第83話 天体と地球の異変、そして稀に見る奇妙なお茶会


 事件の翌日、ハーネイトは遅くまで事件の捜査に関する資料とにらめっこしながら並行して研究していたため、すごく眠たそうにあくびをしてから、外出しようと支度をしていた。


 すると事務所にミカエルが挨拶をしながら入ってきたのであった。ベッドで寝ていたリリーもそれに気づき目を覚ますと、起き上がり目をこすりながらハーネイトに話しかける。


「おはよ……ハーネイト。残りのデータ、とってきたわよ」


「昨日の作戦で使ったみたいね、伯爵たちから聞いたけどどうだった?霊量超常現象(CPF)は」


「こちらの想定以上の力だよ。本当に2人とも、手間をかけさせて済まないね」


「そうよ、うら若き乙女に完徹とか、ひどいわね弟君は」


「だから、その分の報酬で好きなだけ色々買っていいから。それと特許料も払わないとね」


 若い女性にいろいろ無理をさせて申し訳ない、ハーネイトはそう思い二人に謝罪した。けれど報酬がもらえるならと2人は研究に付き合っていたのであった。


 それと、この新技術の実績に関してミカエルとリリーは研究者ということで特許を取ることが故郷で可能であり、これについても誇らしく彼女たちは思っていたのであった。


「また創金術で荒稼ぎ?一生お金に困らないって感じなのはいいけど、市場荒らすのはダメよハーネイト」


「そうねリリー。弟君は分かっていると思うけど。まあ、いいわ。それで沢山化粧品とか買えるのでしょう?」


「いくらでも買えると思う。この地球で作られる物は質がいいって三十音さんは言っていたし」


「私はおいしい物巡りしようかな……でもまだ寝たいな」


「あとは好きにしていていいからね、目立たない限りは。私は今から見回りに行ってくる。大和さんや韋車さんから色々話を聞いてね、気になっているんだ」


 ハーネイトはそう言うと服装を整え、急いで外出しようとする。聞いた話が本当ならば、早急に手を打つ必要がある。ハーネイトは装備を身に着けると簡潔にあることについて話を2人にする。


「それで、奇妙な薬を売る者がいるってね」


「何だか嫌な予感がするわね……勘だけど。弟君も、無理しちゃだめよ。まだ病み上がりみたいなものなのに」


「ハーネイトってちゃんと呼んでよミカ姉。はは、そうだね……戦闘に関する機能も封印されているのがあるから、それをどうにかしないと」


「本当に姉弟って感じね2人とも」


 ミカエルのその言葉に、どこか砕けた感じで返すハーネイト。本当はそう呼ばれるのも嫌ではなかったがどこか恥ずかしい。彼はそう感じていた。


 その様子を見ていたリリーはどこかうらやましそうにしていたのであった。


「しかし、まだ時間あるんだよね。調査に行く前に、食事をしてから行こうかな」


「ふああ、何故か俺も眠たいぜ」


 すると、いつの間にか事務室のソファーで寝ていた伯爵が目をこすりながらハーネイトに声をかけた。


「おはよ、あれから明け方まで何処ほっつき歩いていたの?」


「ああ?俺も調査してんだよ。なんかあいつらの手掛かりになりそうな異変とかねえかなってよ。カラーの話した件もあるからあれだけど。相棒も今から行くのか?」


「うん、1人で行ってくるよ」


「少し休んどくわ。と言っても、ホテルの清掃とかはしとくけど」


 伯爵は何か徹夜で行動していたらしく、調査に行けない旨を伝えると、ハーネイトは快諾した。そして事務所を出てエレベーターでレストランまで向かい、和定食を注文し食べてから街内調査に出向いたのであった。


「今日は中央商店街の調査だな。と言うか商店街って何だろう」


 ハーネイトは春花駅から南に向かう大通りを歩き、商店街を探して歩いていた。すると自身の独り言に対する答えが返ってきたので驚いて後ろをすぐに振り返った。そこには少し元気になった海原星奈がそこにいたのであった。



