第94話 異界亀裂内追撃戦3 巨大合成魔獣出現!?


「君たち、そちらはどうか!」


「師匠、魔獣のキメラがいるっす!大きさ全長50mほど、口から焔玉を出している!迂闊に近寄れないっすよ」


 ハーネイトは背中からブースターを創金術で作るとそれを使い直線を高速で飛翔する。


 その間に響たちが遭遇している異常事態について話を聞き、それが只の魔獣でないことを把握する。


「今そちらに向かう。売人は仕留めた!その仲間を拘束している」


「さ、流石っすね。全員無事っすけど、さっきのCデパイサーのあれで大分疲れているみたいだ」


「なんてものを開発したんだハーネイトっ、すげえが、こいつはハードだぜ」


 リシェルを始め、ハーネイトが発動したCデパイサーの新機能・RGE(レヴェネイトジェムエクステンダー)の影響により肉体が疲弊していた。


 本来一人一人が自身に合わせたカスタマイズを行わないといけない代物であったが、自身のカスタマイズを強制同調させたためこのようなことが起きていた。


「ぐッ、体に力が入らないっ」


「まずいわ、先ほどよりも力を練れないわ」


「彩音もっと後ろに引け!お前は今回サポーターだろ?、前に出すぎだ」


「響も翼君も大分疲れているじゃない!」


 その時キメラは高く飛び上がり、空から巨大な爪を振るい襲い掛かろうとする。だがその時、地面から無数の剣が空高く伸び体を貫いた。


「遅い、創金剣術・剣樹(ブレイドツリー)!」


「無数の剣がキメラの動きを!」


「ギガアアアアア!!!」


「私の可愛い部下に手出しはさせん、詠唱装填!」


 ハーネイトは創金剣術から繋いで、霊量超常現象(クォルツ・パラノーマルフェノメノン)・完全詠唱モードを使用する。


<< 雹終(ひょうしゅう)の刻 氷薔薇 無慈悲(むじひ)な花園に咲き乱れ 氷棘(ひょうきょく)の牢獄に閉ざされろ>>


「READY確認!霊量超常現象(クォルツ・パラノーマルフェノメノン)!獄氷薔薇(ごくひょうばら)!」


 Cデパイサーから、無数の氷を纏いしいばらの鞭が発生すると、キメラに絡みつき動きを封じながら凍らせていく。しかし抵抗が激しい。 


「無数の茨がキメラに取り付いた!」


「んだよ、最初からそれしろや先公」


「勝也、あれは準備に時間がかかるんだよ。でも、これでいけるな!」


 五丈厳は呆れながらそう言い、九龍が今ハーネイトが使った技についてそう推測したことを言う。


 するとハーネイトは全員に回復系の魔法風を吹かせ体力を回復させたうえで、指示を出す。


「回復は施した。あとは君たちの力、私に見せて見ろ!」


「押忍!!」


「了解した、先生!」


「止めを刺すわよ響!」


 ハーネイトの一言で全員が武器を再度構え突撃を始める。まずは足を攻撃し、姿勢が崩れたところに急所である心臓や胸を可能な限り攻撃するように彼は指示を出していく。


「言之葉!行こう!」


「有無、行くぞ……!閃光斬!!!」


「彩音、あれを使いましょう」


「ええ、行くわよ!音響斬!」


 真っ先に響と彩音が切り込みにかかり、キメラの鋭い爪をかいくぐりながら足を攻撃し動きを鈍らせた。


「一斉砲火だ!戦力は一度にすべて投入すべきとな。ミチザネ!」


「雷轟!」


「アイアス!」


「任せろ!攻甲七盾!」


 時枝と間城はやや後方から、遠距離攻撃を仕掛けつつ相手の視界を奪い援護する。


「おい九龍、天糸、翼!俺に合わせろ」


「んだと!」


「何か案があるのね、分かったわ五丈厳君」


「けっ、やるか!」


 そう言うと五丈厳がスサノオと共に高く飛び上がり、上空から激しい強襲を仕掛けた。


「うりゃあああっ!破天掌だぜ!」


「ロナウ行くぜ!バニシングフレアだ!」


「やっちゃってデッドリーフォーズ!集中砲火命令よ!」


 それに合わせ残りの3人が視線をくぎ付けにするように3方向からそれぞれ攻撃を仕掛ける。そのどれもが重く、完全にキメラの動きが止まる。


