第125話 伯爵の調査報告とボルナレロ参戦


「ああ、すまんな。ハーネイトの部下のヴラディミール・ガンヴァレーノ・ヴェスカトリポカと申す。以後よろしく頼むぞアハハハハ!」


「彼は攻撃も探索も非常に得意というか、できない仕事がほとんどないほどに強い歴戦の戦士です。時間のある時にヴラディミールさん、彼らの鍛錬相手をやってくれますか?」


「いいだろう、お前は相変わらずあの呪いが解けていないようだな。そんな調子じゃ、迂闊に彼らの相手も務まらんだろう」


「そ、そうですね本当に。早くどうにか封印を解除したい」


 ヴラディミールは神妙な顔をしながらそう言い、すぐ近くのソファーに腰かけるとハーネイトが無理をしていることを明かした。


 本来神の子である彼ならば無限に動けるだけの力がある。だがそれが機能していないのは、あの女神という恐ろしい存在に機能を制限されており、栄養を取らなければならない。その辺だけは人間と何ら変わらない状態になっているという理由であった。それを知っている彼はそれも話した。


「私たちにそのこと、詳しくは言ってないわね」


「ルべオラさんと先生のやり取りで初めて知ったわけだが、心配だな」


「全く、ミロクのせがれは心配させるようなことはかなり隠すからのう。お主等もよく付き合うのう」


「私たちは先生に命を助けてもらったので、はい。あの、どうすれば先生を……」


「あいつが安心して眠れるほどに、君たちが強くなればいい。しかし、眠たくなってきたのう。ハーネイト、寝室はあるのか?」


「はい、亜里沙さん。彼を案内してあげてください」


「分かりましたハーネイト様」


 ヴラディミールはハーネイトと出会った頃の話やそのあとの話を響たちにしてから、亜里沙に案内され地下の客室に案内されそこで睡眠をとっていたのであった。


 そんな彼らのやり取りを、秘かに覗く男女がいた。

 

「平和かあ、先生は自分のことを……」


「彼も、彼なりに苦悩を抱えているんだな」


 社員サービスで温泉を利用しようと事務所を訪れていた渡野と音峰は、偶然聞こえたヴラディミールらの話に考えさせられ、何も事件がない日常が一番かけがえのない物だなと再認識させられつつ、自身らがハーネイトと共にいる今の楽しさも好きだと思い複雑な気持ちを抱いていた。


 そんな中2人は部屋を出ようとした彩音たちと出くわし目を合わせた。


「あっ、渡野さんと音峰さん!」


「盗み聞きしていたわけじゃないんだけどね」


「本当は戦うよりも寝ていたい、それでも突き動かす彼の想いとは何なのだろうか」


「まだ分からないわね」


 音峰はハーネイトと出会い、彼の話を聞いてから思っていた、彼の想いと願いについて疑問を口に出したが、間城たちも含め先生であるハーネイトの突き動かす情念が何なのかを推し量れずにいたのであった。


「おいお前ら、早めに処理した方がいい亀裂が……ってうげげげ!」


 そんな中ホテルに戻ってきた伯爵とリリーがエレベーターを降り、事務所に入ろうとしたがヴラディミールの顔を見て伯爵は近寄りたくないと言わんばかりのリアクションを取る。


 ルべオラやあの2人組と同じくらい、目の前にいる老齢の男は彼が苦手なタイプらしい。


「おー伯爵君とリリーではないか。何をしておった」


「ヴラディミールのおじさん、来ていたのですね?」


「うむ、元気にしとるか?リリー殿」


 ヴラディミールは軽快そうにそう言い、リリーは来ていたことに驚く。2人は少し話をし、外で何をしていたのかを話した。


 それは。今問題になっている勢力と違う、伯爵にとって因縁の相手と言える存在についての調査であった。

 

「見回りだっつーの。全く、ついでに血徒の気配がしたから調査しとったんやがな」


「なに?あの吸血鬼か?」


「ゾンビ吸血鬼だがなおっさん。しかし相棒はどこだ?」


「ここにいるぞ伯爵。全く、誰かさんが鍛錬用の装置を壊さなければ……」


「全く、おい相棒!敵の備蓄基地らしき場所を見つけて来たぜ!霊量子たんまりあるで!」


 少し湯気が出ている彼の髪を見ながら伯爵は、調査の結果について各場所ごとに詳細に話をしはじめたのであった。


「でかしたな伯爵」


「場所は商店街の一角と国道沿いの古い建物だ。それ以外のはCデパイサーに座標登録しといたぜ」


「亀裂から獣が出歩いた痕跡があるのよ」


 伯爵とリリーの報告を聞いたハーネイトは、敵の動向について今までの事件と関連付けて考察する。


「敵は魂食獣、死霊騎士を主に用い霊量子を集めているようだな。恐らく、魔界に眠りしソロモティクス復活用の材料としてな」


「だがそれには高純度の霊量子が必要だぜ」


「だから、それが取れる能力者や人の集まる場所が主に狙われている」


「だが奴らの中に創金術まで扱える輩はいないようじゃ」


 ハーネイトは敵の目的をソロン復活のために暗躍していると考えるが、引っかかることとして、正直言えばハーネイトのような創金士から見ると敵のやり方は無駄が多いというか効率が良くないのであった。


