第145話 模擬戦トーナメント・後編
「行くぞ彩音!」
「ええ、いつでも来なさい響!」
「言乃葉、あれをかますぞ!疾風斬!」
「甘いわよ響!音叫壁……!ぐっ、本当に強くなったわね」
「お前もだろ彩音」
先に仕掛けたのは響であり、衝撃波を長刀から飛ばし遠距離攻撃を行うが、当然彩音はそれを難なく防ぎ、得意のスピードを生かして響の懐に入る。
「音叉薙刀!!!」
「ぐっ、パワーが思ったよりも……っ!だがその程度で!」
防御しづらい角度からの彩音の一撃を左手で持つ刀で受け止めるも、重心が先端に重い音叉薙刀の一撃で思わずよろけそうになる。
だが彼も気合を入れてそれをはじき返し、今度は彼がカウンター攻撃を繰り出した。
「閃光斬!からの言呪・壊!」
「わっ!音の壁が壊れた?」
「悪いがもらった!」
「だから甘いのよ、昔から突っ込みたがるのは悪い癖じゃない?」
「それはお前の方だろ?ぐっ、他の人と属性が違いすぎる。かすっていなくてもダメージが入るとか怖ええな」
響の戦技連携で防御を崩されようと、彩音は全く引かず立ち向かう。逆に挑発する彼女だが、響にはある考えがあった。
「っ!だがこれはどうよ!」
「これは、刀を投げて足止め?ってきゃああっ!」
「時間差攻撃ってあれだな。どうだ、まだやるか?」
「勿論よ響!だって楽しいじゃない!」
そう、響は霊量子を使い高く飛び、落下しつつ両手にそれぞれ握っていた憑霊武装でできた長剣を一振り先に投擲し、かわそうとする彼女めがけもう片方の刀で叩き切ろうとしたのであった。
だがわずかの差でそれをよけられ、2人の戦いは益々ヒートアップしていた。互いに憑霊武装を巧みに操り、実力もほぼ互角な状態である。
「2人とも引かねえな」
「ここまで彩音がすごいなんて」
「ああ、響も彩音も非常に高い素質を持っている。ハーネイトが思わず弟子に取るくらいにな。まだ経験も浅いというのに、あれは流石の俺様も驚きだぜ」
「ぐぬぬぬ!」
「このぅ!」
昔から彩音を知る翼や間城は、彼女の意外な負けん気根性と気迫に驚かされていた。
それに田村や音峰、渡野、更にはスカーファまでも闘志の強さを称賛しており、伯爵は二人がぶつかり合い、一歩も引かない戦いを見たうえで、ハーネイトの目に狂いはないと断言したのであった。
「時間です2人とも!Cデパイサーを見せてください」
両者一歩も譲らず、刀と薙刀が高音を上げながら交える。いつまで続くのかその場にいた誰もが見ていたその時、シャックスがそう叫び、2人のもとに駆け寄るとCデパイサーを見せるように言い、2人は従う。その画面を見たシャックスは珍しく糸目を開き驚いていた。
理由は2人とも実力はほぼ互角の上、まだ霊量士になって半年もたっていないのにかなり高い水準だったためであった。
しかしダメージレートの差で彩音が、わずか5ダメージ分響より多くダメージを与えていたためシャックスは審判を下した。
「わずかですが、彩音の方がダメージが少ない。これによって彩音の勝利です」
「うそ……や、やったわ!」
「もはや執念ねあははは……あやちん」
「ということで、第一回模擬戦トーナメント優勝者は如月彩音さんです」
審判全般を任されていたシャックスにより、今回の模擬戦第一回の優勝者の名前が響き渡ると、彩音は終始嬉しそうににこにこしていたのであった。
「で、2位と3位は響とジェニファーです。2人とも、良く憑依武装を使えていました。今後の活躍に期待します。皆さん、新たな力の運用に少し戸惑うかもしれませんが、この先迫りくる敵を倒すにはその力をうまく使わないといけません」
ハーネイトは全ての戦いを見た感想を全員の前で述べ、予想以上に強くなっていたことに驚きながらも、新たな力の使い方と、この先さらに精進してほしいという言葉を送ったのであった。
「憑依武装を使えて初めて一人前という言葉も霊量士の中にはあるのよ。ということで、これからもしっかり精進してね皆さん」
