第80話 韋車の過去とAミッション準備



「ってもあの事件の2年後に俺は親の都合で引っ越しして四国で暮らしていた。動物園で働いていたのもそこだな。レイオダス……ああ、あの頃を思い出すな」


 韋車はついでに自身の過去について話を少しした。動物園の飼育係として数年働いていた時期があり、その中で一番思い入れのあった動物がある一頭のライオンであった。


「ライオン……?」


「見たことがないのか?」


 韋車はどこか怪しみつつ、ハーネイトに色々説明をした。携帯端末でどういう生き物なのかをハーネイトに見せると彼は、故郷には似たような姿の魔獣こそいれど純粋なライオンを見たことがないことを話す。


「すごいな、うちのニャルゴとは違う意味ですごい」


「あんた一体どこ出身なんだ、あ、宗次郎さんが言ってたな……。マジで別の世界から来たのか?には見えねえな。普通に言葉通じるしなあ、うーん」


「よく言われますが、一応転移で飛ばされたこの国の人たちから言葉を教えてもらったのです」


 韋車は最初宗次郎から教えてもらっていたことを忘れていたがふと思い出し、改めて目の前にいる2人が只者でないことと、今起きている数々の未解決事件を追う優秀な人物であることを把握し、それでも気さくに彼は話の続きを行うのであった。


「ほう、そういうこともあるのか、まあええか。話の続きだが、レイオダスは、密漁から救い出されたオスのライオンだった。日本に来て、多くの人たちがその優雅で勇ましい鬣とその姿に注目になっていた。っても5年前に寿命を全うしたがな」


「そうなのですか……思い出がたくさんあったのですね」


 話を一通り聞いて、ハーネイトは韋車と言う男もまた変わった人生を送ってきた人だということを知り少し興味を覚えた。


「ああ、最後にな、声が聞こえたんだ。俺について行きたいってね」


「もしかすると、韋車さんも割と早く現霊士レヴェネイターになれそうなほどの高い素質を秘めている、のかもしれません」


 韋車の言葉にハーネイトは、この男もまた能力者になる運命を負うものかと思うと少し言葉が詰まる。


 明らかに彼は霊の言葉が聞こえている状態で、しかも既に半分具現霊のようなものが彼の背後にいるため、この先の展開次第でどうなるか半分期待、半分心配な状態であった。


現霊士レヴェネイターだ?何だいそれは」


「ああ、すみません。こちらの話なので気にせず……」


「普通気にするだろ、教えてくれ」


「仕方ないですねえ、貴方の背後にその、レイオダスと言っていたライオンの霊が……いるのですよ」


 韋車はハーネイトの放つ言葉について気になることがあり質問の末、自身の体に異変が起きていることを知ることになったのであった。


「そ、そうなのか?」


「はい、明らかにいるのです。しかし、気づくためにはまだ力が足りない」


 その話を聞いた韋車は動揺するも、すぐに嬉しそうな顔をしていた。


「相棒、そろそろ罠に引っかかってみようぜ。内部が気にならぁ」


「気運がやはり漏れているね。それと、恐らく異界化浸蝕も起きていると見て動いて」


「了解、あんたはここで少し待ってな。すぐに戻る」


「ああ……分かった」


 そうして、亀裂の近くに2人が近づくと吸い込まれるようにその場から姿を消し韋車は驚いていたのであった。


 異界空間に飛ばされた2人は、周囲を見渡すと砂漠と所々に石造りの廃墟、更に小さい川も流れており、一面が別世界であるかのような状態からハーネイトは分析する。


「異世界浸食とあの結界石、それに加え気運のオプション付きとは贅沢だな」


「だなあ、血徒の匂いはしないが、あの奥にある装置が見えるな?」


「異界化装置だな、あの形状は。各結界石を起点に気運が広がっているようだし、なんか墓標みたいだな、数が多い。菌探知でも使って……ん?」


 幸い大気の質などは何もしなくても問題ないのがよかった。けれど放置できない。従業員の体調不良の原因は、気運を生み出している装置によるものであると分析したハーネイトはあることについて考えを述べるのであった。


