第122話 4人の凶悪な増援


「ははは、ここが異世界。そして我が国のルーツ!わしを満足させる唐辛子はどこだぁ~?」


「いやっほーー!元気にしとったかハーネイトちゃん!」


「これよりオフィーリア、作戦に参加します!」


「すまんがハーネイト、疲れたんで先に風呂でも案内してくれぬかのう。年寄りに長旅は堪えるわ」


 それは、青い着物を着たちょんまげが印象的で、腰に3本の刀を差した30過ぎの男と、小柄で金髪ボブ、黄色を基調にした貴族風の洋服を着た幼女にしか見えない女性とその傍に立つ、長いストレートで青色髪の、大人しめな雰囲気を漂わせるメイド服を着た女性、そして最後にベージュ色のコートと茶色の帽子をかぶった60代の剣士と思われる男の計4人であった。


 それは全て、ハーネイトの剣術のライバルと魔法秘密結社の首領であり共同研究者、更にその部下と祖父ミロクの知り合いという強烈な個性を見せつけられる存在であった。


「ええ……まず八紋堀、貴様何故ここに来たのだ。んでオフィーリアとヴラディミールおじさん……後なんで首領が!??ま、まさか私のあれをっ」


 ハーネイトは目を丸くしてから、1人ずつ声をかけ確認をした。まず最初に声をかけたのは侍であり、彼の名前は八紋堀影宗という。


 長年の剣術のライバルというべき関係だが、親しき友人でもある。しかしとにかく自身とどっこいどっこいの奇行が目立つ男で、特に唐辛子絡みの事件を引き起こすトラブルメーカーでもある。


 また辛い物を異常に好み、違法唐辛子の栽培もしているほどである。


 一応これでも八紋堀は、ある国の王に仕える腹心で、「文斬流」と言う特殊な剣術を使い巨大な敵を倒す技量を持っているという。


 次に見たのはメイド服を着ている女性、彼女の名前はオフィーリア・ペルテイシレス・ヴェネトナシアと言い、ハーネイト直属の部下である。


 拷問や解剖などが趣味だが、全くそうに見えないおしとやかな淑女のような振る舞いにほとんどの人が騙されるという。物静かな、読書を好む可憐な女性と言えば大体雰囲気は伝わるだろう。


 さらにハーネイトがおじさんという男は、ヴラディミール・ガンヴァレーノ・ヴェスカトリポカという長い名前の男であり、歴戦の魔剣士である。


 この男は微小機械(ナノマシン)を無数に作り出す創金剣士でもあり、伯爵に匹敵するほど強いという。


 そんな中彼が一番出くわしたくない相手がいた。それが魔法秘密結社・BKバイザーカーニアの首領にして魔法工学を共に発展させたロイ・レイフォード・ヴェネトナシアであった。


「ミカエルたちから聞いたぞホホホ!魔法革命爆走中じゃしいなあ!」


「これだから首領には……」


「何か文句あるのかい、ハーネイト?」


 ロイはハーネイトの足元に来ると小さな体で彼を見上げながら少し睨みつける。しかしそれはにやにやしたいたずら気味なものであり、彼をさらに困らせる。


 このロイという少女のような女性とハーネイトはとても長い付き合いであるのだが、彼にとってこのロイという人物はとても苦手な面があるという。


 以前彼が血徒ルべオラを相手にどこか苦手だとしていた理由の張本人であり、独特のテンションで周りを疲弊させるトラブルメーカーであった。


「はあ……貴女が来ると私の胃がさらに壊れそうだと言いたいのです」


「なあに、この世界のルールには従うぞい?」


「従いそうにないのがあれなんですけど」


「何を言うとるハーネイトちゃん!」


 ハーネイトは率直な気持ちを彼女に伝えるがまるで通じない。彼が一番の問題にしているのが、彼女が彼女の妹であるミレイシア共々、各地で事件や騒動を起こしてきた張本人であるという事実であった。


