第101話 幻霊が訴えかける苦痛の声
亜蘭がホテルについたころ、彩音は、今住んでいる家の中で初音からある相談を受けていた。
響たちとの雑談のあと帰宅したところ、姉が涙を浮かべていたためどうしたのと尋ねたところ、話を聞いてほしいと言われしばらく話を聞いていたのであった。
「姉さん、それ本当なの?」
「ええ、死んだ友達、栄子の声が聞こえるの。苦しいよ、助けてよ、仇を取ってよって」
「ねえ姉さん、その栄子さんの死因って……」
「交通事故、よ。私の目の前で……ふらっと道路に吸い寄せられるような感じで、バイクに轢かれたの。助けようとしたのだけど、既に何か魂を抜かれていた感じだったわ。……あのバイク、そう言えば乗っている人の首が、っ!」
いつもは元気な姉が見せない表情を見た彩音は、ゆっくりと上京してから彼女とその友達に何があったのかを聞いていた。
「首がなかったの?えええ」
「ええ、そうよ、なぜ今思い出したのかしら、ああ、そうよ。それが原因で警察にうまく伝えられなくて……」
「確かに、普通信じてはもらえないよね、姉さん」
彩音は姉の話した内容がいろいろおかしいと思い、ハーネイトの言った能力の素質があるものがこの春花以外でもおり、狙われているのではという考察と結び付けようとする。
自分たちもそうだったし、ここ以外にも素質を持つ者はいるはずだ。怪事件も各地で起きているからこそ、彼女はそう思わずにいられなかったのであった。
「姉さん、その栄子さん、もしかすると誰かに狙われていたんじゃ」
「誰に狙われるのよ、ってまさか……彩音たちが戦っている……?」
「だとおもうわ。先生は魂を奪う霊的存在がいるって教えてくれた。それなら辻褄が合うわ」
あれだけの人ごみの中、バイクが何故姉の友達だけの命を奪ったのか、事件当時の現場状況などから彩音はそれが一番気になっていた。
特に狙われる点が思いつかないところからも、今起きている事件と関連性があるのではと思い姉にそう話したのであった。
「……うん、彩音、できる限りでいいから、あのハーネイトという男にどう助けられたのか、そして何をしてきたのかお姉さんに話してほしいな……私も、あの声にもっと向き合ってみる」
初音は今まで、その声を恐れ聞かないようにしていた。けれどそれは違う、向き合わないといけない声なのだと理解し、これからどうするか彩音に伝えたのであった。
その後、彩音はどうしてハーネイトという男と出会い、今に至るのかを姉に対し話すのであった。
「本当にすごいわね、でも人間じゃないって……見た目も心も、すごくイケメンな人じゃない」
「だから、先生はその……っすごい存在の子供だって。人、じゃないって……それで悩んでて」
「でも、いい人ね。あれはまさに人間よ。しかも彩音だけでなく、みんなに戦う方法を教えてくれるなんて、よくやると思うわ」
「一度狙われるとまた狙われやすいからって。先生のおかげでね、みんなとの結束がすごく強まったった感じがするの。色々と、頭上がらないわ。給与もたくさんあるし、あるルールを守っていればうるさくないし、彼も日々努力して気を配っているのが分かるの。要望もきちんと聞いてくれるし、お兄さんとしてはすごくいいな」
初音はハーネイトと話した印象をありのまま話し、彩音はどうすれば先生のことがうまく伝わるのか躍起になっていた。
昔から姉はどこか抜けているところがあるため話の内容がきちんと理解できているのかどうか心配しながらも、ハーネイトのおかげでよくなったことについて話すと初音はとても喜んでいた。
「友達がたくさんできて、私はうれしいわ。あの事件の後ずっと、彩音は……」
「うん、正直なんであんな目にって。でも今は違うわ。皆の代わりに、私たちが仇を討って、世界を守るの」
「無茶、しないでね彩音。それだけよ、言えるのは。私の唯一の血が繋がった存在はもう貴女しかいないのよ」
「分かってる、姉さん」
初音も、妹である彩音が良く無茶をする性格だとわかっているため、自分のペースを忘れないでと彼女に言う。
彩音もまた、姉と比較して好奇心が旺盛が故に、妙な事件に巻き込まれないでといったのであった。
それから2人は食事を取り、お風呂に入って歯を磨いてからベッドに入る。電気を消し眼を閉じると、初音は再び何かが聞こえるのを感じ意識を集中させる。その声は、あの友人の声であった。
「痛いよ……なんで、あんな目に……」
「栄子、なのよね……」
心の中で亡き友人に問いかける初音。彼女はとても苦しそうな声を出していた。
「栄子、ようやく貴女を殺した犯人に手が届きそうよ。……お願い、戦う力を私に分けて」
「初音……うん……」
「何としても、私は真相を究明して、彼女の墓前で報告するの。他にも同じ目にあった人がいるなら、私も彩音と同じように運命に向き合う」
初音は、未だに苦しんでいる友の声を聴いて、改めて自分も事件の真相を追うために戦う力が欲しいと思いながら、眠りについたのであった。
そのあと特に異変はなく、フェスの準備は進んでいた。ハーネイトたちは宗次郎の指示の下、フェスの会場整備に駆り出されていた。その間に彼は小さな亀裂を舞台の近くで見つけ、中に入ると宝魔石(ジェムタイト)を集めていた。
「ふう、これで大体集まった。元の場所に戻ろう」
「おい相棒、次は会場周辺の清掃だぜ。パパっとやって終わろうぜ」
「了解!」
「本当に何でも屋よね。お掃除から戦闘まで何でもやっちゃう」
「それが私たちなのだ。魔法でパパっとやって、終わらせよう」
亀裂の探知は意外と近くまで来ないと認識できないため、こういうことも間々あることだとハーネイトは思いながら嬉しそうに回収していた。
少しでも強化用の素材を集めていかないと今後の作戦に支障が出るため、3人は目を凝らしてアイテムを探し続けていたのであった。
その一方で響たちは、ハーネイトから指令を受けある亀裂の中で資源を集めてきてほしいという任務を受け行動していた。
その資源とは高密度の霊量子が含まれている霊量片と呼ばれる結晶に近い物質であり、霊宝玉ほどではないがCP集めには必要なため、宝探しのように集めてきてくれと言われた彼らは楽しそうに資源を回収していたのであった。
研究のためにも、現在力を封じられている先生のためにも、たくさん集めるぞと全員かなりやる気のようであり、せっせと探索しては霊量子リソースの回収に勤しんでいたのであった。
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