第148話 悪魔王フューゲルと魔界の血徒汚染
「なっ、何でこんなところにいるフューゲル!」
「……フッ」
「まさか、やるつもりか?」
ハーネイトは突然現れた異形の存在にひどく狼狽えていた。何故なら、本来このような場所にはいるはずのない存在であったからである。
そう、それはかつて自身がDGと戦っていた時に出会った、魔界の悪魔の一人であり彼を導くために暗躍していた元人間の悪魔でもあった。
名をフューゲルと言い、今は魔界に帰還し王としての務めを果たしている道中であるという。
「……勝負だ、貴様!」
「なっ!お前ら下がるんだ!」
「腕がなまってねえか確かめてやる!」
「っ!こっちも全盛期の力は出せないんだって!」
フューゲルはハーネイトと目を合わせるな否や突然襲い掛かってきた。伯爵は響たちを連れ後退させる。
襲われたハーネイトはすかさず藍染叢雲を刀から超反応的速度で抜き、迫りくる黒い爪の嵐をそれで受け止める。だがフューゲルはダメ出しで手元から火炎を吹き出しハーネイトを焼こうとする。
それを霊量分解(クォルツ・デストルクシオン)で焔を消し、彼を蹴り飛ばしながら反動で間合いを取るため飛翔し着地するも、フューゲルが襲ってきた理由が何なのかいまいち理解が頭に追いついていない状況であった。
「っ!前よりも火力が……!だが!創金剣術・
「……グラボロス!燃えちまえ!」
ハーネイトは彼を迎撃するため、創金術で周囲に創金剣を無数に展開し、フューゲルはそれごと焼き払おうと火焔の竜巻を発生させようとする。
互いに技がぶつかり合い相殺された後、正気を失っているように見えたフューゲルの目は元に戻り、けたたましい笑い声と共に一言、彼に言い放った。
「……ハハ、アハハハハ!お前もそういうのを見抜くのはまだまだだな。誰があんな奴らの下に着くか。俺は魔界の王だ。魔界復興同盟なぞ敵じゃねえ」
「っ!まあ、そうだよね。しかしなぜ、ここまで足を運んだ」
「我らが望んでいた、環境改変装置を自ら受け取りに来た。出来ているのだろう?」
「……そういうことは事前に連絡してくれ。ほら、これだよ」
どうもフューゲルは久しぶりにハーネイトに会うことがうれしく、ついでに今の実力がどの程度か確認しつつ、遊んでほしかったようであった。
それを理解したハーネイトは大きく息を吐いてから、事情を聴き文句を言いながら、開発していた環境改変装置を次元倉庫から引っ張ってきて見せたのであった。
「……これがか。奴ら魔界復興同盟も似たような装置を様々な場所で使用しているみたいだが、あれはろくでもない装置だ。別世界の住民だけでなく、悪意ある者まで流れ込む上に世界の構造自体が不安定になりやがる。しかしハーネイトのならば確実に、魔界を以前の豊かな場所に戻してくれる。そう信じているのだ」
数百年前に起きた天変地異で荒れ果てた、魔界を元に戻すためフューゲルは、恥を忍んでハーネイトに古代バガルタ人の技術を提供してほしいと申し出た。
それを彼は快諾し、創金術を利用した装置の開発を行っていた。そうしてできたのが目の前にある巨大な円筒型の装置であった。
「おい、待て!似たような装置って、異界化装置のことか?」
「ああ、出所はまだこちらでも掴んでいないが、今魔界で大問題になっている異界化の原因と……っておい、そちらこそこの地球とやらで異界化が起きているのか?」
ハーネイトはフューゲルの言葉に何か違和感を覚え、そう問いただすとなんと、魔界でも同じような異界化現象が起きていたことを知ることになった。それを聞いたフューゲルも驚きつつ、ふと疑問に思ったことを口に出した。
「そうだ、でないとそのような話はしないだろ」
「まさか、お前の作ったのもその魔界同盟の奴らのデータを解析したとかじゃ……」
