第74話 災星を見た少女と魔界復興同盟のザジバルナ



 その頃、伯爵たちは異界空間に引きずり込まれた後、先に亀裂から異界空間に飛ばされた彩音たちと合流するため急いで先に進んでいた。するといきなり景色が一変する。


「ちょ、こいつぁ異界化浸蝕現象じゃねえの!」


「海が見える……?」


「美しい場所……」


 それは、美しい砂浜や丘が見える海岸沿いの風景であった。自然豊かなそれは、思わず高校生たちの目に留まり呆然としていた。


「景色を眺めている場合じゃねえ、早く探しに行くぞ」


「落ち着け、Cデパイサーの位置情報レーダーを使えお前ら」


「割とすぐ近くだな、待ってろよ!」


「ったく、手間かかせやがって!」


 翼と亜里沙、九龍はそれぞれ今見ている場所の感想を述べつつ急いで3人を捜索する。


 だがヴァンがCデパイサーの位置情報からすぐに探れることを教え、全員で3人の居場所をすぐに把握し駆け付けようとする。


「空気などの問題はない。Cデパイサーにも全員が無事であることは確認済だが、あれは何だ?」


 するとすぐに、彩音たちとその向こうに、こちらと対峙した1人の少女がいるのを伯爵たちは目視で確認し合流することができたのであった。


「お前ら!全く、相棒の指示を無視するたぁどういうことだぁ?」


「ごめんなさい伯爵さん、それにみんな」


「はやる気持ちは分かるが、もう少し慎重に動く方がいい。慣れてくるあたりが一番あれだ、気を引き締めろ」


「ヴァン、それくらいにしましょう。あれが間城さんの友人さんですか。これは、幻霊に振り回されている?」


 伯爵は彩音と間城に注意し、ヴァンも事を構えるなら慎重さも必要だと説くが、それよりも目の前の女性をどうにかするべきだとシャックスは指摘し、冷静に星奈を観察し状態を把握したのであった。


「待たせたな!」


「おっせえぞ!相棒」


「治療に少し時間がかかったのでな。3人も連れてきた。大和さんは念のため駐車場で待機させている」


 その間に遅れてハーネイトたちも合流し病院の状態を聞いた伯爵たちはホッとしつつも、こちらはまだ問題が解決できていないと説明する。


「それが賢明だな。んで、あれを見てくれ」


「来る、なあ!放って、おいて!私、災い、星、見た!」


「混乱?それとも錯乱か?ってうわああっ!」


「母さん危ない!よけるんだ!」


「翻ろ、紅蓮葬送!!!」


 異変に気付いたハーネイトは響の京子に対する掛け声に合わせ、星奈の近くにいた3人を素早く紅蓮葬送でまとめて抱きかかえ後方に移動する。すると直前までいた場所に水弾が着弾し地面を大きくえぐる。


「あ、危なかった!」


「何でよ、星奈、どうしちゃったのよ」


「ありがとうございます、ハーネイトさん」


 友である星奈の変化に戸惑う間城に対しハーネイトは、幻霊に振り回されている状態については星名自身の精神力がどれだけあるかでその後が変わると言いつつ、右手に力を集め輝かせながらこれで彼女に触れることで精神を安定化させることはできると説明する。


「京子さんまで、なんでこんなところに」


「患者を放っておけなかったので……ハーネイトさん」


「全く、後は私たちで解決します」


「しかし、あの少女の暴走は並の物ではない」


 星奈の具現霊は動きを制限されるも手にした槍を振るい接近を許さない。それに対しハーネイトの話を聞いていた時枝と亜里沙はいち早く遠距離から畳みかけ囮になる。


「星奈さん、でしたね。私たちが気を引きます。その間に!」


「先生たちは彼女を元に戻す術式を準備してほしい!」


「分かった、準備するぞ!」


 ハーネイトの術式を施すのに必要なわずかな隙を作るため、高校生たちは連携して星奈の持つ半具現霊の攻撃を分散させ攻撃のチャンスを作ろうとする。


 だがそれに対抗してか半具現霊は強烈な水の弾丸を複数放ち、その一撃が、京子の元へ迫るのであった。


「……!大水砲っ!」


「ちょ、え、きゃあああ!」


「母さん!」


「ちっ……!」


 直撃は免れるも京子はその場から吹き飛ばされ、ハーネイトは紅蓮葬送を展開し引き伸ばし、クッションの様にして京子を地面に激突する直前で受け止めた。


「大丈夫だ、衝撃で意識を失っているだけだ……ってうわわ!京子さん、まさか……現霊?なぜだ」


 ハーネイトたちはある光景に驚いていた。そう、京子の頭上に何か看護師らしき霊の姿が見えていたからであった。それは具現霊であり、はっきりとした意思を以てそこに存在していた。


