第137話 狙われる事件の被害者
「……っ……」
「3人とも睡眠状態になったな、皆さん、協力ご苦労だ」
ハーネイトは倒れた3人の容態を確認し、一応記念病院に連れて行った方がいいと判断した。彼を見ながら翼と文治郎、星奈は話をしていた。
「本当にすげえな。一発で眠りやがった」
「わしの出番はあまりなかったが、ふむ」
「はあ、はあ、私がああなった時も、みんなに……うん」
星奈は倒れている3人の方を見て、うつむきながらそう言ったが、それを聞いていたハーネイトは近づき、ある言葉をかける。
「星奈、困ったときはお互いさま、だ」
「……いいこと言うね、先生」
「そりゃ、そうだろ?」
普段あまり見せない彼女の笑顔に、ハーネイトは少しどきっとなりながらも顔を隠しつつ少しかっこつけて話を続けた。
「さあ、3人を回収して外に出るぞ」
「あの、死霊騎士は……」
「姿が見えない。理由は不明だが、何か想定外のことが起きたのかもしれん」
3人を連れ去った死霊騎士は既にどこかに消えたのか、それとも何かあったのか、理由は分からないがともかく無事に救出できたことにほっとしたハーネイトは、大和たちと共に亀裂の外に出たのち、記念病院に連絡し救急車を手配してもらい3人を搬送してもらうことにした。事情を知るハーネイトも乗り込み、残りは自由にしていいと指示を出す。
響たちは帰る前に周囲の調査を行うとハーネイトに告げ、公園とその周辺を歩いて異変がないか探し回っていた。
一方で田村、音峰は大和の運転する車に乗り、ハーネイトの乗る救急車の後について病院に向かう。
「あら、ハーネイトさんに大和さん!一体何があったのですか」
「この3人の手当てをしてくれないか?」
「わ、分かりました。まさか何かの事件に巻き込まれたのですか」
「そうですね。一応異常がないか調べて頂こうと」
病院についたハーネイトは担架に乗せられた3人の搬送を救急隊員らと手伝っていた。すると京子がハーネイトを見つけ声をかけ、何かあったのか尋ねた。
「そういうことがあったのですね。ええ、確かに瞬麗さんは私が担当しましたし、他の2人もあの事件の際に運びましたよねハーネイトさんが」
「そうだ。例の事件に巻き込まれた人が今になって影響を受けている」
「これ以上、被害者が増えないといいのですが」
「一度でも狙われると再び狙われる。厄介だ」
それから1時間ほどして、京子は病室を出て座席に座って精神集中していたハーネイトに声をかけた。
「運ばれた3人は検査入院という形で3日ほど入院していただく形ですが、恐らく大丈夫だとは思います。私の具現霊も、大丈夫だって」
京子はしばらくしてからハーネイトに医者から聞いた話を報告し、自身の見立てや具現霊の言葉からすぐに良くなると話をした。ハーネイトは彼女の具現霊が持つサポート能力を評価していた。
「それはいい報告だ。今後大きな作戦になる場合、サポートの力は欠かせない。そうやって分析し判断できる力も貴重だ」
「ええ、私でよければこの力でお手伝いいたします」
京子からの話をすべて聞いたハーネイトたちは事務所に帰還し、待機していた人たちに報告をした。
「ということで、皆さんのおかげで3人は大丈夫でした。お疲れ様です」
「本当に大丈夫なのか?能力の覚醒、できてないんじゃないのか……?」
「あれは強引な暴走を防いだだけです。実際は、まだ完全な覚醒には至っていない」
「ハーネイトさん、瞬麗達をどうするつもりですか」
事務所内にいた田村と音峰はそれぞれ巻き込まれた人たちについてどうなのかとハーネイトに質問し、大和も今後の3人の対応に関してどうするか意見を聞こうとする。
「後日事務所に呼んで、修行空間内で目覚めさせようと考えている。貴方たちも含めて」
「聞くと不安になるな……」
「皆さんに、あれと戦う力をつけてほしい。相手が同族なら、私もこの先只で済むわけがない。その時は、みんなで多くの人を守ってほしい」
「確かに俺たちも、あの化け物たちと因縁はあるし仇は討ちたい。だが、なぜそこまで必死になって教えようとしたり目覚めさせようとするのだ」
「それは、放っておけないからだ。わかっていて、見過ごすことができないからだ。あの化け物たちに狙われ続けるという事実からね」
以前の経験から、ハーネイトらは能力を秘めた人が良く事件に巻き込まれることをデータを取り知っていた。だからこそ、知っているから見過ごせない。彼はありのままに思ったことを大和に話したのであった。
一度でもその手の事件に巻き込まれると、能力を秘めている以上再び事件に巻き込まれやすい。翼の件が例として最も分かりやすい。
ならばそれに抗うだけの力を持てるようになれば、次第に事件に巻き込まれ無くなっていく。それも今までのデータの統計から判明していたため、ハーネイトたちは必死に戦闘技術や運用術などを教えていたのであった。
「……そうか。……大将、俺の命、預けてもいいんだな」
「誰一人、失わせはしない」
