第149話 予言が当たったハーネイト




「目の前が急に……くっ、エネルギー切れか!創金術を使いすぎたんだっ、マジで呪いが、足枷だな、ッ。それに胸がっ」


「……予言、よく当たるでしょうハーネイトさん」


「ちっ、無理やり力を引き出そうとしたな相棒。無茶するなって俺たちに……お前は全く」


 そう、星奈が以前出した予言がここにきて当たってしまったのであった。ただ少し違うのは、仲間がそばにいる状態で症状が出たという点であった。


「とうとう当たってしまったわね」


「星奈さんの予言……侮れませんわ」


「ちっ、ひとまずホテルまで運ぶぞ。お前らも手伝ってくれ。俺は至急ある人物と連絡を取る」


 響や亜里沙は分かっていたこととはいえ狼狽するも、伯爵の一声で我に返りハーネイトを亀裂の外まで運ぶ手伝いをし、韋車は近くの駐車場に止めてあった車に乗り、ハーネイトたちを乗せて急いでホテルに向かう。


 ここまでの手際の良さは見事なものであり、30分もしないうちにハーネイトはホテル地下に運ばれてベッドで寝かされていたのであった。


「大和さん!」


「ハーネイトが倒れたのは本当なのか?」


「はい、戦闘後に急に倒れまして……私も驚いています」


「とりあえず韋車、助かったぞ」


「まあ、車で来といてよかったぜ……しっかしまあ、これは体調管理の問題ってやつか?」


 連絡を受け大和や翼も駆けつけるが、ベッドで寝ているハーネイトを見て困惑していた。誰が運んだのかと聞き、韋車は自身がそうしたというと大和は感謝し、彼も速やかに運べたことにほっとしていた。


 だがなぜここまでなったのか、韋車を含め大多数のその場にいた人は疑問を抱いていた。そう、それは食事は普通にとっており、栄養面などでも特に問題のある食生活はしていなかったことであった。


「しかし、病院じゃないのか?こういう時は」


「俺たちが何者か、わかっていってんだろうな?医者に見せても治らねえ。栄養の補給でどうにかなる話だ。まあ、気休めぐらいにしかならんが」


「分かった分かった、そういう事情ならあれだ。だが宗次郎にも伝えておくからな」


「ハーネイトさん……私の予言をおろそかにした罰です」


「自身が完璧超人と思っていると、そういう話はまともに聞かないもんだぜお嬢ちゃん」


 星奈はとてもあきれた様子で意識の戻らないハーネイトを見ながら、独り言をつぶやいたが伯爵が聞いており、ハーネイトを含めた超人タイプは人の話を時折聞かない、あるいは軽視する点があるという。

 

 そんな中事務所に急いで駆け付けたのは渡野、音峰であった。


「ハーネイト君が倒れたって本当なの?信じられない……」


「話を聞いて驚いたが、休息をあまりとっていないようだったからな」


「渡野さんと音峰さん!どうしてここに」


「伯爵さんから必要なものを買ってくるように言われてね」


 部屋に急いで入ってきた渡野と音峰は、手に買い物袋を提げていた。それは少し前に伯爵からの連絡で必要なものを購入してきたからである。2人はベッドに寝かせているハーネイトの姿を見て不安を抱いていた。


「本当に彼は大丈夫なのかお前ら」


「伯爵さん曰く、死ぬことはないけどこのままだと目覚めないかもって」


「……相当良くない状態だな」


「お前ら来たか、こっち来てくれ!」


 2人が来たのを見た伯爵は、渡野と音峰にベッドまで来るように言い2人は指示に従った。いつもよりも生気のない、とても冷たいように見える肌が彼等の不安をさらに増幅させる。


「とりあえず甘そうなものって聞いたからこの練乳のチューブとか砂糖とか買ってきたけど」


「でかしたお前ら!相棒の栄養は糖分なんでな。これならすぐに霊量子に変換できるはずだ」


 伯爵は渡野の持つ袋の中から練乳チューブなどを手に取り、ハーネイトの口を強引に開けて甘くて白いそれを大量に流し込む。それを見ていた全員は窒息しないのかと心配するが、それは彼自身の能力で問題はないと言い場を安心させる。


