第82話 韋車の具現霊と緑膿菌の微生界人
「なっ!こいつはっ」
「死霊騎士か!韋車さん、早くハーネイトさんの所に!」
「我が名はヴァイモズ!貴様らの魂、もらい受ける!」
「そうはさせないわ!碧緑孔雀、弾風よ!」
名を名乗り死霊騎士は、いきなり時枝と亜里沙に攻撃を仕掛ける。だが騎士の一撃を風のバリアで防いだ亜里沙はその隙に時枝と韋車を逃がそうとする。
「ぐっ、ならばこれを喰らえぃ!」
「時枝、亜里沙!左右に散開しろ!」
「霊槍嵐撃ぃいいい!」
「っ!韋車さん伏せろ!」
槍先に力を籠め、ヴァイモズは前方に突き出し強力な衝撃波攻撃を行う。ハーネイトの指示で全員どうにかよけようと動くも、韋車だけ位置が悪くこのままでは直撃を受ける。
そう思いハーネイトは速やかに紅蓮葬送を展開し韋車の盾となって攻撃を受け止めた。
「ぐっ、思っていた以上の一撃だな、っ、がはっ」
「防いだのか、面白い!」
「そう思い通りに行くと思うな!詠唱装填完了、霊量超常現象・鎖天牢座(さてんろうざ)っ!」
「これは、鎖の檻かっ」
ハーネイトは攻撃を防いでいる隙にCデパイサーに入力し、霊量超常現象の装填入力を行い、防ぎ切ったと同時に拘束系の魔法術、鎖天牢座によりヴァイモズの体を天と地から射出される鎖が織りなす檻により拘束に成功する。
「小癪なマネを!霊光雨矢だ!」
「翻ろ、紅蓮葬送!」
しかしヴァイモズは、左腕に持っていたボウガンを斜め上に掲げ、無数の光弾を発射する。それは雨のように降り注いでハーネイトたちに襲いかかる。
しかしそれを彼は、紅蓮葬送と創金術による金属の壁で無数の光矢をすべて防ぎ韋車たちを守る。その間に伯爵たちに韋車を見ていてくれと指示を出し、彼はある構えを見せた。
「隙あり!弧月流・刃月!」
「ぬうう、動けん!がああああっぁあああああ!」
「直撃だが、まだ落ちてはいない。響、五丈厳、3方向から仕掛けるぞ!」
「了解だぜ!」
拘束が完全に解ける前に、ハーネイトは響と五丈厳でリンク攻撃を行う。響が言乃葉の言呪でヴァイモズの防御力を低下、五丈厳はスサノオと突撃しフルボッコにする。
それに合わせハーネイトは自身の前方に無数の剣を召喚し、それを一斉掃射し大ダメージを与える。
「やれ、伯爵、ウェルシュ!」
「オーライベイベーだぜ、醸せ、菌帝剣!!!」
「これでフィニッシュだ、イロースラッシュアクトγ!」
その隙に飛び上がり、伯爵とウェルシュは頭上からヴァイモズに対し落下攻撃を仕掛け、豪快にその胴体を切り裂く。
「馬鹿なぁあああ、こんな、所でぇえ!!まだ、降伏してはおら、んぞ!霊光砲っ!」
「しまった!」
「危ねえ、ハーネイトさん!」
「っ!」
かなりのダメージを与えたはずだが、ヴァイモズはそれでも膝をつくことなく胸からビームを放ちハーネイトの胸を射抜こうとする。わずかに回避が遅れた彼を見た韋車は、いつの間にか体が勝手に動き、ハーネイトを突き飛ばしビームが腕をわずかにかする。
「間に合った、な。っ、わずかにかすっただけだ、ッ」
「韋車さん!こうなったら、こいつを使うまでだ!MFイタカ、ロケットアームインパクト!!!
