第78話 転送装置完成と懸念事項について


 これに関してはそもそもハーネイト達が住む世界での魔導師に関する説明が必要となるため簡潔に説明するが、要は魔導師がほかの同業者を消すことで研究を我がものとしたり、勢力争いにおいて相手側の戦力を減らす目的でこの危険薬が生成されたという。


 元々魔法協会、魔銃士ギルド、BK(バイザーカーニア)、魔女の森の4大魔法組織がハーネイトの暮らす星に存在しているのだが、その中でも魔法協会及び魔女の森が所属する構成員がこの魔薬絡みの事件を起こしていた。


 ハーネイトはそれに関係する事件を解決するために発足された特別組織のNo.1という肩書も持っていたのであった。

 

 ミカエルはその薬を飲んだ人たちの症状の初期症状が今回の患者と類似していたためそういったのだが、今回のはそれよりも悪質なものである。そう、それは最終的に、血徒化する代物だからである。


「君たちの世界、思ったより戦争とかあるのだな」


「今ではないですけどね。私とBK首領のロイが改革しまくった挙句、4つの勢力をまとめ上げましたからね」


「相棒の一番の功績、かもしれねえな」


「民間人まで巻き込んだ魔導師による事件を、彼は積極的に防いできた。それだけでも第一級勲章ものね」


 ハーネイトは魔導師としてもかなりの異端であった。そう、彼の師匠のように、弟子もまた魔法改革のために努力と研究を続けながら、魔導師が起こす犯罪の抑止のため戦っていた。それが評価され、彼の活動が公に認められ弟子入りする人が増えたとミカエルは追加でつけ足した。


「ということで、その危険なクスリの売人は特徴からして悪魔か何かではないかと私は分析している。魔界人かもしれない。そこで実際にその街に乗り込んで探し討伐するわけだ」


「それはいいが、誰を連れて行くのだハーネイト君」


 ハーネイトは今回の作戦について改めて説明してから、連れていくメンバーを確認していた。すると宗次郎がメンバーについて尋ねる。


「あの子たちには別件の調査を任せたいので……貴方と私、それと、ミロクだな」


「かしこまりました主殿」


「済まないな、影を操る能力はいろいろと便利だしミレイシアに任せると目立ちすぎるからな」


「彼女は対軍用の能力が多いですからな。大軍勢で迫ってくる、あるいは大量の敵を相手にする場合儂より強いだろう」


 ハーネイトは4人の中でミロクを特に重宝していた。なぜなら彼が一番安定しており、能力も諜報などに向いているためであった。


 サインはともかくシャムロックとミレイシアは敵が多いほど活躍するタイプなので用途が違うのである。


「まだ仲間、いや部下がいるのかハーネイト君」


「はい。ミロクのほかにもいろいろと」


「全員強そうだなハハハ」


「ちょっと待てよ相棒。俺たちはどうするんだ」


「私はまだ眠たい……」


「ついて行った方がいいかな?」


 宗次郎の質問にそう返し、大和はどれだけの仲間が彼にいるのか考えるのが怖くなった。先ほどの話を聞いていた伯爵たちは質問し、調査に同行すべきか確認した。


「いや、シノたちと力を合わせて響たちを見ていてくれ。別件の仕事が亀裂内の調査だ。いざという時に備えてね」


「分かったぜ全く。何かあったらすぐに伝えろや。どうも嫌な予感しかしねえ。韋車の言っていた動物園やその周辺で起きていた奇怪な現象について調査してくらあ」


「私はここを守るわ」


「2人とも頼んだぞ。では大和さん、いつもすみませんが案内をお願いします」


「わかった、すぐに向かおう」


 大和にそう一言を言いハーネイトは服を着替える。コートでは目立つかもしれないということで久しぶりにYシャツとズボンで軽めの服装になる。


 それから机に置いてあったCデパイサーを左手に装着すると4人は事務所の外に出て地下駐車場に向かい、大和の運転する車に乗り4人はホテルの地下から出て隣町に向かう。

 

 車を走らせ20分ほどして到着すると、街の外れにある駐車場に大和は車を止め、全員は下りて街中を観察する。中央道と呼ばれる大きな6車線の道路を挟んで、道路沿いには大小さまざまなビルが乱立していた。


 そのビルの間を抜けていくとそこは繁華街、そして俗にいう風俗街に夜は変貌する街であった。


「春花よりも高い建物が多い感じだな。そして何だこの妙な雰囲気は」


「何か感じるのか?」


「ええ、嫌な気がまとわりつく感じですね……早く聞き込みに行きましょう」


「では大和さんは私と、文治郎さんとミロクは単独で街中を周りましょう。ついでに亀裂とか見つけたら記録をお願いします」


「さっさと売人を捕まえねえとな」


 そうして2手に分かれた男たちはそれぞれ、黒い袋に入った魔薬とその売人の居所を突き止めるため調査を始めたのであった。


「あの女性、妙に周囲を警戒しているが……」


「あの人、どこかで見たことあるな……っておい、あれ!」


「っ!こんなところに?」


 ハーネイトと大和は北の方へ向かい歩きながら、何か少しでも手掛かりになる物はないかと目を配らせていた。


 そんな中、人気の少ない裏道で一人の女性を見つけた。美しい長髪で、引き締まった体と自身が普段着ているのとと似たような、黒いコートを身に纏っており、何者かと2人は少し様子を見ていた。すると彼女の近くに魂食獣がおり、背後から彼女を襲おうとしていた。


「魂食獣か!危ない……っ!」


「甘いぞ、はぁあああ!」


 ハーネイトと大和はすかさず狙われている女性を助けようと駆け寄ろうとしたが、なんと彼女は襲い掛かる犬型の魂食獣を振り返りながら右拳の一撃で撃退し、豪快に吹き飛ばしたのであった。

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