第144話 模擬戦トーナメント・前編



「いよいよこの日がやってきたわね璃里ちゃん」


「負けないわよ彩音」


「やってやるさ。先生に、どれだけ成長したか改めて見て欲しいからな」


「そうだな響。まあ俺も古参組だからな、気合入れていくぜ」


 ホテル・ザ・ハルバナの地下にある秘密の修練部屋はいつもより人が多かった。そう、今日ここで第1回トーナメントバトルが繰り広げられるからである。


 ハーネイトは集まった人たちの前に立ち、ホワイトボードに貼り付けている紙を見るように言い、トーナメントの組み合わせ順を確認させた。


 この組み合わせに関しては、前日にハーネイトがランダムで決めたものであった。


「それで、これが事前にくじを引いた上で決まったトーナメント表だ」


「私はジェニファーちゃんと?」


「彩音さん、よろしくお願いしますね」


 彩音は第一試合で、ジェニファーと戦うことになっている。2人は顔を合わせ少しだけ気まずそうに、しかし期待も込めて互いに戦いに挑む前に礼をしたのであった。


「俺は翼とかよ」


「おいおい、こりゃいいな。響、改めてどちらが強ええか勝負だ」


「私は……ええ、五丈厳君と?」


「ククク、せいぜい俺を楽しませろや間城!」


「ひぇええ!いきなりバーサーカーと相手とか、運なさすぎでしょ私!」


 互いに顔を合わせ、共に力を競い合う者、相手が相手だけに驚いたり引いたりする人も、組み合わせが発表されるたびにいたのであった。


「まさかわしが娘と手合わせすることになるとはな。娘よ、日頃の修行の成果を全力で出すのじゃ」


「パピー、私勝つから覚悟してね?」


「俺の対戦相手は……マジか、田村先生?まいったなこれ。向こうもスピードタイプだしよぉ」


「何、俺もつい最近力に目覚めたばかりでな。大切なのは諦めないことだと思いますぞ韋車さん」


 文香は父である文治郎と戦い、韋車は田村と対戦することになりいつもより真剣な面持ちを見せていた。


「私は、そう。亜里沙さんとですか」


「星奈さん、悔いのないようにいきましょう。互いに憑依武装での勝負です」


「望むところよ令嬢さん」


「少し落ち着いて、こう来てみれば面白い催しがある。さあ、僕の相手は……なっ!」


「あ、あはは、うそ……亜蘭。あなたとなんて」


「やるからには全力だ」


「そうね、しっかりとやるわ」


 全員が対戦相手を確認し、ここでハーネイトとシャックスが再度ルールについて説明を行っていた。


「ルールは、1対1の勝ち抜けトーナメントだ。Cデパイサーに仮想ダメージ蓄積量が蓄積され限界域を越えたらその時点でその人の負けだ。憑依背霊、CPFは使用不可、憑依武装でのみの攻撃が許される。また武装が解けた時点でも失格なのでそれを気を付けて。最後に、制限時間は10分とする。この時点でダメージの蓄積量の少ない人が勝ちとなる」


 ハーネイトはこの日のためにあえて新たなプログラムをCデパイサーに入れておいた。これにより各員が受けたダメージなどを記録することができる。


 本来は別のプログラムと組み合わせ保護機能を発動するために作られたものであったが、別方面への利用もできると踏まえてそうしたのであった。


「御託はいい、いいよな先公!」


「互いに切磋琢磨し、私に力を見せつけてくれ」


「じゃあ、行くぜ間城!」


「私は全員の試合をここから見る。リリエットたちは審判を」


「分かったわハーネイト」


 五丈厳ら血の気の多い人たちは闘志を見せていた。それを見ながらハーネイトはリリエットらに各試合の審判をしてほしいともう一度言い、各試合を同時に行ってくれとも指示を出した。


「では、この第一試合は私シャックスが審判を。では両者とも対峙してください」


「負けないんだから」


「そんな気概でいいのか間城」


 五丈厳はフィールドに立つと早速間城を挑発した。これも、彼女の力を見てみたいという気持ちから来たものであった。


 間城は屈指のパワータイプである彼と戦うことに頭を抱えていたが、アイアスも負けていない、そう信じると体を構えた。


「では、今から試合を開始します。READYGO!!」


「早速仕掛けるわ、アイアス!」


「いいぜ姉貴!憑依武装・アイエトスだ!」


 間城は事前に習得した憑依武器を使うため、腰につけていた霊媒刀を鞘から抜いて、刀身に手を当てながら具現霊を刀に送り込んだ。


 すると霊量子の力を借りて刀はあっという間に質実剛健な、巨大な槍と化したのであった。


「俺もだ!スサノオ、憑霊武装だ!」


「いいぜ友よ!憑依武装・天叢雲剣!!!」


 一方の五丈厳も、霊媒刀にスサノオを送り込み刀身の長い両刃剣を作り出した。これらの技術は疑似イジェネートとも呼ばれ、霊量子をエネルギーとして運用するという考えの極致がもたらした、霊量士(クォルタード)の伝統にして切り札の1つであった。


