第95話 新たな仕事の依頼?


 薬の売人を追った事件から3日ほど経ったある日、陽も上っている朝8時過ぎ。今日の朝10時にハーネイト達は文治郎、亜里沙を事務所に迎え入れ話を聞く予定になっていた。


「ふあああ、まだ寝足りない」


「俺もだぜ相棒。マジ眠い」


「起きなさい!2人とも」


「リリー、昨日も遅くまで見回りしていたのだから」


「まったくもう、今日は宗次郎さんが大きな仕事持ってくるって言ってたでしょう?」


「そうだったな、悪いなリリー」


 新たな仲間、スカーファと黒龍を迎え、更に組織として大きくなっていく探偵社。それにつれてここでの仕事も比例して大きくなっていくのをハーネイトと伯爵は実感していた。


「ふああ、おはよう諸君!」


「おはようございますハーネイト様」


「ふああ、まだ少し慣れないな、U=ONEの力は」


 いつの間にか、事務所内のソファーや床でルべオラとアントラックス、ぺスティスの3人が寝ていたのであった。


 彼らは起きると元気よさそうに挨拶し、身だしなみを整える。こう見ると一見人間のようにしか見えない。これが微生界人全般の厄介なところである。


「いつの間に事務所内で寝ていたんだ3人は」


「すまんのう、これから長旅をしようと思うてな。その前に休んでおきたかったのじゃ」


「長旅?」


 ルべオラたちはあれからしばらくこのホテルに滞在しており、それはこれから本格的な血徒の全体調査を行うために休養を取っていたからであると説明する。


「血徒がどれだけ勢力を持っているか、今どういう組織形態をとっているのかを再度確かめたいのだ」


「お前ら、本当にかつての仲間と戦うのか?」


「そうだぜ。つーか仲間と思ったことはほとんどねえけどな」


「俺もだぞ伯爵。人様の力奪おうなど何考えてんだかってな」


 直接血徒に入り活動していたアントラックスとぺスティスでさえも、組織全体についての把握ができていないほどに組織規模はけた違いに大きい。戦力差を見誤り大規模戦闘に入れば大損害は免れない。


 U=ONEになれる方法は既にあるし、Pという存在についてルべオラはある危険な存在と同じではないかと考え、何が何でも阻止してやろうと考えていたのであった。


 それと、あんな目に遭った以上今更仲間意識はないし、容赦なく元同胞を倒せるとアントラックスとぺスティスは伯爵に対しそう言うのであった。


「じゃあな伯爵。また会おう」


「くたばるんじゃねえぞ、お前ら」


「何か見つけたら連絡するのでな、お主等も精進するのじゃぞ。ほなな」


 3人はハーネイトたちに一礼すると事務所を出て、血徒の再調査に向け移動を開始したのであった。


「変な奴らだな、全く」


「俺らがもっとしっかりしていたら、ああいう奴らまで血徒に入ることはなかったはずだ」


「伯爵……」


「俺は、お前に出会えて本当に良かった。正直さ、U=ONE化の力をもたらすのが分かって戸惑いもあったけどさ、あいつらの嬉しそうな顔を見るとな、フッ」


「俺もだよ伯爵。君が、可能性を見せてくれたんだ。さあ、今日はリリーの言った通り仕事の話がある。それまでに色々済ませよう」


 伯爵とそう話し、先に朝食をホテルのレストランでとったハーネイトは、料理長と雑談したのち事務所に戻り、宗次郎と亜里沙を待っていた。するとしばらくして2人が部屋のドアをノックし入ってきた。


「やや、ハーネイト君。先日の件だが、詳細な内容が決まったので報告しに来たぞ。亜里沙、例の資料を」


「はい、ハーネイト様、伯爵様。これを見てください」


「音楽のフェスティバル?」


「いいねえ、そういうことできる場所あるんだな」


 亜里沙から手渡された資料を二人は読む。そこには年に一度行われる音楽の祭典、その内容と参加者一覧が書いてあった。


「ああ、ここから南西に15分ほど車を走らせると公園があってな、そこの広場をステージにしているわけだ。毎年やっているのだがな。どうも人手が足りんらしい。時間があれば手伝ってくれないか?」


「ま、あ、一応私探偵であり何でも屋ですから構いませんが、宗次郎さん、他に隠していることありません?」


 話をすべて聞いた上でなぜそのような仕事を自身らに頼むのか、ハーネイトは何か違和感を覚え宗次郎に質問した。


「流石ですな。どうも大和が会場周辺で不穏な影を見たという」


「始まる前にその辺の調査ですか、わかりました。是非お任せを!」


「話が早くて助かる。それとそろそろこのホテルにもフェス関係者や出演者が来客する。くれぐれも失礼のないようにな。といっても大丈夫に決まっているがな」

 

