第150話 好物を我慢した理由と汚染都市の情報




「……それは、食べたら故郷のことを思い出して……ホームシック、という奴だ。そうならないために、極力控えていたんだミレイシア」


 そう、ハーネイトはこの世界に来てから糖分に関して極力控えていた。最低限食事から取れど、それ以外を取らなかった。


 本来彼にとって当分は普通の人間以上に必要不可欠である。最も、その糖分も本来は炭水化物由来の糖分が必要なのだがハーネイトはそれ以外の糖分補給で色々賄えるという。

 

 神の子なのになぜ糖分が必要かという理由に関しては、以前ルべオラと共闘した際に露見した件が理由であり、本来の神造兵器固有の、無限に活動するという機能も現在封印されているからである。


 これは、彼の体に埋め込まれたヴィダールの秘宝にして女神ソラの作り出した装置からのエネルギー供給機能が低下している状態でもある。


 彼の切り札こと創金術は、このエネルギーを多量に使い、また脳を良く使うためそこにもエネルギーが必要である。


 彼が自滅した原因は、そこにあった。確かに人智を越えた強さを彼は持つが、無敵ではない。それを響たちは思い知らされた一件であった。


「はあ……倒れては元も子もありませんよ。昔から仕事に関して責任感の強さは桁違いでしたが、それで自身の首を絞めることになってはいけません、今の貴方は病人とさほど変わらないのですよ。今までのような無茶はできないことを、再度自覚してください」


「返す言葉がないよ、全く」


 ミレイシアはそう諭すように言い、ハーネイトは少しうなだれていた。また自身のせいで周りに迷惑をかけてしまった。そう彼は感じてそれ以上言葉を返せなかった。


「……とにかく目が覚めたんだろ先公。一つ言わせてくれ。仮にも俺らを率いる立場なんだからよ、そこまでして無理しないでくれよ。あんたが倒れたら、どうすればいいかまだ俺たちも分からないことだらけなんだ。先公は、今まで見た大人たちとは違う奴だ。これでも、あんたについていこうって思ってんだからな」


「……そうだな五丈厳、皆」


「ここまでしておいて、責任を取らないなんて言ったらただじゃ置かないんだから」


「取り合えず先生は一旦休んで、仕切り直して次の研究をしてください」


 五丈厳はみんなを代表して、リーダーとしての在り方について思うところを以前より少し優しく言った。


 彼にとって年上の存在とは、信用できない連中ばかりでつい悪態をつかずにはいられなかった。保身に走る奴等ばかりで、当事者のことなど何も考えていないという事実に彼はずっと憤っていた。


 だが目の前にいる、少々頼りなさそうにも見える男は何もかもが違う。まるで自分たちと同じ目線に立って戦う友ともいえるような不思議な感覚。それは彼以外の全員も感じていたものであったが、特に五丈厳や九龍、ジェニファーら数名は強くそれを感じていた。


 どんな話でも真摯に聞いて、共に解決しようと動いてくれる。その姿勢に、事件に巻き込まれながらもそれを信じてもらえない人たちにとっては救いであった。


 その後ハーネイトは少し1人になりたいと申し出て、伯爵たちはそれに従い部屋を後にした。


 ベッドに再び寝た彼は、まだ未熟だなと思いつつ静かに眠りについたのであった。体調を顧みず無理する悪い癖はまだ治らない。それは彼が責任感の強すぎる一面と、自身を嫌いになった過去を持つことに起因するものであった。


「いやあ、助かったよ2人とも」


「フン、お前の指示には従いたくないが、一大事だったからな」


「そうです。全く、貴方ももっと仕事をしてくだらないと」


「してんだけどなあ……とにかく、付き合いの長いお前らの方がガンと来るかなって思ってさ。……まあこれでこれはいいとして、血徒の活動が活発になっているのが気になる。いやな予感しかしねえ」


 伯爵はその後サインとミレイシアに話をし、感謝しつつもこの先起こる嫌な予感に落ち着かず、自身は独自に偵察をするためホテルの外に出て行ったのであった。


 自身も大分ハーネイトとの付き合いは長いが、サインらに比べるとそれは浅く、彼の考えの全てを汲み取れるかというとそうでもない。たまに相棒とは意見の対立だってする。だからこそわざわざ来てくれた2人にあまりしない感謝をしたのであった。



 その翌日、体調が戻り復帰したハーネイトは、ある日事務所内でPCを使いながら集めた情報を整理していた。その後、ある人物とコンタクトを取っていた。それは先日事件に巻き込まれた喜多村であった。


 彼は仕事の関係でしばらく桃京で住まないといけないため、それを考慮したうえでハーネイトは喜多村に対し桃京及びその付近で起きている異変がないかについて情報収集を可能な限りしてほしいと依頼を出していた。


「ハーネイトさん、BW事件については知っていますか」


「名前と何が起きたか、それについてはある程度ですが」


「その事件の影響が色濃く残った都市がいくつもあるのです」


「何だと?」


 喜多村の話は初耳だというハーネイトに対し、彼は大阪や熊本、鹿児島、広島に三重や名古屋、秋田、岩手、群馬と北海道の計10都市に関して5年前のBW事件の影響を受け、損害を負ったことについて話をする。


 更に、情報はまだ少ないものの、それ以外の地域でも異変がいくつも起きていることも彼に説明する。


「それは放置しておけないな」


「日本だけでも10つの大都市が被害を受け、その中には立ち入りを禁止されている都市があります。それに関しての情報は必要ですか?」


「ああ、ぜひ可能な限り提供してもらいたい」


「では、近いうちにまとめて資料を送ります。情報統制の関係上、手に入れられるものは限られますが、友人などをつてにできる限りやりますよ」


「ああ、喜多村さんはまだ能力が完全に目覚めてはいない。異変があっても近づかないでください。情報協力だけでも凄く有難いですから」


「そうですね、命は惜しいですし。では失礼します」


 ハーネイトはそうして10分ほど喜多村と話をし、情報提供の約束を取り付けた後、再び作業に戻る。


 響たちが集めた霊量片の総数と、あるプロジェクトで作ろうとしている物のシルエットが画面に表示されており、それらから様々な計画を考えている彼であった。


 そんな中大和も事務所を訪れており、ある話を持ち掛けてきたのであった。


「ハーネイト、時間があるときはあるか?」


「えーと大和さん、そちらの都合に合わせても」


「ある研究者がハーネイトと話がしたいと言ってきてな」


「大和さん、あまり妙なことをすると……何?それは本当なのか?」


 大和には一応ある程度任せている点があるため強く言えないが、あまり妙な行動をとるとそれ相応の対応をとるぞと注意しようとした矢先、彼の言葉を聞いたハーネイトは黙って話を聞くことになった。


 それは響や彩音たちと関係のある話であり、もしかすると敵の拠点に迫れる何かを握っているのかもしれないと思ったからであった。


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