第75話 女神代行の重圧と災星が狙いし者




「ここは……どこ?ああ、病室、ね」


「よかったぁ!星奈!」


「わっ、璃里ちゃんっ、……私は、皆にひどいことを」


 星奈は意識を取り戻し、ゆっくり起き上がると周囲を見渡しながら状況を再確認していた。すると間城をはじめ多くの人が自身を取り囲んで心配していた。


 間城は星奈に抱きつくと無事に帰ってきてくれてよかったと彼女に言う。しかし星奈の表情はどこか暗いものであった。


「目覚めたか、良かった」


「あ、貴方は、誰です……!」


「怯えることはない、私はハーネイト。しがない探偵&何でも屋で、間城たちの先生だ」


「何でも屋?先生……?なんだか、怪しいわね」


 薄れた意識の中で、確かにこの男は自身を助けた。それだけははっきりと覚えていた彼女は、彼の透き通る美しい蒼色の眼を見つめながら、少し顔をそむけると申し訳なさそうな素振りを見せる。


「貴方が、みんなを?……私が、私があんなことをしなければ」


「どういうことだい?」


 ハーネイトは近くにおいてあった椅子に静かに腰かけ、伯爵と一緒に彼女の話に耳を真摯に傾けた。


 話によれば、彼女はもともと占いが得意でよく夜空を見ていたという。親の仕事の関係からか、星を見てアドバイスなどもしてきたという彼女は、約半年前ある星を見つけたという。 


「占うために、夜空を見ていたところ、その赤い大きな星を見てか。何か人が見てはいけない物だったのだろうか、その星と言うのは」


「あの紅き流星のことか?あれ見える奴相当限られてんだろ」


「まさか星奈さんも見える勢だったなんて」


「私が一番驚きよあやちん」


 その星はまるで太陽のようなとてつもない力を持ち、少しずつ地球に近づいているようであったという。


 そう何度も観察しているうちに意識を失い、ここに運ばれ長く入院していたことを説明したのであった。


「ザジバルナらも星について言及していた。地球に、別の脅威か何かが迫ってきているとでもいうのか」


「新たなワード、災星か……災いをもたらす星。あの紅き流星がそうなら、さらに事件の背景が面倒なことになりますね先生たち」


「だろうな響。こいつはいよいよ事件が複雑になって来たぜ」


「なんかヤバそうなのは分かるが、そんなもの俺は見たこと……いや、あれはこの力を手に入れる前だ。今なら見えるのか?あとで、夜空を親父と見てみるか」


 星奈の言葉にざわめく病室内、ハーネイトと伯爵は星奈の見たそれが非常に気になっていた。


 ヴァンやシャックス、翼などはまた別の問題が起きているのかと思いどうしたものかと思いつつその話題について話をしていた。


「あの、貴方先生と言いましたね?それと何故春花九条学園の生徒を、こんなに連れているの?」


「複雑な事情があるのだが、今この街で行方不明事件が多発していてね……他にも事件とか問題とか色々で大変なんだよね」


 ハーネイトと彩音はそれぞれ説明し、今起きていることを説明した。


 その中で響たち高校生は一定の条件を満たした存在が装置に引っかかり、異界空間という領域に引きずられ行方不明になる事件の被害者であることを強調し話をした。また、それに引っかかる人は紅き流星を観測することができるごく一部の人間でもあることも話した。


