第108話 新技術・PM(プロテクシオン・マージナイザー)
「ここまで現霊士の力を持つ存在が増えるとは……本当にたまげたなとしか、言えない」
「勝手にたまげとけや、まあ、異常ではあるんやがな」
「もうこれ収集つかないんじゃないの?」
「どうにかするしかないけどねこれは」
フェス会場の事件から数日後、ハーネイト、伯爵、リリーはいつも通り事務所内で話をしていた。
紅茶を飲みながらハーネイトは力のある存在が増えることに複雑な心境を抱いており、伯爵とリリーは本当に今のままで大丈夫なのかと投げかけるが、ハーネイトはどうにかするという。
「響たちを初めとして、皆は間接的に、私たちの手で本来進めるはずの人生を捻じ曲げられた」
「あまり責任感強いとつぶれるぜ、まじでな」
「だが、不本意で力を身に着けた人もいるだろう」
「それはあるだろうけどよ、事件で命を落とすよりは数段ましだろ。見殺しになんてはできねえしな」
ハーネイトは今回の一連の事象に関して負い目があった。もっと早く自身が自覚し、事を早く起こせば彼らもつらい思いや体験しなくてもよいはずの経験をせずに済んだだろう。
結果は結果で覆せないことは理解していても、割り切れない様子で伯爵とリリーは気負うなというが、それでも彼は背負い込んでしまう。これは彼の性格がそうさせるものであった。
「おはようございます先生」
「おはよう先生!」
「私も来たわ、フフフ、おはようございます」
そんな中、時枝と間城、星奈が朝早くにホテルの事務所を訪れ3人対して元気よく挨拶して入ってきたのであった。
どうも今日は春花九条学園の高等部自体が休みで、何かを見せたい様子で時枝が大きな箱を抱きかかえていたのを見て何があったのか疑問に思っていた。
「3人ともどうした、朝早くに」
「いえ、あるものを見ていただきたいと思いましてね」
「この箱の中にあるのですよ」
「なんだそれは、気になるな時枝」
「今開けますので少し待っていてくださいハーネイト先生」
時枝はテーブルの上に抱きかかえていた箱を静かに置き、丁寧に封を開けて中にあるものを取り出した。
「はい、これなんですが」
「これは、どこで見つけてきた」
ハーネイトの目つきが変わる。時枝たちはそれを見て、見せた代物が只者でないことは理解した。
そう、それは特殊な金属でできたと思われる騎士が身に纏うようなプレートアーマーの胸部パーツであった。ハーネイトはどこで手に入れたかすぐに確認を取る。
「異界亀裂の中でTミッション中に発見したものです。防具か何かだと思いますが、すごそうな力を……」
時枝はこの防具に関しての入手経緯について、詳細を報告する。
フェスの後に発見した、春花の西側にある大きな住宅街の、とあるマンションの異界亀裂の内部を探索していた際に偶然見つけたものであり、先生にこれがどのようなものかを解析してもらおうと持ってきたというのが今回の1件であった。
「その通りだ、これは並のアイテムではない。でかしたな時枝」
「やるじゃねえか、こいつは強ええ装備品だ」
「へへえ、やるじゃない君たち」
「それはうれしいですが、どういう代物ですか?見るからに装備品ですよね」
「身に着けると能力が増えるとか?」
とても嬉しそうなハーネイトの顔を見た時枝たちは自身らもうれしくなり、伯爵とリリーも3人をほめていた。
それから時枝の質問に、ハーネイトは一旦冷静になりながらこう答える。
「魔法具と呼ばれる防具品の一種だな。等級は……やはりか、かなりすごいものだ。恐らく500年以上の、少なくとも力のある戦士が身に着けた防具であることは間違いない。なぜそんなところに」
「そんなに、すごいものなの?」
「ああ、おそらく攻撃系と回避にボーナスが付く感じだな。エピック級ね……」
「それ、俺たちは装備できるんですか?」
「できなくはないが、重いだろこれ」
ハーネイトが一通り防具を見た結果、かなり質が良く特殊な効果を秘めている価値のあるアイテムであることが分かり拾った時枝たちは嬉しそうにしていた。
その装備を自身で装備できるかと時枝はハーネイトに尋ねたが、どう見ても軽く胴体部分で20キロほどはありそうで、それについて彼は指摘する。果たして、それを装備してまともに今の自分たちは動けるのかということである。