 事実そういう傾向にあるため、何故かと思いきやヴラディミールが口をはさむ。どうも嫌な予感がして起きてきたという。


「何故だヴラディミールの爺さん」


「奴らのやり方はこういっちゃああれだが率が悪いのじゃよ」


「そういうことか、そうだな。君たち、霊量子の成り立ちは話したな。原子量の多い物質ほど、分解時に大量の霊量子が発生する。だがそれを行うには創金術の力なしにはできない。できるなら当の前に採掘場や発電施設、金属の備蓄基地などが真っ先に狙われるからだ」


 伯爵はヴラディミールに質問するがその答えはハーネイトが話した。


 もし敵にハーネイトと同じ能力者がいるならば、狙われる場所が異なるはずでありわざわざ効率のあまり良くない方法で集めはしないだろうという見解であった。


「言われてしもうたな、ハハハハ、ハーネイトは頭が冴えるのう」


「確かにそういうところは今のところ何にもないな。あったとしたら自分たちもただでは済まないはずだ」


「そうよねトッキー、やはりあの騎士たちは生き物の魂などをその霊量子にしたり吸収できるけどそれ以上は無理ってことよね先生」


 ヴラディミールは相変わらずすぐに頭が回るハーネイトをほめ、時枝と間城はもう一度ハーネイトに事実を確認した。


「とにかくよ、はええことぶっ潰せばいいんだろ?」


「兄貴、その備蓄基地ってやつ、壊して霊量子奪ったほうが」


「いいに決まっている。女神の封印を解いて全盛期の力を取り戻すためにも」


 それを聞いた五丈厳は目つきを鋭くしながら早くけりをつけた方がいいんじゃねえのかと血気盛んになり、九龍も敵がそういうものを溜めているならば破壊や回収はどうなのかと質問した。


「さあてと、今からだが君たちはどうする?」


 伯爵からの報告を待っており、それを聞いた上でやろうと決めたハーネイトだったが、全員に対し参加するのかできないのかを確認した。


 ハーネイトはそう言うところも配慮し、個人の事情を優先させる一面が強い。そのため多くの仲間や部下から慕われる傾向にはある。


 だがこれについては、いざという時は自身1人でどうにかなるしというあまり良くない考えの元こう言っている可能性があるためあまり真に受けていると、この人の心を十分に持った優しき神造兵器は知らぬ間に自滅する。そう言う一面も彼は持っていた。


「今日は何にもないし、行けますよ先生」


「暴れてやるよ、案内しやがれ先公」


「私も行きます」


「亜里沙さん、それに星奈さんも」


「手伝うわ。ワダツミも、やる気は十分よ」


 ハーネイトは確認し、具現霊を行使できる殆どの人が行けることを確認した。皆のやる気を見て、自分も気を引き締めないとと思い心の中で気合を入れる。


「分かった。複数同時に攻略しよう。これだけいれば2,3チームはいけそうだ」


「しかし、ナビゲートの件はどうするんだ?」


 伯爵はそれを聞いた上で、Aミッションに必要不可欠なナビゲーターの確保についてどう考えているのかを彼に質問した。


 ナビゲーターは他のクラスと比べて違う立ち回りと役割を担う以上、ハーネイトの仲間でさえ成り手はそんなに多くないのが現状であった。


 何せ戦闘や探索のベテランが通常担うクラスなのと、指揮センスと全体を見る力を求められると言うのがハードルを上げている。


「私は当然ナビゲーターだが、他のナビゲーターは伯爵、大和さん、間城さんと……」


「すまんハーネイト。明日取材が入っていてな」


「そうですか、それならしかたない」


「では俺も同行させてもらう」


「ボルナレロ!」


 ハーネイトたちの背後から声が聞こえ、そこには資材を持ったボルナレロがいた。どうも彼も現場に出て指示を出したいと言いナビゲーターとして参加する旨を伝えた。


 彼は素の戦闘能力は非力な代わりに、地図を使った戦術についてはハーネイトの上を行く存在で、そもそもCデパイサーのGISシステム全般はこのボルナレロという男がすべて構築したという。


 だからこそハーネイトは安心して彼にナビゲーターを任せていた。それと、自衛用の魔法工学により生み出された魔工兵器による攻撃支援などを得意としている。


「ああ、少し気になることがあってな。直接出向いて調べるまで」


「分かった、ドローンは用意しておくから」


「頼むぞ」


「だったらナビゲーターは、俺様、相棒、ボルナレロでいいだろ」


「いいね、ではそういう事でよろしく」


 結局ナビゲーターはそうして決まり、残りは誰をどのチームに割り振りするだけであったがハーネイトはそれは行きながら決めようとしエレベーターを使い地上に出てホテルのフロント近くにある待合場所に集まった。


「では行こう」


「ちょっと待つんだ、君たち」


 ハーネイトたちがフロントに向かおうとしたその時、彼らに声をかける人がいた。声のした方向を見ると、そこには亜蘭と初音が立っていた。

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