「紅き流星、やはりあれは……それで、なぜ璃里はこの男の人と?」


「私と時枝君の命を救ってくれたからよ。もしかすると、命を落としていたかもしれないわ」


「そ、そんなことが……っ」


 なぜ友達が、年の離れた男性たちと行動していたのか、星奈は気になっていたが間城の説明で腑に落ち、ハーネイトに対しお礼を申し上げた。


「貴女は、友人の命の恩人ってことね……ハーネイトさんでしたね、私の友人を助けていただきありがとうございます」


「別に気にしないでいい。仕事なのでね」


「こういう時はクールなんだが、オフってるこいつぁなかなか笑えるぜ。芸人グランプリ1位とれるからなマジで」


「伯爵……!余計なこと言わない!もう、オフの私が、いかにダメか……っ」


「悪かったって、後で特大パフェおごってやるからさ」


「……いいよ」


 伯爵の言葉に少し戸惑うハーネイトだが、それ以外は終始余裕のありそうな顔を見て、星奈はその影に危うい何かを感じつつ彼への礼も込めた占いを行う。


「お礼に、私があなたを占ってみます……」


「う、占い?私誕生日とか分からないからそういう占い意味が……」


「その情報はいらないわ。そこで動かないでいて欲しい」


 星奈は身に着けていたペンダントを手に取り、ハーネイトを見てからしばし祈る。すると彼女は暗い顔でハーネイトにこういうのであった。


「……貴方、近いうちに死にます、かも」


「ちょ、ええ、ええええええ?私相当しぶといのに?」


 星奈の放った一言にハーネイトは、クールに澄ました顔が崩れ、素の表情で声も裏返りそう言葉を出さざるを得なかった。


 彩音はそんなわけないと思いつつも、星奈に何が見えたのか恐る恐る尋ねようとする。


「あの、星奈ちゃんだっけ、その見えた景色ってのはどんなあれか?」


「突然倒れて、動かなくなる、というものです」


「せ、先生が死ぬってどういうこと?」


「おいおい、俺たちは先生からまだ習ってないことが多いんだけど」


「ざけんなよてめえ、この男がどれだけ強ええ男か分かってねえだろうがぁ!出鱈目言うんじゃねえ」


 彩音と翼、時枝と五丈厳はそれぞれそう言い星奈の占い結果に食いつく。それに星奈は終始冷静に彼らに説明をするのであった。


「違うの、戦いでは彼は死ねない。けれどそれ以外は……。それと、やはりあなた紅き流星と同じ波動を、いえ、それ以上の何かを……体に埋め込まれている?」


「えっ……何ですかそれは。まさかあの装置以外に、何か私の体に改造が?」


「まさか病気……?」


「まさか、呪いやリミッターがどうとかで兄貴の体がどうかなっちまってるのか?あの凄く怖い幼女と共闘した時、兄貴は言ってたよなあ」


 彩音たちはそれを聞いて何か先生に思い当たる節はないか思い出そうとしていた。しかし顔色がたまに悪いくらいでそれ以外に関しては決定打に欠けていた。


 その中で翼は、この前の戦いで血徒ルべオラが手を貸した際にハーネイトが言っていた、力を封印されているという話に言及する。


「時枝君、間城ちゃん。彼は自身でも自覚してないけど相当疲弊しているの。封印をかけられているというのも気になるけどね。何か足りない物を補充すれば、どうにかなるかも。それと、心を相当削って動いているわ。休息をもっととって」


「不足だと?栄養か何かか?」


「当の本人を放置しないでほしいのだがな。……霊量子のことか、それとも。って、なかなかやりますね。色々見透かされているみたいで、嫌ですけど」


 星奈は時枝に対しそう説明した。それを聞いて時枝は何がこの先生に足りないのか頭をフル回転させていた。


 この前の一件でハーネイトと伯爵の状態がそれとなし理解できていた高校生たちは、たくさん霊量子を集めて彼らにあげることが占いの結果を変える鍵かもしれないと思い話をする。実際はとても複雑であり、特にハーネイトはというと心の傷によるダメージも大きいため、それをどう和らげて塞ぐかも求められると言う。


 一方でヴァンとシャックス、リリーは彼との付き合いが長く、その様子から精神的な疲弊が彼をむしばんでいるのではないかと考えこっそり話をしていたのであった。特にリリーは、この前のルべオラの一件と、彼の悲しい過去である恩師の死が彼に負荷を駆け続けているのではと分析していた。


