第76話 事件の捜査会議と情報整理



 その少し後、事務所に戻ったハーネイトたちは大和たちと会話をしながらしばしの休憩をとっていた。


「星か……まさかコズモズ?いや、だとしたら星奈の証言がどうなる。自分と同じ気……まさか、行方不明になっていた神柱が?しかし今の事件とは因果関係が分からない。魔界復興同盟は故郷を戻すために様々な実験や活動、それと神柱の1つを利用しようとしているし流星についても探っている。血徒はルべオラが言っていた、Pという存在の解放を狙っている……うーん、整理しないと」


「相棒、根詰めるとマジで星奈ちゃんの予言通り機能停止するぜ」


「そうはならない、こっちも真剣に関連があるか整理しているのだ」


 伯爵の言葉にも、どこかふてくされているような感じで返すハーネイト。


 どうもいつもと様子が違うので伯爵自身困っていた。ここまで感情を表に出してムキになる彼も珍しい。


 事件の捜査を進めていく中で、複雑に絡み合う事象。それをどう紐解いて解明していくかが彼らに問われる。


 そんな中、事務所のドアが開き宗次郎がゆっくりと中に入りハーネイトに声をかける。


「病院の件、ご苦労だったなハーネイト君。しかし1つ言っておくことがあるぞ」


「宗次郎さん……」

「わかっているようだからあれだが、やりすぎはマジで目立つからな。病院にいた患者全員が元気になったのもお主の仕業じゃろ」


「その通りでございます……魂を削られたスタッフを治したらその、術式の影響範囲について……」


 宗次郎から患者全員が良くなったことについて、ハーネイトは一通り経緯を説明した。


 その話を聞き少し呆れるも宗次郎は、彼のような存在ですらそのようなことを起こすことがあるのかと逆に親近感がわくも、それはそれで別に置き一応ハーネイトに対し優しげに忠告したのであった。


「まあ結果が結果だしこれ以上強く言うつもりはないが、気を付けたまえよ。わしらはお主等の力を知って居るし、現に利用させてもらってもいる。その分このホテルの地下を自由に使ってよいわけだし、必要な器具や装備も揃えさせる。しかし、知らない人たちからすればどう思うかね?」


「その辺りの意識が、まだ認識が甘かったです以後、気を付けます……」


 ハーネイトは行動を振り返りつつ、自身の振る舞いについて再度慎重になるべきだと自覚し、宗次郎にそう伝えると彼は仕方ないと笑いながらソファーに座り、持って来たお菓子やジュースを机に並べながらこう話をする。


「どうしてもそなたらの住んでいた場所とここではルールが色々違うわけなのだ。目立ちたいのなら話は別だが、ある程度隠密行動を取るならば悟られぬように、な?ただでさえ顔立ちも整っておるし雰囲気や性格も良いものであるが故、それだけでも何かすれば注目を惹かざるを得ないのだ」


「はい……そ、そうですね」


「まあ、いっそのこと街の人たちからも探偵、または万事屋らしく依頼を引き受け解決すればある程度のことは大目に見てくれるかもしれんのう、あはははは!」


 宗次郎はルールの違いについて色々話したのち、一般的な探偵業としてここの住民を相手に仕事をするのもどうだと提案する。


 更に情報を手に入れ行動するには、積極的にいろんな人と関わっていく方が何かと都合がいいと話し、それは確かに大切だと頷いたハーネイトは彼にお礼をする。


「考えておきます、助言の方ありがとうございます。宗次郎さん」


「そうかそうか、しかし前から思っておったがハーネイト君は、奥ゆかしい雰囲気と言動、振る舞いが目に留まるのう」


「出生が特殊すぎな存在であろうと、私は一人の人間として接してもらいたいです。だからこそ、どうすれば多くの人が自分を人間として接してくれるか研究していたら、こうなったわけです」


 神造兵器と呼ばれる、世界を作りし種族の手先である究極の人でなしである自分が、周りの人間たちにどうすれば受け入れてもらえるのだろうかと研究に研究を重ね、彼は振る舞いや口調などを意識しこのような人になったのであったと、質問をした宗次郎に説明をする。