「うっ、私は、夫の代わりにみんなを、愛する子供を、っ守らなければならないのよ!!」


「何という意志力だ、……そういうことか、京子さんは既に試練は乗り越えていたが……、霊覚孔の覚醒ができていなかったわけか」


「本当ですか先生!母さんは大丈夫なんですか」


「ああ、問題はないがそれよりも!」


 しかも京子はすぐに気を取り戻し、フラフラになりながら立ち上がりそう叫ぶ。昔の事件を思い出し、苦しんでも前を向いて息子たちを守らなければならない、その覚悟と先ほどの攻撃を受けたショックが引き金となり、現霊士としての能力を目覚めさせたのであった。


「患者を、助けるの、それが、仕事……!ハーネイト、さん!」


「無理をしないでください京子さん、今の貴女では」


「この注射器に、その術式を、かけてください!」


「っ、わ、分かりました。これで、どうですか」


 ふらふらしつつも確実に星奈の姿を目に捉え京子は、自身の具現霊が持つ注射器のような槍にハーネイトが使用しようとしている術を注ぎ込んでほしいと頼み込む。まさかと思うが糸を察したハーネイトは、彼女の指示通りに従う。


「ええ、これで、いけるわ!ナイチンゲール…、リジェネレイトインジェクション!!!」


「きゃあああっ、注射が腕に……!っ、くっ……」


 京子はその場からいきなり走り出し、具現霊ナイチンゲールと共に突撃しハーネイトの術式が施された注射器の一撃を星奈の左腕に直撃させる。

 

 すると、星奈はその場に立ち尽くし動きが止まる。どうやら暴走自体は止めることはできたものの、彼女事態が何らかのダメージを受けている可能性を考えハーネイトは追加治療を施す。


「響と言い矢田神村の人たちは一体……いや、あとはこれで処置完了だ、万里癒風!」


「っ……!、わ、たしは……っ」


「星奈!」


 術を受けその場に倒れようとする星奈に間城が駆け寄り彼女の体を支えながら、静かに声をかける。


「もう……心配、したんだからね」


「璃里、ちゃん……っ、私、恐ろしいもの、見ちゃって、それでっ」


「今はしゃべらなくていいわ、早く、戻りましょう」


 星奈はうつろな目で間城の顔を見て、安堵した表情で何かを話そうとするが疲れからかそのまま寝てしまうのであった。


 ハーネイトらは急いで星奈を回収しようとしたその時、少し離れた丘の上から声が聞こえそちらの方角を向く。


「こんなところに、多くの力持つ者が」


「いるとはな!動くなお前ら!」


「げっ、あれは死霊騎士か」


 その声の主は、2人の死霊騎士であった。赤い気を纏う長剣を手にした騎士と、黄色の気を纏う戦槌を軽々と片手で持つ騎士、2人は脅迫するような形でハーネイトたちに動くなとけん制する。


「動いてみろ、俺たちの剣が……なっ!どういうことだ!」


「腕と武器がハワイ旅行行ってやがるぜおめえら」


「きゃあ!先生、ヴァンさん!」


 騎士たちがそう言おうとした矢先、急に彼らの腕が肩関節の付け根から綺麗に切り取られ、地面にそれが落ちると不気味な動きで明後日の方角に武器を持った彼らの腕が移動していたのであった。


「えぇ、あの禍々しい男たちの手足が一瞬で」


「切り落とされている?だけでなく切断された手足が踊ってる?こ、怖すぎなんだけど!!!」


「ハハハ!幽霊だろうが神だろうが、存在しているなら俺様の晩御飯(ディナー)なんだぜ!どうした、こっちにこいよ、どうせ不可能だろうがな!」


 一瞬の出来事に伯爵とハーネイト以外はひどく動揺する。それは、伯爵が仕掛けた攻撃によるものであった。


「どういう原理で今のことを?」


「おそらく伯爵は、あの騎士たちの四肢の付け根部分を切り取る形で醸して、分離させてから眷属操作でその場で躍らせている感じだな。趣味が悪い」


「んだとぉ?」


 ハーネイトは響たち高校生に対し、伯爵は行動選択を削ぐべくあの騎士たちの関節部分を一気に醸し食らうことで切断したためああなったと説明するが、その場にいた人たちはしばらく絶句していた。