「はあっ!」


「でぇえいいいあああ!」


「やはりパワーが違いすぎるわ、押されているっ!」


「どうしたどうした!」


 間城はガンガン攻撃してくる五丈厳にどう対処していいか分からず、受け止めるも基礎パワーが違う五丈厳とスサノオのコンビにいつも通りの力を出せずにいた。


 しかし彼女もやられっぱなしではない。負けず嫌いな一面のある間城も、アイアスの力を開放する。


「だったらこうよ!絶対盾槍!!」


「これを受け止めるのかよ!」


「隙あり!攻衡七盾!」


 憑依武装・アイエトスの槍先から霊量子の堅牢な光る盾を形成し、一瞬をついて五丈厳の体を押し出しよろけさせる。その更なる隙に合わせ盾を正面に強く飛ばし、五丈厳の体に直撃、彼を大きく吹き飛ばしたのであった。


「グガアアアアッ!すげえやるじゃねえか!」


「もらったああ!」


「ぐっ、Cデパイサーが……!」


「勝負あり!間城さんの勝ちです」


「なんだと!五丈厳が負けた?」


「すまねえ九龍、どうも課題が、見つかっちまったな」


 まさかの予想外、予想を裏切り間城が勝ったことについて九龍や天糸、それに伯爵やハーネイトも驚いていたが、これも勝負の内。2人は戦った戦士たちに拍手と喝采を送る。


 その間にも、第2回戦、第3回戦と試合が始まっていた。


「っとに強いな翼!」


「だてにロナウと特訓はしてねえ!どうだこの具足はよ!」


「俺の長刀もだ!」


 響は言乃葉がいつも使う長刀を憑依武装として召喚し、翼を攻撃するもそれを彼も憑依武装でできた赤黒く燃えるような色の具足で防ぎ、そこから返しで火の玉を連続で放つ。


「貴女のその扇、とてもすごい風を起こせますのね」


「星奈さんの持つ銛も、1突きでこちらの防御を崩せそうなくらい鋭いですわ」


 一方の亜里沙と星奈の戦いもなかなかの物であり、霊媒刀が巨大な扇となった亜里沙の憑依武装と、星奈の憑依武装こと三又槍と激突する。


「私だって!」


「甘いわジェニファーちゃん!こっちには音の壁があるんだから!」


「は、跳ねかえってきた!?きゃああっ!」


 そんな中彩音とジェニファーもまた、銃と槍を交え戦っていた。しかしジェニファーが戦技を繰り出すも彩音の音を使った壁による反射攻撃が跳ね返ってきて、ジェニファーはそれをまともに食らったのであった。


「勝負ありね。でも、すごい連射だったわ」


「今日は負けましたけど、次は必ず……!あーあ、私もハーネイトさんとデートしたいなあ」


「ごめんね、でもこれだけは譲れないわ」


「なあ伯爵。……褒賞の件、今から見直しってダメ?」


「駄目や」


「言い出しっぺは責任を取りなさいな」


「しゅーん……だけどみんな、ここまであれを使いこなしている。やはり、私の目に狂いはなかった」


 ハーネイトはあまりにも彩音の目が怖くてたじろぎ、褒賞の件をどうすべきか再考しようとするも、展開がおもしろそうだと思ったいたずら好きな伯爵とリリーは一言で牽制したのであった。


 もっと色んな人たちと遊んで人生を楽しんでほしいという計らいも伯爵にはあるようだが、基本悪戯好きな彼の性格上、別の意図があるとみて間違いない。


 美形で結構トラブルメイカーな一面がある伯爵は、まるで北欧神話に出てくるロキのようである。一方でハーネイトは、古代バガルタ語で戦士の館と言う意味のアルザードという名前を社名の一部につけ、多くの戦士を手下に置いているあたりオーディンのようにも見える。


「それで、残ったのは響と彩音か。フフフ、最古参の2人が決勝で対決とは」


「悔しいけど、私もサーチャー以外の腕も上げないといけないわね。守ってもらうのは勺に合わないわ」


「強いよマジで、響……ああ、俺たちに足りないものが分かるな」


 結局決勝に残ったのは響と彩音であった。両者はハーネイトの目の前で戦うことになり、互いにフィールドに足を運ぶと憑霊武装を構えた。


 惜しくも2回戦で敗れた間城や響と対決した翼を始め、今回の戦いで自分に足りないものが何か、それを再認識することができた。


 それもハーネイトの狙いであり、自身も仲間たちの持つ戦術や戦闘の癖を見ることができ今後の作戦指示に活かせるだろうと思い、静かに2人の戦いを見ようとしていた。

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