 そのため異世界である地球でもし彼女が自由にふるまうと恐ろしい損害が出るのではないかと思い居ても立っても居られないほど胃を苦しめていたというのが今の状態であった。


 ただハーネイト本人もちょいちょいやらかしているのでそこまで棚に上げて言える話ではないのだが、ヴェネトナシア家のメンツは全員凶悪なため、いやにビビっていたのであった。


「私もそうは思いませんが。そもそもこの別世界でも商売すると姉様は言っておられましたが」


「オフィーリア!言うじゃないか、ほうほう」


 姉であるロイの言葉に反論するオフィーリアだが、彼女は彼女で恐ろしい趣味を持っており別のベクトルで危険人物であったが、性格自体は大人しめで控えめ、ハーネイトに意地悪なことはほとんど言わないため彼は個人的に彼女のことは信用できる良き同僚として関係を持っていたのであった。


「あの、オフィーリア。ミレイシアとサイン、シャムロックはどんな感じだ?」


「相変わらず無双なされていますわ。散発的に異界からの侵入者が現れておりますが、姉さまや解決屋、戦士たちのおかげで目立った被害はないです……が、血徒による被害が出ております」


「何?またか」


「はい、すでに2つの小さな村が壊滅しております。それとガルマザルク、ギルド・マースメリアの方からも異界化現象による被害が起きていると連絡が来ております」


「うへえ、もう体が1つじゃ足りないな」


「わしのことを放っておくなよミロクの孫よ。そちらの件はこちらでどうにかしとる、今のところは安心せい」


「それならばまだいいのですが……弱ったな。あいつらの行動範囲広すぎぃ!って」


 少し顔に青筋を立てていたヴラディミールは、蚊帳の外にされていたことに不満を持ちつつもハーネイトがどうにか元気にはしていたのを見てほっとしていた。


「ヴラディミールさん、温泉はこのホテルの2階にあります。これを使えば自由に温泉に入れます」


「有無、流石じゃのう。適応力が高いのはいいことじゃ。儂も心配しておったのでな」


 ヴラディミールにとって、この孫ともいえる年齢の若き戦士は特別な存在であった。


 だからこそ、彼は彼でハーネイトについて性格柄、異世界の生活について大丈夫かと思って彼なりに心配していたのであった。


「んでミロクはどこにおる」


「爺さんは隣の区まで出向いて調査しています」


「まあ、後で会えるか。何か儂の力がいるときは言ってくれ。サーチャークラスが不足しているらしいのう」


「はい、その時はお願いしますヴラディミールさん」


 ヴラディミールはナノマシンを用いた戦闘や索敵を主に行うため、アタッカーとサーチャーをこなせる貴重な戦力であった。そのためハーネイトはちょうど来てくれて助かったと言う。


 以前彼と手合わせをしたハーネイトは、この老剣士の強さについて伯爵の様な強さだと評したという。


 それほどに、このひょうきんにも見え、厳格そうにも見えるヴラディミールは若き魔法探偵にとって頼れる年上の人の1人であった。少々口やかましいところがあるのはご愛敬、である。


「うーん、もう少し華やかでいいんじゃないのかねハーネイト君?」


「ロイ首領、一応ここを借りさせていただいている身なので……」


「そうかいな、しかしのう、もっと装飾品置くとかさあ、インテリア欲しいのう。ちと殺風景じゃないかの?」


「観葉植物とかも、少しあるだけで部屋の雰囲気が違ってくるかと思います、ハーネイト様」


「そ、そうだなオフィーリア。時間のある時に園芸店かホームセンターで……」


「先生ー!修行部屋にってうわわ!だ、誰ですか?」


 ロイは自由気ままに事務所内を見まわし、相変わらず質素だなと指摘しハーネイトが反論する。オフィーリアの提案を聞き、それはそうだなとハーネイトが思っていたその時、事務所のドアをノックし彩音たちが入ってきたのであった。


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