 宗次郎の説明を聞き納得し、それは自身らの仕事だと快諾したハーネイト達は、会場とその付近にある施設などの説明を彼から聞いてどうするべきか確認をしていた。


 その間に、各地から多くの音楽関係者が春花に到着し、ホテルや事務所などを訪れてフェスに向けての準備をしているのであった。


「フン、ここがフェス中に泊まるホテルかい?」


「そうでございます亜蘭様」


「ふうん、まあなかなかだな。では」


マネージャーや付き人と共に、若い男性たちがホテルに到着しフロントに入る。付き人が受付で手続きをしている中、男は施設の中を見渡し、装飾や掃除が行き届いているかを確認したのち待機していた。この男は亜蘭と言い、桃京からやってきたという。

 

 するとさらに3人組の若い女性が受付に訪れ宿泊の手続きを行う。3人は話しながら行きかう人たちを見ていた。


「まさかここで演奏することになるなんてね」


「でもいいじゃないですか、妹さんがこの春花にいるのでしょ?」


「ええ。だけど私のこと、嫌いでないといいのだけど」


「大丈夫よ初音、妹さんも応援しているわ」


 3人組がそう話しているとその中の1人、如月初音という女性が2人にトイレに行きたいと言い、その場から離れて移動中の廊下の窓際で、年を取った男性と、亜蘭が話をしているところを見ていたのであった。


「貴方がこのホテルを作った刈谷自動車代表取締役、刈谷宗次郎様ですね」


「いかにもそうであるが、何の御用ですかね」


「話に聞いたが、この春花では警察でさえ手を焼く事件が起きているのに、なぜか解決している。その原因にこのホテルが絡んでいるという話を聞いたわけです」


 亜蘭は噂に聞いたある話について確かめるため、宗次郎に対しそう質問したのであった。


「何を言いたいのですか?アイドルグループ・スマッシュの長宝院 亜蘭様」


「この地下に、様々な怪奇事件を取り扱う探偵がいると聞いたのだが、用事がある」


「もしや、亜蘭様も霊が見えると」


「……ああ。あの紅き流星もな。しかも最近周辺で不可解な現象が起きている。まともに相談できる存在がいないのでね」


 亜蘭はなぜその質問をしたのか理由を話し、宗次郎は霊絡みの事件相談者と判断しハーネイトのいる事務所の場所を教える。


「流星の件は、わしも知っておる。見えるのでな。しかしそうか……これをもって地下2階の事務所に行くといい。だが気を付けてくれ。事務所所長は意外と気難しい人物でな」


「フン、まあいくか。引き留めてすみませんでした」


 亜蘭は宗次郎に謝罪するとホテル内の見取り図を見て、ハーネイトのいる事務所に向かうためエレベーターの方に向かう。


「あの、そこの素敵なおじ様?」


「何の用ですかな?」


 宗次郎は後でホテルの経営に関して会議を行う予定で移動していたところ、アイドルユニットユリンのリーダー、如月初音に声をかけられる。


「私もその事務所と所長さんが気になるわ。少し前に、私の妹がお世話になったらしいから」


「何?如月、と言うことは彩音さんのことか?」


「そうよ!何でも妹の命の恩人じゃない。挨拶とかしたいなって」


「……彼らも色々忙しいのでな、ほどほどに頼むよ」


 彼女たちのことも彼は知っており、如月という名字から恐らく彩音の姉だと認識し、亜蘭と一緒に事務所に行くといいと告げた。


 それから宗次郎は会議に参加する前にレストランに行くと言いその場を後にした。すると今度は亜蘭が初音に声をかける。


「まさか、有名アイドルグループのボーカルさんがあんな相談をねえ」


「フン、3人組ユニット・ユリンのボーカルとこのようなところで遭遇するとは」


「いいじゃない、互いにフェスを盛り上げる存在として頑張りましょう!」


「全くだ、まあ、フェスはいいものにしよう。音楽は万人の心に響き癒すものだ。取り合えず一緒に行こうか?」


「ええ、勿論!」


 そう話しながら二人は地下へ向かうエレベーターに乗ろうとしていた。一方その頃、ハーネイトが設置した修行部屋では新入りのスカーファ達を含めた数名がそれぞれ自身に必要な鍛錬をおこなっていた。

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