第110話 事務所を訪れたジェニファー
「先生、連絡のあったジェニファーという女の子を連れてきました」
「そうか、君がジェニファーさん?」
「は、はい」
「まあ堅くならずに、そこのソファーに座ってね。飲み物は何がいいかい?」
ハーネイトは優しげな顔でそう言いながら、ソファーからふわっと立ち上がる。
例の装備をデータ化し反映する技術に最近は勤しんでおり少し髪が乱れており、眠たそうにしていたが仕事モードになると素早く整え応対する。
彼の質問に対し、ジェニファーはブラックコーヒーを一杯頂きたいと言い、彼は手早く用意してから彼女のテーブルの前にカップと砂糖をそっと置いた。
「はい、どうぞ。ジュースとかもあるけどいいのかい?」
「い、いえ……」
「ど、どうしたのかな?まさか私の顔が怖くて、とかではないですよね」
「いえ、そうではなくて……はい」
ジェニファーは恥ずかしそうに眼をそらす。ハーネイトは、自身の目つきが怖くて彼女はこちらを見てくれないのかと思いそう言うのだが、彼女は彼の顔を一目見て、勇気を振り絞り思っていることを口にしたのであった。
「か、かっこいいなと!」
「え、ああ、あああ?そ、そか。それならいいんだが。いきなりだから驚いたよ全く」
「なっ、なんか力が抜けたぜ」
「私もよ、最初びくびくしていて、大丈夫かなと思っていたけどあれなら大丈夫ね。というか面と向かって堂々と言えるの凄いなあ」
互いに顔を赤くしている光景を見た響たちは思わずぐだっとなり、珍しい先生の慌てた顔を見てにんまりしていた。
翼も二人の後ろから見ていたが、ハーネイトの普段見せない表情を見て驚きながら、彼は結構恥ずかしがり屋というか、うぶというか、すぐに顔が赤くなるタイプの人なのだと思ったのであった。
「あ、兄貴。俺たちはレストランで食事取ってくるんで」
「そうか、ゆっくりしていきたまえ」
「何食べようかなえへへ。新作のスイーツ頼もうかしら」
3人は話ながら事務所を出て、レストランに行くためエレベーターに乗った。それを見ていたジェニファーは、羨ましそうにしていた。
「いいなあ……」
「よかったら、後でレストランに寄るといい。これを渡せば実質無料で食事が頂ける。まあ私のお金なんだけどね」
「あ、ありがとうございます。えーと、お名前を聞かせてもらいたいのですが」
「ああ、私はハーネイト。ハーネイト・スキャルバドゥ・フォルカロッセだ」
ハーネイトは名を名乗り一礼する。ジェニファーは聞き慣れない名前に驚くも、そこもかっこいいなと思っていた。
「少し変わった名前ですね……でも、いい響きですね」
「フッ、それはどうも。父方の名前を継いでね。んで一応君のフルネーム、か。それを教えてほしい」
ジェニファーは自己紹介を行い、最近日本に来たことを話した。それについてハーネイトも自身も同じだというと彼女は少し笑顔になった。
「ジェニファー・ローレンス・フィーネさんか。改めてよろしくね」
「はい、ハーネイトさん」
「では本題に入ろうか。連絡は受けていたが、事件って一体何が」
ジェニファーは、静かに故郷で何があったのかを話した。それをじっくり聞いたハーネイトは、一通り聞き終えてから話を切り出した。
「……それ本当かい?そういう事件は、ふつう報道とかされるんじゃないのかい?」
「皆さん、信じていないですよ。それに……怖くて事実から誰も目を逸らしています。でも私は見たのです。その誘拐犯の犯人を!」
「響と彩音のケースと同じだな」
彼女の話によれば、約1年前から町に住む人が数名行方不明になっているという。しかも不審死も相次いでおり、一向に現地の警察も犯人の確保に至っていないという。
そもそも、どうやって侵入したのかまるで分らなかったり、死因も不明だったりとかなり不可解な点が多いという。
そんな中ジェニファーは、事件を起こしている犯人を見てしまったという。しかも現行犯で見たと言い、言葉を口にするたび体を少し震わせていた。
「……こういうものか?」
ハーネイトはある推測をし、机に置いてあった資料から一枚の写真を手に取り彼女に見せた。
「似ています……でも巨大なサルのようでした。とてもこの世の生き物とは思えません」
「そういうものだこれは。魂を食らう獣。それがこいつと君が見たものの正体だ」
「そんなものが……ええ……っ、私の彼氏を、奪った正体がっ」
どれだけ調べても、人に聞いても分からなかったその正体がようやく分かり腑に落ちた彼女であったが、こうもあっさりとわかったことに今までの苦労は何だったのだろうと肩を落としていた。
それほどに情報が少なく、しかし事件は起きていたのであった。それと付き合っていた同年代の彼氏の命を奪った正体も魂食獣であることに、彼女は涙を浮かべていた。
「ジェニファー、これが見えるといったな。その前に、何かケガとかしていないか?」
「いえ……」
「そうか、元々そうなのか分からんな。あれを目にすることができること自体がレアだ。君も気を付けた方がいい」
なぜ彼女がそれを見ることができるのか謎に思いながらも、今はそれよりも彼女の故郷で起きた事件について更に聞くべきだと思いしばらく彼は話を聞いていた。
「私たちはそう言う存在を倒すためここにいる。だが人手が足りなくてな」
「そうなのですか?」
「これが見えるなら、例の光る亀裂も見えるだろう?その中に奴らはいるんだ」
「えぇ、それなら至る所に……でも近づかないと見えませんけど」
ジェニファーも、日本を訪れてから感じた異変を離し、ハーネイトは既に彼女も半覚醒状態に入っていると判断した。
「そういうものだあれは。……つらいこと、思い出させてしまったか」
「……いえ、逆に話して、きちんと聞いて頂けて、ありがたいです。地元でそう言うのを見た人がいなくて、それで……それが辛かった。ちゃんとこの目で見たのに嘘つきだって、もうそれが嫌でここに来たのもあるのです」
ジェニファーは涙を浮かべ、故郷でのつらい仕打ちを思い出していた。時には自身が犯人だと言われ彼女の心は傷ついていた。
だからこそ、優しく癒すように語り掛けるハーネイトは彼女にとって大きな支えとなった。
同じ物が見え、そしてあの化け物を倒せる。今の彼女にとってこれほど頼れる人はいなく、事件に巻きこまれ亡くなった彼氏とハーネイトの優し気な顔がどこか重なり、涙があふれていた。
「大丈夫だ、見える私たちがついている。何かあったら頼るといいジェニファー。1人じゃないんだよ」
ハーネイトは彼女をなだめながらそっと右手を差し出し、握手を求めた。ジェニファーも恐る恐るそれにこたえ、彼の手を握る。
その手の体温が、普通の人より低いことに違和感を持ちながらも、なぜかほっとし彼女の緊張が解けていく。
「あ、あの、ハーネイトさん。響さんと彩音さん、それに翼君とはどういう関係なのですか?先生って」
ジェニファーは、学校で疑問に思ったことをハーネイトに質問した。
明らかにハーネイトの方が年が上でこうした仕事をしているのに、どこで接点を持ったのかが気になって仕方なかったのであった。
「……今から数か月前に、私と相棒である伯爵が」
「あいつらの命を救ったんだぜ。あの化け物に襲われていたところをな」
ハーネイトが一連の経緯について話そうとしたその時、偵察調査を終え帰ってきた伯爵が、事務所のドアを開けるな否や話に割り込んできた。リリーも連絡で聞いた客人を見て挨拶をしたのであった。
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