「こりゃ先生を前線には出せねえな響」


「だな翼。彩音ももちろん協力するよな?」


「も、勿論に決まっているでしょう!先生たちにはもっといろいろ教えて欲しいことがあるもん」


 少しショックを受けているハーネイトをしり目に、高校生たちは調査や事件捜査などの他にCP集めも意識して行うようにと話をまとめたのであった。


「間城の友達さん、何故ハーネイト様にあのようなことを……。一度病院で彼は検査を受けさせた方がいいのでは」


「やめておいた方がいいと思います、お嬢さん。彼も私も、色々調べられるとまずい体のつくりが……」


「そう、なのですかシャックスさん」


 亜里沙は、ハーネイトの体についてどんな構造をしているのだろうかと興味がわいて病院で検査を受けるべきだと考えを述べるが、シャックスがそれに対し意見と、今のハーネイトについての状態を述べる。


「そうです。彼は人一倍気苦労しています。何せ企業、組織のトップでありますが故、社員の面倒や状態の確認、さらに事件の捜査などで精神的疲労が溜まっているかと。他にも彼には凄惨な過去が……」


「シャックス、そのくらいにして」


「いいえ、今回は言わせてもらいます」


 ハーネイトはシャックスの話を遮ろうとしたが、すると彼は糸目をかっと開いて真剣な表情と激しい口調であることについて話をするのであった。


「なんや、普段物静かと言うか寝てばかりのシャックスが、目をカっと開いてまくし立てているのは初めて見たで」


「ただでさえ造物主に喧嘩を売った代償で、本来の力を出せないというか機能封印されている貴方が無理をして動けば限界がきてどこかで倒れます。まず、隠していたことについて弁明を」


「……貴方たちに、要らぬ気を使わせたくはなかった。結構、弱みを握られるのは嫌だし、流されると弱いの、分かってるもん。あと、私の過去をあまり詮索しないで。っても、響たちはもう、少し知っているけどね」


 シャックスもまた、第3世代神造兵器に属する存在であり、ハーネイトが一般的な人間と体のつくりが異なっていることは重々理解している。


 だからこそ、無茶なことをよくする彼のことをかなり心配してみていた。ハーネイトは彼の質問に対しそう答えると、困った顔を見せる。


「気持ちは分からなくないですが、結果それで無理をして倒れては何の意味もない。ルべオラと言う血徒も似たようなことを言っていました。……優しくて強き王(モナーク)になるためには、上に立つしかないですし、先陣切って戦うしかない。それと同時に、仲間を更に信頼し心通わせる必要もあります」


「まあ、シャックスの言うとおりだな、大体は。あの時と今の俺たちは段違いで強くなっている。大分仕事を他の奴に投げるのはできてはいるが、もっと信頼を寄せてもいいのではないか」


「……返す言葉もない、な」


 シャックスの言葉に対しハーネイトは理由を述べ、それを理解するも組織の頂点に立っている以上リーダーとしての責任について言及するシャックスであった。


 高校生たちは、ハーネイトとシャックスやヴァンのやり取りを見て自身らも思っていることがあると話し出す。


「なんか結構きつい正論ぶつけてるか?」


「俺も、見ていてなんか大丈夫かと思ったことはあったけどさ。先生!」


「何だ、響」


「先生は、今先生なりに無理のない範囲でできることを、したいことをすればいいのではないかと思います。貴方ほど人生経験は少ない俺たちですが、話を聞いて俺たちが何を成すべきかは分かります。出来るだけ現場の方を、任せてはもらえませんか?」


 その場にいる高校生を代表して響が、ハーネイトに対し今後の活動方針について改めて提案を行う。そ

 

 れを聞いたハーネイトは、仕方なしに頷いてから彼等にもできる限り協力をこれからも仰ぎたいと申し出たのであった。まだ彼らには未知数の伸びしろがある。ここで彼らに経験を積ませることが、次に繋がると考え承諾したのであった。


「っ、響も成長、したわね」


「母さん!まだ起き上がっては」


 響の話を静かに聞いていた、いつの間にか目を覚ましていた京子はベッドから上半身を起こして息子の方を見る。


「大丈夫よ、もう。皆さんのおかげで助かりました。ハーネイトさん、まずはお礼を」


「あ、いや……これも仕事、なので」


「仕事、ですか。立派ですね、本当に」


「い、いえ……」


「あまり謙遜するのも、良くないですよハーネイトさん。自身の仕事に自信がないのですか?」


「そう言われると、そう、ですね。……ないわけではないです。探偵業を始めとした様々な何でも屋としての業務は好きではありますが、世界を救うための今の仕事は、正直プレッシャーがかなりかかっていて、選択に迷いそうなこともあって……。何より、自分は自分の力を、どこか嫌っているのです」