「小さな個人経営のお店などが並んでいるところよ。貴方知らないの?」


「っ!……星奈さんですか。あれ、もう退院していたのかい?」


「そう、よ。あの時、ああいう言い方してごめんなさいね。怖くなかった?」


 ハーネイトは体の調子はどうかと尋ね、問題ないと返す星奈。彼女はその後病院で行った占いの件について謝ったのであった。


「別に、少しびっくりはしたけど、あまり気にしてはいない」


「そう……近いうちに、貴方の事務所に行くわ。ワダツミ……父さんも行きたいって」


「分かった、準備しておくよ。Cデパイサーの手配は済ませてある」


「本当にあなたは、不思議な……うん。人、ではないのよね」


 ハーネイトは星奈と共に道なりに歩きながら会話をする。彼女はハーネイトの顔や体をちらちら見ながら、思っていたことを口に出す。


「そうだ、人の形をした、ある存在の手先なのだ」


「正直信じられないのだけれど、でも、貴方はあの星から放たれる気と同じものを持っている、それだけでも異質ね」


 この前彼女を助け、別れ際に彼女が言っていたことがずっと引っかかっていたハーネイトだが、一体その星とは何なのだろうか、そう思っていた。


 少なくとも、異界空間内に引きずり込まれた響たちを助ける前に見たあれがそうならば、それはこちらにとって良くない何かである。


 しかも、後で響たちに話を聞いたところ天体の星の数が減少しているのもあの紅き流星が見え始めたあたりとやはり合致する。それが気になって仕方ないと言う。


「赤き、災いの星か。もしかすると、神柱とかいるのかな」


「神柱?あ、東のあの方角」


「……昼でも少しだけ見えるとはな」


「見える人と見えない人がいるみたいだけど、少なくともあなたと一緒にいる高校生たちは見えたというし、力のある人でないと感じ取れないのかしらね」


 星奈は事件の後、見舞いに来た間城や響、五丈厳らに霊の星についての話をし、見えるかどうか確認してもらったところぼんやりとそれっぽいのを確認できたという話を彼にしてから、一方で自身の家族などは何も見えなかったことも含め、自身の考えを述べたのであった。


「そう見て、いいだろうね。あの星を目で捉えられるのが霊量子を感知できる者だけだと私も思う。、この先起こるかもしれない大事件にほとんどの人たちは事情も分からず弄ばれるような状態になるが」


「どうします?北斗七星など冬の星座を構成する星々の幾つかが見えない件も合わせて公表でもしますか」


「したところで、どうしようもないと思うが。だから自分たちだけで対処するしかないな」


 また、ハーネイトと伯爵が確認した異変について聞き、自身も最初は単なる勘違いかと思ったが何度も見比べてみて、星が観測できなくなっていることに驚いたという。


 それに気づいたのはBW事件が起きる半年前ぐらいであったことを伝える。これについても、赤い星の時と同様に見える見えないと個人である程度差があるようで、2人は互いの見解を述べつつ話をまとめた。


「それとね、これは私だけでなく地球環境学者や天体学者などの調査結果なんだけど、つい5年前までは温暖化って言葉が有名で各国対処していたのだけど、年々星の気温がわずかに下がってきているのよね」


「それは、本当なのか?」


「しかも、私が初めてあの星を感じた時以降、年間の気温が低下しつつあるって報告があってね。年々植物たちも、弱ってきている感じね」


 さらに、星奈は今この地球全体で起きている異変についても言及する。これについてはハーネイトも図書館で読んだ資料や、京子や時枝などから情報提供を受け知ってはいたのだが、不明瞭な点もあり改めて彼女の話は参考になると思い話を聞き続ける。


「で、その上日の出が遅く、日の入りが早い、か」


「分かりますか?あなたの住んでいる世界でも、太陽というような星を照らす光を放つ星があるのでしたら分かるでしょうが」


「ああ、あるとも。しかも2つね。その内の片方が毎年あまり活動しないんだけどその時は作物がね……」


 星奈の説明に対し、自身の暮らしていた星にも同様の物があり、話の内容はよく分かると言葉を返したうえで、先ほどの星に関する2つの異変について話が戻る。


「その、赤星の接近と観測できない星々、地球上で起きている異変の関連性か、なくはない、だろうね」


「そ、そうですか」


「しかも、魔界復興同盟もその赤い星について情報を探っているようだ。これが一番気になる点だ」


 ハーネイトは数々の証言、特に死霊騎士たちが口にした言葉とキーワードから、赤い災星こそ重要な物であり、自身と同じ気運を感じるという星奈の言葉よりヴィダールと関係があるのではないかと考えていたのであった。


