第147話 Tミッション臨時招集・後編



「イノシシ型のヘヴィボッグ、熊型のアグゼザリス、ワニ型のペルディダイルズか。なぜこんなに……いや、それよりも全員でこれらを仕留めるんだ!もし外に出たら多くの人が食べられてしまう!」


 しかも質の悪いことに、そこにいた魔獣全てが凶悪な肉食系であったことから、伯爵やハーネイトを驚かせ、速やかに命令を出さざるを得ないほどに危険な状態であった。


「全員大暴れだ!遠慮なく仕留めるんだ」


「憑依武装でないと効果が薄いが、文香や文治郎はあまり影響を受けずに行けそうだ。各自最善の選択で倒しに行けや!」


「言われなくてもよ伯爵さん!」


「おうよ!まとめて調理してやるよ!」


 一番乗りで魔獣の群れに入っていったのはもちろん伯爵であり、早速自身の体を霧状にしてから魔獣数体に襲い掛かり、微生物という名の眷属にて今日の晩御飯にしてしまう。


 初めて見ればおぞましい光景だが、もう響たちは慣れており自身らも突撃し魔獣に取り付く。


「来てくれや、深緑の菌魔(カラプラーヴォルス)!」


 伯爵は地面に手をかざし何かを背後に召喚した。それは以前死霊騎士を一撃で倒した微生界人、カラプラーヴォルスこと緑膿菌の微生界人であった。


「おー、久しぶりかな?また来たんだけど、眠りたい」


「手伝ってくれよおい」


「へーい……じゃあさ、早く落ちてくれない?深緑蝕斬(カラプラーイロージョン)!」


 呼び出されたカラプラーヴォルスは、自身の体から数十本もの緑色をした鋭い触手を周囲全方向に向けて射出し、周りにいた魔獣全てを串刺しにし、猛烈にそこから腐らせつつ分解したのであった。

 

「いきなり10体も同時に仕留めている、何てパワーだ」


「俺様もぶちかますぜ!菌霧舞!」


「あー、面倒だな。魔獣ってそんなにおいしくないし」


 カラプラーヴォルスの働きに負けじと伯爵もさらにヒートアップした菌技を見せ、見る見るうちに魔獣の頭数が減っていく。これぞ伯爵クオリティなのである。


「彩音、そっちの方は任せた!」


「任せて響!まとめて処分市よ!」


「魔獣だろうが何だろうが、全部倒すまでだ!」


 一方の響たちは互いに連携を取りつつ的確に魔獣を一体ずつ仕留めていた。憑依武装の力は確かに魔獣にもよく効く。まあ彼らが霊量分解まで習得できればそちらの方が破壊力も上になるが、それまではこの憑依武装こそが彼らの生命線となるであろう、ハーネイトはそう考えていた。


「再び呼び出されたと思えば、魔獣狩りとは……」


「何だヨハン、いやなのか?」


「違いますよリシェルさん!そら、不動四剣・阿修羅斬!」


「そうかい、だったらこっちもな!霊閃・収束滅光(ラセンブラーエクレール)!」


 ハーネイトの仲間たちも響たちと同様、しっかりと攻撃を加え仕留めていく。ヨハンとリシェルは少しぼやきつつも、軽快に武器を振るい魔獣たちとの突撃を食い止めていく。


 まさにその気迫は荒ぶる阿修羅のごとく、ヨハンの振るう剣が幾多の魔獣を切り払い、戦場を射抜くきらめく光の一閃が、リシェルの持つ狙撃銃シグナウより放たれると、直線状に存在していた魔獣たちの肉体を蒸発させる。


「血沸き心躍る!これぞ戦場だ!アハハハハ!」


「おっかねえ女性だな全く。黒蛇(くろち)、憑依武装行くぞ!この、黒龍三爪ですべて倒す!」


 一方のスカーファはクー・フーリンと共に八面六臂の大暴れ、それに辟易しつつも息を合わせ、彼女の背後に迫る魔獣たちをド派手に仕留める黒龍は、かつて孤独に戦っていた昔の自分を思い出しながらも、仲間とこうして戦える喜びを新鮮だと感じていた。


「さあ、氷漬けになって絶命しなさい!」


「爆ぜ飛びなさい!鼬風っ!」


 そんな中、ハーネイトに対する接し方で少々そりの合わない星奈と亜里沙だが、戦闘に関しては申し分なく連携して戦っていた。


「あと一息だ!」


「みてえだな、ちゃっちゃと片付けるぜ!」


 そうして、20分ほどで200体近く存在していた魔獣は跡形もなく消滅したのであった。


「皆さん、お疲れさまでした。このエリアにある反応はすべて消滅です」


「はああ……今回のは疲れたわね」


「ナイスファイトだぜ彩音」


「そういう響もね」


 戦闘を終えた響たちは一息つき、互いに健闘を称えあった。模擬戦でもそうであったが、彼らの素質の高さにハーネイトは改めて、いい仲間に出会えたと内心嬉しそうにしていた。


「さあてと相棒、この魔獣たちの出所分かるか?」


「魔獣だから魔界のところからだろうが……こうも大量にまとめて亀裂内に入ってくること自体が偶然では基本ありえない。誰かが意図的に魔獣の群れを引き込んだ、としか言えない」


「誰かが手引きしたのかもしれんぞハーネイトよ。魔界復興同盟の連中も魔界人ならば、魔獣を利用しない手はない」


「そうなるといとも簡単に操れるはずだよね?しかも魂食獣と合体とかねえ」


 ここまで大量の異界生物が侵入してくること自体、相当まれという過去の量についてはもはや別の誰かがわざとそうしたとしか言えない、そんな状況であるとハーネイトは持論を述べる。


 それに文治郎も同じ意見だというが、星奈はそんなことが本当にできるのかと少し疑問に思っていた。


「それが魔界も複雑らしい。天魔と魔鬼、魔人、それに魔獣と霊魔の5種族に大まかに別れているらしい。一枚岩では決してないのだろう」


「問題は同盟はどのあたりの種族かってことじゃないんですか先生」


「大方天魔と魔人の複合組織かと。前々から手を組んでいるようだと話は聞いていた。面倒な相手だ」


「フフフ、これは面白い。久しぶりだな、最後の神造兵器!」


 ハーネイトは以前ある存在から聞いた、魔界に関する複雑な事情についてその場で話をした。


 勿論大多数の人はぴんと来ない話でもあったが、異世界の過酷な環境や暮らしぶりを聞くと流石に共感できるものも少なくはなく、真剣に全員が耳を傾けていた。


 そんな中、大きな声と共にハーネイトたちの目の前に突如現れた謎の人物。


 人物というにしてはあまりに異形で、黒い羽根を生やしその見た目はまさに悪魔そのもの。そう、それはハーネイトやリシェルたちにとって顔なじみであり、共に協力し戦ったこともある者でもあった。

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