第128話 備蓄拠点破壊作戦・ハーネイトチーム2
「現在結界石残り5基!だがあれはなんだ。今まで昆虫型は見たことがない」
「………ィ!」
「なっ!バッタだけにすげえ跳びやがる」
「よけろ亜蘭!」
ハーネイトは瞬時に巨大バッタの移動距離と角度から着地地点を割り出し、その場にいる亜蘭に回避命令を出す。
それに気づき素早く移動した亜蘭は一撃を免れ、土煙を上げながらその場を周るバッタに対しソロ・セラードの技、怒号のマズルカによる射撃攻撃を敢行する。
「っ!なんて破壊力だ!それに堅てえな、先ほどの敵とは明らかに強度が違う」
「やらせないわ、ゲンナイ、あれを!」
「ええ、超戯画・影刀絵(かげとうえ)」
「…!!」
すると初音の背後にいたゲンナイが筆で何かを描く。するとそれは勢いよくバッタの方に跳んでいく。その飛翔体は絵で書いた刀であり、実体化しバッタに数本突き刺さるが蚊に刺されたかのような感じで有効打になっていなかった。
それは、このバッタが霊量子の密度を上げて構築された、霊殻虫という霊界の怪物であったのが理由である。魂食獣よりも気性が荒く、全てを喰らいつくすそれは新たな脅威となって襲い掛かる。
「硬いわね……」
「姉さん、私がやってみるわ」
それを見かねた彩音が、弁天と共に突撃を仕掛け吹き飛ばそうと回り込む。だが初音と響は直感でそれが悪手だと理解し制止しようとする。
「彩音!近づきすぎよ!」
「後ろは危険だ彩音!」
初音と響がそう言うも、バッタ型の魂食獣はその凶悪な後ろ足を蹴りだし彩音を蹴り飛ばそうとした。
そこで響が言乃葉の持つ刀を飛ばし、Cデパイサーに霊量超常現象の予約詠唱を素早く入力した。
だがその前に、敵の攻撃が中断された。そこには異常に先端が鋭いつららのようなものが無数にバッタの後ろ脚に刺さっていた。
「なっ!!」
「甘いわ、フフフ。ワダツミ、行くわ……飛氷剣(サスツルギ)!」
「CPF・鎖天牢座(さてんろうざ)!」
それを見てすかさず響は、Cデパイサーを敵の方に突き出しCPFを発動させた。
そう、拘束系CPFの鎖天牢座である。幾多の鎖が天と地より生まれ、がちがちに拘束しながら敵を飲み込み完全拘束したのであった。
「でかしたぞ星奈、響」
「危なかったわ、2人ともごめん!」
「彩音はいつも血が上ると……」
彩音はすぐに謝り、自身の性格を響に指摘されると少し黙っていた。
昔からよく言われていたことがまだ直っていない点に関して、まだまだ未熟だと彼女は思いつつも深呼吸して武器を構えなおした。
「八紋堀、スカーファ、あれを倒せ!」
「ああ、その言葉を待っていた」
「言われなくてもなハーネイト!こやつは、霊殻虫じゃな!」
2人は構えなおし、素早く間合いを詰め霊殻虫の懐に入るなりすかさず攻撃を仕掛けた。
「文斬流・絶対一文字斬りぃ!!!」
「行くぞ、クー・フーリン!魔光剣・クラウソラス!!」
2人の攻撃が直撃するも、霊殻虫は装甲が少し壊れただけでまだ平然としており、口から液体を勢いよく飛ばして投げナイフのごとき威力で攻撃してきた。
それをかわす二人は予想以上の敵の堅さに驚いていた。しかしその程度で狼狽えることなく、2人は果敢に突撃する。
「ふう、なかなか斬りがいのある代物だな」
「ハーネイトよ、こりゃ他にいそうだぞ」
「……貴方たちはともかく、亜蘭と初音はきついだろう。一旦引いて、私と誰かが交代してくれ」
「ナビゲーターを交代?」
八紋堀は他にもいるかもしれないとハーネイトに言い、彼は少し考えある判断を下した。それはメンバーチェンジであった。
「仕方ないだろう、あれを倒すには早すぎる。2人とも一旦引いて。私の技に酔いしれてくれ」
「一旦引くぞ初音」
「し、仕方ないわね亜蘭」