 ハーネイトは京子の顔を見て、ふとある感情に体を支配される。彼女の質問に対して、彼はいつの間にか思っていたことを吐き出し薄らと涙を浮かべていた。


 それは、女神代行としての仕事の重圧によるものと、異能の力による過去に受けた迫害や差別が主となっていた。


 もし失敗すれば、今度こそ今あるすべての世界が存在登録を抹消され、なかったことにされてしまう。そんな未来は認めないと、彼は無理をしてでも無理やり奮い立たせ終わりの見えない仕事に従事していたのであった。しかし、それには嫌っている自身の力が何よりも必要で、そのもどかしさが辛いと言う。


「仕事面での重圧ですか、私も看護師として多くの患者と向き合い、必要な処置を施したり介助したりと働いておりますが、貴方のは別次元な代物ですね」


「はい……行動如何であらゆる世界が、最初からなかったことにされるかもしれません。何故私がこんな役目を、と思うこともありますが、やれる人がやるしかないと思って活動しているのです」


「そうですか、貴方にはその辛さを聞いてくれる存在が必要なようです。私もカウンセラーとして仕事をしていたこともありますし、その能力を患者とのやりとりで使うこともありますが、どうでしょうか、もしよろしければ」


「その時は、よろしく、お願いします……京子さん」


 京子は彼がかなり思い悩む性格であることを分析し、超常的な力を使う存在にしては繊細で人の感情を拾いやすく、愛嬌も礼儀正しさもよく、何事も察しがよい反面、外的影響や過去に受けた心の傷の影響を受けやすいことなどを鑑みて、自分が相談役になる提案を彼に行い、少し間をおいてから彼は承諾するのであった。


「それと、私もその、レヴェネイターズに加わりたいのです」


「母さん?確かに具現霊(レヴェネイト)はあるけど……」


「まだ若い子どもたちが自主的に活動し、様々な困難を乗り越えながら問題を解決するため日々努力しているのを響や彩音さんのいつもの姿から見ております。私もこうして力を手に入れたことですし、未来を紡ぐ子供たちのためにも、私もできる限りのことをしたいのです」


 京子の申し出に対しハーネイトはどうするべきか考えこむが、彼女の真剣な眼差しと思いに心を打たれ、目を軽く閉じ微笑みながら彼女に返答する。


「流石、ですね。ですが今は休んで頂き、その上でどうするかもう一度考えてください。それは星奈さんも同じです。ともかく、退院したらでいいので私の事務所にて話を色々聞かせて欲しいです。それとこれが事務所の場所です星奈さん」


「ホテルの中……?なんでこんなところに。はい、それは構いませんが、私の忠告、忘れないでくださいね」


「あ、ああ。覚えておくよ。びっくりしたけどね」


 ハーネイトは京子と星奈に対しそう告げてから一礼する。そうして全員は事務所に戻るため病院を後にしホテルに向かうのであったが、ハーネイトは病室を出ようとしたときに星奈に呼び止められた。


「貴方の体から出ている波長、さっきも言ったけどあの赤い星から伝わるそれと同じね」


「言っていましたね」


「もう1つ、占いのことについて教えますね。災星迫り、星神が貴方を知る時、命奪を問う試練を課す、です」


「……そうですか、助言のほど有難うございます」


「どうか、お気をつけて。まだその時ではないようですが……」


 もう1つの星奈の言葉に更にハーネイトは驚く。しかしそれ以上何もそれに関して質問はせず、ただ感謝だけを述べて彼はその場を後にしたのであった。


「……まさか、糖分不足で機能停止とか、すごいスペックと引き換えに、何かが残念……?封印された力と、あの災星が放つ気を持つ者、注意しておかなければ……」


 星奈は病院のベッドで間城たちを見送りながらそうつぶやき、自身も迷惑をかけた分恩を返したいと思い仲間に加わりたい、そう願っていたのであった。

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