「パーツ自体は回収しているが、私が作ったのは私の神具だから、創金術を用いたヴィダールのやり方だけど。それと、向こうが使用しているのは少なくとも魔界で作られたものではない。金属元素の鑑定や素材の年代鑑定などから、フォーミッド側の物であることが分かった」
ハーネイトはフューゲルを含めた全員に対し、異界化装置がどこで作られたかについて調査結果を述べる。
それは意外な物であった。今まで行方不明事件などで見つけられた転送装置に近いような異界化装置はどれも、物質構成や幻天八素の有無などによりフォーミッド界で製造されているという結果だったからである。
「何?あれがか」
「それとな、もしかするとDG(ドグマ・ジェネレーション)はまだ組織として残っていると思うのだ」
しかも、その装置を作ったのはDGと言う組織ではないかと言う見解を述べる。部品の一部を調べそう判断したのだが、ヨハンやリシェル、伯爵などがハーネイトに詰め寄り更なる説明を求める。
「何だって!」
「ヨハン落ち着いてくれ、装置の中の部品の一部に、DGのマークがついているのを確認している」
「しかしハーネイトさん、だとしたらそいつらはどこにいるんですか」
「それが全くもって分からないのがな。装置の部品自体が1年程前に作られたようだから、未だにどこかで健在なのだろう」
「魔界復興同盟の連中が、どこかであれとつるんでいるのか?全く、俺らも同盟の連中のせいでてんてこ舞いであれなんだが、おいハーネイト。聞きたいことがある」
フューゲルはハーネイトの作った装置が大丈夫かどうか確かめるも、彼の話と装置を見て別の問題が起きていることを把握し、その上で自身も魔界復興同盟に関して情報提供をする。
そう、彼らもまた魔界復興同盟に振り回されていた。それに関連し、復興同盟が活動的になったのとほぼ同時に魔界中で起きている異変について彼はハーネイトに問う。
「魔界で奇妙な病気が流行っている。血を流したり性格が変わったり、最終的に生ける屍みたいになる奴らが少しずつ出てきているんだ」
「それはの、血徒(ブラディエイター)と呼ぶのじゃよ若造」
「また来たなルべオラ!」
フューゲルの話を聞き、懸念していたことが起きていたことに衝撃を受けるハーネイトたちだがその時、どこかで聞いたあの小悪魔の声が聞こえてきた。それと同時にルべオラがフューゲルの目の前に立っていたのであった。
「やっほー!ついでにザジバルナも連れてきた」
「っ!あの時の!」
しかもルべオラは魔界復興同盟のザジバルナも引き連れていた。ハーネイトの顔を見た彼女は目を背けながら距離を取る。
「同盟の15位か。ルべオラから聞いたが、治療してもらったと?」
「そう、だ。魔界人が病気になることなどめったにない。ましてや感染症などという概念が欠落している。この者には世話になった」
「ああ?感染症だ?」
「そうじゃ、それとエヴィラ、あの元危険な2人組は引き続き魔界で調査しとる。近いうちに彼女に会うかもしれぬが、その時はねぎらってやるのじゃよハーネイト」
少し前にハーネイト宛に、ルべオラから魔界に関する情報が送られていたため話はすぐに分かっており、他のU=ONE化した微生界人の状況について話を聞くと本当に大丈夫なのかと思いつつ彼は深刻な血徒汚染が起きつつあることに不安を抱く。
気運汚染よりも正直厄介すぎるそれは、何としてでも抑え込まないといけないと彼は考えていた。
「何でこんな所にあのフューゲルが!」
「ある装置を受け取りに来ただけだ。魔界復興同盟の話は聞いておる。血徒か……伯爵の知り合いか?」
「ふぁ?俺から見ても敵だっつーの!」
「そうなのか?しかしどうしようもないな。注意喚起することしかできん」
「辺境の町などで、私がかかったのと同じような症状の奴等がいるんだ」
ザジバルナはフューゲルの方を見ても怯えたような様子であり、彼は血徒というのが伯爵と同じ種族なのかを尋ねるが本人の話を聞き、同じ種族同士でも勢力争いが起きているのかを知り困惑する。
