第119話 事件のキーワードと関係性を繋げると?
「それなら、私も聞かせてほしいです」
「ぇ、いつの間に……?」
「おお、響のお母さまやないか、どうしたんや」
ハーネイトは驚き、伯爵はこちらに来いとジェスチャーし、京子も近くにあったソファーに静かに腰かけてから話を始めた。その内容は、自身の本業に関しての忙しさから来るものであった。
「いえ、最近活動に参加できていなくてその、申し訳ないなと思いまして」
「この世界の看護師は夜も休まず働くと聞いている。私のところも、そうだな。日常生活と仕事がある以上無理はさせられないし、してほしくないです」
「それなら貴方も、研究は根を詰めずに行ってほしいですわね。息子も心配していましたよ。それと、私からの差し入れをどうぞ」
京子は差し入れで持ってきたカボチャのパイを机に置くと、自身があまり作戦に参加できていないことについて謝罪した。
しかしハーネイトは学生もだが、大人たちの事情や仕事などの面も十分に考慮し特に言わない方針であったため、いつも看護師としての業務に励み、疲れている彼女のことを気遣ったのであった。
「ですがその、私も夫をあの化け物に殺された被害者です。仇だって、取りたいのです」
「貴女の能力はあまり攻撃には向いていません。できますが、やるには他の搦手があったほうがいいです。CPFで動きを止めてから仕掛けるとか、組み合わせを考えればいいかもですが」
ハーネイトはきっぱりとそういい、サポーターがどうしても攻撃面で他クラスに比べ劣る一面があることを言うがそれと合わせ、サポーターにしかできない技があることも教える。
またサポーターに多い弱体化のスキルと合わせ霊量超常現象なら大ダメージを期待できるかもしれないとも伝えた。
「それでですが、この先大きな戦いのときにサポートクラスは重要な役割を担うことになります。京子さんのような存在も十二分に活躍できる、いや、していただかないといけない局面があります」
「ですが、それでも今の状況がもどかしいです」
「……では、夜勤のない時、休みで余裕のある時はここに来ていただき修行するか、貴女の家に出向いて特別に指導します」
彼女のやる気は人一倍のようで、それを感じたハーネイトはある提案をしたが、それは彼にとって仕事の負担が増えるものであった。
本人はパトロールのついでに他の人にも指導しようと思っていたが、伯爵がある懸念から口を挟む。
「いいのか相棒、大丈夫かよ」
「お主、働きすぎじゃないのか」
「どちらにせよ、あまりメンバー間での練度に差があると色々こちらも問題がある。大なり小なり仕事などで思うように進んでいない人がいるなら、こちらでできる限りのことはすべきでしょう。それが請け負った責任というものですよ」
「っ、そうだけどよぉ……大丈夫か相棒?」
「ご迷惑でなければ、ご指導のほどお願いいたします」
伯爵や文治郎の言葉に対しハーネイトは、自身の考えを述べやる以上は面倒見良く、最後までやると言い伯爵を黙らせた。
それを見て京子は申し訳なさそうに一礼し、その時は早めに連絡するとハーネイトに伝えた。
「了解しました。それとCデパイサー内のアプリでかつて授業で使った動画や資料などが見られるものがあります。説明が遅れて申し訳ありませんが、それを見て頂けるとより効率が良いかと」
「そうね、いくらあなたが忙しいとはいえ、そこだけは早く教えて頂きたかったわ」
さらに付け加えてハーネイトは、Cデパイサー内にあるアプリで様々な情報や講義の動画を見られることも教えたが、それを教えるのが遅れたことについて京子は少し意地悪そうに言いハーネイトを困らせた。
「そ、それに関しては本当にすみません、京子さん」
「いえ、私の方こそ……それと、息子と彩音さんのこと、頼みますね」
そうして、今後は京子も含め、日常の活動が忙しい人たちにも時間のある時は指導などをしていくということになった。
「もし私の家に来て頂けるのでしたら、その時はもてなしますわ。料理がお口に会えばいいのですが」
「はい、楽しみにしています。苦い物とアルコール系以外ならば大丈夫ですし、甘いのと辛いのは大好きです」
