第84話 小袋の中身の正体は?
「まずったな、いくらああとはいえ」
「全く、貴方は危機感がないのかしら?」
奇妙な一件の後星奈は、ハーネイトの左腕をぎゅっと抱きしめながら同じスピードで歩いていた。流石の彼女も相手が相手だけに怖かったのか、表情が若干こわばっていた。
彼はそれを把握し、彼女のしたいようにさせたのであった。当の本人も、よりによってあんな相手が対話を持ち込んできたことに珍しく冷や汗をかき、また動揺を悟られないように立ち振る舞っていた。
星奈はハーネイトの顔を見上げながら、先ほどの商店街での出来事も合わせまだこの男は、自身の影響力について悪い意味で正確に認識できていないのかと思い質問する。
「うぐ、リリーみたいだな。口が悪いね……」
「私は問題点を指摘しているだけよ」
「そうですか、それは済みませんでした」
「いまいち納得していない感じね」
「そりゃ、ねえ」
星奈の一言が刺さる。苦手なタイプの人材が来たなと思い顔を彼女に見せずに話を聞く。そして10分ほど歩いて星奈は少し怪しい骨董屋の前で立ち止まる。
「ここに用事があるの。占いの道具はここでよく仕入れてるのよ。では次は貴方の事務所でね。失礼します、ハーネイト様」
「あぁ……何なの一体。何だか少し苦手だけど……いや、仕事は仕事。割り切るのが大事なのだから」
ハーネイトはどこか捉えどころのない彼女に振り回され困惑していた。しかし気を取り直して本来の仕事である調査に戻りこの周辺を探索し始めたのであった。
一方で星奈は、店に入り品物を見ながら、先ほどのが恋人同士で行うようなデートではないかと思い、顔を赤らめていたのであった。
「商店街に1、国道沿いに2、あとは……公園にもあるな。ただ気運を感知したのは国道沿いにあるあのビルだけか。それ以外は任意任務にして回してみよう」
それから、CデパイサーのGIS専用レイヤーに次々と亀裂のある箇所を登録するハーネイトは、またもこれだけ数があることが分かり彼はうんざりしていた。
あれから人が行方不明になる事件が起きていないのが幸いであるが、何時どうなるか分からないため未然に防ぐための調査は欠かせないのであった。
「いい加減無闇に神柱を呼び覚まそうとする連中に、お灸をすえないとな」
ハーネイトがそう考えた次の瞬間、近くにまだ未解析の光る亀裂があったのかいきなり異界化が起き始め彼は飲み込まれた。するとそこには数頭の獰猛な鳥型とトカゲ型魂食獣が待ち構えていた。
「フッ、異界化か。よかろう、相手になるぞ」
「ギギャアアア!!!」
「フシュウ……!」
一斉に彼に向かい襲いだした獣たちだが、その運命は既に決していた。そう、彼と対峙した瞬間にである。
「創金剣術・剣舞(ブレイドダンス)」
すかさずハーネイトは空気中の霊量子を集め創金術で数本の剣を形成する。それを回転させながら飛ばし牽制する。
「これもだ!弧月流・断月!」
敵集団の周囲に展開した創金剣の剣腹を足場にし、魔獣たちの背後から高速でハーネイト得意の魔剣技が炸裂する。
巨大な光剣が振り下ろされ、また一つ、また一つと切り捨てられていく。彼の勇猛果敢な攻撃に怯む魔獣もいるが、それでも喰らおうと襲い掛かる魔獣たちに対して彼は追加攻撃を行う。
「最後だ、紅蓮葬送・紅蓮棘刺(クリムゾンスピッドランス)」
「ピギャアアアッ!!!」
ハーネイトは紅蓮葬送を展開するとそれを真っすぐに突き伸ばした。その瞬間無数のとげがそこから生え、体の至る所を貫かれた獣は空中で霧散した。
その後も彼は次々と現れる魔獣たちを相手に無双する。一日に100万以上もの魔獣の群れを葬ったことなど彼にとっては割と日常茶飯事であり、包囲されようとも全く苦にもせずあらゆる戦技を駆使して殲滅していく。
「弱い。……しかしこれは証拠として持っておこう」
結局、500体近くいた魂食獣は3分もしないうちに跡形もなく消滅した。彼は服の誇りを手で払った後、魔獣たちから感じた違和感を覚え周辺を探索する。
