第81話 霊量超常現象(クォルツ・パラノーマルフェノメノン)発動!




今回の作戦参加メンバー ハーネイト、伯爵、シノブレード、響、翼、時枝、亜里沙、五丈厳



 異界空間内に引きずり込まれたハーネイトたちは、周囲を確認し昨日と状況が変わっていないかを確かめていたのだが、あることに気付きハーネイトはびっくりして声をあげる。


「って韋車さん???あなたは入らなくていいのですが」


「実は大和から連絡がなあ。それと、あんな場所に1人でいるよりはあんたらといた方がいいって言われてな」


 それは、亀裂の外で待機してくれと指示を出したはずの韋車が同行していたからであった。


「えぇ……でも確かにそれもそうか」


「そうだぜ兄貴、外で待たせている方が何かあったときあれくないすか兄貴」


「私が韋車さんの護衛をします。遠距離からでも私は支援攻撃を行えますからね」


「わ、分かった。その方針で行こう。亜里沙さん、頼みました」


「おい相棒、やるぜ。ほら、行くんだろ?」


 ハーネイトは仕方なく韋車を亜里沙と共に後ろに下げてから、事前の打ち合わせで宣言した通り自身がまず突撃する。砂埃を豪快に立てながら砂漠を走る彼の近くで、地中に何かが蠢いているのを感じる。


「では作戦通り私が先行する。しかし砂地と砂礫だらけだな。……!」


「これは魂食獣か?でけえ蛇だな、魔獣ならかば焼きとかで食べられるだろうが、じゃねえ!」


 すると、砂の中から突然勢い良く、全長30m近くはあろうかという巨大な砂蛇が出現し一直線にハーネイトに襲い掛かる。


 しかしそれを呼んでいたのか既に彼は刀を抜き、少し構えてからカウンター気味に強烈な一撃を繰り出した。


「甘いな、弧月流・斬月!」


 肩に大剣を担ぐかのように構え、重力と遠心力を生かした袈裟斬りは、三日月を描くかのような強烈な剣閃を生み出し蛇を強烈に吹き飛ばした。


 さらに追い打ちをかけ、飛んでいった方向にあるしるしのついた結界石ごと、ハーネイトはある技で撃ち抜こうと剣先を突き出し、口も大きく開くと何かを発射しようとする。


「まとめて叩く!射滅ぼせ、霊閃レイヨン・破天奔流(エノルムアノンダシオン)!!!」


 彼がそう叫ぶと、眩き蒼光の奔流が剣先と開いた口より怒涛の勢いで放たれ、正確に蛇の急所と結界石の中央部分を見事に射抜く。


 それだけでなく、周囲の気運汚染もまとめて消し飛ばし道を作ったのであった。その光は空をも切り裂くかのように、遥か果てまで伸びていったのを響たちは見ていたのであった。


「すげえ、まとめてぶち抜くのかよ」


「あれだけで勝てそうだな兄貴は、すげえ……」


「人間が、できる技じゃねえ!」


「やはり、貴方は人ならざる……それでも私は貴方を」


 それを見た五丈厳と翼は思わず息を呑んだ。まさに神業ともいえる一連の動きに見惚れており無駄のない一撃に感銘を受けていた。


また、亜里沙と時枝、響はハーネイトの放った極太ビームである霊閃について言及し、これは使いどころを選ぶが滅茶苦茶強力な技だと思いつつやはり只者でなさすぎる存在だと思いしばらく彼を見ていたのであった。


「ぼさっとしていないで、どうだ濃度は!」


 Cデパイサーに表示されている濃度計がどれだけ減ったのか全員がハーネイトに教えた。そして伯爵が結論をまとめる。


「10%近く一気に気運が下がったぜ。やはりあの結界石も、あの装置同様気運に関係あるな」


「了解、後は頼むぞ。私は再解析を行う。どうも宝も眠っているらしいな。ぜひとも回収したい」


 そういいハーネイトは意識を集中させ、何か埋まっていないかを霊量子を用いて探っていた。 


「先生、その宝ってどういうものですか?」


「簡潔に言うと強化アイテムになる素材か。指示を出すからその辺では戦闘は禁止だ。吹っ飛んだり壊れてはあれなのでな。特に五丈厳と翼は気を付けるんだ。それと魔獣などの反応はない。近接攻撃は大丈夫だ」