「彩音も一旦下がって頭を冷やしておけ。倒したら一気に石を破壊するから、2人を連れていってくれ」
「り、了解しました先生」
まだ経験の殆どない亜蘭と初音、それに少し頭に血が上った彩音を後方に控えさせ、代わりにすっとハーネイトがテレポートして現れた。
「全く、手間をかけさせてくれる。創金術・剣牢(ブレイドプリズン)」
「ピキィ!!??」
「いまだ、八紋堀、スカーファ!響と星奈はCPFの拘束と弱体系を撃つんだ!」
一瞬の無駄もなくハーネイトは、幾多の剣で霊殻虫の動きを封じる剣の牢獄を形成、それに合わせ指示を下していく。
「若干オーバーキルだが、MF・メテオインパクトナックル!」
「文斬流・大文字斬りぃ!!!」
「ゆくぞ、第2の技!壊地剣・カラドボルグ!」
ハーネイトが次元亀裂からイタカの腕を突き出させ霊殻虫の頭を、さらに続いて八紋堀とスカーファが猛攻を仕掛ける。
「詠唱間に割ったわね、CPF・円気縛(えんきばく)!」
「チャンスは逃さないぜ!CPF・五封方陣(ごふほうじん)」
響と星奈はやや後ろから援護する形でCPFを発動し、完全に霊殻虫の動きを封じることに成功した。
それと同時に3人の攻撃がすべて直撃し、あっという間に霊殻虫は形の維持ができなくなっていたのであった。
「フシュルルル……ッ」
「やったぜ!」
「面倒な敵ですこと」
「全くだ2人とも。普通ナビゲーターの交代なんてないからね?目標は、あれくらいは1人で軽々と倒せるようにはなってほしいところだ。まあそれはそれとて、作戦続行だ皆」
あくまで今のはイレギュラーなあれだ、ハーネイトはそう言わんばかりの雰囲気を出しつつ、皆にもっと強くなるようにと言ってからナビゲーターの役割に戻った。
「本当に、先生って戦っているとき……かっこいいなあ」
「彩音、大丈夫?」
「え、ええ姉さん。じゃあ、残りの石を全部壊しちゃいましょう」
「そうだな、早く終わらせて出ようぜ彩音」
うっとりしている彩音に声をかけた初音は、少し心配そうに見てから取り直して早く終わらせようという。
「ハハハハ、全く話にならん」
「少しは、私も成長している?そこ、頼んだわワダツミ!氷雪界(アイスエイジ)」
「いいぞ小娘、なかなか腕が立つな」
「失礼ね、全く。あまり戦闘狂な人とは馬が合いませんわ。ハーネイトさん位が丁度いいです」
そんな中星奈とスカーファは2人で残りの結界石を破壊しようと足を進め、邪魔してくる魂食獣たちを具現霊の戦技で消し飛ばしていく。
ただこの2人、あまり仲は良くなさそうでハーネイトは遠目で見てからトラブルにならないかと少しひやひやしていたのであった。
「残りの1つだ!行くぜ言乃葉!散閃斬!」
「ウォオオオォォォ!」
「ナイスだ響!残りは異界化装置だけだ」
そうこうしているうちに師である八紋堀と弟子である響が最後の1つを豪快にぶっ壊し、装置を守る結界を完全に解除することに成功したのであった。
だがその時、装置の背後から不気味な声と影が近づいてくるのを全員は感じ身構える。
すると腰が少し曲がった、異様で不気味な形の杖を片手に持つ小柄な老人が突然現れる。
彼こそがソロンを蘇らせようとする組織の幹部の1人、ドミニアスであった。
「甘いな、ハハハ。少し出遅れたが、魔界復興同盟の活動を邪魔する愚か者には死あるのみ」
「誰だ貴様は!」
「ああ、冥土の土産に教えてやろうかえ。儂の名はドミニアス。同盟の幹部だ」
「お前らが俺たちの世界を滅茶苦茶にしようとしている犯人か!」
響はいつになく喧嘩腰でドミニアスに挑発を仕掛ける。しかし当の本人は終始余裕の表情を見せ、かかってこいと言わんばかりに誘う。
「だとしたらどうするかえ?生存競争に勝った者だけが、権利を手にできるのだよ小僧」
「んだと!」
「響!一旦落ち着いて!」
