第134話 その名は進変幻融(アヴァンセソルセルリード)
第一次大規模作戦の翌日、響たちは異界空間内の探索ミッションをハーネイトから任され依頼を受けていた。
目標の亀裂の前で待ち合わせをしていた響、彩音、翼だがあと1人来るのを待っていた。
場所は人気のあまりない郊外の住宅街であり、秘かに彼らは話をしていた。
「今日は探索、つまりTミッションか。新しい亀裂の中を探索し、資源の回収をしてきてと」
「先生たちは何するのかしら。まあTミッションならナビゲーターは特にいらないけど」
「昨日ボルナレロさんたちがつけた発信機をもとに、敵の拠点を割り出しているらしいとな」
「あの広大な空間の中を?すごいよな」
ハーネイトも大概だが、その仲間たちも十分に人外レベルな働きをしている。
特にボルナレロはCデパイサーの開発に関わるほどであり、彼の下で作戦に参加していた時枝と間城曰く、あの手際の良さは安心感があると言わせるほどで、3人とも普段のどこかさえないボルナレロと違う一面を聞いて驚いていた。
「でもあの中、時間の流れ本当に遅いよね」
「先日のだって40分かかっている程度ってあれか?実感は数時間いた感じなのにな」
「でもありがてえよ。それでいて色々サービスとかもあるし、力に目覚めてよかったって感じだぜ」
「俺は複雑だがな……だけど、よりみんなとの結束が強まって、あんな奴らを倒せるって感じて、少しは誇りに思える」
異界亀裂の内部では時間の進みがほかに比べて遅く、昨日の作戦もそこまで時間がかかっていなかった。それについて彩音が言及し、翼は他にもいろいろ恩恵があるハーネイトの下で働くことについて、事件の影響で力に目覚めたことに感謝する。
そんな中響は複雑だと言いながらも、こうしてみんなで一緒にいられるのは嬉しいと胸の内を明かしたのであった。
「にしても文香はおせえな。何してんだか」
「ごめーん皆!パピーが勉強しろって言ってしてたら遅れてしまったの!」
3人がそうして話していると、制服姿の文香が急いで3人のもとに走ってきた。
どうも文治郎に怒られていやいや勉強をしていたようであり、あどけない表情を見せながらも3人に対し遅れたことを謝罪する。
「あ、ああ……この子本当に天然と言うか」
「もう、行くなら時間は気を付けてよね」
「次からもうしないから彩音っち」
彩音は文香にそう注意し、響がリーダーとなって目標となる亀裂の中に飛び込むぞと指示を出し、先生に向けて作戦を開始することをCデパイサーで送信する。
「じゃあ亀裂ん中に飛び込むぞ。事前偵察で宝の山だってことはわかっているけど、魂食獣の通り道だったり異世界の生き物が紛れているらしい」
「すごく気になるな、早くいこうよ」
「早く済ませようぜ。兄貴たちも別で研究と仕事があれだしな」
そうして4人は異界亀裂に近づくと、それに吸い込まれ内部に侵入しTミッションを開始したのであった。内部は至って普通の異界空間であったが、足を進めると霊量子の塊をいくつも見つけた。
「これは、あの霊量片の塊か?こんなにあるのかよ」
「他の人たちもチーム組んでいるみたいだけど、ここが1番って兄貴言ってたもん。だから私の出番ね!」
「そうか、文香のは4人もいるからどんどん運べるわけか」
「確かに作業するうえで手数は大切だしな。にしてもペース早いな」
「この箱自体もかなりすごいけどね。先生のあの部屋に転送できるのよね」
「何でも便利な道具を作るあたり、流石先生だな」
文香は自身の具現霊を呼び出すと、手際よく落ちている霊量子の塊こと霊量石を連携して運び出し、ハーネイトに事前に渡された転送装置にどんどんそれを放り込んでいく。
「これは黄色の宝石?確かハーネイト兄貴は霊量子の最大貯蓄数に影響って言ってたな響」
「ああ、んでこっちはペンダントと、耳飾りが何故か一緒に落ちていた」
「綺麗だわ、これお姫様がつけていそうね。高貴な感じがするわね」
「兄貴のところに持っていこうよ」
「そうね、いい装備だといいけれど」