 先にそう指示を出したハーネイトは、次に伯爵に対しても特別な指示を出した。彼の感が、この地にある何かをすでに感じ取っていたからであった。


「伯爵、アイテムを拾ってきて?」


「んだと?俺だって暴れてえ!」


 伯爵はそう指示され少し不貞腐れていたが、それでもハーネイトはCデパイサー上に入力した地図情報を転送した。


「回収出来たら好きにして。3か所でジェムタイト反応、それと1か所で金属反応だ」


「追加で金くれーやー!」


「いいとも伯爵」


「しゃあねえなあ、行くか」


 伯爵の要求にすぐさま了承し、ハーネイトは一旦後退し全員の動きを見つつ、先ほどの砂蛇のような脅威に対して警戒をしていたのであった。


「行くぜ!これが俺様の仲間だ!カモーン!ウェルシュ中将!」


「呼ばれて飛び出て何とやら、はいエンテリカ様、いきなり何用ですか」


「伯爵と呼べ、あれを回収してくれや」


 伯爵が呼び出したのは部下でもある微生界人の1人、ウェルシュ中将であった。この若き戦士は剣の達人であり、とにかくスピードに長ける特徴を持つ。


 また、眷属というか微生物を使用した技をほとんど使わないという古参の兵であり、伯爵がまだ菌界の王子であるときから配下として職務についていたという。 

 

 金髪の美形剣士であり、強さと美しさを兼ね備えた最強の戦士とも称されるが、本人の性格に若干難がある。だが自身の病原性の危険度を理解し、その力を抑えているあたり好感が持てるとハーネイトは言う。

 

 いきなり呼び出され少し困惑していた中将であったが、事情をすぐに察し背負った大剣を手にして構えると前方に突撃を実行する。


「っ!なんだこれは!」


「待ってたぜへへ、飛んで醸されるなんとやらってなああ!菌閃斬だぜ!」


 ウェルシュ中将に襲い掛かる、砂の上を爬行する蛇型の魂食獣を、伯爵は手元から放出している菌の魔剣であっという間に切り裂いて見せた。


「っ!助かった。アイテムは回収しました!」


「オーケー、じゃあ次行くぜ!」


「了解です、しかしもう1人連れてきたかったですね」


「あいつらは別に忙しい、しゃあねえが俺たちだけでこの場はやるぞ」


「了解しました。では覚悟!」


 伯爵はその後も、ウェルシュ中将と連携しつつ非常にノリノリで指示された箇所全てをあっという間に調べ終え、アイテムをすべて回収して見せたのであった。


「これが当たりか!?ぶっ潰す!スサノオ、行くぜ!」


「見つけたぜ兄貴!これでもくらえ、バニシングフレア!」


「やらせはしない、雷落!」


「そうですわ、碧銀孔雀、行きますわよ!」


「言乃葉、行くぜ!竜巻剣!!!」


 五丈厳を始めとした5人は事前の打ち合わせ通り、優先的に小さな印のついた石を破壊していく。

 

 もちろん邪魔者である魂食獣も出現し、それを守るため迎撃行動を取るも響たちはそれを確実に仕留めていく。


「いい所見せようかね、……試しに起動するか、行くぞ!」


<<無限の凍剣 失命の籠 万物止まりし絶対零度の最期 万年氷の墓標に戒名刻む>>


「スタンバイOK!行くぞ、君たちは一旦引くんだ!霊量超常現象 (クォルツ・パラノーマルフェノメノン)・雪月氷剣葬 (せつげつひょうけんそう)!」


 ハーネイトは翼たちの背後から迫るものを感知しており、先置きする感じで新技術・霊量超常現象(クォルツ・パラノーマルフェノメノン)を発動したのであった。


 これこそが霊量子を用いて再現する自然現象の極みにして、新たな魔法革命。ハーネイトは仲間の協力のもとに、新たな境地にたどり着く。


 今発動した雪月氷剣葬は、敵を氷の巨大な柱に閉じ込め凍らせながら、その周囲に展開した無数の氷剣が無慈悲に拘束した敵に突き刺さり砕くという、氷系の技の中でも難易度の非常に高い術である。


