第113話 2人の覚醒と新技術・CPFバーストモード



「きゃああああ!」


「悲鳴?まさか」


「待ってよ彩音さん!」


 デパートの屋上の方から、女性の叫び声が聞こえた。それは聞いたことのある声で彩音はすぐに走り屋上まで素早く向かった。


 そうして屋上のドアを開けた瞬間、目を血走らせた男に襲われそうになっている渡野と目が合った。


「もしかして、これって……。いえ、魂食らう獣によるものじゃない」


「わ、渡野さん!?どうしたの一体」


「彩音ちゃん!ちょうどよかったわ、この男がいきなり襲ってきたのよっ!」


「今助けるわ、この、離れなさい!」


 幸い周りに人はおらず、彩音はすかさずCデパイサーを起動し弁天を現霊召喚、一気に間合いを詰め男へ迫り攻撃する。しかし予想以上に男の腕力が強く音叉薙刀の一撃を受け止められ吹き飛ばされた。


「きゃあっ、思ったより力が強いわね……」


「これ、が、あの化け物の仲間?でもあの時のと見た目も雰囲気も違うわ」


「どうしよう、どうすれば……っ」


「私が戦うわ、今のうちに逃げて2人とも!今の貴女たちではあれには歯が立たなすぎるわ!」


 うろたえる渡野とジェニファーを守るように立ち回りつつ、彩音は2人にCデパイサーでハーネイトたちに連絡を取る様に指示する。


 2人とも装置を所持していることは把握していたので、自身は化け物じみた力を持つ男の相手に専念したいと思いそう指示を出したのであった。


「ハーネイトさんにどうすれば連絡が……これを押せばいいのね」


「ちょ、彩音さん!」


「くぅ、動きは遅いけどパワーが、っ」


「彩音さんの背後に、誰かがいる!?」


 2人は指示通りにCデパイサーの緊急連絡ボタンを押しハーネイトと伯爵に直接連絡が取れる緊急通信を行い、応対したハーネイトは事情を聞き速やかに向かうといった。また、男の特徴を聞くと一気に彼の声色が変わる。まるで性格が変わったかのように、冷たく悲しい声を聴き2人はぞっとする。

 

 そんな中、渡野だけでなくジェニファーも、彩音の具現霊を目ではっきり捉えていた。


 故郷で見たあの獣よりもはっきりしているその存在を見ていると、2人はある感覚が体を駆け巡ったのを感じた。


 そう、彩音の放つ霊量子の力が強すぎて、半覚醒状態の渡野とジェニファーまで伝わっていたのであった。


「きゃあああああっ!」


「彩音ちゃん!」


「逃げて、2人とも、渡野さんもまだ、力が……」


「折角できた友人を、放っておけないわ!」


 力任せに男は腕を振るい彩音を軽々と吹き飛ばす。そして屋上建屋の壁に激突する彩音を2人は介抱するがその時、2人の体に異変が起こる。


「頭がっ、うう、こんな時に!」


「私も気分が悪い……わ」


「嘘、こんな時に幻霊の試練?先生、早く助けに来てっ!」


 よりによってこんなタイミングで2人に試練が来るなんて、彩音は戸惑いながらも覚悟を決め、何としてでも2人を守ると立ちはだかる様に構えた。


 2人は男の放つ霊量子の波動も受け、覚醒が始まろうとしていたのであった。

 

 その時、2人は幻聴と幻覚の中で、その主である幻霊と向き合っていた。ジェニファーは、今は亡き祖母の幻霊を、渡野は幼き二人の子供の幻霊と短く言葉を交わし、ある決意を固めた。