「巨大な、機械の腕だ、とおおおおおぅ!!!」
「おおお、やっぱあんたすげえな。そんなもの呼び出すとはなっ、ぐっ、聞こえる、ぞ。あいつの、声が……っ」
ヴァイモズをMFイタカの腕で豪快に吹き飛ばし、すぐに韋車に駆け寄るハーネイトは傷の処置を行う。すると彼は顔をしかめてから、どこかで聞いた声を耳にしその方向を向く。すると機械の鎧を身に纏う紅蓮の獅子、具現霊レイオダスがそばにいたのであった。
「この空間にいたのと先ほどの一撃で、霊覚孔が目覚めたのか?だが非常に安定している。初めて具現霊を召喚したようには思えないほどだ」
「ああ、俺も聞こえるさ、レイオダス。なあ、共に、戦ってくれるか?」
「……グルルルルゥ!!!」
「頼むぜ、相棒。縁を結び、現世(うつしよ)に現霊映し出す者よ。我が名はレイオダス。鉄騎と劫火にて汝を護る者なり!」
「もう現霊化も終わっている、ここまで素質が高い人だったのか?」
「済まねえな、実は結構前からあいつの声はしていたんだ、だが姿までは見えなかった。今回の一件で、俺もお前らと同じような存在に、なったのかもな」
「……韋車さん、後でホテル事務所まで来て頂けますか?」
「いいぜ、特に予定もないんでね」
韋車はレイオダスと話をし姿を見ることもできるようになり、これなら高校生たちと同じように戦えると実感し、ハーネイトが事務所まで来てほしいという話に快諾し、具現霊として再会したレイオダスと共に懐かしい日々を思い出していたのであった。
「さあ、貴方たちを操っているのは誰か教えてもらおうか」
「しら、ん……我らは、我らの意思でっ、魔界……っ!ここで、命、潰えろ!」
「ちょ、何だ?地面が揺れているぞ!」
「おい、あっちを見てくれ!あれはっ、怪獣か?」
「お、大きいっ」
それからハーネイトは、巨大な機械の腕に吹き飛ばされてぼろぼろで横たわるヴァイモズに対しある質問をする。
しかし、彼は苦しそうにそう言いながらまだ戦う意思を示していた。そんな時、突然このエリア一帯に強烈な振動が走る。
「2足の竜系か、動きはとろいが耐久力が高い可能性が大だ。一旦散開し集まらないようにして、ブレスか踏みつぶしは脅威だぞ!」
「グロォオオオオオオオオ!!!!」
「耳をつんざくような叫び声だぜ兄貴!」
「どうやって倒せばいいんだこれ」
地平線の彼方からやってきたような、まるで巨人が歩いて迫ってきているかのようなそれは2足で歩く大きな竜であった。
「軽く、全高50メートルはありそうだな、首が痛いぞ」
「ハーネイト様、このような敵性存在との戦闘術はまだ私たち……」
「ハハハハ、これが、最後のあがきだ、あっ!お前ら、全員、食われ……ごふっ!」
時枝と亜里沙は、韋車と共に向こうから歩いて迫る怪獣の全体を見ようとしていたが、近くにいたヴァイモズは、わずかな力でそう言い切り絶望した顔を見せろと言う。
だがその時、地下から緑色の触手らしきものが横たわる彼の胴体を突き破り、爆砕したのであった。
「悪いけどさあ、僕今虫の居所が悪いんだ。さっさとくたばってよ」
「ガ、ァアアアッ」
「お腹空いたから、あれも食べちゃおうかな……ああ、面倒だけど」
「ええと、何だか見ていると伯爵やルべオラさんと同じ微生界人?」
弱っていたとはいえ、死霊騎士を一撃で撃破する存在がいることに亜里沙たちは驚くが、その場に現れた緑色のフードと幼い子供のような姿が目立つ存在にさらに驚く。
触手の主は明らかにあの少年の姿をした何かであり、しかも伯爵が反応していることから少年は微生界人ではないのかと亜里沙は推測した。
「ごめんね、これも生存競争だからさ」
すると、巨大な竜の怪獣は全身を緑色の触手で拘束され、速やかに接触した部分から肉体が分解され見る見るうちに原型をなくし、数十秒で竜は完全に捕食されたのであった。
「ギャォオオオオオオオオ!!!」
「……ご馳走様。これで終わりだね。あー、全くやれないわけじゃないけど面倒……幽霊醸せないし。醸すなら実体のある物、がいい」
「おい、こんなところで何してんだカラー」
「全くさ、もう少し調子あげられないの?」
「っせえな、女神の呪いはめちゃんこ強力なんや、俺ですら全盛期の力を出せねえんだ」
「ふーん」
捕食した竜の肉体を分解し、霊量子に変えつつけだるそうに、面倒くさそうに思っていることを口に出す微生界人。すると伯爵がその者の名を呼びながら近づくのであった。
「知合いですか伯爵さん」
「さんはいらねえ、こいつは俺と同じ細菌界系の微生界人だ」
