第124話 鍛錬器具を破壊した3人
「すまんなハーネイト、空間内にある鍛錬用の装置を壊してしまったのだ。申し訳ない」
「はぁ……もう、スカーファさん、色々やりすぎです。んで今度はどれ壊したの」
「トレーニング器具だ。大分私の具現霊ことクーも息を合わせられるようになった。手合わせを願うぞ」
「だったら俺もだ。力に目覚めたようでな、見てくれ御大将」
長身の彼女の背後に隠れていた黒龍もひょっこりと現れ同じようなことを言い、それを聞いたハーネイトは頭を手で押さえため息をついてから席を外す旨を伝えた。
「誰が御大将じゃ。あまり壊すなら、この世界で購入した分のトレーニング機材は弁償も辞さないからな。……悪い、席を外すが好きにしていてくれ。それとヴラディミールという老人がここに来たら地下2階の修行部屋にいると伝えておいてくれ。すぐに戻るが」
「わかりました先生」
ハーネイトはそうして部屋を後にし、エレベーターに乗ると修行部屋にスカーファ、黒龍と共に向かい異界空間内に入った。それを見た彼は絶句してから、気を取り直してこう言う。
「全くさ……貴方たちはこう戦うこと以外にやることはないの?直すこちらの身にもなっていただきたいのですが」
ハーネイトは空間内の惨状を見ながら、ため息をついてこういうもスカーファ達は反論する。
かなり頑丈に作った的当てや機械人形、筋力を鍛える各種の道具などが全体の3分の2ほど破損していたため彼は久しぶりに怒りの感情を静かに、露わにしたのであった。
「失礼な、これでも英語教師の仕事をしているのだぞ」
「俺もフリーの何でも屋だぜ。まあ、もうやる気ないけどな」
「おいおい、俺だって自動車工場での仕事の後に来ているんだぜ。それにここのホテルはバーも温泉も最高だしな!だがすまなかった大将。今後は程度に気をつけるぜ、申し訳ない」
どこからか韋車も現れ勝手に話に加わりきちんと謝罪しつつ、それぞれが普段何をしているか話をした。
それを聞いた上でハーネイトは鍛錬と休息は両方同じくらいとりなさいと指示したうえで、彼はある提案を彼らに持ち掛けたのであった。
「少しは、加減と言う物を理解して頂けませんかね、全くもう」
「悪かったって、しかしよぅ、スカーファさんが壊した装置の9割やってるんすよ」
「そうなのか……とりあえず、血の気がかなり余っていると見た。ということで折角だから、みんなで私を倒すつもりでかかってきなさい。どこまでやれるか、この私で試してみろ!」
「この時を楽しみにしておったぞ若造。私は強い男と剣を交えるのが好きなのでね」
「ハーネイト、俺とレイオダスの連携を、修行の成果見てくれよ」
「見せてやるよ、俺の力を!吠え猛ろ、黒龍」
3人はそれぞれ構えると、意識を集中させ具現霊を背後に呼び出した。スカーファのクー・フーリン、韋車のレイオダス、黒龍の黒龍王・黒蛇(くろち)を見たハーネイトは腰に挿した刀を静かに鞘から抜き、すっと構える。
「ドラゴンだと!?すごいなその具現霊は。スカーファの具現霊も以前より形がはっきりして、力強い波動を感じる。韋車さんもしっかり鍛錬している影響か、霊量子の流れが円滑だな。楽しませてくれよ!」
「行くぜ!」
3人の背後に現れた具現霊に対し1人ずつ感想を簡潔に述べたハーネイトは、速やかに先制攻撃を仕掛けようとしたが一番先に仕掛けたのはスカーファであった。
具現霊クー・フーリンに禍々しい槍を持たせてから、ハーネイトに迫り強襲を仕掛け、更に自身も手にした愛用の指示棒で襲い掛かる。
「っ!これがスカーファの具現霊(レヴェネイト)クー・フーリンか。昔読んだ神話辞典にいたあの戦士……!あの槍がまずい」
「ははは、楽しいぞ!楽しませてくれ我が主よ!」