「た、確かに。俺は後方支援型だからあまり動きはしないが、これを着こむのは」
「私は到底無理ねこれ。かっこいいけどなあ」
「なにか、いい方法はないのですか?」
ハーネイトはしばらく考えていた。するとあるアイデアを思いつく。それはある意味滅茶苦茶な方法ではあったが、意外と理にかなった方法でもあった。
「よし、この装備品のデータを解析しCデパイサーに組み込み、RGEと似た強化システムとして反映させてみようか。そうすれば実際に装備していなくても、効果を使えそうだな。ハハハハ」
「えぇ……いくらなんでもそれってどうなの?聞く分にはすごいと思うのだけど先生」
ハーネイトが出した唐突な提案に間城は本当にできるのかと疑問を抱く。確かにこの先生たちならばそう言うこともできなくなさそうであるが、どういうふうに反映させるのかいまいちイメージがわかず、防具をそのままCデパイサーに突っ込むのかと思っていた彼女であった。しかし
星奈は意図を理解し、できた場合に得られる恩恵の大きさに驚く。それと、ハーネイトは付け足して人ではなく物を電脳データとして取り込んで利用するなら自身の持つ能力の1つと合致するためやりやすいという。
「でも、実際に装備してなくても同様の効果が得られるのはすごいですわね。そういうことでしょ?」
「その通りだ星奈」
それを聞いた時枝と間城は確かにすごいと思ったが、どうすればそんな思考ができるのかハーネイトのかを見ながら疑問を抱いていた。それは伯爵とリリーも同じであった。
「っとに、おめえの頭どうなってんだよ」
「まーたロイ首領に目を付けられそうなこと考えちゃってさ。でも、そういうところ好きよハーネイト」
「……っ、と、とにかくこの装備は預からせてくれないか?」
妙な発明をしていると先日の霊量超常現象(クォルツ・パラノーマルフェノメノン)の時の様に、ロイ首領から何を言われるか分からないとリリーは指摘するが、彼ら若き霊量士たちのために日夜心血を注いで研究に没頭し、形を作るハーネイトの後ろ姿が好きな彼女は、率直に気持ちを伝える。
それを聞いたハーネイトは少し顔を赤くしながら、時枝に装備品の解析を行うため預かっていいかと質問し、それに彼も快諾したのであった。
「これも、みんなを強化するためなんだ。おそらくTミッション及びAミッションにおいて、こういうアイテムが今後も発掘なり発見なりされると思う。その時は大事に持ち帰ってくれ。データ化できれば複製も容易だし、ゴッド級でもない限りはうまくできると思う。だが少し確立化するまで時間をくれ」
どこまでうまくいくかまだ分からないものの、うまくいく自信はあったハーネイトは全員にそう伝え、Tミッションなどでもしレアなものを集めた場合は事務所まで運んできてほしいとその場にいた全員に伝えた。
「そ、そうですか。先生、頼みます」
「なあ相棒、それは俺たちにも適用されるのか?」
時枝たちは一礼し、解析をハーネイトに任せることにした。伯爵は少し考え、そのシステムは自分たちにも反映され強化プログラムとして使用できるのか質問した。
「うーん、恐らく私たちは滅茶苦茶必要かと言うと少し疑問だが、あるに越したことはないと思う」
「だな、特に相手がヴィダールならよぉ、どんな万全な対策もしっかりしねえとな」
「そうね。2人とも、頼むわよダーリン?」
「フフ、了解した」
そうして3人は、時枝の持ち込んだ防具を解析するため研究室に向かい、一日かけてデータ化に成功し、Cデパイサーに組み込めるか確かめていた。
数回データを受け付けず反映されなかったが、微調整を加え5回目にしてようやく認識と同調に成功したのであった。
これを配布し、不足している能力面を補えばより戦闘や探索などで有利に立ち回れる。ハーネイトは終始嬉しそうな表情を見せPCの画面を見ながらピアノの鍵盤を弾くような感じでキーボードを華麗に打ち作業を続けていたのであった。
その翌日、春花九条学園高等部にある彩音たちのクラスではある話でもちきりであった。
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