「僕の名前は、カラプラーヴォルス。と言ってもこれは独自につけている名前であって、君たち人間が呼ぶなら、緑膿菌と言えば分かる?」
「……日和見感染症で有名なあれ、ですか?」
「そうだよお姉さん。へえ、そこそこ勉強している?」
「ええ、まあそれなりにですが」
この微生界人は、緑膿菌と呼ばれる非常に丈夫な日和見菌であり、その概念体と無数の緑膿菌で肉体を構成している状態であった。
亜里沙の答えに少しはやるようだと彼女をほめてから、伯爵の方を見て、独自の調査をしていた中で確認した、ある驚愕の事実を告げるのであった。
「伯爵、僕たちも血徒について調べているんだけどさ、負け戦になるかもしれないよ」
「へぁああ?何冗談言ってんだ」
「全微生界人の95%が血徒に属している状態だとしても?」
「うげええええええ、ど、どういうことやまじで」
伯爵は、血徒を構成する組織員の存在はよくて全微生界人の約半数課と思っていたため目を丸くして驚いていた。
「それとハーネイト、あんた何してんの。あのルべオラにこの前会ったけどU=ONEになってんじゃんアゼルバイジャン豆板醤、1つ話を聞かせてもらいたいんだけどさ、なぜ彼女を?」
「あれは……」
次いでにカラーは少しふくれっ面で、ハーネイトにある質問をする。それはルべオラの件についてであった。
「はいはい、ちょっと騙されたねあんたは。まあ、最初は勢力争いでアド取るためにU=ONE化の力を持つあんたに迫ったんだろうが、どういうわけか改心してあんたらのために動いているようだな。全く、人たらしならぬ微生物たらし?神造兵器と微生界人の薄い本とか需要あるの?どちらも人外だようん」
カラプラーヴォルスことカラーは、ルべオラの話と今聞いた話から、麻疹のウイルス界系微生界人ルべオラは、ミイラ取りがミイラになった的サムシングで血徒の計画から離れ彼らを監視しているということを理解したうえで、U=ONE化した原因を作ったハーネイトに対し、辛辣な言葉を機関銃の弾丸の如く浴びせまくるのであった。
「ルべオラとは別のベクトルできついこと言うなあのガキは」
「あれと一緒にしないでくれる?てか、ふうん。君たちも対抗できる存在なわけか」
「そうなんだ、ハーネイト先生と伯爵に異界空間内で命を救われて……」
「そっかあ、それは災難だったね。でも、その力は磨けばヴィダールが生み出した物どころかヴィダールの神柱も屠れるかもね。ガンバだよ、フレーフレー」
五丈厳や響など、高校生たちを見たカラーは、彼らが具現霊を使えることに興味を示し、その力があれば鍛錬次第でどんな敵ともやりあえると言い、彼なりにけだるげにエールを響たちに贈るのであった。
「何だか、励まされた?」
「エールを送ったって感じ?にしてはやるきのないこと」
「ダウナーな感じバリバリだな、だが、実力はかなり高いと見ていい」
「おいカラー、結局何をしに来たんだ?」
「ウェルシュかあ、相変わらず縛りプレイしてる?まあいいけど、これはあとでルべオラも同じこと言うけど、今の状態であの17衆とかいう化け物連中とやりあうのは申し訳ないがNGだよ。ソラに逆らえないように能力を封印、制限されているそのコンディションでは最悪機能停止だからね。そこの人間たちも同じだよ」
カラーは最後に、最低でも霊量子で身を守る技術について確立しないと血徒とまともにやりあうのは自滅行為であることと、ハーネイトと伯爵に対し今は戦う相手を選んで、その上で霊量子を集め自身を強化し枷を外さないとこの先、かなり録でもない目に遭うかもしれないと注意したのであった。
「じゃあ僕は別の場所調べに行くからね。血徒が本格的に動き出した時は僕も参戦するから、その時までくたばらないでね。面白い人間たち」
そう言い残してカラーは、ニコッと笑うとその場からあっという間に姿を消したのであった。
「ふう、予定時間をそれなりに過ぎてしまったが、あれを壊して戻ろう」
「微生界人……恐ろしいな。味方にいると頼もしいが、敵には回したくない」
ハーネイトたちはその後、異界化浸食装置と思わしき物体を破壊した。こうして任務完了となったわけだが、彼らは新たな事実と戦う相手の巨大さにしばらく絶句していた。
その後ハーネイトは外に出てから転送装置を利用してホテルまで戻ろうと提案する。
「転送装置を使おう。はい韋車さん、これをつけてください」
「おう、何だこれは」
「今からホテルまでショートカットで移動するので、それに必要なものだと覚えていてください」
「そうだったな。全員ホテルまで戻るよ。準備して」
「はい先生」
