第130話 備蓄拠点破壊作戦・伯爵チーム2
「ぐっ、思ったより、やりなさるな」
「大丈夫か九龍?」
「どうにかね、ありがとうな」
「お互いさま、だろ九龍。助かったぜユミロさんよ!」
「この程度、大したことない」
少し逃げ遅れた九龍を五丈厳とユミロが盾となり守り、2人は人影を見ながらそれぞれ武器を正面に構える。
「イヒヒヒヒ、このアイテムはいいぞこれ」
「なっ、あの野郎デモライズカードを!」
「ほう、知っておる奴に出くわすとはのう」
ようやく姿が見えてきた瞬間、伯爵とヴラディミール、ユミロは表情を険しいものにした。
そう、その人影の正体は魔界に住む魔人であり、手にしていた物こそかつて悲惨な事件を起こした禁断のアイテムであった。
問題は、そのアイテム自体は既に作られなくなっており、すべて消滅させたものと思っていたからである。
「フン、わしらの住む世界で生み出された悪魔のアイテムを、何故」
「ヒヒヒ、偶然拾って、わしらが解析しただけじゃ」
「つーかじじい、おめえなんだよ、早く答えろや!」
背中に4枚の小さな羽が生えた、細長身の体といかにも博士のような雰囲気を漂わせる不気味な笑みを見せる魔物の男は余裕をもって伯爵たちと話をする。
彼は手にしていた一枚のカードについてどう手に入れたのか説明し、五丈厳がいら立ちを隠さずに質問をしたのであった。
「若い者は血気盛んじゃなあ。わしは魔界同盟第7位に身を置くゼシルバルフじゃ。お前ら、わしらの崇高なる計画を邪魔するなら容赦せんぞ!」
「全員間合いを大きく取れ!何をしでかすか分かんねえ!」
「まとめて消し飛ばしてくれるわ」
そういい、ゼシルバルフは懐からあるカードを素早く体に貼り付けた。すると見る見るうちに体が変化していき、背中に映えていた羽根が巨大化し、顔がドラゴンの様になり巨大な足を地につけた翼竜と化したのであった。
「させっかよ!スサノオ、あれやるぜ」
「ああ勝也!」
五丈厳はすかさずスサノオと一緒に飛び上がり、ゼシルバルフの脳天にスサノオの強烈な一撃を浴びせるもひるまず、足を振るい衝撃波を放つ。
「邪魔じゃ、フハハハ!力がみなぎるぞ」
「たわけが、それを使って、只で済むわけないぞ」
「そうだぜオッサン!そいつは使用者を滅ぼす危険なアイテムだ。爆発しても知らんがな」
「よくわからんが、やめといたほうがいいんじゃないか?」
ドラゴンの姿になりけたたましく叫びつつ笑うが、ヴラディミールと伯爵は彼の使用したアイテムの危険性について説く。それについての恐ろしさを肌で感じ取った韋車も指摘する。
それを聞いたゼシルバルフの目は丸くなり、慌てて龍の脚で張り付いたカードをはぎ取ろうとするが、既にカードが体内に取り込まれその方法による解除が不能な状態であった。
「な、そんな話は、っ!これ張り付いたら外れないぞ、というか……体が、ぐふぅう!」
「よりによって融合型かい!あーあ、オッサン、もう助からねえ」
「すごく危険なのは分かった、だけど今のこいつをどうやって止めればいいんだよ」
「弱気になるな、鮮那美」
「親父……ああ、そうだな!俺らしくねえ!」
すると覚悟を決めた九龍がマスラオと共に強烈な体当たりをぶちかまし、しっぽを掴むとその場でジャイアントスイングを繰り出し倉庫のあるエリアに投げ飛ばした。
「いっきにぶっこむぜ!」
「レイオダス、あれ行くぜ!マグナ・エキゾーストバーン!!!」
「俺が手前の心叩きなおしてやらぁ!スサノオ、行くぜ!」
「全く、もう少し息を合わせるんじゃぞ。軍大剣・機鬼解壊(ききかいかい)!」
韋車、五丈厳、ヴラディミールも九龍に続きそれぞれ強烈な戦技を繰り出す。その怒涛の連撃にゼシルバルフの体力をごっそり削り、変身の維持がほとんどできないほどにまで追い込むことができた。
「このわしが、こんなところでぇえええええええ!!グガアアアアッ!」