4人はその後もこうして探索を続け、宝魔石や装飾品などの回収に勤しんでいた。この装飾品に関してだが、プロテクシオン・マージライザー、略してPMにデータ化して反映させると肉体能力が向上する逸品であるという。
なぜそのようなものがこういった空間などに落ちているのか、それは魔界で起きたある大戦争と関係があるという。それにより様々な宝が紛失し、あちこちに散らばっていったという。
実はハーネイト、この装備品などの宝について個別にある人物に回収依頼を任されており、それを響たちに手伝ってもらっているという事情がある。
各自拾得物を確認していたその時、突然響の背後に気配もなく巨大な獣が現れ、前足の鋭い爪で切り裂こうと攻撃してきたのであった。
「あぶねえ響!」
「うぉおっ!」
それを寸前のとこでかわし後ずさる響。殺気にあふれるその獣は、魔獣アグゼザリスという。鋭い眼光が4人を見つめ、いつ追撃が来るか分からない緊迫した状況であった。
「いきなり現れたわね。これは、魂食獣じゃないわ」
「これ熊?結構大きい!」
「みんな!あの熊をくぎ付けにして!」
「承知!」
「行くぞ!」
「な、なんて怒涛の連撃なんだ」
彩音は冷静に分析し、目の前の敵が魂食獣でないことをすぐに見切る。それを見た文香が、CPFで拘束するために3人に時間を少し稼いでほしいと伝え、それを了承した3人は具現霊と霊媒刀を武器にアグゼザリスに対し攻撃を仕掛ける。
だが凄まじい爪の猛攻撃がカウンター気味に襲い掛かり、思わず3人は防御を選択せざるを得なかった。
「させないわ!音波障壁!」
「行くぜ言乃葉!言呪・甲!」
「ぶっ飛ばすぜロナウ!メテオライトバレット!」
彩音と響はそれぞれ防御を固め盾となり、それを利用し翼は高く空へ飛ぶと、無数の光弾をアグゼザリスめがけて蹴りまくり空爆する。だがそれでも猛攻は止まらない。怒りに身をゆだね魔獣の一撃一撃はさらに力を増す。
「一撃が重たいぞこいつ!霊量超常現象を一気に頼む!」
「チャージ完了!バーストモード行っちゃうから!円気縛、鎖天牢座、天麗裁閃!同時発動!!!って、あれ、あれれれ?Cデパイサーがバグっちゃった!?」
「だ、大丈夫なの天糸さん?」
「う、うわあああああああっ!!!」
文香は手早く連続でCPFを装填し、発動しようと左腕を突き出す。するとCデパイサーの画面が赤く光りだし、周囲を閃光に包む。その後すぐに放たれたCPF三連撃は、予想していたものと違う結果となった。
アグゼザリスの頭上に円気縛の光輪が発生すると、その淵に沿って鎖天牢座がカーテンの如く包み込み動きを拘束。それとほぼ同じタイミングで、光の奔流が天より地に放たれ、拘束されていたそれを一瞬で蒸発させたのであった。
「な、何が起きたんだ?」
「円気縛は普通に行けたみたい、だけど後の挙動が違うわ。まるで現象が融合……兄貴が言うなら魔法の融合?」
文香は、円気縛以降の挙動が資料で呼んだものと違うことを指摘し、それはまるで魔法の融合というべきものではないかと感じていた。
「初めてみたな。でもこれやばいんじゃないのか?本来と違う効果が起きるんだったら、迂闊に使うとここぞという時で……」
「とにかく、兄貴に一連のこと報告しよ?」
4人はすぐに起きたことをメモし、響がうまく撮った写真もメールに添付しハーネイトに送る。するとすぐに返信が来て、事務所に来るように指示を受けた。
「ああ、こりゃ一大事じゃねえの?」
「まずは必要なものを回収しましょう?」
「そうだな、急ぐぞみんな」
一応無事にTミッションを完遂し、亀裂の外に出ると一目散にホテルの屋上までポータルを利用し移動し、専用エレベーターで一気に地下事務室まで向かう。ドアを開けるとすでにハーネイトがおり、4人に声をかけた。
「お疲れ様、4人とも。……こちらのCデパイサーでも感知したが、詳しい状況を教えてくれるか?」
「はい、兄貴。あれは私が霊量超常現象のバーストモードで、3つに魔法を同時打ちしようとしたら画面がおかしくなって……」
「円気縛は普通に発動しました。ですが鎖天牢座と天麗裁閃が……」
「……もしかすると、いや、まだ確定はできん。この目できちんと見なければ」