「取り合えず栄養は取らせたが、ここに来てからも色々慣れないことがあって心労も重なったんだろうな。……悪いが当分相棒は安静にさせないといけない」


「先生……大丈夫ですよね」


 それから2日後、ハーネイトはようやく目が覚めた。まだぼやける視界に戸惑いつつ、けだるい体をゆっくりと起こすが倒れている間の記憶は当然なく、フューゲルと別れたことまでしか思い出せていなかった。そのためベッドにいたのを不審に思うが、次の瞬間目に映ったある人物を見て彼ははっと目が覚めたのであった。


「っ……あ、あれ?なんで私……」


「目覚めたか相棒。ったく、心配かけさせやがって」


「そうですよ全く。貴方も、主として責任を負うなら体調管理はきちんとしていただかなければ」


「馬鹿ハーネイト、お前はいつも昔から悩み事を相談しねえなあ?このスカタン!」


 そう、ハーネイトの寝ていたベッドを囲んでいたのは伯爵、リリーだけでなくまだAM星にいるはずのミレイシア、サインの4人であった。

 

「み、ミレイシア!?それにサイン……も?」


 ハーネイトは、目の前の光景に目を丸くしていた。本来故郷にいるはずの直属の部下2人が、自身の傍に座り看病をしていたからであった。


 ミレイシアは正装のメイド服姿でここに訪れ、付きっ切りで彼の看護をしていた。このミレイシアというハーネイト直属の部下は元大量虐殺者として恐怖の限りを尽くした古代人、つまり半分ヴィダールの血が混ざった人間でありロイ首領の妹でもある。


 彼女は人形を作り出し代わりに戦わせるのを得意とするが、自身の戦闘能力も桁違いである。ただ性格が災いし、良く喧嘩の火種を作ることと主に対しても口が悪いというか、言い方に問題があるようでハーネイトも扱いに困っているという事情がある。


 もう一人のサインという男も正装の執事服姿で彼の代わりに事務業務などを引き継いで行っていたようで、少し疲れているように見える。


 このサインという男も恐ろしい存在であり、蹴りだけで多くの敵を倒してきたインテリヤクザ的な存在である。


 最も彼とハーネイトは同じ旅仲間であり、共に同じ道場で修業した間柄なためかなり付き合いは長い。そのため互いにためらいなく言いたいことを言うのは、そこまで親密だからできるのである。


「そうです、伯爵の連絡を聞いて急いで駆け付けたまでのことです」


「ミロクは急用で一旦帰ったが、代わりに俺らがサポートするあれだ」


「そ、そうか……」


 ミレイシアは少し前に焼いた、彼の大好物なパンケーキがのせられている皿を手に取り、食べるように促しハーネイトは、静かにフォークでケーキを突きさし、口に運ぶ。すると彼の目からうっすらと涙がこぼれる。食べたくても我慢していたその味に、思わず感極まったように見える。


「先生!目が覚めたのね!」


「全く、倒れたと聞いた時は儂もあわてたぞ」


 ハーネイトは久しぶりに食べるミレイシアのパンケーキに感動していたさなか、ドアが激しく開き、彩音や宗次郎らが続々と部屋の中に入ってきたのであった。


 宗次郎は連絡を受け非常に心配していたようで、かなり落ち着かなかったと亜里沙は様子を見てそう判断していた。まるで息子か何かに接するかのようで、少し嫉妬しつつも彼女本人も、ハーネイトに対し兄の面影を見出し、ミレイシアが来るまで彼の看病を付きっ切りでしていたという。


「彼は、無理が祟っていたのだろうな」


「だろうな親父。兄貴、時々浮かない顔していたしな……」


 翼と大和も、ようやく彼が目覚めたかとほっとしていた。彼が倒れている間も、伯爵やリリーの指揮下で霊量士たちは拠点を潰したり探索を行ったりと忙しく働いていたという。


「1つお聞きしますが、何故取らなければならない糖分を控えていたのですか。能力を封印されている上、無理な力の行使は負担が大きいうえに代替エネルギーまで取らなければ、こうなるのは分かっていたでしょう、ハーネイト様」

 

 そんな中ミレイシアの放った一言で、ハーネイトの顔が引きつった。そう、ミレイシアはすでにハーネイトが倒れた理由を見抜いており、何故管理できるはずの部分を疎かにしていたのか理由を尋ねたのであった。

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