「そうよ響君。どちらにせよ、倒さないと」
響は思わず挑発に乗ろうとしてしまうが彩音と星奈に制止され一旦深呼吸をした。すると否や、ドミニアスは突然変身し、数十メートルもの巨大なスライムのような化け物になったのであった。
「このわしの変化した姿に、驚愕しながら死ねぃ!」
「っ!これはおぞましい化け物じゃな」
「まるでスライムみたい、物理系は……」
そういいながらドミニアスは無数の液弾を飛ばし攻撃してくる。それを星奈と彩音は前に立ち、具現霊の戦技で防ぐ。
「だったら、これがあるんじゃないの?CPF・雪華氷雨(せっかひょうう)!」
「これが……ほう、ならば使ってみるかな。CPF・唸鳴神(うなりなるがみ)!!!」
「おい2人とも、属性があってないぞ!」
「がはああ、あが、お、おもしろいなああ!」
彩音とスカーファは素早くCデパイサーを操作し、CPFを発動するもハーネイトは属性がいまいちかみ合わないことを指摘する。そのためそこまで有効打にならず、状態異常も発生しなかった。
「攻撃来るぞ!」
「ワダツミ、あれ行くよ!白波飛沫(ホワイトスプラッシュ)!」
「ヌグググ!」
「初音、彩音、横に回り込んで具現霊で攻撃するんだ!八紋堀は響と囮に、スカーファと亜蘭で上から仕掛けろ!」
星奈は大波と白い飛沫をワダツミの力で召喚し、その力でドミニアスを押し流そうとするが、それを飲みまくり吸収する。だがそれは罠であった。
「了解!!!」
「無駄だと言っておろうが!なぬ!?」
「僕たちの連携、侮ってもらっては困る」
「全く、楽しませてくれるな!」
スカーファはクー・フーリンの手にしていた槍を思いっきりぶん投げ、亜蘭はゾロ・セラードに対しもう一丁ピストルを抜いて、怒涛の連射をするように指示を出し一斉射撃を行う。
「ごはっ!」
「行くぞ我が弟子よ!」
「は、はい!言乃葉、疾風斬だ!」
「有無!」
「ハハハ、地に伏せたまえ!文斬流・三斬交差(サザンクロス)」
亜蘭の攻撃で怯むドミニアスに対しさらに攻撃は続き、囮となる八紋堀が文斬流の剣技を華麗に繰り出し、タイミングよく響も言乃葉の持つ巨大刀で怒涛の連撃を浴びせた。
「お、おのれ……!下等種族どもが」
「そんなこと言っているから、勝てないんじゃないの?」
「そうね彩音!さっさと地球から出ていきなさい!」
「小癪なあああっ!」
耐久力のあるスライム体でも、こうも攻撃を喰らうとかなりダメージを負ったのか、ドミニアスはいつの間にか姿を消していたのであった。
「敵の反応消滅を確認!だが逃げられたようだ」
「いいのか?追わなくて」
「追跡装置をつけておいた。こうなったら利用して、敵の本拠地を探すまで」
「抜け目ないな、流石だ我が婿候補は」
「えぇ……何でそうなるのですかねスカーファさん」
「私は、私より強い男以外に興味はない。婿を取るならば、貴様のような鬼神の如き力を持つ者に限る」
ハーネイトは亜蘭たちの質問にそう返し、ボルナレロたちと共に追跡用の装置をつけてアジトを探す算段をつけていると説明した。
問題はそのあと、彼を誉めたスカーファの言葉を聞き本人は少し沈黙してしまったことであった。
「勘弁してくださいよもう……はあ、色恋事など、私は……」
「先生の気が抜けた!?」
「全く、まだ終わりではないでしょうハーネイトさん?」
「あ、ああ。装置を全員で破壊するんだ!」
ハーネイトは慌てて気を取り直し指示を出し、Aチームは少しトラブルはあれど装置の破壊に成功したのであった。
その後隠蔽されていた敵の備蓄倉庫も発見、結晶化した霊量子の欠片を大量に入手することができたのであった。
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