「……分かった、大将」
「俺も腹くくらねえとな。妻の命を奪ったやつらを、許さねえ……目的が何であろうと、事実は事実だ」
大和の目つきがいつもより鋭く精悍になる。彼もまた、復讐に燃える一人の男であった。
それから1週間後、退院した瞬麗、宗像、英次郎はハーネイトの連絡を受けホテルの地下まで来ていた。
「ここが、宗次郎学長から案内されたホテルと探偵事務所か」
「すごいなあ、こんなホテルに入れるなんて、ははあ」
「わーっ、すごーい!故郷にこんな素敵なホテルなかった!」
エレベーターのドアが開き、降りるとそこには丁寧に掃除されている長い廊下が見える。と同時に、一人の老人が執事服を着て待っていたのであった。
「宗像殿、喜多村殿、李様、今日はこのホテル・ザ・ハルバナまでお越しいただきありがとうございます」
「貴方は……?」
「申し遅れました。私はハーネイト様の部下であるミロクと申します。以後お見知りおきを。では事務所に案内しますゆえついてきてください」
ミロクは3人を事務室まで案内し、ハーネイトに3人が来たことを知らせたのであった。
「ありがとうミロク。あとは自由にしていてください」
「うむ、では若殿、後は頼みますぞ。さあて、ホテルの温泉でくつろぐかのう」
そういいミロクは嬉しそうに部屋を後にした。彼もまた大の温泉好きである。一旦入って仕切り直し手から、異界亀裂内での調査に赴こうと彼は考えホテル2階の温泉に足を運んでいた。
「貴方は……あの時の」
「覚えていましたか、例の集団行方不明事件の時のことを」
「忘れるはずがないであろう。だが、助けられたのは事実だ」
その頃宗像は、ハーネイトの顔を見てすぐに自身が体験した事件のことを思い出した。そこにいた、特徴的な姿の若者と再び対面し、緊張が体に走る。けれど助けてもらったことも覚えているためすぐに冷静になった。
「おほん、私はハーネイト。ハーネイト・スキャルバドゥ・フォルカロッセと申します」
「宗像義彦と申す。九条学園にて用務員として働いておる」
「喜多村栄次郎と言います。市内の商社で働いています」
「李 瞬麗ね。先日は、ありがとう、ございました」
「自己紹介ありがとうございます。それで、3人にわざわざお越しいただいた理由はですね」
ハーネイトは3人に一礼しソファーに座ると、ある話を始めた。それは彼らが身に感じた異変に関しての情報と、その理由に関して出会った。
「あの事件の後からおかしいとは思っていたんだがなあ……。今のところ、声とかそういうのはないね」
「死んだ犬のことを頻繁に思い出していたのは……そうか、奴は訴えていたんだな」
「リョウ……貴方、私の傍にずっといたのね、うぅ、気付けなくて、ごめんなさい…」
3人はそれぞれハーネイトの話を聞いた上でおかしいなと思っていたことを口に出した。それをすべて聞いた上で、ハーネイトは3人にあるアドバイスをした。
「皆さん、その魂はいわば守護霊として貴方たちを守っていますが、完全ではありません。今のままでは逆に体に負担をかけることになります」
潜在能力者は、いわば能力を完全に得た霊量士らから見ると仮免というか、半人前以下の状態である。その状態下でうまく制御できなければ、幻霊による精神的負担が心身を蝕んでいく。
これに勇気を持って向き合い真実に到達するか、それか鋼の魂を持つものが試練を乗り越えられる。それが霊量士たちの共通認識であった。
ハーネイトは、その点が一番不安だと言い、それを乗り越える最善の方法を伝えた。自身も逃げてきた男であり、向き合うきっかけや仲間たちのおかげで今がある。3人にも今一度、向き合うようにと促す。
「少しづつ向き合い、真に何を伝えようとしているのか耳を傾けて聞いてください。つらいことを思い出すこともありますが、それでもです」
「いきなり言われてもなあ……だが、あの事件に巻き込まれた人は再び同じような目に合うんだろう?だったら、やるしかないわけだなあ」
「私は仇を討つために、来たのよ。やるわ、ハーネイト」
「昔のことを思い出し、聞こえてくる声と向き合えか。確かに難しい」
3人はそれぞれ悩んでいる表情を見せた。だが3人とも、魂食獣などによる被害を受けている。その共通項が、彼らに勇気を与えた。
表情が変わったのを見たハーネイトは、ほっとして気が少し抜けた本来の優しい顔になり、3人に対しチケットを渡したのであった。
「もし相談に乗ってほしいことがあればいつでも乗ります。ああ、あとこのホテルのレストランで使える食事券です。料理長に渡せば無料で食事をいただけますよ。とりあえずおいしい食事をとって、心を落ち着かせてください。それと、もし何かあればこれに書いてある連絡先にお願いしますね」
ハーネイトはジェニファーに渡したホテルの食事券を3人にも渡し、いつでも相談に乗ることを伝えたのであった。
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