「話が違うぞ、あんな奴がいるとはっ!」


「腕がぁああ!」


「けっ、友情を交わす所を邪魔する無粋者はこの伯爵、容赦せん!」


「何だか今日の伯爵、えらく何かがノリノリ?」


「まさか、ルべオラさんのあのきついハイテンションに対抗して?」


 伯爵がなぜグロ注意な行動を取ったのか、それは間城と星奈のやり取りを見ていいものだと思っていた矢先に邪魔が入ったからであり、やけに乗りの良いセリフで腕を醸された騎士たちに対しそう叫ぶ。


「ぐぬぬ、愚かな奴らだ、ここがどういう場所か分かっておるのか?」


「何だ、死霊騎士さん。何が言いたい」


「ここはお前らの住む世界の一部を切り取ってんだぜ」


「何だと?」


 両腕を失い戦闘能力を失った死霊騎士たちは、ハーネイトたちに今いるこの領域が地球のどこかにある土地の一部と繋がっている、つまり異界化浸蝕現象が起きていることを明かす。 


「クク、この先のエリアに異界化を維持している装置がある」


「壊さなければ、気運がお前らの世界に流れ込み全員……!」


「ソロン様の贄となるのだよファファファ!!!」


 また、その状態を維持するための装置がこの先のエリアに存在し、放置すれば今対処しているあの気運が地球側に流れ込み計画が進むこともご丁寧に話すのであった。


 死霊騎士たちは話を聞いたハーネイトたちの絶望するような表情を見たく情報を敢えて言ったのであったが、それが火にガソリンを注ぐ結果となった。


「面倒なことをしてくれるな!」


「負け惜しみか?無様だな」


「じゃけん、手前らはここで墓標セルフで立てておけや!醸せ、死菌滅砲ぅ!!!!」


 とりあえず状況は理解した、それはそれとてやはりここで醸滅してもらおうと伯爵は、構えてから灰色の微生物奔流ビームを両手から盛大に放つ。


「そんな、馬鹿なああああっ!」


「霊騎士である我らが、こんな化け物にぃいいいいい!!!」


 伯爵の放つ微生物の奔流、その一撃により死霊騎士たちは見る見るうちに分解され、騎士たちはその場から消滅、いや醸滅したのであった。


「お前らもだろ?おい相棒!話が本当ならまずいんじゃねえのか?」


「ああ、速やかに対処しなければならないが星奈さんと京子さんのことがある。私が指揮を執る。ヴァンとシャックス、響と時枝、亜里沙さん以外はどうにか元の道を辿り脱出を!」


「そうはいかん、貴様らを逃すわけにはな!」


「新手か!」


 今の話が事実なら、速やかに対処せねばならないが星奈の件もあるため、手分けして作戦に当たろうと指示を出したその矢先、低い女性のものと思われる声が響き、それと同時に退路を塞ぐ形でいきなり3本の角を頭に生やした、スタイルの良い女性の魔界人が現れる。


「我は魔界復興同盟第15位、ザジバルナ。おとなしくその娘を渡せ」


 自身の名を名乗り、星奈を指差しこちらに渡すように指示をしてくるが当然要求を聞くことはなく、ハーネイトは彼女に問う。


「渡すわけにはいかない。それと魔界復興同盟か、どうした、いつもの装置はどこに置いている」


「あれか、あれを知るとは尚のこと貴様らも逃さん」


 伯爵は彼女に挑発じみた口調でそう言うが、ザジバルナは装置のことについて知っている彼らが只者でないと分かり何時でも彼らに襲い掛かろうとしていた。だができるだけ事を大きくしたくないとも彼女は思い理由を告げる。


「その女は、ある物を見ている。その情報を手に入れればあとは興味などない」


「ある、物だと」


「私も詳しくは知らん、上の連中に指示されただけなのでな。災いの星が何とかと言ってたのは盗み聞きしたが」


 ザジバルナは終始高圧的な態度で、自身も詳しくは知らないが計画の進行に関して円滑に進めるため、ある星を見たものを探し出しここまで来たという。


 星奈こそ、その星を見たために意識を失い、ずっと入院しており彼女を強引に目覚めさせてからここまで誘導し回収する予定だったことを説明する。つまり今回の事件の犯人である。


「我らは魔界に住む者は、長年荒廃した大地を元に戻すため、力を得るため侵略を行ってきた。この異界化装置を使えば、我らが世界は元に戻るはずだ!美しい土地を、我らの世界で再び!」