 その一瞬を突き五丈厳とわずかにタイミングをずらし響と彩音が空から襲い掛かった。


「羅刹斬!」


「音壊撃!」


「六衡颪!ぶっ潰れろや!」


 3人の強烈な攻撃を順番に頭に浴び、キメラは致命傷を負った。断末魔を上げながら、ゆっくりとその場に倒れていく。


「ガァア、アア、アアアア、アア……!」


「敵巨大獣沈黙。君たちの勝利だ。よくやってくれた」


「危なかったわね今回は」


「まじしんどいわね。でも、これであの危ない薬の流通は防げたかしら?」


 ようやくすべての敵を倒し、ミロクや文治郎を除いて全員地面に座り込んだ。確かにこの感触は本物だ、しかしどこの世界の物だろう、響たちは疑問に思っていた。


「これが……私よりも遥かに下の若造なのに、ここまで戦えるとは。よほどあの師が優秀なのか、この子たちがすごいのか。ハーネイトか、面白い」


「すげえな全く。……ああ、俺もああ戦いたい」


「黒龍、さん。もう決めているのかしら」


「ああ?俺はあの男の下でもう一度修行するぜ。里に伝わる力の秘密がようやく分かりそうだ。あんたも、もう入る気でいるんだろ?正直になりな」


「ええ……。まあ最初からそのつもりだが。初心に帰った感じで修業をしよう」


 そうして、新たに2人の戦士、スカーファと黒龍が仲間に加わったのであった。


「やっと追いついたぞ、どうじゃ、そちらの方は」


「片付きましたがこれ以上の活動は全員無理ですね。帰還します」


「それがよい。わしもついていくぞ」


「えーマジっすかルべオラさん?まあ戻るところないんであれなんですが」


「ハーネイト様、俺らにもU=ONEお願いします!貴方の軍門に下り、忠誠を誓うので!」


 ハーネイトは改めて、全員の疲労度を鑑みてすぐに撤退するように指示を出す。だがアントラックスとぺスティスはハーネイトに駆け寄り、以前の約束の件について話を切り出す。


 果たしてこの途轍もなく危険そうなこの2人組に、あの力を与えていいのか疑問をまだ抱いていた。だが翼たちの言葉を聞くとその考えに揺らぎが生じていく。


「あの2人の正体聞いてひっくり返りそうになったっす。だけど率先して魔獣たちを潰してましたよ兄貴」


「兄貴!あれは味方にいた方がいいよ、敵に回すの面倒だよ」


「お、おう。一応聞くが響と彩音は?」


「あの2人っすか、星奈さん曰く貴方の力で病原性を封じられるなら早くそうしてと」


「あ、ええと、よくわかったね」


「貴方、ここの場所私たちにも教えていたから」


「この前のお嬢さんやん!この前はご迷惑おかけしました」


 いつの間にか星奈もいたことに驚くが、彼らは一応響たちのために指示通り戦っていたことと、病原性を封じ、もし言っていることが嘘で寝返ったとしても敵戦力を削ぐとしたら今しかないのではと考えたハーネイトは、2人に対しもう一度確認を行う。


「仕方ないな……あの、2人ともデメリットの件は?」


「聞いているがどう聞いてもなあ」


「メリットしかない。もう色々なしがらみから解き放たれたい。血徒に入った奴らの殆どが、抗菌剤とか薬とか、そういう影響で自身の眷属を減らされるのはうんざりなのさ」


「頼む、彼等にも処置を施してやってくれ。彼らは人間たちに利用されてもおる。彼らの力を悪用する輩がいる以上、ここでそれをなくしてやってくれ」


 その質問に2人とも、問題ないと言いながら血徒も、少しでも完全な存在、つまり神霊化になりたいがため藁にも縋る想いで加わった連中ばかりだと説明する。


 ルべオラも頼み込み、血徒17衆が彼らの能力を解析し使うようになれば、この先苦戦は避けられないと説明し、解析される前に処置を施す方がいいと言う。


「では、2人ともこちらに。この力、悪用するならば容赦しませんから……」


 そう言い、ハーネイトはアントラックスとぺスティスの背中に手を当て、力を送り込む。元々U=ONE化はウイルス界系ほど恩恵が大きいのだが、彼ら細菌界系でもはるかに桁違いの戦闘力を得ることができる。