 その後2人は人気のない路地に入り、周囲を警戒する。どうも先ほどから誰かにつけられているようだ、そう感じたハーネイトと星奈はある者の声を聴いたのであった。


「それはな、魔界に眠りし神柱、ソロンと関係がある」


「残りの神柱がどこにいるかが気になるところだが」


 すると2人の前にいきなり黒い霧を纏いながら、2人組の男が出現したのであった。その正体は、微生界人のアントラックスとぺスティスであった。


「誰だ!」


「フフフ、貴方ならば俺らの正体も看破できるはずだと思うが」


「っ!その印は血徒だな、ここでやりあうなら……その命貰い受ける!!!」


「待て待て待て待てぇい!そういうあれじゃなくてよ」


「ルべオラからの使者、と言えばその刀を納めてくれるか?ハーネイト殿」


 ハーネイトがいきなり戦闘態勢に入り2人は慌てて自分たちが血徒ルべオラの使いで来たことを伝え、それを聞いて彼は構えを解いたのであった。


「俺はアントラックス、まあ炭疽菌の微生界人だ」


「俺はぺスティス、ペストと言ったら嫌でも分かるだろ?」


「帰れ!!!!!!この特級危険微生界人め!!!」


「と、とんでもない病気の塊!?早く逃げないとっ!」


「えええええええぇ、そこまで言われる筋合いは」


「あったな、本当に大昔のあれはやりすぎたな」


 ハーネイトは最初、目の前の微生界人が何者か全く分からなかった。そもそも微生界人であることを見抜けても、それが何の微生物なのかは同族である伯爵やエヴィラなどしか分からないという。


 2人が自身の名を名乗った途端に、彼は鬼の形相で帰れと珍しく激高しまくし立てるのであった。星奈も名前を聞いて怯え、ハーネイトの背後に移動する。


 流石の気迫に2人は、ルべオラが初めて彼と会った時とは全く反応が違うと困惑していたのであった。


「即刻この一帯を隔離したいんだけど」


「ったく、ルべオラの時とはえらい違いじゃねえの?あいつも大概だからな。それとな、お前らの話の続きなんだが、その赤い星については、血徒も長年追い求めてきた物だ」


 アントラックスは、先ほどのハーネイトと星奈の話を全て聞いていると言い、その話の続きをしたいという。ハーネイトは星奈を守るように前に立ち2人の話を聞こうとした。すると、災星の情報を血徒も集めているとぺスティスが話し、彼を驚かせる。


「少し話が長くなりそうなんで、そこのカフェで話でもしないっすか」


「えぇ……星奈、どうする?」


「なんで私に聞くのですか?」


「あ、はい。こ、これも情報を得るため、得るためなのだ」


 アントラックスの提案で、近くにあったカフェで続きを話そうとし4人は移動する。座席に座り店員にコーヒーやジュースなどを注文してからハーネイトたちは、近代どころかいつの時代にもまれにみる話し合いを行うことになったのであった。


 最初こんな危険な微生物の塊をどうしようかと思ったが、2人は能力を完全に抑え込んで感染できないようにしていると説明する。


 星奈も、何で自分はこんな目に遭うのかと不安そうにしつつも、クールに佇む彼の顔がどんどん壊れていく姿を見て、彼女は内心興奮していたのであった。どうもこの星奈は少々性格の悪い一面があるように見える。


「何で最悪の生物兵器2種と対面で茶を飲む展開になるんだよ!シュール過ぎてシュールストレミング……」


「しっかりしてください、貴方のキャラは何処に旅立ったのですか?」


「ぐぅう、あの、さっきの……災星について何だけど、魔界復興同盟も、血徒も……どういうことだ」


「同盟はソロンを呼び覚ますため各地からエネルギーを集めている」


「血徒はPと言う存在を目覚めさせようとしている」


 ハーネイトはカフェのテラス席で顔を引きつらせながら最強クラスの実力を持つであろう微生界人とお茶会をせねばならんのだと今置かれている状況に突っ込みを入れながらだんだん壊れていく。それを星奈がどうにか支え、アントラックスとぺスティスはそれぞれ各組織が何のために活動しているかについて話をする。