「爆発するぞ、全員急いで撤退するんだ!」
「分かった、お前ら、俺についてこい!斧旋槍・ユグレビリス!!!」
するとゼシルバルフの体が急に光だし、幾つもの光が放たれ今にも光の爆発を起こそうとしていた。
それに一早く気付いたユミロは自身の手に持つ武器、ユグレビリスの先端部分を展開、巨大な盾を回転させながら爆発の衝撃を受け止め防ぎつつ、安全圏まで九龍らを逃し、シールダーとしての責務を果たしたのであった。
「ぐっ、どうにか、なったなあ」
「どれだけ危険なアイテムなんだあれは」
「おっかねえなあまったく。だが、向こうさんも危険性を認識しているようには見えねえなあ」
ユミロは爆発の衝撃を受け少しダメージを負い、その場に座り込んだ。九龍は目の前の爆発が信じられず目を丸くしたままであり、韋車は思っていたことについて口を出す。
「これで、この辺りの制圧は終わりか」
「異界化装置も爆発で吹き飛んじまったな」
「まあ、終わったんだろ伯爵の大将さんよ」
「そうだがな韋車。だが、カードの件は報告を早くしねえとな」
幸いと言うか、ゼシルバルフが変身し爆発した影響で異界化現象は徐々に解除されていった。異界化装置も爆発により消滅したからであった。
韋車はとりあえず終わったとホッとしたが、伯爵はいつになくピリピリした雰囲気を漂わせながらそう言う。
あれはまずい、もしこの異界空間以外で使用された場合甚大な被害が容易に想像できるからである。
「あのカードって、本当に何なんだよ伯爵ニキ」
「俺、話そう。目の前で、無残な死に方をした元仲間を見てきた」
「……!」
ユミロは九龍たちの方を見て、伯爵の代わりにある話をした。
それはもともと仲は良くなかったものの顔見知りで、同じ組織に属していた悪人だったがカードの効果を知らされず使い、悲惨な末路を辿ったことについての話であった。
それを見て、仲間を平気でゴミのように扱うDGに対し限界だと思い、彼がハーネイトの軍門に下るきっかけにもなった事件であった。
「そんなことがあったんかよ。変身させるだけさせて、ダメになった爆弾にするとか怖え……」
「ケッ、誰がそんな悪趣味なものを」
「作った本人も、その力で侵略してくる化け物を倒したかったという復讐に駆られた奴だった。それほどに、あの男は力を求めていた」
「まだ出回ってんなら、回収とか破壊した方がいいよな、伯爵の兄貴」
カードができた経緯について知っていることを、伯爵とヴラディミールは可能な限り話した。
デモライズカードを作った本人もまた、復讐に駆られ力に溺れた者の1人であることを聞いた九龍たちは、どこか複雑な気持ちを抱いていた。
自身らも弔い合戦の様なものであり、そういうふうに力に溺れたくないと一同全員そう思っていたのであった。
「そうだな。でねえと魂食獣以上の被害も出かねん。出所を探すほかねえ。場合によってはDGの残党がいるかもしれん」
「考えたくない話じゃがのう。そもそもあの時に創始者も死んでおるしな」
「でも、全くないと考えるのは、危ない。この先も、用心して作戦に臨まなければ。クロック男爵の生死が不明な以上、何かあるかもしれん」
「ああ、ユミロの言うとおりだぜ。DG残党ねえ。相棒に一応言っておこう。さあ、外に出ようや」
こうして、伯爵率いるチームは任務を完遂し亀裂の外に出たのであった。ただ、伯爵だけは爆発して霧散したゼシルバルフの方を見て、あの時確かに血徒刻印を確認したことについて警戒の色を強めていたのであった。
今回は伯爵がいたからよかったものの、味方である微生界人がいない場合、現状では戦闘面で制限がかかるため、ヴラディミールとユミロはその点について再度意見を出し合い改善策を探そうと話していたのであった。
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