「な、これがっ!」


「おおおお、生まれ変わった、と言えばいいのかこれは。力が溢れてくる感じだ」


「すげえ!これならあの17衆もフルボッコいけそうかもな。覚悟しとけよマジで」


 2人はルべオラ同様、生まれ変わったようだと大はしゃぎし涙を流していたのであった。


「主殿、例の魔界人の件ですが……」


「どうした、そう言えば姿が」


「実はですな」


 そんな中ミロクは、ハーネイトに近づくと小声で彼に話しかける。


「死霊騎士にくし刺しに?……情報は、何か得たのだな」


「はい、可能な限りは。どうも同盟の幹部たちがおかしいようですな」


「分かりました、事情は分かったのでまずは皆さんを外に出しましょう」


 珍しくミロクは動揺しており、それでも情報はできるだけ確保してきたという。


 どうもあの売人らは上司の命令で薬を渡され仕方なく売っていたという。そして取引を持ち掛け、情報をすべて渡す代わりに逃してくれと言ったので聞いていたところ、瞬時に死霊騎士らしき者がその人の胴体を槍で突き刺し、そのまま消えたというのであった。


 後で詳しく聞きたいとハーネイトは言い、全員を連れて元来た道を戻りながら亀裂付近に設置してあった装置を壊し、異界化を解除し元居た場所に戻るとすぐに事務所まで移動し、全員に何らかの体の異変がないか確かめてからその場で解散という形になったのであった。


「正直あんなのと戦うってな……」


「あの魔獣、マジで怖かったわ」


「今回は突発的な事象だったため、事前調査ができていなかった」


「ああいうのと、もっと渡り合える力も必要だな」


 巨大生物と途中で戦闘になった高校生たちは、改めてまだ手に負えない敵がいくつも存在することに悔しさを覚え、どうにか次は倒してやると意気込んでいた。その後彼らはホテルの施設を利用してから各自帰宅の途についたのであった。


「一応、改めて報告書は作って頂く。拘束した魔界人を逃したのはらしくないな」


「はい、罰を受ける覚悟はできておりますゆえ」


 その間に、ハーネイトはミロクから何があったのか別室で話を聞いていた。


「全くあなたは、私はメンバー同士の勝手な私闘以外は大目に見るのは知っているでしょ?」


「あの魔界人は、上司の異変に気付きこちらに薬の出所とその異変、更に魔界で血徒感染者と思われる患者がいる可能性があると。最後のについては、病状を聞いただけで向こうは血徒という存在を知らないため不明点はありますが、留意しておくべき案件です」


 ミロクは敵から情報を入手中に一瞬で死霊騎士に魔界人を連れ去られたと説明する。それは伯爵たちも見ており、対応が間に合わなかったという。


「分かりました、それとルべオラと伯爵から、ゴモスの体の欠片から血徒反応が出ていると聞いたのだが」


「はい、あの魔界人もどうも辺境の村で奇妙な症状を訴えている者がいると言ってましたぞ」


「魔界人の汚染度も気になるな。今日はご苦労様でした、後はゆっくり休んでくださいミロクじっちゃん。今回の報告及び、情報回収の功績から逃したことは聞かなかったことにします」


「では失礼しますぞ。若も体の方を休めておくのですぞ」


 ミロクの話をすべて聞いたハーネイトは、彼に対し休息をとるように指示してから、しばらく今いる部屋で、今までのことを思い出しつつ血徒という存在がいかに厄介で捉えどころがどこかない存在であることを思い知らされ、どうするべきか対応を迫られていたのであった。

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