「むむ、そうなのか。気苦労が絶えないのうおぬしは。たまにはまとまった休みも必要ではないのかい?」


「一度AM星に帰るか?あいつらも大分様になってきたし」


「帰らない、責任を果たしていないもの」


 一度故郷であるフォーミッドで休んだ方がいいだろと伯爵は言うも、ハーネイトは帰らないと少し睨んでそう言う。


 彼のいつになく厳しい表情を見せた彼に伯爵は少し戸惑っていた。どうも血徒に手助けをしてもらってから、その事実をどうも受け入れられずムキになっているようだと思いながらも、自身は彼の指示に従うまでだと思いそれ以上は口出ししなかったのであった。


「こういうところだけ頑固なんだから。とりあえず今日は早めに寝なさい。魔法の件はミカエルさんと研究しておくから、いいね?睡眠不足で倒れるとか言語道断よ」


 宗次郎が持って来たお菓子をほおばりながらリリーはそう注意して、すぐに事務所を出てホテル内のゲームコーナーに向かい、ブラッドに声をかけてから研究を手伝ってもらうように言い2人でミカエルのいる修練の部屋まで移動したのであった。


 一方でハーネイトは、ソファーに横になると眠りにつき、伯爵と大和、宗次郎は静かに部屋を後にしたのであった。




 病院での事件から数日後の昼前、ハーネイトは伯爵や大和、宗次郎と文次郎、さらに事務所を訪れていた渡野と音峰、田村も巻き込んでいつになく真剣な雰囲気で会議を行っていた。


 それは今までの捜査資料を整理し、内容を分析し新たな情報を見つけ出す作業や、今後についての打ち合わせなどの会議でもあった。


「まず、ここ半年で起きていた行方不明事件については、その原因と解決策は提示されている」


「問題は、その特定の人間だけを選択的に異界空間に引きずり込む装置を作った製造主と、設置した犯人がまだ完全には分かっていない」


 ハーネイトは机に置いてある数枚の紙を見るように周りの人たちに指示をし、まだ謎の部分があることについて話を最初に行う。


「魔界復興同盟の活動と、その行方不明事件の発生時期に相関があるかどうかじゃな」


「分析する限りではかなり一致していますね。この春花に関しては」


「他の場所でも起きているかも調べないといけないわけですな」


 その中で、魔界復興同盟の活動が増えている時期と他の事件が連動していないかと文次郎は質問し、ハーネイトと伯爵は別の捜査資料を手にして彼に渡しながら話をする。


「異界化浸蝕現象も相変わらず厄介な現象ね。それがある装置による仕業であるのは分かったけれど」


「それも製造元は不明だ。じきに鹵獲したのをばらし細かく調べるがな」


「初めて気運汚染を見つけた時にも、その怪しい同型の装置はあったわ」


 一方でリリーは異界化浸蝕現象に関する資料を手に取ると見ながら、同じような形の装置があちこちで見つかっている点について指摘をする。


「リリー、それについてはどうも形こそ似ているが違う機能を持つ装置だ。ヴィダールの神柱の気運を増幅させ、周囲を染めていく代物だがこれも大問題な案件だ」


「てことは、引きずり込む装置も異界化を起こす装置も、気運汚染を生み出す装置もまとめて同じところで作られた、のかしら?ねえ」


 りりーとハーネイトの話に、渡野は再度確認のため質問し今見つかっている3種の装置に関しては、機能がそれぞれ異なるが設計構造やデザインなどに共通項があることに注目し同じ製造者が製作したものであるのはほぼ確定しているということをハーネイトは説明する。


「そう見ていいと思いますね渡野さん。ここまで似ている3種の装置が関連性がない、とは言えません」


「ハーネイトさん、質問がある。あの、霊騎士といったな。俺ら3人が遭遇したのはかなり錯乱しているようにも見えたが、死霊騎士と言うのはそれよりも危ないのか?」


「ああ、その資料か。それに書いてある通りだぜ」


「そうか、そのリリーさんの言っていた気運に汚染された後、何らかの形で精神支配を受け魔界に、か。既にこれについてはその復興同盟というのが関与していると見て間違いないのか?」


 音峰はこの前巻き込まれた事件のことについて、霊騎士たちに関する質問をする。


「可能性が大、と言うだけで確証は得ていない。しかし敵の証言や離反した時の状況などから見ても、事象相関装置エグゼムというこちらが持つ分析機器では90%以上で関係があると出ていてね、もう少し証拠を集めれば確定だ。ザジバルナの話から、置いているのが魔界復興同盟であるのは判明したが、その装置と死霊騎士との関連はこれから再調査だ」


