第96話 事務所を訪れた亜蘭と初音
「ふう、まさかこういうところで修業できるとは驚きだ、フフフ」
「いくらでも暴れていいのが気に入ったぞ」
そんな中スカーファと黒龍はそれぞれ、ハーネイトたちが作った模擬戦闘用の人形を相手に、ひたすら戦闘訓練をしていた。その姿を見ていた、筋トレをしていた剛人は声をかける。
「そうだな、ってお前らは誰だ」
「私は先日あの男の下に入ったスカーファだ」
「黒龍 戒斗という。まあよろしく頼む」
2人の自己紹介をし、自身も名乗った剛人は、2人が入った経緯を聞きまた妙な事件が起きていたのだなと理解していた。
今まで巻き込まれなかったのは奇跡だったのだろう、彼はそう思いながら重いダンベルを持って腕を鍛えていた。
試合のこともあるが、事件のことも気になる。道具をいくらでも使えるこの修練の部屋に感謝しつつ、早く自身も高校生たちのように戦えるようにならなければと必死に鍛錬を続けていた。
「今日は休みなのでここに来たがいくらでも鍛え放題はいいぞこれ。具現霊との連携も確かめなければな」
「韋車さんでしたか、私は田村という」
「そうですが、まあよろしくお願いします。しかしまあ、かなり多いですな」
「全く驚きだ。私の受け持つ生徒も力を持っておる」
一方で韋車も休日にここを訪れ、基礎訓練をしていた。少しずつ具現霊ことレイオダスとの連携が取れてきたという成長の実感に喜びつつも、じっくりと力を伸ばしていく。それを見ていた田村は声をかけ互いに話をする。
「……この先、私たちはどうなるのでしょうかね」
「一つ言えることは、思った以上な危機が訪れていることだけだな」
「確かに。……その前に力を身につけなければな」
まだ自身の具現霊を持っていない田村は、内心焦りながらもそう言い、今できる鍛錬をしようと早速取り掛かったのであった。
数名がそうして霊の修行空間で鍛えている中ハーネイトは、宝魔石(ジェムタイト)を手に取り何かを観察し記録していた。
その時、事務所のドアをノックしてきた者がおり、とりあえずハーネイトはリリーに応対させた。
「入って、どうぞですよ?」
「何だ、可愛らしい女の子が出てきたな」
「あら、かわいいねえ。あの、彩音からここが探偵事務所って聞いたのだけど」
「え、彩音さんの家族?」
「そうよ~私は彩音の姉の初音です」
来客かと思いリリーはいつになく柔らかな態度で応対する。リリーは初音の言葉に反応し、それに気づいたハーネイトは、机に置いてあった宝魔石を急いで片付けてから2人に入るように促した。
「お客さんですか。しかしここは……っ、宗次郎さんからの連絡か。分かりました。入ってそこに腰かけてください」
「フッ、なかなか悪くないな。秘密基地のようだ」
「そういうの好きなのかしら?」
「だが地下に構えているというのはどういうわけなのだ」
「色々訳ありなのかな?」
Cデパイサーに通知が来ており、来客者が向かっていることに気づいたハーネイトは、今ここを訪れたのがその2人だなと認識し丁重にもてなす。
入った部屋の周囲を見渡しながら、雰囲気を見て亜蘭はワクワクしていた。それを見ていた初音は少し呆れながらも、地下でありながらそういう雰囲気を感じさせない家具の配置や壁紙などに興味を抱いていた。
「はい、紅茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
「ほう、なかなか高級なものだな。ん……ほうほう」
紅茶が特に好きでうるさい亜蘭も、ハーネイトの出した紅茶の香りを優雅に楽しみ、口に含み堪能する。初音も同様に、ホッとするかおりに思わず少し硬かった表情が緩くなる。
「それで、ここのホテルを作った宗次郎さんから連絡を受けたわけだが、それぞれ話を聞こう」
「ではまず僕からだ」
「分かりました。では名前と職業を教えて頂きませんか。事件記録はきちんとつけなければならないので」
「僕は長宝院 亜蘭(ちょうほういん あらん)。アイドルグループで活動をしている19歳だ。スマッシュ、聞いたことあるだろう?」
亜蘭は一通り自己紹介を行い、自身の所属するアイドルグループに関して話をするが、当然異世界から来たハーネイトはまだその辺について詳しくないため、それが何なのか理解しようと必死な表情を見せていた。
「済まないな、最近この世界……いや、ここに来たのでね。まだ疎いところが多くて済まない」
「……フッ、まあ仕方ないな。それで本題に入るが、霊が見えるからって侮辱とかしないよな?」
亜蘭は目つきを鋭くして、ハーネイトにそういうが彼はそう言うことは決してしない男であり、だからこそ多くの人に好かれている。
「そもそも、この探偵事務所は怪奇などを扱う何でも屋に近いところだ。しょっちゅう霊的なものとの戦闘はしているので安心してくれ。むしろ、幽霊とか紅い流星とか見える人を探しているから大歓迎だ」
「それどういう意味で安心すればいいのかしら」
「戦闘、だと?厄払いとか退魔師なのかあんたは?」
「それよりもはるかに危険なのと戦う、医療魔法探偵剣士、とでもいえば……」
「彩音から聞いていたけど、変わった人ですねえ」
安蘭の質問に対しハーネイトはにこやかにそう話して彼の不安を取り払おうとする。それを聞いた初音は何だか聞いてまずいような内容を聞いた感じの複雑な顔をしていた。
つまり目の前にいる人はしょっちゅうそんな危なそうな者と戦っている戦士なのか、それとも退魔師の類かと思い大丈夫かなと思っていたのであった。
「実はな、僕のマネージャーが全員奇妙な症状で倒れてな……」
「ええ、それ一大事じゃない!」
「そうだよ、全く一々うるさいな君は。で、僕は見たんだ、その、具合の悪くなったマネージャーの方に、白いトカゲみたいなものが取り憑いているのをな」
亜蘭は本題を切り出し、何があったのかその詳細を全て話した。
それを聞いたハーネイトはここ以外でも獣がいるのかと思い、事態が予想以上に悪化しているのではないかと危惧していた。初音も亜蘭の話を聞くと、少しオーバーアクションで反応し亜蘭から呆れられる。
「それが原因で間違いなさそうだが、他にも探る必要がある。マネージャーを見ないとわからんが」
「ああ、それだけじゃない。ここ一か月前から、死んだ祖父の声が聞こえてきてな……」
亜蘭は他にも気になっていることをハーネイトに話した。それを聞いた彼は急に目つきが鋭くなり亜蘭を少し睨む。
「何だと?その前に、こういう化け物に遭遇したとかそういうのはないですかね?」
「何故……!貴方は一体、これを知っているというのですか?」
「何なのこれ、妖怪?お化け?」
ハーネイトは机の上に置いてあった資料から一枚の写真を手にし亜蘭に見せた。そうすると彼は狼狽していたのであった。
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