第135話 中国から来た留学生・瞬麗
新たな魔法と霊量術の境地を目の当たりにしたハーネイトが、新たな研究テーマとして研究しはじめたその日の夜のことであった。
学園で働く田村は学校での業務を終え、ホテル・ザ・ハルバナに向かおうとしていた。すると音峰がジョギングしながらホテルに向かうのを見て思わず声をかけた。
「練習に精を出しているな」
「田村先生ですか、お疲れ様です」
「いやいや、しかしまあ、俺たちも早く力を身に着けたいものだ」
2人は近くの公園に行き、ベンチに座りながら話をしていた。田村は買っていたコーヒー缶を一本音峰に渡しアメフトの試合や大会についてどんな調子だと尋ねた。
「ふう、大会も近いのでね。いつも以上に練習しているわけだ。調子はいい。力を得てからか、全体的に身体能力が上がっている」
「それは分かる。しかしまあ、それでいて修行の方もしているとは驚いたな」
「俺より下の子供たちが戦っているのに、俺は何をしているんだってな。正直、渡野に先を越されて焦ってもいるのだが」
「そうだな……気持ちはすごく分かる。っ!いつの間にいたんだ大和さん」
ベンチで話している2人の背後にいつの間にか立っていた大和は声をかけた。
「すまんな、驚かせてよ」
「びっくりしたぞ全く。で、各地の調査の方はどうなってんですかい」
「良く、ないと言った方がいい。と言うか日本各地どころかアメリカやロシア、ドイツなどでも魂食獣などによる事件がやっぱり起きてやがる。コネはそこそこあるからな、探ってみたらほら。それと血徒という連中が原因かもしれない事件もうじゃうじゃ見つかってる」
「良くまとめましたな」
「こういうのも仕事なんでね。早く事件を解決するには、ハーネイトに力を貸すのが一番だからな」
一体彼がどうしてここにいるのかを3人は話しながら、大和も仕事の後にジムに行ってから帰るついでに街中の見回りをしていたという。そうしているうちに2人を見つけ、近づいたという事情を話した。
大和は各地の怪事件に関する情報を集めてくるようにとハーネイトに指示されており、それを渡してきたという。
それを聞いた後音峰は今日はハーネイトを見かけなかったため大和に尋ねる。
「あいつらは先日の事件に関してまだ何か手掛かりがないか、隣町で調査中だがさっきこの資料渡してきた。入れ違いか何かだろう」
「例の薬の事件か、恐ろしい敵を相手にしているのだな全く」
「化け物が相手だからな、全く」
「薬の内容自体も危険すぎる。幸い中毒者は全員ハーネイトさんが治療し血徒化も防いで見せたというからそこは安心だが」
「流石ハーネイト。これなら、BW事件がまた起きたとしても今度は被害を抑えられそうだな」
他にも薬の影響を受けている人がいないか、もう一度確かめるためハーネイトと伯爵、ミロクたちは隣町での調査に勤しんでいた。たまたま出かける前に大和はハーネイトたちとホテルで会ったため話を聞いていたが、急いでいたようで他の人にまで連絡が来ていなかったようであった。
話をしながら魔薬を服用した患者たちの治療も既に終わり、それについては安心だと彼らは話していた中、彼らの背後に誰かが近づいていたのであった。
「ねえねえ、おじさんたち何の話をしているの?」
「ううわぁあ!」
すると大和の更に背後からいきなり可愛らしい20代前半に見える女性が声をかけてきた。大和は思わず飛び上がりベンチを飛び越えてから振り返ると、にこっとした顔で3人を見ながら笑っていた。
話し方から所々まだ日本語に慣れていないようで、すぐに3人は日本にやってきた中華国の人間であることを理解した。
「気配もなかったな、何者だ」
「ん、これはうちの学園の物だ。だが大学部とは」
音峰は彼女の胸についていたピンを見て、同じ春花九条学園大学部に所属する者であることも把握した。しかし自身は体育コースで、このような女性は見ていないと大和と田村に話をした。
「いや、俺は知らないな。別学部の人だろう」
「そーね、貴方私のところにいない。私、李 瞬麗。2年前に中華国からここに来たね」
彼女は素早く大和たちの前に現れると元気よく自己紹介をした。
「留学生か、全く。あまり変に首を突っ込むとろくなことがないぞ」
「私、恋人を殺した犯人、捜してここにきた。仇、取りたいネ……」
「何?そりゃ穏やかではないな」
「うぅ、私、犯人を許せない!この目で、見たんだから!」
彼女の話を聞いた3人は驚く。すると瞬麗はいきなり目に涙を浮かべながら、故郷である中国で起きた悲しい事件について話しだしたのであった。
この瞬麗という女性は、元々地方でサーカス団を営む一族の娘であり、同じ団員の男性と恋仲であったという。しかしその幸せな生活は1年ほどである存在に引き裂かれてしまったのであった。
それを聞いた大和は、その正体が魂食獣だということがすぐに分かった。
「リョウ……私の目の前で、お化けに食い殺された……話、しているのを聞いてもしかしてって、思って声をかけたの」
「ああ、魂食獣だな」
「しかし死霊騎士と関係あるのか?場所は中国だぞ」
「ハーネイトから話は聞いた。死霊騎士とソロンの影響で、本来の役目を果たせなくなっている化け物たちだ。最も、死霊騎士の手下であり、あの同盟が利用しているんだろうが」
大和がハーネイトから聞いた話を聞いた音峰と田村は、確かにそれなら他の地域でも同様の事件が起きるかもしれないと思いつつ、それでも何のためにこのようなひどいことをしているのか理解ができず、そこまでしてあれを呼び覚ましたいのかと思いながら、自分たちから大切な者を奪った存在を許すことは到底できなかった。
魂を運ぶ役目である魂食獣。それを指揮する霊騎士が洗脳と気運汚染で魔界人にいいように扱われている現状を解決しないと被害を止めることはできない。それを理解しつつ話を進めていた。
「皆さん、アノ化け物、正体分かるのね。ねえ、どうすればあれ倒せる?」
「どうするって、これ教えちゃまずいよな」
「ハーネイトに一度掛け合ってみないといけないな」
「あれが見えるなら、素質があるのだろう。戦力は欲しいところだが」
大和たちは一旦話を持ち帰ってハーネイトに彼女のことを紹介しようを考えた。そんな中瞬麗は夜空を見上げ、雲1つない星空を見つめながら、少し涙を流していた。
自分をかばって命を落とした、彼氏のことを今まで忘れたことは一度もない。そう、今見ている星たちがどんどん減ってきているのを実感した頃に、事件は起きた。この時期なら見えるはずの星が見えない、彼女はそれを空を見ながら実感するたびに、悔しさがこみあげてくるのを感じていた。
「リョウ……あなたも、星を見るのが好きだったね。幾つもの星の輝き、消えて見えなくなるのに気づいていたよね」
「お嬢さんもそれに気づいているのか。俺らもなのだ」
「そうなの、そう、なんだね。みんな、なんでその話をしないのかな」
「それどころじゃないから、かもな。BW事件以降、混乱は未だ収まっているとは言い難い。関心を逸らそうと、誰かが考えているのかもしれんがな」
瞬麗の顔を見ながら、口に出した彼女の言葉に反応する田村と音峰はそれぞれそう言い、今起きている天体の異変を指摘する者のあまりにも少なさに不信感を抱いていた。そうして話をしていたその矢先、事件は起きたのであった。
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