すると恐らく先ほどの獣たちから落ちたと思われる霊量片とは別に、異界化に巻き込まれる前に目にした、何か粉のような物が入っている黒い小袋が落ちていた。
それらをすべて回収した彼は予定を切り上げると急いで事務所まで戻り、服を着替えてから研究室で解析しようとしていたその時、来訪者がドアをノックしてきた。開けるとそこには天糸文次郎が待っており、すぐに部屋の中に入る。
「貴方は!」
「どうした、硬くならなくてもよいわい。それよりもだ、話に聞いたか?」
「話とは?それと皆さん寝ていますので屋上で話を聞きます」
「うむ、そうしようかの」
2人は寝ている彼女たちを起こさないよう、静かにエレベーターで屋上にある庭園まで足を運ぶ。そしてハーネイトがお茶を自販機から2本買い、文治郎に渡すと近くにあったベンチに腰かけた。
「隣街で薬物中毒患者が何名か確認されたのだが、全員今までの麻薬患者の中毒症状とはどれも異なるうえ、うわごとでしきりに特定の言葉しか言わず、霊が見え幻聴で苦しんでいるとな」
「……非常にまずい事態ですね。その街に原因がありそうですが、まだ宗次郎さんが帰ってこない以上どうしたものか」
「何を言うハーネイト殿、わしらだけで行くほかないぞ。放置してよいものではないしな」
「はい、それはその通りです」
文治郎の話によれば、ここ半月で7名が症状を訴え緊急搬送されているという。その症状の内容を聞いたハーネイトは、通常の薬品ではない何かによるものであると思っていた。
「あの、他に患者たちに共通するなにかはないのですかね」
「ああ、そういえば全員手にこれを持っていたな」
文次郎は、数名の患者からあるアイテムを回収し袋に入れていたのであった。それと、かすかにだが血の匂いがその袋からすることも伝える。
「げっ、それさっき拾ったし。やはりな。文治郎さん、恐らくこれは魔薬、あるいはそれに類似した危険な物質です。こちらに渡して頂けませんか?解析をするところだったのです」
ハーネイトは自身も同じものを回収したと言い文次郎は怪訝な顔をする。麻薬と同じ読み方であるため文治郎は頭を傾げるが、ハーネイトの言う魔薬はそれよりも別の意味で恐ろしいアイテムであった。彼はそれを少しずつ説明していく。
「その昔、研究においてライバルである他の魔導師を暗殺するために作られたという、魔力制御を暴走させボロボロにする薬のことを指します。当時は魔導師同士で研究などに関して、争いごとはしょっちゅう起きていましてね……殺し合いで使われ、民間人にも被害が出ています。その取り締まり及び作成者、使用者の処罰も私が行っていましてね」
「そのような恐ろしい物なのか」
「しかし、触れた感じでは似てはいるけど違うというあれですね。気運が入っている……他にも何か感じるが、うーん」
「ともかく、早急に売人を見つけ出しとっちめないといけんわけよ」
一通り聞いた文治郎は、なおのことその薬を扱う存在を排除せねばならないと考えていた。それはハーネイトも至極同じ意見であった。
恐らくソロンの気運が入っているのは、使用者を強制的に生贄にふさわしい体に作り替えるためだろうと彼は考えていた。気運をあの光る亀裂から漏れださせ、触れた生物の命を吸うだけでは飽き足らず、このような所業までやってくるとなるともう情状酌量の余地はない。
しかも、文次郎の言う通り確かにほのかに血の匂いがする。もしかすると、まだ別に何かが入っているのかもしれない。いや、もしかすると血徒の何かか?そう思ったハーネイトは表情を曇らせる。
こうなったら全力で、その危険な薬の売人を倒すまでだと決めたハーネイトは、速やかにCデパイサーを用いて全員にあるメッセージを送ったのであった。
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