第120話 テスト期間中の学生たち
それから少しさかのぼって、彩音たちは国道沿いのよく行くファミレスに集まり何やら勉強会を開いていた。
各自ノートを机に置き、頼んだドリンクやケーキを傍に話しながら勉強しており楽しそうにしていた。しかし大分勉強していたのか、響は疲れて言葉を口に出す。
「彩音、そろそろ帰って寝ようぜ」
「何言ってるのよ、勉強会言い出したの響でしょ?」
「んだけどさあ、よくやるよな」
「もう少し社会と英語の成績よかったらこんなことしなくていいのに」
彩音は響の苦手な教科を知っており、せっかく付き合ってあげているのにと言いながらもう少し踏ん張りなさいと言わんばかりに彼に教える。間城は2人のやり取りを見つつ、あることを口に出した。
「テストかあ、中間テストめんどいよね」
「でも、いくら私たちレヴェネイターズでも先生は学業とかに専念しなさいって」
「変わってるわよね。いっそのこと……あれ、先生からメールだ」
金ぶりはいいし面倒見もいい、プライバシーにも干渉せず結構好きにさせてくれる上に仕事の時は恐ろしいほど頼もしい社長の下で働いている。
もうこんな上司、というか社長、所長の下で活動しているなら永久就職でいいんじゃないかと彼らはそう思いつつ、テストのために只管机に向かい教科書や問題集とにらめっこしていたのであった。
「えーと、ようやく1段落できたので、時間のある時に霊量子や霊量超常現象などの講義を定期的に行いたいって。アプリとかもあるけど、実際に教えたりさらに交流したいって」
「テストが終わったら、みんなで先生の授業受けましょ?」
「んだな、もっと、強くなりてえし」
「先生の住んでいる世界のことも知りたいわね彩音」
「そうね間城ちゃん。勉強しないと先生たちに追いつくどころじゃないわ」
間城がハーネイトが送った文の内容を読み上げ、それを聞いた彩音は学校のテストがすべて終わったら早く先生の授業を受けたいという。
響と彩音は、出会って間もないころに霊量子に関して基本は教わったものの、まだ知り足りないことが多くもやもやしていることがあった。それが分かるならいくらでも授業を受けたいと思っていたのであった。
「兄貴って元々先生志望だったんだよな、どの程度上手か気になるな」
「けっ、授業なんざつまんねーよ。まあ、スサノオが今の話聞いて興味持ってるから行ってやるがな」
翼は以前聞いた、ハーネイトが本当はなりたかった職業の話について、一時期だけ魔法を教えていた時期のことが気になり生徒の受けが非常に良かったという話からワクワクしていた。
五丈厳は家庭や周りの環境の影響からか、とにかく大人たちを信用しておらず特に学校の先生に対しては敵対心をむき出しにしていた。
しかしあのハーネイトという男はどこか違う。話をしっかり聴くし対応も今までの大人たちとは違う。というか彼は自分たちとあまり年が変わらず性格や振る舞いも若い自分たちと似ているところがあったため、突っかかったり雑な対応をしながらもそれ相応に従っていたのであった。
昔の彼を知る者からすれば今の彼は、かなり変わったように見えるほど変化しているように見えるが、これこそが彼の本来の性格なのかもしれない。
「友達想いなところはいいんだけどな勝也は」
「んだと?」
友の魂が宿るスサノオがそう言っているため、今回の授業に出向いてやると五丈厳はいい、九龍は友想いなところはいいなというが少し彼は喧嘩腰になっていた。どうも照れ隠しのようである。
「そろそろ寝ようぜ。今のうちに覚えたことは、寝ると暫く覚える見てえだしな」
「そうね、響君。あまり根を詰めてもよくないし」
「まあ、これ以上遅いと母さんも心配するわ」
一方で響と間城はそう言い、彩音も確かにそうねと思いそろそろ切り上げることに決めたのであった。残りのドリンクを飲みながら響は、何か手ごたえをつかんでいた。
そうしてテスト期間が始まり、学生たちは机と問題ににらめっこしながら日ごろの成果を出そうと奮起していた。
3日間彼らは事務所に顔を出さなかったが、当然ハーネイトは事情を理解していたので自分たちだけで亀裂の数の調査や宗次郎、文治郎、そして街中で受けた依頼を1つずつ片付けていた。
その間に、大人たちが中心となり血徒感染者と見られる政治家たちの足取りを辿ろうと動いたが、全員行方不明になっていたという。
