第79話 自動車工場の怪?


「ハーネイト君、今時間はあるか?」


 翌日、ハーネイトは様々な強化研究が順調に進んでいることに満足しながら次の研究、宝魔石ジェムタイトの活用法について脳内で思索を巡らせていた。


 伯爵やシノブレードも研究を手伝い必要なデータをPCに入力したり、宝魔石を加工して改造できる装置の調整作業などを行っている中、宗次郎ともう1人の見慣れない若い男が事務所を訪れた。


「はい、何か御用でしょうか?」


「実はな、儂の経営する刈谷第一自動車工場でな……」


 宗次郎の表情があまり良くない、それを察したハーネイトは何があったのか確認するため2人の話を聞くことにした。


「俺は韋車 疾風いぐるま はやてと言う者だ。刈谷自動車第一工場のライン長を任されている。実は先月の初めころから、工場内で幽霊らしきものが目撃されているのだ。それは私も目撃しているし他にも数名同じ物を見たと証言している」


 男はそう自己紹介し、今回の依頼内容について話を始めた。この男、韋車は5年前に刈谷自動車に入社し、その前は動物園で働いていた経歴があるという。


 今回何故来たかと言うと、話した通り自身の働いている工場内で不審なものが目撃されているため調査をお願いしたいという内容であった。


 彼は、手帳に挟んであったある一枚の写真をハーネイトに渡し見てくれと言う。


「これが写真です。どうですか」


「……これは!」


「ハーネイト君、何かわかったのかね」


「恐らく死霊騎士……と何だこれは。他にも何かいるし、気運がわずかだが流れ出している」


「まさか、我が会社の工場がのう」


 たまたま撮れた写真を見たハーネイトの顔はいつになく訝しげになっていた。それもそのはず、獣には見えないが霊である何かが別に映っていたのである。


「それと関連があるのか分からないが、ここ数日部下の数人が体調不良を訴えている。幽霊の見え始めた時期と関係がありそうでな」


「早急に処置しないといけませんね。先に私と伯爵で偵察しましょう。放置していてはいけませんねこれは」


 韋車によれば、ここ数日妙な体調不良を訴える従業員が6名もいるという。全員が倦怠感や吐き気などの症状を訴え、仕事にならないほどに体力を何故か消耗している状態であった。


 それを聞いたハーネイトは、恐らく亀裂内にある何かに少しづつ体力などを吸い取られているのではないかと考えていた。


「聞いていたぜ。そりゃよくねえなあ、良くねえよな。気運に生命力吸われてるかもな」


「私はいつでもいけますが」


「では、その工場まで案内して頂けませんか?」


「引き受けてくれるのだなハーネイト君。早急に解決してもらいたい」


「勿論ですよ。これは私たちにしかできない仕事ですから」


 ハーネイトはすぐに仕事に取り掛かると快諾し、宗次郎も助かったと言い韋車共々礼をしたのであった。


「では韋車君、彼らの案内を頼むぞ。儂は桃京にて総会に出るのでな」


「了解しました会長。では早速工場まで移動しましょう」


 宗次郎は少しの間、関東地域にて本社で行われる会議に出向くと言い。代わりに韋車に彼らが乗る車の運転を任せたのであった。


 もちろんこの異世界から来た人を超えた2人は免許を持っていないため、念には念をというのもあった。


「リリーは……そっとしておこうか。無理をさせているからな」


「ったく、相棒に無理に付き合わなくてもいいのによ」


 リリーにはいろいろ無理をさせている。特に新技術関連では大分疲労が溜まっているようで、彼女には好きなだけ寝かせとこうと考え、先にどういう状態なのかを先行偵察と言う形で確認する運びになった。


 そうすればもしAミッションになろうとも参加メンバーの負担を減らせる。だからこそこういう役目は自分たちがやる、そう決めていたのであった。偵察精度が高いほど、高校生たちや大学生らも作戦に当たって仕事がやりやすいはずだと思い、精神を集中させる。


 その後ハーネイトと伯爵は韋車と共にホテルのフロントを出てから、すぐ近くに止めてあった韋車の車に搭乗し現地まで向かうことにしたのであった。


「大丈夫かお2人さん。友人から少し運転が荒いと言われるのでね」


「ぐ、どうにか大丈夫です。それにしても大きな工場ですね。ここからでも見えるのは驚きだ」


「毎日数千台もの自動車を量産しているのだ。宮崎や和歌山、岩手などに工場があるが、その中で最も大きいのはこの第1工場だ」


 ホテルからしばらく車を走らせ20分ほど県北に移動すると、そこには巨大な工場がいくつも並んでいた。3人は第一自動車工場の近くで車から降りる。


 韋車はそう言いながら工場内の敷地を歩き二人を案内する。高さ40m以上はある巨大な工場が3つ並んで建っており、周辺と見比べると圧巻である。


「このラインでよく目撃されている。今日明日は念のために生産を止めているので誰もいないが……」


 韋車は裏口から2人を工場内に案内し、しばらく彼らに調べさせた。本来機密が多い場所なので関係者以外立ち入り禁止であったが、何より事情が事情なのでこうするほかなかったのであった。


 放置すれば工場の稼働自体ができなくなる可能性は高い。宗次郎はハーネイトたちの人柄なども信用したうえでこの仕事を依頼したのであった。韋車は事務所内で待機していると、15分ほどしてハーネイトが戻ってきて韋車に声をかけ、ある場所に案内した。


「韋車さん、この辺りから異変が起きている原因に迫れます」


「うひょう、これは何か起こらない方がおかしいぜ」


「何か見つけたのですか……?っ!何か見える。これはまるで、壁の一部が裂けているような」


「韋車さん、まさかこれ見えるのですか?」


 まさかかと思い試しに言ってみたが、韋車もやはり亀裂が見える、つまり素質ありの人間であることが分かりハーネイトは韋車の質問に返答する。


「見えてはいけないのか?ハーネイトさん」


「……霊感が強いってことです。あの亀裂に近づくと、最悪別の空間に飛ばされるかもしれません。あと、噂の紅き流星、見えます?」


「あ、あれか。実は見えるんだよな、周り誰も信じないけどね。ってマジか、そりゃあれだな。実は俺も小さいころ矢田神村の近くに住んでいたんだが……その影響か?あそこは元々霊的な物が目撃される不思議な場所だったが」


「それは本当なのですか?」


 ここで韋車が自身も響たちが被害に遭った矢田神村での集団昏睡事件について知っており、村に逃げ込んできた人を村人総勢で数名助けたことについて話をし2人を驚かせていたのであった。

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