そうして全員がハーネイトの指示通りCデパイサーを準備しつつ亀裂から脱出、それと同時に封印を亀裂に施した後、ハーネイトを起点に転送装置を使用し、ホテル・ザ・ハルバナまで移動したのであった。
ハーネイトはそのあと宗次郎と大和に一連の事情を報告したのち、地下事務所に戻ると改めて人を集めて話をしたのであった。
「みんなご苦労だった。おかげさまで敵の一人を討伐し異界化浸食も防げた。それにこのアイテムを入手できた」
ハーネイトは軽く礼をしてから、机に置いていた袋からある紅色の宝石を取り出し全員に見せた。
「それは、宝石?」
「ああ、ただ霊量子の影響を受けているがな。恐らく宝石獣と関係があるアイテムだ」
ごくまれに、魔獣の中に宝石ばかりを食べる獣がおり、それらがほかの魔獣に捕まるなどと言った理由で体内の宝石が外に出て、長い間あの空間に存在していたため不安定になっていたのであった。
「宝石を食べる獣……なんか捕まえたらすごそうだな」
「数自体は少ないと思うがな。……今日はこれで解散していい。ご協力感謝する」
「先生の頼みなら。そういう契約ですし」
「危なかったところもあったけど兄貴、ありがとな」
そういいハーネイトはホテルで全員に解散を命じた。しかし亜里沙と時枝、響はその場に残り話をしていた。
「皆さんそれぞれ鍛錬しているようですね。私も……」
「先生が放ったその、霊量超常現象(クォルツ・パラノーマルフェノメノン)は一体なんですか?」
「霊量子で放つ大魔法、だな。響と彩音が私の使う魔法を気にしていてな。どうにかできないかと考えた結果技術革新が起きたわけだ。まさに魔法革命だよ」
実際にここまで行きつくのには数年も時間を要した。しかも研究に付き合ってくれたリリーとミカエルは今頃疲れて寝ているだろう。2人の協力に感謝した上で話を進めた。
「但しまだ調整が必要なので、現在アップデートデータは送れない。もう少し待ってくれ」
「先生は俺たちのためにそこまで……ありがとうございます」
「ただ、隙が大きいのは確かだ。援護がない時は撃たないで具現霊を使ってくれ。と言うか具現霊あるなら必要なくていいのだけど……」
「色々戦術を持つことは大切だと思いますが先生」
まだ使えない事情を説明したハーネイトは響からお礼を言われにこやかに笑うも、正直な本音を打ち明ける。
しかし部屋から出ようとした時枝はそうは思わず、そういう戦い方があってもいい。使えるものはどんどん使いたいと言ってから廊下に出た。それにハーネイトは納得した。
「そうだな、時枝。……さあ、帰ってゆっくり休んでくれ」
「先生もゆっくり休んでよな」
そう言われ、響たちは事務所を後にし各自帰宅の途につくのであった。
「まさか、異界の地で魔法革命が起きるなんてな。首領が話を聞いたらどう思う事やら」
ハーネイトは響たちを見送った後、事務所に戻るとソファーにもたれかかり、ふと独り言をつぶやいた。これからも技術の革新をしていかなければならない。それがあの子たちを守ることに繋がる。そう思いながら一休みしていたのであった。
こうして彼らが新た仲間を迎えていたころ、全く別の領域で不穏な出来事が起きていた。
「おいカバリ、Pを開放するためのカギについて、情報は集まっているのか?」
ここはある異界亀裂内にある、森と砂漠が混在している古代遺跡群である。その遺跡の中にある立派な作りの部屋に、これまた頑丈で高級そうな椅子に座る赤い皮膚の男が不敵な笑みを浮かべながら部下と話をしていた。
「エクイ様、だめです。そもそも封印に携わっていた一族が、その」
「……そうか。しかし血徒の王はこの私、エクイだけだアーハハハハハ!今度こそ、あの兵器の封印を解いてやる。そうすれば、あの神柱どもをへし折ることもできるのだ!」
この怪しい男たちこそ、あの伯爵が言っていた血徒のメンバーである。彼らは原虫系の微生界人であり、積極的に計画に参加し裏で暗躍しているという。彼らはまだ目立った動きを見せていなかったが、ある争いに備えじっとしていただけであり、そろそろ彼らも本腰を入れて動こうとは考えていなかった。
「早く鍵を手に入れなければ、計画に支障が出るな」
「持ち主を探すほかないの。まだあの災星が最接近するまでは時間がある。各部門の研究を今は最優先しないとな」
彼らは星奈が見たであろう赤く大きな災いの星について言及してから、これからの当分のスケジュールを確認していたのであった。
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