第102話 探索ミッション・霊量片回収任務
「これが、あれに必要な霊量片か」
「じゃんじゃんあつめようぜ。宝集め大好きだし」
「九龍、お前そういう一面あったんだな」
「えええ、だってさ、きれいじゃん。きれいなの集めるの楽しいぜ」
「お前は光物欲しがるカラスか鮮那美」
九龍の言葉に五丈厳は呆れながらそういうが、意外な一面を見ることができて少し面白いと思いながら彼はせっせと資源である霊量片の回収を真面目に行っていた。
がさつで粗暴に見えるこの男だが、内面は愚痴は言うが仕事はきちんとこなす真面目な一面があった。それは、ハーネイトのおかげで生活が著しくよくなったからという理由がある。
そんな五丈厳を見ながら文香も楽しそうに駆け回りながら、地面に落ちている宝石を手にとっては見惚れつつ、回収作業を行っていた。
かなり宝石の状態は良く、中にはすでに誰かの手によって加工されていた宝石も存在し、彼女は目をキラキラさせていた。
「ったく、兄貴も人使い荒い!だけど、楽しいなえへへへへ。これで強化できるんなら、いくらでも集めちゃうんだから!」
「すっかり素の姿が……今まであいつのあんな姿、見たことねえ」
「恋する乙女は、色々変わるものよ」
「そ、そうなのか?てことはやはり兄貴を狙っているのか?ぐぬぬ、俺だってぇ兄貴のことっ!」
九龍は友人である天糸の変わりぶりに戸惑っていたが、後ろで黙々と回収作業を行っていた星奈がそう声をかけ、確かにそれはわかると納得した彼女はニコッと笑った。
「星奈ちゃんか、まあ言いたいこと分かるぜ。へへへ。あれ、間城と彩音は?」
「2人とも休憩して駅前のバーガーショップにいるわ。手際本当にいいわね、古参組は流石だわ」
「ちっ、俺も腹減ってきたぜ」
話を聞いていた五丈厳がジェスチャーで腹が空いたとアピールする。それに時枝も便乗する。大分時間がたっていたのと動き回っていたため、全員腹をすかせた状態になっていた。
「早く終わらせて、間城たちと合流して昼食を取ろうじゃないか」
「ほう、珍しく気が合うな時枝」
「そうかい?」
そうして収集作業を終えた彼らは、彩音たちのいるバーガーショップに行く途中ですでに食事を終えた2人と合流した。
「おーい間城!それに彩音さん!」
「時枝君!それにみんな、あれ終わったの?」
「いっぱい集めて来たぜ。っ、お腹空いてきた……早く昼飯食べたいぜ」
翼はおなかに手を当てながらへへへと笑い、それを見た彩音はある提案をした。
「だったらホテルのレストラン行きましょう?私たちは格安で食べられるのだから」
五丈厳もよく働いたため大分疲れ、腹と背中がくっつきそうなほどにすいていた。しかしどうしようか決めあぐねていたがその提案に乗ることにした。
彼らはハーネイトのおかげで高級ホテルの料理を実質只で食べられる権利を獲得している。
誰もがうらやましがりそうだがその分彼らは危険な仕事をしているため、福祉厚生を第一にするハーネイトらしい組織員特典である。
そうしてホテル・ザ・ハルバナを訪れたみんなは、フロントでCデパイサーを操作していた響に声をかけられた。
「本当にそこらへんは、あの先公やるなと思ってしまうぜ……行くか」
「まあ、私たち働いているのだから特権ぐらいあっていいわよね」
「フッ、五丈厳でさえこれだからな」
「んだと!」
響は会話を聞いており、あの荒くれものである五丈厳でさえハーネイトに懐柔されているのを見て改めて、先生のすごさを実感していた。それから相変わらず突っかかってくる五丈厳をいなしつつ響も例の物を集めてきたところだという。
「フッ、俺は先に事務所にあれ、置いてきたところなんだがどうした?」
「俺たちも集めて来たんだよ全く。なんで……」
「のわりには強くなれるアイテムを探すときのあんたの目、まるで獲物を狙う獣だったぜ」
九龍の指摘に対し五丈厳は、いつになく真剣な表情で、声を低くしてこう話した。
「フン、俺は約束したんでな、死んだ友の分まで、戦うとな」
「須佐野のことか?」
「ああ。俺は群れるのが好きじゃなかったが、あいつだけは色々ウマがあってな。それと、弟や妹の学費とか稼ぐためにあの先公の下で働くのが一番あれだと思っただけだぜ」
「そうか……俺も、親父にいろいろ言われないように鍛えなきゃなあ」
五丈厳にはある誓いがあった。それは死んで具現霊になった友人の分まで自身は戦い続けるということであった。
今行っていることも、強くなるための過程ならばどんな内容でも受け入れる。それだけ彼の覚悟は強く堅いのである。
「今度皆で模擬戦でもするか?鍛えるほど、精度が増すのだろ?先生が言っていたし」
「やるやる!いいじゃん、そういうのやろうよ」
「っとに天糸はよ」
「私のワダツミも、もっと腕を上げたいって言っているわ」
そう言っている間にレストランに着き、全員がそれぞれランチを注文し仕事の後の食事を楽しんでいたのであった。
学生たちが食事を取っている頃、渡野は修行空間から出て、資材を運ぶハーネイトに声をかけた。
