第136話 幻霊に囚われた三人

 


 


「何の騒ぎだ!」


「ガァアアア!!!」


「ウグァアアアアッ!」


「向こうの方から聞こえてきた!」


 大和たちのいるベンチを池を挟んて対岸の方から、男性のうめき声や叫び声が聞こえてきた。一体何事かと思い4人はすぐ現場に駆け付ける。


「おい、って貴方は、用務員の宗像さん!」


「このサラリーマンはあの事件の時に異界空間内で倒れていた男だ」


「フフフ、あの子娘共もいい仕事をしたな。これは良質な生贄だ」


「死霊騎士……!」


 するとそこには、緑色の光を纏う、大剣を持った馬に騎乗する死霊騎士が目の前でひどく苦しんでいる二人を縄で拘束し馬の背中に乗せた。


「宗像さん!」


「彼氏の仇……!!!」


「まて瞬麗!」


「そいつはお前では勝てな……」


 瞬麗は怒りに燃え死霊騎士に襲い掛かろうとするが、難なく武器で受け止められ大きく吹き飛ばされた。


「なっ!いつの間にっ!」


「速いのは認めるが、未熟にもほどがあるなハハハハ」


「この!離しなさい!」


「おい、そいつを離せ化け物!」


「断る。まあせいぜい追ってくるのだな」


 死霊騎士は瞬麗も捕まえて、付近にあった光る亀裂に近づくとその中に逃げ込んでいったのであった。


「ちっ、こりゃまずいぜ」


「分かっている。すぐに連絡を取る」


「まずいことになったな。だが今の俺たちがあの亀裂に入ってもな」


 大和がハーネイトたちに連絡を取り、すぐに公園に向かうと聞いた大和は彼の指示に従い、他に集合できる人たちにも連絡を取った。すると10分ほどして響たちが公園の中央広場に駆け付けた。


「田村先生!」


「おう、響たち!」


「話は聞いたぜ先生。死霊騎士に連れ去られた人がいるって」


「そうだ翼。今ハーネイトたちに連絡を取っていたところだ」


 連絡を聞き駆け付けた、響、彩音、翼、時枝、間城は状況の確認を急いでいた。彼らが到着後すぐに別方面で調査にあたっていたハーネイト達も合流し田村たちに確認を取る。


「今到着した。連れ去られた人は2人か?」


「もう1人、若い女性が連れ去られている。同じ大学に通う女子大生だ」


「けっ、奴ら手段を更に選ばなくなってきたか」


 死霊騎士に連れ去られた3人を追い、死霊騎士を倒すためハーネイトは、騎士が切り開いた亀裂の中に入り追跡することにきめた。


「亜里沙、九龍と五丈厳、天糸、リリーとボルナレロは別任務についてもらっている以上呼べない。今いる人たちだけで中に入るぞ」


「てことは、俺と彩音、翼、時枝と間城、あとは……田村さん、音峰さん、大和さんもついてきてください。あとリシェルたちは警備ミッションの方に回しているから増援は来ないと思って」


「話は聞いたぞハーネイトよ。すまん、遅くなった」


 Cデパイサーの通信を見た文治郎が音もなくハーネイト達の前に現れ、力を貸すという。既に具現霊ハンゾウを背後に召喚しいつでも行けることをハーネイトに告げた。


「文治郎さん、それに」


「私も来たわ。皆さんこんばんは」


「星奈もきたのか」


「暇だから来ただけ。さあ、急がないと手遅れになるのでは?」


 たまたま近くを訪れていた星奈も訪れ、力を貸すという。ハーネイトは彼女の顔を見て少し困惑したが、人手がいることからすぐに参加してもらうように指示した。


「今回はAミッションではない。探索ミッションに当たるが敵の妨害が多いだろう。各員持てるだけの力を振るい敵を撃退し、3人を救出するんだ。私がナビゲーターと支援攻撃を行う」


「先生、途中で例の汚染領域があった場合は?」


「その場合は作戦変更だ。敵は容易にそういう空間を作り出せるかもしれない。その想定は必要だ」


 不測の事態にいつでも対応できるようにハーネイトはそう言い、全員に作戦概要を手短に説明した。


「了解です先生」


「さあ、探しに行こう間城」


「ええ、時枝君。私はサーチに専念するわ。何かあったらすぐに伝達するからね」


「頼むぞ間城」


 そうして、集まった全員で亀裂に近づくと異界空間に飛ばされる。ハーネイトはすぐに周辺を確認するが、通常の異界通路と繋がっており、その先に逃げたと判断した彼は追撃命令を出す。