「そうなのですね、分かりましたハーネイトさん」
「へへへ、よかったな相棒。しかしサポート系は難しいなあ。だけど追加で霊量子をチーム員に配布できる能力はサポート系に限られるし、弱体効果は対ボスによく刺さる。いるといないで大違いや。拘束、弱体、攻撃の3原則の弱体を、侮るべからずやで」
「どうしても活躍しづらいクラスではあるが、スキル次第ではアタッカーをも超える制圧力を持つ。制圧支援の能力を持っていれば前線で活躍する仲間の力をより強化できるし、防御や回復支援があれば多少無茶な突撃も可能にはなる」
京子はハーネイトにそういい、彼も嬉しそうにしていた。一方で伯爵はAミッションにおけるサポーターの問題点について話すが、ハーネイトはそれについても解決策はあるという。
「そういう技を使えるように、精進しますね」
「俺らもだな。全く、いつになったら目覚めるのやら」
笑顔でそう言う京子に対し大和の顔は浮かないものであった。いつになったら自分の具現霊が出てくるのか分からず落ち込んでいた。
「……もしかすると、とんでもないものが彼に潜んでいる?」
「ん、何か言ったかハーネイト?」
「いえ、ですが私の予感ではそろそろ目覚めるかと」
付き合いも長くなってきたが、それでも大和がまだ力を発現しない理由についてハーネイトは、強大すぎて彼の今の肉体では出ることができないのではないかと考えていた。
「そ、そうか。それまではナビゲーターの訓練しながら依頼でも持ってくるぜ」
「依頼?大和さんはそう言うことをしているのですね」
「ああ、宗次郎さんからの使いってわけでもあるが、ハーネイトたちがよりここになじめるようにという計らいでもある」
「そこまで、か。感謝しないとな」
「今日は休みを取ったわけですし、ハーネイトさん、例の部屋で修業に付き合っていただけます?」
「そうだな、みんな今日は組手や瞑想など、修行に費やそうか」
その時、京子はあることを思い出しハーネイトに質問するのであった。それは初めて出会った時に彼に渡した資料に関することであった。
「あの、その前にですが、以前渡した資料の方、役に立ちそうですか?」
「あの新聞記事などをまとめた資料ですね、はい。何時頃から異変が起きているのか時系列で系統立ててまとめてくれていたので助かります。それと、1つこれはまだ仮説の段階ではありますが」
ハーネイトは資料がとても見やすく、大いに参考になったと京子に感謝してから、暗い顔であることについて話をするのであった。
少なくとも5年以上前、一番古い写真が11年前ほどだが、当時の政治家及び大臣の約3分の2に血徒感染者を示す刻印が見られたという。それは写真であっても証拠に残る物であり、しかし霊量子操作術を持たぬ者には決して見えぬ代物であった。
つまり、既にこの国の中枢は血徒により半ば占拠されているようなものであった。
それと、外国の大統領や国王など、国の代表とその側近についても調べたところ、特に先進国全般とアフリカ大陸にて血徒刻印が発現している者が多かったという調査結果が出たのであった。
「え、当時の政治家の大臣たちに血徒の紋章ですって?」
「何じゃと!」
「おいおい、あのおっかねえ連中のことだよな」
「おい、その話聞いてねえぞ」
「あ、ごめん。じゃあこれを見てもらえる?」
その話を聞いた各員は目を丸くする。まさかそこまで吸血鬼のようなそうでない、それよりも非常に性質の悪い存在が入り込んでいることになっているとは全員思っていなかった。
伯爵はその話は本当かとハーネイトに詰め寄り、急いで京子の貸し出した資料を全員で確認する。
「うげげ、首元にあるな。まさかと思うが」
「……あっ、これですか?この赤い、何か?」
「そうですね、はい。この刻印と言うか紋章は、すでにこの国のトップとその周りどころか、それ以外の国のリーダーなどにも見受けられますね。血徒の駒と化している可能性はほぼ100%、です」
伯爵は写真を改めて見て、当時の日本の総理大臣やその周辺にいる大臣らの数名が感染者であり子を示す紋章が首筋や顔などに刻まれているのを目にした。