既に必要な宝魔石を集め、それを研究室に運ぼうとしていた彼は、後ろからの声に振り向いて対応する。
「あの、ハーネイトさん?」
「渡野さん、どうかしました?」
「少し相談があるのですが、時間あります?」
「ええ、午後4時までなら特に」
そうして渡野はハーネイトと共に事務所まで行き、話の本題を切り出した。それは、自身の能力に関してのことであった。
「私、本当に素質あるのでしょうか」
不安そうにそう述べる彼女に対し、ハーネイトは昔の自分とどこか重なっているなと思いながら、率直に思っていたことを彼女に話した。
「その件か、まずそもそも、あの空間から生きて出られたこと自体があれだ、資質があると言っていい」
ハーネイトの言うことは事実であった。まずそもそもあの亀裂空間を感じ取り中に入って、しかも平常でいられること自体が希有なセンスであり、その点でまず彼は3人を評価していたのであった。
元々あの行方不明事件に関しては一定の能力を持ちうるものだけが、あの装置に引っかかり強制転送させられる代物ではあったのだが、もし適性のない人があの異界空間の中にいると最終的には発狂し絶命するという。
「でも、ハーネイトさんや響君たちがいなかったら」
「運も実力のうち、というではないですか。まず能力を持つ人以外、あの空間は認識すらできない。そして敵も狙ってこない、それが証明になりません?」
渡野の表情や雰囲気を察したハーネイトは、彼女に対し自身を卑下することを言うなと遠回しでいいながら素質の高さを評価していた。
「なんかあまりうれしくないような……でも、私だって早くみんなのために……」
「一般的に成人してからだと影響を受けた後、具現霊を手に入れられるのが遅い傾向にある。その分、強力な力が手に入るかもしれない。焦らずに、じっくりと向き合ってください」
「はい……あの、ハーネイトさん」
渡野はハーネイトの言葉にどこか納得がいかず、やや不満そうにしながら早く戦いたいと気持ちを述べる。
しかしハーネイトは、彼女に対して具現霊に関し分かっていることの1つについて説明した。
それは、具現霊と言うのは生まれてから今までの経験を一通り走馬灯の如く思い出し、その経験を武装化し、核である故人の魂と合体させ顕現させたものであるという内容である。
それゆえ、大人は一般的に振り返るまでの時間が長く、強力な具現霊が手に入る代わりに覚醒が遅い傾向にあるというデータを彼女に教えたのであった。
また、具現霊を行使できるのは、終わりがある命を持つ者に基本限られるという。振り返り立ち返り、今がある。それには終わりがあると分かった者が、霊量子運用能力を持っていた場合に現霊士としてそれを行使できる。
それ以外の存在、つまりヴィダールの気運を生まれた時から宿した者は霊量子を直接操ることができる代わりに、具現霊を発現させることは非常に難しいと説明する。
それを聞き、少し納得はしつつも渡野はまだ不安そうに、しかしはっきりと確認したいことがあると彼に質問をした。
「貴方は、その……神様、ですよね?」
「神という定義がどういうものかによるが、私の親は大世界という大きな入れ物を作った、超エネルギー生命体・ヴィダールだ。そういう存在を、というのなら私は神の息子、なのだろう。まあ自分はそんな実感まるでないんだけどね」
「そうなの?」
「ああ、自分の正体を知るまでは特にそうだった」
渡野の質問に対しハーネイトは、ヴィダールという存在をどう定義するかでそれは変わってくると言った上で、自分自身はあまりそういう存在だと思って生きてこなかったことを強調して伝える。
それは世界殺戮兵器として生を受け、人として育てられ、多くの人の陰謀に巻き込まれてきた。その影響を強く受け、自身は一人の人間としてずっと今まで生きてきたという自負が強い。
しかし周りの人たちが持たない異能の力を持つ体がどこかで受け入れられず、その点でかなり苦しんできたという。
世界の存在自体をなかったことにできるほどの力など、自分に必要ない。それよりも、理解してくれる人がそばにいて、ぬくもりを与えてくれるのが一番嬉しい。だからこそハーネイトは関係と新たな出会いを大切にしてきたという。
一般的な振舞いや思考などは至って人間の物であり、決して威張ることなく着飾ることもなく、その辺にいそうな好青年にしか普段は見えない。それがどうしても渡野には気になって仕方なかったのであった。
「……イメージしていたのととても違いすぎて、その」
「私は庶民派ヒーローだからね。他のヴィダールとは違う。それだけは覚えていて」
ハーネイトのその言葉とどこかあどけない笑顔を見た渡野は、微笑みが思わず出た。この人の飾らない笑顔に、自分はほっとしている。そう思った彼女は挨拶をしてから実家である花屋に帰っていくのであった。その間に彼女は音峰と出会い言葉を交わすのであった。
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