「私だって……!おばあちゃんの仇を、そして行方不明になった友人を助けたい……!何よりも、せっかくできた友達を、失いたくない!!!」


「ならば、私の手を取るのじゃ孫よ。力を貸すには、そうするしかないようだからねえ」


「お、おばあちゃん、また会えて、嬉しいよ」


「フィーネのことが心配でねえ、私がいなくなって、どうしたものかと思えばこんな場所にいるとは」


「うん、もう……私決めたの!ハーネイトさんって言う人の所で、働くって!自分と同じ思いをする人を、1人でも少なくしたいの」


「そうかそうか、フィーネよ。その未知は険しいだろうけど、私はずっと応援しているからな。さあ、私に力を」


「うん、おばあちゃん!」


 亡き祖母と会話し、ジェニファーの溢れる思いが心の奥底から沸き上がり、それが彼女を支えなんと潜んでいた幻霊と共鳴しすぐに形を結んだのであった。


「縁を結び、現世(うつしよ)に現霊映し出す者よ。我が名はカラミティ。焔弾と魔銃にて汝を護る者なり!」


 こうして、先にジェニファーが現霊士として目覚め、具現霊カラミティを手に入れたのであった。


「力を貸して、カラミティ!!!」


 いつもの気弱な彼女と打って変わり、勇ましく堂々としていた。


 これがある意味彼女の本当の姿なのかもしれない。語気を強め彼女は祈りを込め、精神を統一する。


 すると彼女の背後に、体を所々包帯で巻いたウェスタンハットをかぶった女性ガンナーが出現した。手にしたリボルバーをくるくる回し、華麗に構え射撃体勢に入る。



「お姉ちゃん、一緒に行こう!」


「ええ、もう離れ離れになることはないわ!いとこの命を奪った犯人を、私が倒す!だから、私に力を」


「うん、手を出して、ぎゅって握って!」


 一方、少し意識がもうろうとする渡野だったが、ようやく彼女も幻霊の正体が分かった。その声の正体は、故郷で亡くなった幼い姪の声だった。


 そう、彼女もまた、親族を魂食獣と死霊騎士により奪われた被害者だったのであった。命の危機に反応し、幻霊は彼女の意思に答えここにきて能力が目覚める結果となった。


「縁を結び、現世(うつしよ)に現霊映し出す者よ。我が名はピクシア。自然と加護にて汝を護る者なり!」


 渡野の体が光り、それが男の視力を一時的に奪う。彩音も目を急いで瞑り、開いた次の瞬間、渡野の傍に小さな妖精が現れていたのを目視で確認した。


「さあ、反撃開始よ!」


「お姉ちゃん、あれを倒せばいいのね!」


 ジェニファーと渡野は強い目つきで憑鬼を見つめ、次の瞬間具現霊をそれぞれ飛ばし攻撃を仕掛けた。


「そうよ、カラミティ!」


「ええ、あれは悪い化け物よ、早く倒さないと!」


 カラミティは手にしたリボルバーから霊量弾を放ち憑鬼に数発当て、ピクシアは念を込めて周囲に生えていた植物を成長、操作し憑鬼の体を拘束した。


「グガ、グギギギギッ!!!」


「っ!今の私たちでは動きを抑えるのが精いっぱい、だわ!」


「そのよう、ね!この、このこの!」


「ガギャアア!」


「わあああっ!」


 ようやく動きを止めることはできたが、それでも今目覚めたばかりの力を二人が完全に扱えることはなく、怒りに身を任せた男が拘束を思いっきり振りほどいてしまう。


 そんな時、上空から人らしき何かが降ってくるのを3人は確認し、声を聞いた瞬間勝利を確信したのであった。それは、戦神の降臨である。


「待たせたな!今終わらせる!霊量超常現象(クォルツ・パラノーマルフェノメノン)3詠装填……装填完了!鎖天牢座・五光牢・魔柱鉄杭、一斉射(フルバースト)!」


「グギャアアアアッ……!バ、カ、なあ!」


 次の瞬間、男は空からハーネイトが放った、幾つもの拘束技により完全に身体の自由を奪われる。


 その刹那、それは真っ二つに切られていた。頑健な胴体が別ち地に落ちると同時に、その場には普段彼が装備している刀とは違う、刀身の巨大な包丁のような見た目の大剣を手にしたハーネイトが静かに立っていたのであった。


「せ、先生!」


「調査で遅くなった、すまない。無事かみんな」


「どうにかね先生。今の化け物、見た目に反してすごい力だったわ」


 彩音は戦った敵のことを言い、自身がまだ力不足だということを痛感したことを話した。ハーネイトの背後で、切断された男の肉体から膨大な血が溢れだす。


「彩音、渡野さんが連絡を入れてくれなかったら危なかったところだ。全く、戦う前に、一報入れてくれ。もう少し早くな」


「本当に、申し訳ありません。緊急事態だったもので」


「事情は分かった。しかし、命を大切に、だぞ。いくら私の力がそれに宿っていると言っても、無茶はできん。まあ、このくらいにしておこうかね」


 配布されているCデパイサーはどれも、ハーネイト本人が創金術でパーツを生み出し組み立てている。それはいわば、神具でもあり途轍もない力を秘めている。


 そのため彼の力が一部連動するという副作用があったが、それでも限度はある。命を大切に、それを彼はもう一度3人に説いたのであった。


「それと、渡野さん、ジェニファーさん、体の方は」


「まだ少し頭が痛いけど、もう平気よ」


「大丈夫ですハーネイトさん。ありがとうございました」


 2人の様子がおかしいことは通信越しに分かっていたため、飛ばしてやってきたのだが既に落ち着いており、なおかつ2人の傍にそれぞれ具現霊がいたことに気づきいつになく真剣な表情を彼は見せた。