既に京子もわずかにそれが見えていた。しかし文次郎や大和は目を凝らして見てもいまいちよく分からないようであり、彼らは質問する。
「写真だけで分かるのか?」
「正確にはその刻印部分は霊量子が活性化しているので、それを感知できるかどうかです。それはこう写真などにも影響を与えます。ああ、そう言えばこれを使って見てください。より刻印が見えやすいはずです2人とも」
「ほう、貸してくれ。……むっ!これは!」
「赤く、ぼんやりとだが見えるな!てことは、この大臣たちは既に」
「醸されとるな、あいつらに」
ハーネイトはまだよく見えない文次郎と大和のために、席を立ちあがり部屋の端にある棚からあるサングラスのような物を手に取ると2人に手渡し、それをかけて写真を見るように指示する。
それでようやく刻印のことを理解した2人に対し、伯爵が悲しそうにそう言う。もうここまでくると屍人になっているだろうと判断し、血徒の卑劣な行いに憤る彼であった。その後、大和は今付けたサングラスのような装備について複製できるかと尋ねる。
「できなくはないですが材料がちと特殊なんですよ。
「そうか、それならばわしらが率先して手伝おう」
「どの程度街中の人が血徒とやらに取り付かれているのか、俺たちで調べたいんだ」
「それは私もそう思います。知らない間に感染する、なんてこともあるのでしょう?」
その答えは、すぐには無理だということであった。ハーネイトの創金術だが、どうしてもほとんどの人が知っている元素表に載っている元素なら手早く作れ自在に合金なども形成できるのだが、それ以外の特殊な元素だけは正直現物を探した方が早いと言うらしい。
それを聞いた文次郎たちは、響たち高校生などにも今使った識別用アイテムを配り、各地で汚染状況を調べたいと申し出たのであった。
「分かりました。こちらも素材などの手配はしておきます。さて、最古の確認した資料だと、矢田神村の事件が起きる前からこれがある。つまり、情報統制などの規制についてはもしかすると、だな」
「これは、忌々しき事態じゃな」
「ハーネイトさん、5年前のBW事件とその血徒は、大いに関係していますか?」
「断定はまだできない。当時のサンプルがあればそれを見て判断はできる。といっても状況証拠と証言だけでもほぼ確定なんだけど……念には念をです」
今までの血徒という存在が関与するかもしれない案件についての、現在の調査状況について話した彼だが、正直なところまだ情報が足りない上に既にかなり状況が悪化しているのではないかと考え気持ちがよどむ。それでもやるしかない。
紅き流星の件も気になる上、今後奴らが何をしでかすか不明な点も多い中、彼らは捜査を継続していこうという形になった。
「紅き流星、ですか。私も見えますが、そう言えば……やはりあのBW事件の少し前から、かすかにそういうのが」
「その前後に初めて見た人が多いようですね」
「みてえだな相棒。あれは、星奈の言う通り災いをもたらすだろうぜ。何せ、Vの気運。霊量子の塊みたいだし、霊量子を感じられる者にしか見えないってなら尚のことだぜ」
紅き流星に関して、今のところ分かっていることは見える人がごく限られる。しかも霊量子の力を扱える素質持ち限定であること。次に、その星が膨大な霊量子を内包している事。
最後に2つの勢力が少なくとも、星の動向を気にしておりしかも、血徒が起こした可能性のあるBW事件の前後に紅き流星の目撃報告が増加していることからも血徒と紅き流星は何か強い関係性があるのではないかと考察する。
「うむ、確かあの魔界同盟も、血徒もあれを気にしていると言ったが、その星に、何か秘密があるのだろうな」
「恐らく、神柱がいると思います。最近、それを強く感じますので」
「神柱か、その動向も要注意ですな」
ハーネイトたちはその後、その場にいる全員で修業をすることにした。修練の部屋に入った各員は、それぞれ自分に足りないものを考えながら基礎練習や瞑想、実践訓練などに励んでいたのであった。
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