「だが各組織も、その女の子が見た星について情報を必死に集めている」


「後は、分かるかい?」


 アントラックスは、2つの組織が別々のことをしているのに同じ情報を求めていることについて言及する。


「その、共通項を探れと言うわけだな」


「そうだ、最後の神造兵器さん。話が分かるじゃねえか」


「その先に、多くの世界を巻き込んだ事件が待っているわけだ」


 2人はルべオラからこれらの情報について彼に渡すように指示を受けてわざわざ地球の反対側位からやってきたという。


 それと、数年前から今までおとなしかった血徒の活動が活発化しつつあるが、今の状態だと探りを入れるのも難しいほど隠密行動をしているようで、とりあえずは魔界復興同盟と災星について調査を優先しておいた方がいいと伝えたのであった。


「ふう、まだ緊張しているのか?肩の力抜けよな。俺らも、血徒の侵略に巻き込まれて仕方なく軍門に下った外様よ。まあ今は追われる身なんだが、第一級から三級まで血徒には位があるのは知っているか?」


「知らない、です。そもそも私は……」


「第1級ってのが血徒17衆とその近縁、第2級がルべオラを始めとした元々血徒に属していないウイルス界の連中、最後に3級が俺らのようなウイルス界以外の住民だな。全員、永遠の命や力の解放などのために組織で活動しているのだ」


 2人は何故血徒に加わったのか理由を話す。元々人間に利用されたり、抗生物質や殺菌技術などの影響で苦しい思いをしていた2人は、細菌界で暮らしていたのだが血徒の襲撃に巻き込まれ、その際にルべオラたちが引っ掛かった宣伝文句に乗せられ、一八でやってみるかと入ったのであった。


 それとぺスティスは、血徒には主に3つの階級、位があると丁寧に説明したのであった。


「し、知らなかった……そんな内部事情」


「伯爵もそこまでは深く知らねえんじゃねえのか」


「え?まさかあれの知り合い?」


「一応細菌界だからな、ってもあいつは王族の息子だけど」


「俺たちも代々防衛とか任される微生界人の一族なんだ」


 2人は伯爵について話をし、自分たちは同郷であり一応顔馴染みであることを話す。アントラックスとぺスティスは、元々細菌界にて警護や防衛に当たっている一族であり、血徒襲来の時も可能な限り抵抗したという。


「つーかうらやましいなあ伯爵は」


「U=ONEに目覚めるとか、なあ」


「あの、気になっていたんだけど何で追われているの?」


 アントラックスは伯爵がU=ONEであることをルべオラから聞いており、自分たちもなりたいなとぺスティスも同調し話が進む。その中でハーネイトは、何故2人が血徒に追われているのか理由を尋ねる。


「あぁ、俺たちは幹部の奴らしか見てはいけないもんを見てしまって、裏切者扱いで……」


「ん?あなたたち、どこか重要なことを隠してない?」


 アントラックスの話を聞いた星奈は、すぐに彼が何か別に隠しているのではないかと指摘する。


「なっ、そんなことはないぞお嬢さん」


「あるわ。挙動不審よ、割と分かるほどに」


 彼女は2人の動作などを逐一観察しており、目線や手先の震えなどから反応が怪しいと感じ揺さぶりをかけたのであった。


「……俺たちは、血徒17衆の1人に捕まってやべえ改造を施されるところだったんだ。元々俺らは人などに感染すると血液、血管などにダメージを与えてしまうコンビなんだけどな、その力を狙おうとあいつら俺たちを……」


「んで、脱走中にPという存在を知ったわけだ」


「同族のデータを抜き取り改造?流石に酷くないか」


 血徒に自分たちの能力を取られそうになり、恐怖から脱走するついでに「P」の存在を知ったとぺスティスは説明したのであった。


「最後に2つあれだ。どうも血徒の連中の一部に別世界でも勢力拡大を狙っているのがいる。あと、十七衆と今戦うのはやめとけ」


「敵の手の内も全く知らないで挑むのは愚の骨頂だとな。まだ本来の力を出せないなら慎重にと、ルべオラ様はあんたのこと心配しとったぜ。あの気難しく破天荒な彼女が、まるであんたを息子のように心配している。一応そういう状態だとだけ覚えておいてくれ」