「境界を弱め、その隙間から気運を流し生命力を吸い取ったり、死霊騎士などの活動をしやすくするか……その辺りが問題だ」


 異界化装置や気運発生装置などを置いた犯人の目的は、恐らくいくつか目的があると言い伯爵もその意見に賛同するのであった。


「ありえなくはねえな。にしても、エヴィラの奴あれから連絡をよこさねえが何してんだか」


「どうもルべオラと一緒にいるみたいだな、仲良くしているといいのだけど」


 地形などを把握するため偵察用のドローンを召喚し、上空を飛行させデータの回収をしながら2人は仲間である元血徒のエヴィラについて話をしていた。


 ハーネイトはエヴィラがルべオラや別の細菌界系微生界人2人組と連携を取り合っていることについて伯爵に話をする。


「マジか、おいおいおいおい、いつの間に仲良くなったの?しかも、アントラックスとぺスティスだぁ?あいつら血徒の軍門に下って粋がってたはずだが……何かあったのか?」


「どうも見てはいけない物を見て、追われているのをルべオラが拾ったとメールにはそう書いてた」


「ふぁ、ますますまるで意味が分からんぞ!」


 その上で、ルべオラは自身も17衆以外の血徒だったので主力勢の居所はまるで分からないと述べつつ、全力を出せない状況下での17衆との戦闘は可能な限り避けろという指示を送ってきたのであった。


「んだとぉ?あいつ俺らをおちょくってんのか?マジで次会ったら痛い目にあわせたろか」


「伯爵!彼女はこちらのコンディションを把握した上でそう言っている。俺たちは生みの親に呪いをかけられているのだ」


「しかしなあ、ルべオラが何考えてるか分かんねえんだ!ああ見えて相当な策士なんだぜ」


「もしU=ONEの力だけ欲しいなら、私をだまして力を手に入れ、すぐに逃げればいい話だ。だが彼女は俺を助けるつもりでまとめて4体の死霊騎士をワンバンしている。どういうことだ?」


 ハーネイトも最初、なぜルべオラと言う血徒が自分の盾となるようにあの騎士たちに立ちはだかったのかが気になっていた。その後の流れもそうだが、彼も伯爵同様彼女の意図について考えていたのであった。


 その後やけに協力的な部分が怪しいと思うも、彼女は血徒としてこちらを敵視などする気は全くなく、友達かそれ以上のような振る舞いを見せてくることから彼女が血徒に騙された云々についてが理由ではないかと彼は考えたのであった。


「っ、単なる腕試しじゃねえのか?新しい武器を手に入れたら試し切りとか撃ちとかするだろ」


「うーん、それと、あの後事務所まで来た件については?かなりひどい目にあったが、血徒に属している者しか手に入らない情報をよこしてくれた。そのおかげで血徒の目的が分かってきた」


「ぬっ、マジで何を考えてんだ、全くよ。俺たちを利用しているだけだろ」


「エヴィラの話を聞き、最初は半信半疑でこちらに近づきU=ONEの力を手に入れたが、あまりの凄さに感動し、血徒の話が嘘じゃないかと思った彼女はまさかのエヴィラと同じく協力者になってくれた的な?それと、俺の過去を聞いて思うところがあったのかもしれない」


 ハーネイトの言葉にことごとく自身の意見を覆られそうになり、伯爵はやけに不機嫌であったが、それは彼の発言に対してではなくルべオラが裏で何か企んでいるのではないかという疑念についてやきもきしているだけであった。


「敵討ちを手伝うか、それなら俺もお前のためにやるけどさ、もしあいつが邪魔するなら、そん時は容赦しねえ。っ、韋車さんを待たせるわけにはいかねえな」

「そうなんだよね。っと、ドローンでの調査も終わったことだし出ようか」


 そうして一通りデータをまとめ、10分ほどで亀裂の外に出てきた2人は韋車に声をかけられた。それを見て驚いていたが、それが見る自身もまた同類なのかと思うと複雑な心境であった。

 

「帰ってきたか。どうだったそちらの方は」


「あってはならないものがありました。しかし私たちでそれを破壊します。そうすれば従業員の体調不良や幽霊の目撃などはなくなります」


「分かった、では頼んだよ」


「明日の夜、召集をかけて処理に当たります」


 ハーネイトはCデパイサーでメールを送り、役割をどうするか決めようとしていた。


「Cデパイサーで内容を送ってと。ナビゲーターは自分か大和、あるいは間城で、リーダーをどうするかだな」


「サポート系一人はいるんじゃねえの?まあ俺できるけどさ。それとよ、この結界石なんか妙なんだよな」


「特定の石だけよく見ると印がついている。任務時に特に気を付けるべきだな。事前偵察をしたおかげで大体の土地は把握できた」


 今回の問題点として伯爵が述べた結界石に何か特徴が追加されているという点があった。それからも他に数名仲間を呼んで解析した方がいいと考えていた。


「先生お疲れ様です。明日の20時ですか、済みません。私用がありまして作戦の参加ができません」


「俺は行けます先生。問題は……母さんも行ってみたいと言ってきかないのです」


「京子さん……まったく。クラスが何系なのか分からない以上まだそれはできないしまともな戦闘経験も……とにかく、今回は断っておいてくれ」


 彩音が参加できない旨を最初に連絡し、響は京子がどうしても行きたいということを聞かないことに対しハーネイトは素質を見極めれていないので今日は遠慮してくれと指示を出した。


