第97話 アイドル達の抱える事情




「そういうのを退治しているからな。私の仲間は全員それを倒せる」


「……面白い話じゃないか」


「倒すって、彩音の言っていたこと本当だったのね。大丈夫かしら彩音は」


 亜蘭はハーネイトの話に終始興味を抱いていた。今から少し前、亜蘭はある情報、つまりこの事務所について話を聞いていたが正直半信半疑であった。


 けれど確かにこの男は何か違うものがある。そう確信しもっと探ってみようと考えていたのであった。


「それとだが、何か隠しているのなら話してくれ。もしかすると、ということもある」


「……桃京でな、それの小さな奴に襲われた。その時、実体のない守護霊みたいな何かが守ってくれたのだ」


「ビンゴだな。霊量士(クォルタード)、いや現霊士(レヴェネイター)の素質ありだ」


「な、なんだその単語は」


「現霊士?確か彩音がそういうようなことを言っていたわ」


 亜蘭はハーネイトに事実を打ち明けた。そのあとの彼が発した言葉に分からないといった感じの表情を見せていた。それは隣の初音も同じであった。


「倒せる素質を持つということだ。……可能性はまだ未知数だが」


「……そうか、来てよかったな、ハハハ。……問題はフェスを行うにしてもマネージャーがあれだが、応援が来るまで補佐をお願いできないか?」


「どういうことですかね」


「マネージャーを少しやっていてほしいってことだ。その代わり、フェスが終わったら……」


 話を聞いた亜蘭は、心の中で非常にワクワクしていた。なぜならば、今まで送ってきた人生とは違う刺激を感じていたからであった。


 それから、倒れたマネージャーの代わりが桃京から来るまでの間、少し手伝ってほしいと亜蘭は彼に依頼を出した。


 ハーネイトは他に受けている仕事もあるというが、フェスの会場に絡むものだったためついでにこなせば問題ないと判断し引き受けたのであった。


「まあ、ひとまずそのくらいにしておきましょう。では、貴女の自己紹介と経歴を」


 亜蘭との話を終え、ハーネイトは待たせていた初音にこれをかけ自己紹介を求めた。


「はい、私は如月初音と申します。プロジェクトティーファ所属で、アイドルユニットURINの一員です」


「そうですか、しかし彩音にお姉さんがいたとはな」


「はい、妹を助けて頂きありがとうございました。しかし妹は私のことを言っていないようですね、もうっ」


 ハーネイトは即座に彩音のことを思い出し、彼女の言葉を聞いて彩音の姉であることをすぐに理解した。しかし彩音に姉がいるのは初耳だったので彼は驚いていたのであった。


「やはり、彩音のお姉さんか。口振りや様子で何となくは分かっていたが」


「はい。いつも彩音がお世話になっております」


「いえいえ、彼女はとても優秀ですよ。彩音さんと響君に会わなければ、ここまで規模を大きくするなんて考えもしなかった」


 ハーネイトは率直な感想を初音に言い、彼女はとても喜んでいたのであった。妹のことについて心配だった姉だったが、逞しくなっていることを理解しほっとしていたのであった。


「そうですか、妹がお役に立てていると姉としてもうれしく思います。それで相談内容は……」


 初音は昔のことを思い出しながら、悲しそうに昔何があったのかをハーネイトに話した。それが、今起きている彼女自身を悩ませる物と関係があるからである。


「死んだ友人の声がして眠れないと」


「はい。同じ年で上京した、絵の上手な友達がいたのですが不慮の事故で……」


 初音には親しい幼馴染がいた。克師香栄子というイラストレーター志望の女性であり、小学生時代からの長い付き合いのある友人だったという。


 それぞれ夢を追いかけながら、きっかけを掴み上京したのだが、栄子は自動車に乗っていたバイクを衝突され、その時のけがにより帰らぬ人となったのであった。目撃者がおり、その人はまるで何かに導かれるように事故に遭ったようだと言っていた。


「そうか、しかし不自然なところがあるな」


「はい、ですが警察もそれ以上は……」


「ふうむ、一つ言えることは、亜蘭も初音さんも現霊士になる一歩前の状態であり、危うい状態でもあるということです」


 ハーネイトは仕事モード、それもかなり真剣かつ緊迫感が伝わるような雰囲気で2人の今の状態について話をする。


「ど、どういうことだ」


「二人とも、その声の主は死んだ人の魂を核とした幻霊です。それにどれだけ向き合い、運命を受け入れられるかで未来が変わります」


「要は、精神力の勝負ということか」


「強い心なくして、向き合えないってわけね」


 ハーネイトは2人に迫っている試練に対しアドバイスをする。いくら彼がすさまじい存在でも、具現霊を強制的にその人から呼び出すという芸当はできない。そうすれば確実に体と心を蝕む、それを彼は十分理解していたからであった。


 2人はハーネイトの言った、それぞれ心を強く持ち向き合えという言葉に理解し共感した。それが、大きな自身の柱になるのだなと改めて感じ、しみじみと納得していた。


「とにかく、その声をしっかり聴くことが必要というわけですか、ありがとうございます」


「……そうだな。……君たち、もし私や仲間と共にあれを倒す覚悟があるなら、これを渡そうと思う」


 ハーネイトはそう言うと席を立ち、棚に置いてあるできて間もないCデパイサーを2個手に取り、戻ると机の上に置いた。見慣れない機器に2人は何なのかと疑問を抱く。


「何だこれは、通信用の機器か?見慣れないな」


「これって、彩音の言っていた……」


「全く、彩音はおしゃべりなところが玉に瑕だな、あとで注意しておくか。それは、先ほど言った霊量士及びその素質のある人だけが扱える端末機械、Cデパイサー。一応何かあった時の連絡用にと思ってね」


 ハーネイトの説明を聞き、2人は目の色を輝かせた。彼らにとってそのCデパイサーのデザインはよいものであった。


「ともかくあなたには少し手伝ってほしい訳ですし、連絡手段はいりますね。使い方はどうすれば」


「私気になっていたんだ!彩音だけずるいわ」


「全くもう、では少し講習を受けてもらいます」


 本来正式に仲間に加入した人にしか渡さないのだが、京子にも持たせて、結果的にどうにか良い方向に繋がったこと、それにこの2人が新たな力を得たいという強い意志を示していることなどを考慮し、事前にハーネイトが生み出した神具を2人に見せてどうするか尋ねたのであった。

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