それからある日の夜、街中にある居酒屋の1つで文次郎、大和、田村の3人は集めた資料を持ちより話をしながら食事を摂っていた。
「恐ろしい事態が起きておるのは間違いないのう」
「そうですな文次郎さん」
「こちらでも調べてみたが、家族単位で行方不明になっているケースもあったぞ」
「何ですとな田村先生」
BW事件当時、政治家であった者の中には、家族単位で行方不明になった者が少なくないという調査結果を田村が話した。
ハーネイトが話した血徒の恐ろしい所、つまり昨日の友が、今日敵となり命を奪う。その点について強調して話し、見えづらい場所で確実に血徒の影響力が広がっているという認識を共有していたのであった。
「っ、やはり社会と英語はいまいち苦手だな。だが、前よりはいいか?」
「全く、私は当然全部で来たと思うわ。修行の傍らきちんと勉強していたもの」
高等部の中間テストがようやく終わり、響たち高校生は、テストがどの程度できたかを話しながら少し早く下校していた。その足でホテルに真っ先に向かう彼らは、学生らしい話をしていたのであった。
「そうだね彩音さん。俺もそんな感じでやってきた」
「時枝君もしっかりしているわね」
「この程度当然だろ?まあ、君には負けないけどな」
「あら、また勝負するつもり?」
また始まった、そう思いながら響と間城、翼は彩音と時枝のやり取りを見ていた。この2人はテストとなるととたんに対抗意識を燃やすようであり、その間に入るのはとても難しいように見えた。
「マジかよ、本当にいつも彩音と時枝は……」
「およ、皆帰宅中か?」
彩音たちは街中を散歩しているオフのハーネイトに声をかけられ驚いた。普段と違うホンワカ系な雰囲気を醸し出す彼に戸惑いつつも、何をしていたのか彩音は質問した。
「せ、先生!何をしているのですか?」
「何って、亀裂の調査だよ。また君たちに調査依頼しようと思ってな」
「そうですか、先生もたまには一日何もしない日を作っては?」
「そうしたいのはやまやまだし、ゴロゴロしたいんだがそうは言ってられないでしょ。本当は高原の野原で昼寝でもしたいものだけど……」
学生たちを始め多くのメンバーに基本自由にさせているため自分たちで基本的に仕事をしようというスタイルのハーネイトに対し、間城と彩音はぼーっとした日も設けてはと提案するが、彼はそれでも仕事に必死であった。
「先生、星奈さんの予言の件お忘れでは?」
「そうよ、知らぬ間に限界が近づいているわね」
時枝がそれを見て呆れながら言った次の瞬間、彼の背後に星奈がすっと現れ声をかけた。それを見た全員がびっくりして後ずさる。本当に気配なく近寄ってきたため、全員が目を丸くしていたのであった。
「わっ!いつの間に!」
「びっくりしたぜ全く。兄貴も驚いてんじゃねえか」
ハーネイトも気を抜いていたようで驚いて目がぐるぐると周っていた。普段戦場では動じることなく敵の大軍も蹴散らすのに対し、この落差の激しさは何なのかと響たちは思っていた。
「んとにオフの先公はどこか頼りねえな」
「思いっきりオンなんだけどねえ」
「貴方、仮にもみんなを引っ張るリーダーでしょう?もっと自覚しなさいね?」
「わ、私は皆の安全に配慮しつつ作戦を立てて、装備の研究などをしているぞ」
「それはいいけれど、司令塔が倒れては本末転倒よ」
「それは……っ」
五丈厳の言葉に反論するハーネイトだが、星奈の言葉が聞いたのか困った顔をしていた。彼にも苦手なタイプの人はいる。
そう、彼だって人として育ってきたがゆえに、その影響を完全に受けていた。星奈の言うことは確かにそのとおりであり、ハーネイトは反論を封じられている状態であった。
「それで、例の講義の件はいつ何時に行うのですか?」
「まだ具体的には決まっていないが、今週金曜の夜7時半を考えている。時間は一時間ほどだ。通信教育でも悪くないんだが、改めてみんなを集めて顔をしっかり見たい、ってのもある」
「ええ、分かったわ先生。都合着けておくわね」
こうして、その週の金曜の夕方に響たちは、ホテル地下の会議室に集まり授業を受ける形となった。
今回の授業は響と彩音、翼と大和、時枝と間城に亜里沙、九龍、五丈厳、星奈の前半に仲間に加わった人たちが参加し、資料を取ってくるというハーネイトを待っていたのであった。
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