「そうか、そこまで分かっているのだな」


 ハーネイトの話を聞き音峰は、本当に面倒な話だと思いつつ徐々に分かってきたことがあることに手ごたえを感じ自身も何か提供できそうな情報を探してくることにしたのであった。


「それと、あのザジバルナの異変が気になる」


「ああ、確かに俺も見たが、あれ、あったよな」


「血徒刻印(アルトマ)か。一部の存在しか認識できないが、血徒に感染したことを示す重要なサインだ」


「済まんが、そのザジバルナとは何者なのだ」


 この前であった敵組織の幹部であるとされるザジバルナに関して、ハーネイトは目の前で彼女が吐血したことと血徒感染の証について伯爵と話を行い、それについて音峰や渡野が説明を求める。


「魔界復興同盟に属する女性の魔界人ですね。星奈さんを狙いに病院を襲撃した犯人ですが……魔界でも血徒による被害が出ている?」


「かもしれねえな」


「死霊騎士や霊騎士、魂食獣はその構造の特性上微生物の影響はまず受けん、U=ONEという神霊化した微生界人の攻撃は別だが。それを踏まえ、もし先ほど挙げた以外の敵を見つけた場合はこちらの指示が出るまで接触を禁ずる指令を後で響たちにも出しておく」


「主殿、お取込み中済みませんが」


「ミロクおじさん、何かありましたか?」


 一通り説明した後ハーネイトは、改めて魔界人の中で血徒に感染している者がいることに関して注意喚起をする。すると声がし、ハーネイトたちがドアの方を向くとミロクが数冊の本を抱え持ってきたのであった。


「集めてきてほしいという資料についてこの街の図書館から借りてきましたぞ」


「助かります。それと、京子さんと時枝、間城の集めてきた情報と合わせればこの世界で起きた、5年前に起きたと言われる恐ろしい事件の犯人が誰なのか判明するでしょう。まあ、99%あれだとは思います」


「その件に関してはハーネイト君よ、報告書をまとめてくれぬか?」


「時間がかかるかもですがそれでよければ」


 宗次郎はハーネイトたちが5年前のBW事件についても捜査を進めていることについて関心を持ち、もしその事件を引き起こした犯人が誰なのか分かったときは教えてもらうように約束を取り付けるのであった。


「話をまとめると、どの事件もどこかで繋がっているようであり、魔界復興同盟が死霊騎士と神柱利用と気運の件、紅き流星についてどうも関係がある、血徒も別にPという何かを甦らせ力を得ようとして秘かに活動していると言うことまでが今私たちが所持している情報です」


「何だか面倒ごとの年末大売り大セールだよなこれ」


「なんか伯爵さんの例えが変ですね」


「大体こんなものだこのお化けさんは」


 ハーネイトはこの場にいる人たちの話をすべてまとめ、今起きている幾つもの事件について関与が疑われている、もしくは確定している組織について今自分たちが得ている情報を、大きな紙に最後にまとめながら今回の会議を終えることにしたのであった。


「もはや、探偵と言うより警察?刑事?」


「わっ、いつの間に文香が」


「驚かせるでない娘よ。すまんのう」


「い、いえ」


 いきなりハーネイトの後ろに現れた文香に驚き、彼は少し距離を取る。直前まで気配に全く気付かず少し戸惑いながらも、悪気があってしたことではないとすぐに理解し元に戻る。


「そういえば、ハーネイトさんって今までどんな仕事をしてきたのですか?」


「ああ、手広くやっているようにも見えるが、聞かせてほしい」


「何でも屋に、魔法学の講師や用心棒、ハンターに研究者とまあ確かに手広いことはしているな」


「本当に何でもだなハーネイトは」


「そうしないと旅費を稼ぐのが難しかったのです大和さん」


「旅をしながらそう仕事をしていたのか、興味深いな」


「講師……先生なの?本物の?どんな勉強とか教えていたの?」


 文香はぐいぐいと迫り、ハーネイトに対し質問をぶつけて彼を困らせるが、それでも嫌な表情を1つも見せず話を続けるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る