 既に渡野については、いつ目覚めてもおかしくないとは彼も思っていたが、問題はジェニファーまで戦える土俵に立てる力を得てしまったことであった。


 また、絶命した男の周囲を染める血を見たハーネイトは、やはり血徒によるものであり、男は感染末期で今にも変異体になりそうな状態であったと判断する。


 既に連絡で、暴れている男は血徒に感染し絶命した吸血鬼ゾンビ、いわば血屍人となっていると判断し、特殊な走術「神速閃脚(ディユ・リュミエール)」を使い猛スピードで駆け付けたのであった。


「悪いが、血徒には容赦しない。霊量分解(クォルツ・デストルクシオン)!」


 すると、肉体も血海も、あっという間に光となって虚空に消え、その光がハーネイトのCデパイサーに取り込まれたのであった。


「あれ、血徒だったの……って、私大丈夫よね?」


「大丈夫だ、君の霊量士防御の方が上だったみたいだし、そもそも血しぶきを浴びてなければ基本大丈夫」


「そ、それならよかったあ。先生、ありがとうございました」


「間に合ってよかったよ。血徒に対する戦い方を、まだ教えてないからね。しかしまさか、このタイミングで、しかもジェニファーさんにまで能力が目覚めるとは。やはり過去にあの化け物に襲われたこと、あったでしょう?」


「隠していて、すみませんでした。私の彼氏が、私をかばって……それで」


「話したくないこと、だったか。……はあ、ひとまず事務所に行こうか。幸い、今のを見ていた人たちはいないようだし」


 その後ハーネイトは、壊れた壁や荒れた地面を素早く創金術で治し、証拠を隠滅してからみんなをホテル地下の事務室まで連れて行き、改めて何があったのか事情をすべて聞いた。


 ジェニファーがそういう経験をしていたことを聞き、早く事態を収拾しなければならないと彼は思っていた。彼女の見せた悲しい顔が、彼の心に突き刺さっていた。


「じゃあ、渡野さんはともかくジェニファーさんも、改めて私たちと共に戦いたいと?」


「はい、私に戦う力を、教えてください。もう、あんな目に合うのは嫌です」


 渡野もジェニファーも、決意は固かった。既に覚悟を決めた目だ、そう感じたハーネイトは、もう一度意思を確認し、揺らぐことがなかったため新たに彼女を仲間に迎え入れたのであった。


「了解した。じゃあこのCデパイサーを授けよう。色は何色がいい」


「菫色ってできますか?亡くなった彼氏が、好きだった色なのです」


 ジェニファーに渡していたCデパイサーを一旦回収し、改めて正式版としての機能をインストールしてから、色の指定を聞いたハーネイトはすぐに改造し、彼女に手渡した。


 これでみんなと共にいられる。事件のことも、自分のことも理解してもらえるこの場が、住んでいた故郷よりも居心地がよくほっとできる場所となっていたのであった。


 だからこそ、みんなを守れるように、ずっといられるように、ジェニファーの覚悟は他の人たちとはまた違う、強いものであった。


「はい、これを手にした時から、君も過酷な運命に抗う一人の戦士だ。同士と共に、脅威を打ち払おう」


「はい、ハーネイト先生。私、諦めませんから」


「ジェニファーちゃん、改めてよろしくね!」


「あの、ハーネイト君、って呼んじゃダメかな……」


「ああ、ええ……構いませんよ綾香さん。よほど変な呼び方をしなければ、ね」


 渡野は顔を赤らめて、ハーネイトに対しそう言いより親密な呼び方がしたいなと申し出た。


 彼女にとって彼は、命の恩人でもあるが同年代の友達のようにも思えて仕方なく、不意に言葉を口にしたのだがハーネイトは嫌がることなくにこっとして承諾した。


 本来圧倒的に立場が上なのはハーネイトであり、彼の直属の部下であるミレイシアやサインがそれを聞いたら粛清にかかるかもしれないほど、渡野のそれは恐れ多いことであったが、当の本人は不思議な感じだと思いそう呼ぶのを許可したのであった。


 その後ハーネイトは渡野のCデパイサーも一旦回収し調整してから、彼女に渡したのであった。


「渡野さんも、力の覚醒おめでとう」


「少し複雑な気分だけどね、ハーネイト君」


「そうだな……つらいことを乗り越えなければ、その力は手に入らないからね」


「でもね、私貴方に会えたこと、とても嬉しい。それは本当よ。最初に会った時から、気にはしていたんだけど、こんな形で行動を共にすることになるなんてね」


「それは私もだよ。ああ、そうだ。今度観光案内を頼む」


「はい、任せてください!」


 渡野は率直な気持ちを伝え、これからもよろしくねと言った。ハーネイトは彼女の手をやさしく握り握手をし、今日のことをねぎらいながら相談があればいつでも乗ることを伝えた。


「ジェニファーさん、一緒に鍛えましょうね」


「はい、渡野さん!」


 そうして、新たな仲間ジェニファーと、渡野の力の覚醒により彼の率いるレヴェネイターズの戦力が一段と強くなっていくのであった。

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