第114話 戦士というより研究者?


「あ、そういや先生、あの時……霊量超常現象を纏めて撃っていませんでした?」


 彩音はコーヒーを飲みながら、ほっと一息ついていたがはっと思い出し、ハーネイトが放った霊量超常現象が同時に複数発動していた件について気になり質問した。


 それにハーネイトは不敵な笑みを浮かべ自信満々そうにある話をしたのであった。


「フフフ……ああ、まだ研究段階だが、霊量超常現象をさらに研究中にあることを思いついてね。実用化ができると踏んだらすぐにプログラムを配信するから楽しみにしといてくれよ彩音」


「はあ……は、はい、もしかして、先生って先生より研究者向き?」


「どうだかね、一応魔法工学の祖として、ロイ・レイフォードという魔女と共にその辺は有名なんだがな。まあ、魔法使いとして一番有名なのは私でしょうね。医療魔法術の祖にして、魔法革命を7回も起こした、からね」


 彩音はなぜハーネイトが、そんな恐ろしい研究を閃いて再現できるのかいつも疑問に思っていた。


 それについて質問するも、彼自身もどうなのだろうかと言いつつ、一応研究者として多くの人と協力して研究をしていたことについて話をした。


 魔法界からも魔法と機械の融合を目指す研究者が少なからず存在し、機械工学が発達した国の研究者と合同で、生活水準を引き上げる便利な道具を作ってきた経緯がある彼は、確かに彩音の指摘はそうだなと深く頷いたのであった。


 また、それ以上に有名なのが彼の魔法界での功績であり、特に医療魔法術の始祖であり、10億人以上の命を救ってきた実績や魔法界における魔法の改良、開発などの功績、魔法犯罪者の処分などこのカテゴリーについては枚挙にいとまがないほどの活躍を残していると言う。


 そうしていると響と伯爵、リリーが事務所のドアを開け入ってきた。


 響は彩音のもとに駆け寄り、とても心配そうに彼女の顔を見て声をかけた。部活を終えて事務所に戻る途中で彩音たちの連絡を聞いて急いできたという。


「大丈夫だったかお前ら!」


「彩音、怪我はないか?」


「ごめんなさい、こちらも立て込んでいて駆け付けられなかったの」


 伯爵とリリーもSOSは認識していたが、ハーネイトの命で遠方の調査を命じておりすぐに駆け付けられなかったためハーネイトが救出に向かったことをリリーが説明し、彩音は響に対し血徒のことを話した。


「みんな無事だよ。でも危なかった」


「響……怖かったよぉ」


「ったく、彩音はいつも無茶するんだからさ。よしよし」


「私たち、もっと強くならなきゃ……」


 響は彩音を軽く抱きしめ、頭を撫でてあげた。いつも妙に気が強いのに、急にしおらしくなるところがある彼女の姿に少し戸惑いつつも、相変わらずだなと思い慰めてあげたのであった。


 それを見たジェニファーと渡野はどこかうらやましそうな目で2人を見ていたのであった。


「先生、彩音を助けてくれてありがとうございます」


「フッ、部下を守るのは上司の役目だろ?」


「……そういうところは、本当にかっこいいんだけどな先生は」


「そういうところはって、どういう意味かな……響?」


 響は颯爽と駆け付け仲間を救う彼の姿にあこがれていた。それと同時にオフの彼が起こす奇行珍行に頭を抱えていたためどうしたものかと思っていた。


 それを聞いたハーネイトは笑いながら顔を引きつらせ彼に迫る。


「オフの先生と全く違う、仕事に向き合っている先生は流石だなって言いたいだけです」


「そういうあれか、オフの私が、素の私だからな。だけど仮にも上に立つものならば、しっかりしないといけないからな、つたない勇気を振るっているだけだ。正直一兵卒だった機士国在住時代の方が気楽だったかも。王に認められてからは死にそうなほど忙しかったが」


「先生……」


「ハーネイトさんも、不本意ながらこうして上に立っているのですか?」


「そうだね……でもね。私がいてうまくまとまるなら、それはそれでいいかと思えるようにはなってきた。亡き恩師が、私に望んだ存在になるまでは死んでも死にきれない、かな」


 ハーネイトは少し不貞腐れながら、自分の心境について話をした。自分も怖い時はある。だけどやるしかない。それを聞いて響は師である彼がいかに無理してきたのかを理解した。


「ったく、そんなにあれなら隠居すりゃいいじゃねえか。っても、優しくて強き王(モナーク)になるには戦い続けて、助け続けるしかねえ」


「確かに、その通りだ。しかしなあ、伯爵に全部任せるのは信用できない。見てないところで悪戯しかしない」


「んだと?」


「まあ伯爵、仲間や部下への面倒見はいいんだけどいい加減なところ多いからねえ」


「ふぐっ!」


 伯爵の提案に対しそうできない理由をバッサリいうハーネイトにジェニファーはくすくすと笑う。2人の掛け合いを見ていると、故郷で彼氏と仲の良かった友人の妙なやり取りを思い出す。それから彼女はソファーに寄りかかりながら二人の不毛な言い争いを観察していた。 


 リリーもハーネイトの意見に同意し、いたずら好きな伯爵が自身の能力を使って大事件を起こさないか心配だということを言いくぎを刺したのであった。


「ハハハハ、伯爵さんなんでもできそうなくらい能力に汎用性ありますし。物を腐らせないようにしたり物を操れるなんて、凄すぎでしょ!」


「初めて彼の出生とかを聞いた時、私怖く……」


「え、どういうこと綾香さん?確かに初めて会った時から何者なのと思っていたけれど」


 彩音と渡野は、伯爵が人ではない究極生命体であることを把握及び理解していたが、ジェニファーに対してはそれをまだ話しておらず、なんで渡野が怖がっているのかを理解できずにいた。