また、ザジバルナは自身の症状及び同じような症状を訴える者がいることを説明する。
「分かった分かった。非常に面倒で厄介な存在だというのは理解した」
「悪いが、そちらへの支援はこちらは現状無理だ」
「ああ、分かっておる。あの駄女神に能力を封印されているのは風の噂で聞いたさ。ソロモティクスの復活と紅き災星、血徒に魔界復興同盟の異変、それにPという存在か。複雑に入り組んだ1つの大事件、て所だな。ハーネイト、かなり貧乏くじ引かされてる感じだぞ」
「だとしても、やらなければならないだろうフューゲル」
フューゲルは自分らも集めたいくつかのキーワードを口に出してから、これらは全て最後に1つの答えを結ぶ要因であることを確認し、ハーネイトも同じ意見だと言う。
「関係性を全て解き明かし、事件の解決をしないといけないのは分かっているようだね」
「ああ、そうだ。ザジバルナと言ったな。お前は引き続き魔界内の調査をしてくれ。ルべオラと言ったな、改めて協力を乞いたいのだが大丈夫か?」
「……良いだろう。どちらにせよ、その改変装置があれば魔界はよくなるのだろう。もう組織にいる理由はない」
「勿論じゃ、悪魔よ。では戻るかのう。お主等、星の動きもよく見ておいてくれよ。奴らの活動は、それに比例するのは確かじゃ。ではさらば!」
そう言い、ルべオラとザジバルナは一足先に魔界に帰ったのであった。
「あの……長話しているところあれですが、貴方は味方なのですか?」
「ああ、すまなかったな。紹介が遅れた。俺はフューゲルという魔界の王だ。だが元はハーネイトと同じ星出身かつ、アル・ヴィダール、つまり人となったヴィダールでもある」
フューゲルは文香の質問に対し不敵な笑みを見せつつそう言葉を返し、丁寧に自己紹介したうえで、昔自身がどういう存在だったのかについてもさらりと話したのであった。
「そ、そうなのですね」
「そのフューゲルさん、異界化装置による被害はそちらもひどいのですか?」
「……そうだ。どこぞのものとわからぬ化け物が異界化した場所から現れていてな。そちらはハーネイトらがうまくやっているからいいだろうが、こちらは戦力があれでな。だが魔界同盟がそちら側にいるなら、そいつらを倒せばこちらも問題ない。もともと目の上のたん瘤でな」
どうも話によると、フューゲルたち魔人一族は、魔界の約7割を現在統べている状態であったが、ある組織が自身らの地位を奪おうと、異界化により魔界の環境を整え多くの民の支持を得ようと暗躍していた。
それが魔界復興同盟と呼ばれる存在であった。彼ら同盟の活動により、再び魔界も侵略者の脅威に晒されており、それに気づかない民たちの彼等への支援も厚く対応に苦慮していたのであった。
要は、魔界を復興させるやり方に違いのある組織同士の対立が、別世界である地球で起きている怪奇事件の原因であったということである。だがその裏には、恐ろしい組織の影が蠢いているのであった。
「ひとまず、その装置引き取って帰っていただけないか?こちらも……忙しいのだ」
「ああ、確かに受け取ったぞ。父上にも言っておく。もしこちらの方が片付いたら、今度はこちらが義理を返す番だ」
ハーネイトはそろそろ帰りたいのでフューゲルに対し早く装置を持ち帰ってくれと言い、彼も普段見せない笑顔を見せ、自身の世界の問題が落ち着いたら恩を返すと義理堅い一面を見せつつ、軽く礼をして装置とともに姿を消したのであった。
「ふう、装置も渡したし……これで……っ!なっ!?」
「相棒どうした!ま、まさか……」
懸念であった装置の引き渡しが意外な形で実現したハーネイトは思わず緊張の糸が解けた。その時彼の身に異変が起きたのであった。
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