先公。俺は、命令を破ってでもついて行くぜ。あんたを見ているとな、放っておけねえんだよ」
「そうだぜ兄貴!今まで散々手伝わせといて、おいしいところ持っていくなよ。兄貴も全盛期、だったな。その力が出せないなら今は奴らの動向を監視するとか、敵の規模をもう一度確認して準備した方がいいと思うぜ。今やりあって、勝てる自信は俺たちにもねえんだ。手伝うからよ、俺たちも戦わせてくれ!」
それを物陰から密かに聞いていた五丈厳と九龍は思わず飛び出して、ハーネイトに強く言い放つ。
どうも2人は響たちの後についてきたようであり、それに続いて星奈とジェニファーも別の場所から現れハーネイトらに話しかける。
「血徒も、無敵ではないのでしょう?あの災いの星がこちらに巡り来る時期はまだよ。待つくらいは、当然できるわ。今は敵が本格的に動き出すまでに、全力で対策を練るのが大切だと占いで出ていますわ」
「ハーネイトさん、どうしてもだめなのですか?アメリカでも、魂食獣だけでなく吸血鬼のようなゾンビに多くの人が命を奪われています。阻止できる人が限られているなら、私は戦うわ!」
2人はそれぞれ自分の意見を言いながら、できることなら協力したいと打ち明ける。自身らも関係者なのだから、逃げるなんてことはしない。ただ向き合うだけだという2人の強いまなざしにハーネイトは感心しつつも、それに対し自身も全員に対し思っていることを口に出したのであった。
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