「伯爵は、全身が微生物で構成された菌人間というか……」


「微生物界の魔王みたいな変態よ」


「おい、変態はつけるなよな」


「しかも、その微生界人って中でも神霊化した、超レアなSSS個体だってさ」


「おーい、俺の扱いなんかあれくね?」


「事実超絶レアじゃん。今のところU=ONE化は伯爵、エヴィラ、ルべオラ、あの危険な2人組しかいないんだよ」


「おい、一応ウェルシュとカラー、ボツリナウスなどもU=ONE化させたんじゃねえのか」


「あっ……」


「しっかりしてくれよ」


 リリーは不思議そうに伯爵を見るジェニファーに、彼が一体何なのかを丁寧なのか雑なのか分からない説明を行った。それを聞いた彼女は、顔から血の気が引いていた。


 またハーネイトと伯爵はU=ONE化について話をしながら響や彩音からの言葉に時折ショックを受けながらも、ハーネイトが他の微生界人も数名神霊化させていることを指摘する。


「ひぇえ、私たち病気にならない?」


「渡野さん、伯爵先生はハーネイトさんのおかげで無毒化されているみたいです」


「そ、そうなの?」


「この人たち何者なの本当に。さっきのすごい技と言い、もっと見てみたいなあ」


 何故どこをどう聞いても危険極まりない存在がこうしてここにいるのか理由を聞くも展開にどこかついて行けないジェニファーだが、それでも味方でいる彼らにほっとしていた。


「と、とにかくあれだ。俺はお前らの味方だし、先生だし?仲良くしてくれよな、ピスピース!」


「こういう奴だが、探索能力と戦闘能力は私と肩を並べる実力を持つ。頼むよ」


 ハーネイトは優雅にソファーに座りながらジェニファーたちにそういい、同じ戦友としてともに活躍してほしいことを伝える。


「へへ、それと例の実験、うまくいったみたいじゃねえか」


「うん、今まで複数人でそれぞれ魔法を撃っていたわけだけど、この同時詠唱モードなら一人でも基本3戦術を同時に行使可能なわけ。Aミッションでは時に二手以上に分かれて動く以上……」


 伯爵はにこにこしながら、報告に聞いた件について話をし、ハーネイトもうれしそうにし同時に複数発動する大魔法というか、霊量超常現象がいかに画期的かを訴えた。


 ハーネイトたちの住む世界で、魔法を使って戦うには最低3人のフォーメーションが必要である。拘束、弱体、攻撃役の3人が、順番に魔法を撃つことで確実に大技を叩きこむと言う基本魔導戦術は、魔法協会やBKなどの教本にも記載されている。


 で今回のバーストモードは、それを術者1人で完結されられると言う点であった。同時に最大6発の魔法を放つもよし、順番に詠唱装填したのを撃ち、確実に止めを刺すもよしと言ったこの新機能は、またも魔法革命を引き起こすには十分な内容である。


「魔法戦の戦い方の見直しも迫られたがゆえのあれね。しかしロイ首領はどんな顔するかしら」


「具現霊との戦術連携もさらに向上するし、何より具現霊を持たない霊量士も単純に火力アップできるのはマジやるな」


 リリーと伯爵はそれぞれ研究の発展と応用に関して感想を述べ、いいのではないかと評価していた。


 問題はハーネイトの胃痛の種であるロイ首領がこの話を聞いて何を思い、いたずらと小言を仕掛けてくるかということであったが、それでも彼は実験せずにいられないと好奇心に突き動かされ恐るべきシステムを開発できたのであった。


 先ほども彼はそのロイ首領と言う人物の名を挙げたが、彼女はバイザーカーニアという魔法秘密結社の首領であり、共同研究者でもあるという。


 とても小柄で、幼女にしか見えないが恐るべき技術と魔力を持つという。話し方もルべオラと同様であり、彼がその血徒ルべオラを少し苦手にしているかと言う理由はそこにあった。それについては彼の黒歴史が絡むためここでは割愛するが、結構ひどい目に遭ったと言う。


「私も気になるなあ、ハーネイト君」


「早く使いたいなぁ。私も魔法使いになれる?」


「具現霊との連携は試さないとね。後、敵との相性もか」


「先生は、偉大な魔導師なんだよな。俺も、その技術の勉強したいな」


 あの場にいた渡野もジェニファーも、彼がCデパイサーから放った霊量超常現象に興味を抱き、自分たちもその使い手になった方が貢献できるのかなと思い、彼の左手に装着されたCデパイサーを見ていた。


「てーか先生はどんだけ研究好きなんだよ。実用化できたら、頼むぜ先生」


「ああ、勿論だ。さあ、今日はもう解散して自由にして」


「今日は帰って休もうかしら。先生、本当にすみませんでした」


「……私に謝ってどうする。全く、今日は休んで、明日からまた励みなさいな」


「分かりました、先生。では失礼します」


 響は先生が本当に何者なのかますますわからなくなりそうだったが冷静になり、新機能の配布を楽しみにしていると言い、ハーネイトも任せておけと妙に自信ありげな表情を見せていた。


 一方で彩音の謝罪に対し少し冷たく、しかし励ましの言葉を送ったハーネイトは引き続き研究をして、夜にまた調査に向かうことを告げると研究室に向かった。


 伯爵とリリーは少し呆れながらも、熱心に取り組む彼の後ろ姿を見てから彩音たちと共にレストランに行き食事を楽しんでから各自帰宅したのであった。

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