ハーネイトは詳しく話を聞いた上で、ありえないというかどうしてそうなったと言わんばかりに不可解だという表情を見せていた。文香たちはお茶を飲みながら文香が使用した超常現象の話をする。
そこに訪れたのはジェニファーであった。和菓子店でどら焼きや大福などを買い、ハーネイトに差し入れしようと事務所を訪れたという。
「先生、この前は参加できなくて……ってあれどうしたの?」
「ジェニファーちゃんこんばんわ、今ちょっと取り込んでるの」
「君も来てくれ、少し実験に付き合ってもらいたい」
「それはいいのですが、何があったのですかハーネイトさん」
ハーネイトはジェニファーに、ソファーに腰かけるように言うと先ほど起きた一連の出来事に関して最初から説明する。
「先ほど響たちに探索ミッションを行かせていたのだが、奇妙な現象が発生したのでね。もし自身の思うのと一致するならば、大変な事態かもしれない」
「だから再現実験をするのよジェニファーちゃん」
「そう、なのですね。……でも奇妙な現象って」
ジェニファーは、一体何が起きたのか興味津々で聞いていた。一体何があったのか気になり、もったいぶらずに話してほしいとハーネイトらに言うと、CPFについての説明を彼女に行う。
「霊量超常現象、あれ分かるよな?」
「ええ、デパートの屋上で助けてもらった時、ハーネイトさんが使ったあれよね」
「あれが1つの別の大魔法になったっぽいと」
その後ハーネイトを含め6名は修練の部屋に向かい、その中で一連の動きを再現するようにハーネイトは文香に指示を出す。
「天糸、ここでその当時の動きを再現してくれ」
「了解っす兄貴!」
文香は再度、CデパイサーでCPFを3連装填し、全く同じ順番でそれを一斉掃射したのであった。するとやはり、結果は本来起こるべき結果と違うものとなっていた。
「……やはりか、これはあの禁術とほぼ同義だ。しかしこちらも把握できていない」
「先生、何かわかりましたか?」
「ああ、霊量超常現象は予想以上に危険な術なのかもしれない。シングル使用はともかく、バーストモードは迂闊には使えないかもしれない。だがこちらが生み出した装置とシステムだ、制御プログラムを作れば封印はできるかもしれない」
霊量子で組んだ術式がまずかったのか、それとも未知の力を引き出してしまったのかはまだ分からないが、あまりこのような事態が続くなら一時的に使用を制限した方がいいとハーネイトは考えていた。
だが自身らの作り出したものによるものなら、制御法は絶対にあると確信し、その新たな現象というか禁術同然ともいえる恐ろしい先ほどの融合魔術も戦術にうまく組み込むだけだと意気込んでいた。
「しかしよう兄貴、あんなにでかい化け物を一瞬で蒸発させたんだぜ」
「だから困るのだ」
「威力が強すぎて、ですか?」
「うまく組み合わせが分かればかなり有利になる、そういうことだ。新たな研究のテーマができてしまった。ついでにロイに小言言われるネタもね」
ハーネイトは呆れた様子とジェスチャーを見せ、ロイ首領にまたいろいろ小言を言われるのが一番面倒であると話し、場を笑いに包ませた。
「こちらも組み合わせなどには細心の注意を払います先生」
「そうしておいてくれ彩音。後で全員にメールを送っておく。あと新たなRGEの宝魔石ピースも添付しておくので各自使ってほしい」
こうして当面、霊量超常現象のバーストモードの使用は制限するという形になり、響らは各自好きなことをしていたのであった。
後にこの現象はハーネイトの住む世界においてあまりのハイリスクハイリターンと失敗時の影響から禁術として扱われていた、属性融合と言う超魔法を容易に起こすものであることが分かり、魔法同士の融合、そして前進した新たな境地の魔法術法として、進変幻融(アヴァンセソルセルリード)と名付けられた。
この進変幻融は、その後の戦いにおいて彼らを優位に導く一因となったのだがまだハーネイトですら、その未知の力に関して入り口に入ったに過ぎなかったのであった。
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