「ああ、言われなくてもな!」
「次は負けねえ、ぜってえ優勝して兄貴とサッカーの試合見に行くぜ」
「生徒たちがここまで、とはな。私ら大人たちも負けていられない」
リリエットが最後に話を締め、霊量士、現霊士としての今後を教官の立場から期待してそう言い、幕は下ろされたのであった。
悔しかった五丈厳や九龍、韋車は次こそはと意気込み、翼やジェニファー、渡野は次こそは優勝して、褒美にハーネイトを連れてデートをしたいと思っていた。
そんな中、文治郎や田村、大和にスカーファ、更に少し遅れてきた、今回は観戦のためだけにきた京子も息子や学生たちの奮闘に心を動かされ、今以上に修練に励もうと心に決めていた。
「では彩音さん、後で事務所に来てください。それと他の皆さんは自由にしていてください。というか解散しましょう。次の招集、または緊急招集まではゆっくりと」
ハーネイトは後始末は自身と伯爵ですると言い、残りの人たちに解散をつげ、次の招集があるまで自由にしていてくれと命じたのであった。
「さて、と。彩音、そこのソファーに座りなさいな」
「はい、先生」
掃除を終えたハーネイトは、事務所で待っていた彩音に対し近くのソファーに腰かけるように言う。彼女は静かに座ると、ハーネイトと見つめ合った。
久しぶりだろうか、あの時助けてもらって依頼に、真剣に彼の顔を見た。彼女はそう思うと顔が赤くなる。
自身らを襲った化け物を涼しい顔で倒すその力強さと、戦闘中の一切表情を崩さない余裕のあるその表情に、彼女は魅了されているようにも見える。
「よくここまでついてきてくれた。つらいことも多くあっただろうが、修練を欠かさず行い必要な技術を身に着けてくれた。それにまず私は感謝したい。こういう形になったが、君も含め他の人たちにもできるだけ望む褒賞を上げたいのだが、何がいいか?」
「せ、先生と……デートがしたいです!」
ハーネイトは最古参である彩音に対しそういい感謝と今後の活躍を改めて述べた。それは彼の率直な気持ちでもあった。
それに答えようと、今まで言えずじまいだった願いについて、彼女は勇気を出してこういったのであった。
「言っていたな前にも。そこまでして、私の何が知りたいのだ?」
「す、全てじゃダメですか?それにいろいろ案内したいところもありますし、先生にも、もっと周りの人のような生活をしてもらいたいなって」
「気を使ってもらっているみたいなあれだが、それが良いのならば応えるほかあるまい。約束は守る男だからな」
どういっても彼女の気持ちはぶれないし、理由も意外だったためハーネイトは少しだけため息をつきつつも、その顔はそこはかとなく嬉しそうであった。
グラスにグレープジュースを注ぎ飲みながら彼は、決して間違いなどないようにと思いながら彩音と楽しい一時を過ごしていた。
「……何だかいい雰囲気じゃねえのおい」
「ハーネイト、オンの時は女性への対応も割ときっちりしているんだけど、ねえ」
「まあ誰にでも得意不得意はあるさ。愛する女を助けられなかったあいつの傷は、俺たちが思う以上に深い。俺が同じ立場だったら、世界滅ぼしとるわ」
そんな2人を、わずかに空いたドアの向こうから見ていた伯爵たちは、2人を見ながらニヤニヤしたり真剣に見ていたりとそれぞれ違う感情を抱いていた。
「彩音、そこまで先生のことを……なんか、なんていうかな」
「相棒に嫉妬しているんだろ?……好きなら、早く言わねえと後悔するんだぜ」
「そ、それは……っ」
響は彩音が、ハーネイトのことにかなり好意を抱いている点について、とてももやもやした感じを覚えていた。
それに気づいた伯爵がアドバイスをする。それを聞いた響が狼狽えていたその時、伯爵のCデパイサーにある通信が入る。それを見た彼は、目を閉じながらやれやれだと言わんばかりにあることを響たちに伝えるのであった。
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