「うわああああ!背後に巨大な氷が!」


「しかも氷の剣で氷の塊を串刺しに?」


「んだと!まさか先公が!?だが助かったぜ。まだ戦い慣れしてねえのがあれだな」


「このまま終わらせる!」


 見事霊量子での大魔法を実用レベルで成功させたハーネイトは、更に簡略詠唱モードで霊量超常現象・杯架黄器(はいかおうき)を発動、全員の能力を底上げし支援した。


「ついでにこいつも使おうか!……入力完了、詠唱装填!」


<<疾駆の速脚 一陣の太刀風 遍く戦場駆け抜ける 真空の支配者の命を受けろ>>


「まとめて吹き刻む!霊量超常現象 (クォルツ・パラノーマルフェノメノン)・魔風一陣」


 更にハーネイトは、疾風属性の魔法こと、霊量超常現象・魔風一陣をCデパイサーより放ち、直線状にいる魂食獣ら数十体に対し、真空の道を作り出し気圧差で肉体を切り裂き、あっという間に消滅させたのであった。


「良い感じだ。んで、残りのマークはあと2、速やかに破壊せよ!亜里沙さん、韋車さんから離れないで、時枝は左の汚染地帯に遠距離攻撃を!」


「了解しました先生!」


「ここは私がしっかり守っておきますわ」


「お宅ら、マジですげえな。あのハーネイトもだが伯爵もありゃ人じゃねえ、坊主たちもあんな奴らを相手によくやるぜ」


 ハーネイトは戦線を押し上げるため追加で指示を各員に出し、異変がないか常にモニタリングしつつ確実に気運汚染を除去していく。


 彼らの戦う姿を見て、韋車はただただ凄いという感情しか出てこなかった。自分よりも年下の奴等がこんなに生き生きと、勇敢に戦っている事実に称賛し、自分はああまでできるのか分からず思っていたことを感想として述べるのであった。


「戦わなければ、未来を掴めないんです」


「放置すれば、世界の存在自体が不安定になり様々な災厄が降りかかるとのことです韋車様」


「そうなのか、亜里沙さん。宗次郎さんもさぞ悔しがっているな。自分も力があれば積極的に参加したいと言っていたが」


 時枝と亜里沙の言葉に、韋車はそうだなと思いながら宗次郎もまた、力があればと思っていることを話す。その間にも作戦は順調に進んでいた。


「そろそろこちらの方は印付きの結界石が無くなる」


「分かった、響は魂食獣の撃破を、翼はそこから突破しつつ残りの石を!」


「分かったぜ兄貴!響、一つ派手に行くぜ!」


 ハーネイトは残りの結界石について指示を出し、響と翼がそれにすぐ応じ周辺にいた魂食獣と結界石の破壊に成功する。


「伯爵と五丈厳は装置を守るように汚染している気運の除去をお願い!」


「ちと量が多いうえに、結界石の配置が厄介だ相棒、MFを使ってあの地点を吹き飛ばしてくれや」


「特別支援攻撃か、分かった、今やろう!」


「頼んだぜ、後は問題なくやれそうだ!」


 最後に、異界化装置の周辺に多く存在する気運を取り除くように指示が出され、伯爵の要請でハーネイトはナビゲーターが作戦中に実行できる特別支援攻撃を実行、指定された座標に真上からMFイタカの右腕をゲートより召喚し地面を殴りつけ吹き飛ばす。


 それにより道が開け五丈厳とスサノオによる一撃と伯爵の菌霧舞により突撃ルートの確保に成功したのであった。


 その時、不穏な影がその領域を駆け巡る。すると後方支援をしていた亜里沙と時枝の目の前に大きな馬に乗った、橙色の気を纏いし死霊騎士が突然現れたのであった。

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