 すると行く手を阻むかのように魂食獣が複数体出現し、彼らに一斉にに襲い掛かるのであった。


「全員で蹴散らすんだ!」


「邪魔だ、化け物が!忍術・五月雨手裏剣!」


「あの時のと似ているわね、遠慮なくぶっ飛ばしていいのね」


「勿論だ間城。ここまで変異が進んでいては、私でも治せるか……」


 ハーネイトは迎撃せよと指示し、各員具現霊を背後に召喚しカウンターを決めていく。既に中型サイズの魂食獣も具現霊(レヴェネイト)を行使し鍛錬している人たちには脅威ではない。


「完全に別生物だなこれは」


「結構数が多いな。行くぞミチザネ!雷落」


「まとめて蹴散らすまでだぜ!プロミネンスボレー!」


「閃空斬で仕留める、言乃葉!」


 以前よりも力が上がった若き霊量士たちの奮闘は、ハーネイトを驚かせるほどのレベルとなっていた。時枝とミチザネは的確に電撃を敵の頭上に落とし、翼と響は連携しあい息の合う動きで敵を翻弄していく。


 成長の速さに驚きつつハーネイトも、行く手を塞ぐ獣たちを一閃の下まとめて切り捨てる。更に湧いてくる増援のタイミングを既に読み、次元亀裂からMFイタカの腕を召喚し着地狩りのごとく吹き飛ばす。


「させるか、MFカウンターコメットブロー!」


「グギャギャアア!」


「サンキュー兄貴!」


「全軍前へ進め!」


 ハーネイトが道を開き全員が先に進むと、そこには連れ去られた3人が倒れていたのであった。


「先生、3人を見つけましたが」


「だが様子がおかしい。もしかすると例の……あれか」


「幻霊暴走か」


「っ!全員構えろ!こうなったら応戦し、3人の動きを止めるんだ」


 正気を失った3人がふらふらと立ち上がりこちらに向かって走ってくる。暴走したそれを抑えるためにハーネイトは全員に指示を出し、その勢いを受け止めるため田村、大和、翼が盾となる。


「っ!宗像さん!聞こえますか!」


「苦しい……!ウガアアァ!」


「まるで別人だ、それに」


 田村は同じ学校で働く宗像の変貌ぶりに驚きつつも、鍛え抜かれた体でしっかり抑え込む。幸い宗像の体力がそこまでなかったためどうにかその場で抑えることができた。


「瞬麗!聞こえるか!」


「頭が、痛い……!」


 大和は瞬麗の腕を掴み、どうにか動きを止めるも彼女の苦しそうな顔を見て早く対処せねばと思っていた。


「オッサン!落ち着けや!」


「壊す壊す壊す!!!」


「手が付けられねえなこれ。とりあえず眠ってくれや!」


 紺色のスーツを着た20代後半の男が、目の色を変えて暴れまわっていた。それはまるで、全身の痛みにもだえ苦しむようであり、一刻も早く治さなければならないと翼は判断し、気絶させればいいという指示に従いロナウと共に蹴りを淹れようとする。


 しかし、男は片腕だけで翼の強烈な蹴りを受け止めたのであった。


「なっ、俺とロナウの攻撃を受け止めるだと!ってうわわわ!」


「翼!このっ、早く落ち着け!」


 男は腕を振り払い翼を大きく吹き飛ばす。それを見た響が言乃葉と共に間合いを詰めるが彩音は、響を狙う何かに気づいて声をかけた。


「危ない響!」


「なっ、どこから斬撃が」


 次の瞬間、首元をかすめる何かが響を襲い、一旦間合いを取る。すると男の背後に、どう見ても死神にしか見えない鎌を持った霊が現れていた。


 その霊は素早く2人に襲い掛かろうとした。その時幻霊の動きが止まる。そう、ハーネイトがMFイタカの腕を亀裂から召喚しその手で捕らえたのであった。


「そこか!」


「先生!」


「この男の幻霊は捕らえた。今のうちに眠らせるのだ君たち。霊量超常現象・仙呪解念(せんじゅかいねん)を使うんだ彩音!私は田村さんに襲い掛かる老人にそれを使う。時枝はあの女性に撃つんだ」


「了解だ先生」


「任せてください!」


 ハーネイトが彩音と時枝に指示をし、自身もCデパイサーに命令を与える。すると3人のCデパイサーから強力な波動がそれぞれ放たれ、幻霊に支配されていた3人に直撃する。すると彼らはその場に崩れ落ち、安らかな眠りに入ったのであった。

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