「絶対敬っていないよね!?もう、翻ろ、紅蓮葬送!」
互いに息の合った連携がハーネイトに迫るが勿論それも的確に最小限の動きでかわす。
スカーファの血気溢れるその言葉に、ハーネイトはスカウトした人材を間違えたのではないかと思いながらも素早く紅蓮葬送を形成展開する。がその時、黒龍が背後から迫る。
「後ろが甘いんじゃねえのか、ハーネイトさん!」
「もう後ろに?っ!」
「悪いが胸を借りさせてもらうぞ!レイオダス、あれだ!マグナ・バーンアッシュ!!!」
黒龍はドラゴンブレスを、韋車はレイオダスに命令し凶悪な焔を噴出する踏み付け攻撃を行い、スカーファのクー・フーリンが魔剣クラウソラスで斬りかかる連携攻撃が炸裂し、ハーネイトは吹き飛ばされるが受け身を取りスタッと着地した。
紅蓮葬送の防御でどうにかいなしたものの、少し肉体にダメージが入っていたのを彼は感じ瞬間移動で間合いを取る。
その後もハーネイトは3人を相手に立ち回りながら実力を測る。想定していた以上の火力を出す3人に対し、これならいけると判断し戦闘を中断するように3人に指示を出した。
「ぐぅっ、やはり霊量子攻撃はそこそこダメージをもらうな。そこまでだ3人とも。まだまだ粗削りなところもあるけれど、これだけ戦えるなら次のAミッション、参加させても問題ないな」
「おおっ、そりゃ頑張った甲斐あるなあ。お兄さんやる気がぜん出て来たぜ」
「戦いを楽しみにしているぞ?いつでも呼んで構わない。フフフ、血沸き肉躍るとはこういうことだな!」
こうしてスカーファと韋車は嬉しそうに部屋を後にしたのであった。ハーネイトは少しふらっとなりよろめくが、すぐに体を立て直し悟られないように振舞う。
一方で黒龍は、2人を見送りながら自身がまだ力を完全に理解できていなく、制御も甘いという事実を痛感していた。
「ふう、まだ制御に難があるな……てか、大丈夫なのか?」
「あ、ああ。……名前に合う、いい具現霊だな黒龍」
「そりゃどうもだ。だがあんたのそのマント、どういう原理だ」
「霊量子を、金属系の元素として形成しなおして武器を作っているだけだ」
ハーネイトの技を見て不思議に思った黒龍は質問し、答えを聞いたがなるほどわからんという感じの顔をしていた。
だが攻撃を的確にさばき受け止め、わずかな時間でマントを変形させ爪や拳に変えたその技がいかに強いか、彼はそれについてしっかりと脳内で理解していた。
「はあ……そりゃ強い訳だ。だが、実は戦うよりも別のことをしていたいように見えるぜ。さっきの大将の顔、研究しているときより楽しくなさそうだ」
「皆が強くなれば、したいこともできるのだがね」
「そりゃすまないな。それと、当てもなく彷徨っていた俺を拾ってくれてありがとう」
「フッ、気にするな。それより恩は強くなることで返してくれよ?私の出番がない未来が、一番平和なんだから」
黒龍の指摘に対し、ハーネイトは少し皮肉った言葉を返す。それから黒龍は、拾ってくれたおかげで命を救われ、今こうして寝食の不自由なく活動できていることに感謝し彼に対し深々と一礼をするも、ハーネイトは首だけ彼の方を向いてから少し格好つけて言葉を返した。
そうして2人は修行部屋を出て、事務所に戻りながら廊下で話をしていた。
「ふう、いい温泉じゃった。儂もだいぶ年を取ったからのう……おや、これはこれは」
「貴方は……?」
「おほん、そこの男の仲間じゃ。よろしゅう頼む」
ヴラディミールは温泉から上がり、異世界の情緒を少し楽しんでいた。するとエレベーターに向かう地下1階の廊下にてハーネイトや黒龍と会い軽く話をし、事務所に戻ったのであった。
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