「ごめんなさい先生、久しぶりに両親が帰ってくるのでその時間には行けないです。ごめんなさい」


「俺と亜里沙さん、時枝と五丈厳は行けるっすよ」


「すまねえ兄貴。部活で遅くなりそうでな、大会が近くてよ」


 間城は海外から両親が帰ってきて、九龍は大会が近く時間に間に合わないと連絡した。しかし翼は亜里沙や時枝、五丈厳とたまたまホテルの事務所にいたため確認し行けると連絡したのであった。


「……間城はともかく大和まで。と言うか大和は何しているんだ。まあいいけど、そうなると、こちらから一人は出さないといけない」


「先生、集合場所はどこですか?」


「事務室だ、時間までに参加できそうな人はその部屋に来て待機してくれ」


 大和にも連絡したがどうも宗次郎と共に桃京に行き何か情報を集めているという。となるとナビゲーターは自分か伯爵のどちらかでしかできない。


 ボルナレロには研究に専念させたい思惑もありどうするか考えた後、時枝の質問に対し作戦参加ができる人たちにホテルまで来てもらうように指示を出したハーネイトは、改めて作戦開始時刻を伝え準備を行うようにと指示を出したのであった。



「これで集まったか。シノ……頼むよ」


「承知しましたハーネイト様」


 それから翌日の夜、作戦を行うために事務室にはハーネイト、伯爵の他に響、亜里沙、翼、五丈厳、時枝とシノブレードと案内役の韋車の計9名が集まっていた。


 リシェルとヴァンは仕事があるため一旦故郷に帰還し、ミロクはこの地球について知りたいことがあると只管本を読んでいた。リリーとミカエル、そしてボルナレロは研究に専念してもらい結果として余裕のあったシノが選ばれた。

 

 出発まで1時間を切り、集まっていた作戦に参加する8名は役割を確認する。事前にハーネイト達が偵察を行えたため、作戦領域の規模と石の数、土地の状態についてをCデパイサーで伝達し共有することができた。


 未知の土地に踏み込む以上、何よりも情報収集が生存率を引き上げる。ハーネイトたちは決して手を抜かないのである。


「おいおい、どういうことだああん?ここは墓場か何かかよ」


「兄貴、これどういうことっすか?」


「先生、前回のと色々違いませんか」


 五丈厳や翼はハーネイトが見せた画像を見て、今までと違う結界石の多さに戸惑い、亜里沙も疑問に思いハーネイトに質問した。すると彼が推測だがある答えを出した。


「恐らく大体は外れ、だな。カモフラージュってやつだね」


「偽装しているのは間違いないでしょう。ああ、それと紹介が遅れました。私はハーネイト様に仕えるシノブレード・ヴァンデンハイネ・ルクスタークと申します。しばらくしたら戻りますがそれまでは教官としてよろしくお願いします」


「分かりました、シノブレード先生」


 新たな先生と挨拶をした響たちは、改めてこの男も只者ではないと感じていた。一見優しげに見えるが、そのうちに秘める戦闘力の高さを全員が肌で感じ取っていた。


「ということで、先に私が先陣を切ってこの小さなしるしの書いてある石を壊す。それを伯爵たちはCデパイサーで気運の濃度を逐次確認してほしい。減ったならばそれが辺りのしるしだ。後はナビゲーターとして動く」


「了解しましたわ」


「早くいこうぜ、先公」


 思ったより人が集まり、今回はナビゲーターを除いて規定の6人に1人足した形でチームを結成した。そして急遽手配したマイクロバスで、韋車は工場まで8人を連れて行ったのであった。

 

 辺りは大分暗く、それでも工場に近づくと昼とまではいかないが明るい場所が多く全員が驚いていた。今日は臨時で工場は稼働していないが、しているときはもっとすごいと韋車は敷地内の駐車場を歩きながら後ろにいるハーネイトたちに説明する。


 韋車は昼間に2人を案内した道順で全員を工場内に案内し、事務所と工場を隔てるドア付近にある大きな亀裂まで彼らを案内する。


「では、これよりAミッションを開始する!異界化の解除と気運の除染を!」


「いいぜ、先公!」


「手早く片付けないとな」


 そうして、これから自動車工場内の異界亀裂を調査及び封印するAミッションが始まろうとしていた。

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