 そろそろ場をまとめようと、アントラックスとぺスティスはそれぞれ、ハーネイトたちに対しルべオラからの伝言も合わせ注意するようにと伝えたのであった。


「何だか複雑な気分だな。だが、その情報も大いに役に立つな」


「次会ったらでいいんで、俺たちもU=ONE化お願いするぞ?」


「そうすれば、他生物に依存せず生きていけるのだろ?俺たちが引き起こす感染症もなくなる、いいじゃねえか双方な」


「分かった、準備はしておく」


「やったぜ、これで以上だ。俺たちが言うのもあれだが、血徒はマジで何やる気か分かんねえ」


「そこのお嬢さんも、命が惜しかったら無謀なマネはするな。さらばだ!」


 その後各自飲み物をすべて飲んでから会計をしてカフェを出るとそこで互いに別れることとなった。


 とてつもなく緊張する茶会の後、2人は国道沿いに出るため商店街の中を歩いていた。


 以前に比べ活気が少し減ったものの、それでも多くの店が開いていた。雑貨を売る店や新鮮な魚を売る店などもあり、ハーネイトは目線を動かしながら興味津々で品物などを見ていた。


 すると彼はふと屋根の方を見て、しばらく見つめていたのであった。何かがおかしい、そう直感で感じたからである。


「ん、どうかなされましたか?」


「いや、この商店街というんだっけ、だいぶ屋根が脆いようだけど大丈夫なのかなと思ってなあ」


「確かにそうですね……。ここが春花と言う街になる前からある場所でしてね」


 その時、少し道の先で突然、商店街の屋根の一部が落下しそうになった。道を歩いていた70過ぎの老人は落下地点にいた少女に対し叫びながら退くように言い、ふと気づいたハーネイトはすかさず走り出したのであった。


「あっ……!」


「いかん、そこのお嬢ちゃん!」


「え、きゃあああああ!」


「有菜!!!」


 娘を助けようとする母親だがあと一歩間に合わない。その時奇跡が起きた。なんと落ちてきた屋根はいつの間にか別の場所に移動していたのであった。


 そう、星奈の具現霊ワダツミが屋根を受け止め、ハーネイトが瞬間移動をしながらそれを回収し邪魔にならない場所に置いたからであった。


「危なかったわね。大丈夫?」


「大丈夫みたいだ、よかった」


 星奈は少女に声をかけ、立てるかどうか確認した。すると少女は立ち上がり、星奈にギュッと抱き着いた。


「ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん」


「いえいえ、怪我はないかい?」


「うん、大丈夫。すごい、ね、ありがとう」


「ありがとうございました、何とお礼を言えば……」


「いえ、お構いなく。ついでに、あの屋根とか柱を直しておこうか」


 そういうとハーネイトは商店街の屋根を支える柱に触れ解析する。そして今使われている鉄をチタンなどを含むとてもさびにくい合金に変換したのであった。


 すると錆びていた柱や屋根組みが見る見るうちにきれいになったのであった。


「嘘、夢でも見ているのかしら」


「何ということだ、あの青年……何者なのじゃ」


「そう言えば、この前間城さんが話していた格好いいお兄さんと特徴がかなり似ているわ」


「あれ、彼の隣にいるのは海原さん?退院したのか?」


 少女を助けた2人を、商店街の中にいた人たちはしっかりと見ていた。その中には間城の友達や星奈と同じクラスの学生などもおり、あの緑髪の青年はもしかしてと思い、声をかけようとした。


「あっ、お兄ちゃん、お姉ちゃん!……ありがとう!あれ、あれれ?」


「い、いつのまに?もしかして私、疲れているのかな」


 お礼を言おうとした少女だったが、いつの間にか2人は姿を消していた。しかし少女は、確かにその2人の顔を覚えていた。一方で少女の母親と老人は今起きたことが幻かのように思えた。


 けれど、確かに商店街がきれいになっていた。後にある奇跡として呼ばれるようになるがそれをハーネイト達は知る由がなかったのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る