 ザジバルナの叫びは切実な物であった。日々の暮らしにも困るほど土地は痩せ、光もほとんどなく空は生まれた時から分厚い雲に覆われ続けている故郷の環境をどうにかしたいと彼女は魔界復興同盟に入り活動をしていたのであった。


 その中で、上司である自身より組織内で位の高い者から、ある星を見た存在を連れて来いという辞令が下り、情報を集めこの病院を突き止め、混乱に応じて連行しようとしたという話をする。


 また彼女は、今起動している装置の安定のためにも、計画は完遂されなければならないといい協力者のためにデータを取っていることも説明する。


 やたら情報を口に出すザジバルナであるが、彼女自身は純粋に故郷をどうにか改善したいという思いで動いているだけでありそれ以外はあまり気にしていなかったのであった。


 しかし、ハーネイトは以前鹵獲した装置をざっと解析した結果から、その装置による改変は張り子の虎というか、付け焼刃の対応にすぎず、その後のデメリットであるとされる異界化浸蝕による世界構造の不安定化により事態は悪化するだけだという考えを述べる。


「どこで誰が作ったかあれだけど、根本的解決にはならん。魔界の事情はある魔界出身者から聞いている。環境改善装置の開発をその者から委託されているのでな、あと少し待っていてくれ」


「何だと、どういうことだ、そんな話は一度も……」


「ともかくだ、装置の件については考え直せ。更なる悲劇を招くだけだ」


 ハーネイトはザジバルナに対し、魔界の状態はあと少しで改善されるからそれについては楽しみにしておいてくれと言うが、彼女からすれば半信半疑どころか信じられない話であった。


 その時であった。いきなり異界化した空間内が不安定になり、元の青い空間に戻ろうと点滅し始めたのであった。


「これはどういうことだ!異界化が、維持できないだとぉ?」


「どういう事なんだこれは、装置の故障か?」


「知らぬ、私にも……っ!」


 装置の以上に戸惑うザジバルナは、急に目の前が一瞬暗くなりよろめいてから口に手を当てる。すると吐血しており、彼女の顔が青ざめる。


「どうした?具合が悪いのか?ってそれは血徒刻印(アルトマ)!」


「構うな!次はないと思えお前ら!」


「待て、貴女は病気に感染して……っ、逃げられたか」


「異界化が解除されるみたいですね、今こそ脱出を!」


 具合の悪いザジバルナに対し声をかけるハーネイトだったが、彼女は差し出された手を振りほどきその場から姿を消したのであった。


「どういうわけかこちらでも把握できていないが、異界化が解除され元の場所に戻れる」

「急いで2人を運ぼう」

「分かっているヴァン。みんなも手を貸してくれ」


 予想外の出来事に驚くも、ハーネイトらは今だと思い、星奈と京子を伯爵たちに運んでもらい亀裂を利用し脱出した後、地上1階に上がる。


 するとハーネイトや星奈を抱えた伯爵を見たこの病院の看護師たちが集まりすぐに2人は病室で寝かされることになったのであった。




「そちらの首尾はどうじゃ?」


「装置の破壊に成功しましたが、本当に大丈夫なんですかね」


「装置の技術を提供したのも血徒の幹部たちによるもの、だったが反逆行為ですねこれは」


「何を言うておるか、奴らはわしらまで騙したのじゃぞ?」


 その頃、地球のどこかにある海岸沿いではバラバラになった装置をバックに、やたら元気のよい例の血徒ルべオラと、何だか先を思いうなだれている細菌界系微世界人の2人が話をしていた。正確には、異界空間内にいるエヴィラも合わせた計4人は作戦の成功と今後について話をしていた。


「本当に、どうなっているか私も頭が痛いわ。なんでU=ONEが増えてるのよ」


「エヴィラ嬢があの男を教えてくれたからのう、誠に感謝じゃ」


「本当は貴女のことも斬滅したいのだけれど、彼が見込んでそうしたのならば、彼の意見を尊重するわ。私は、彼の夢を叶えてあげたいだけ」


 エヴィラは通信でルべオラに対しこの前再会した時の話の続きをし、改めてルべオラもU=ONEに目覚めるなんて思ってもいなかったことを話すが当の本人は上機嫌でエヴィラに感謝し、彼女の言動について面白いと思い祝福と冷やかしを混ぜた一言を送る。


「ほうほう、相当惚れ込んでおるな?」


「う、うるさいわね!やはり貴女も切り捨てるわ」


「おー怖い怖い、わしもあの若きヴィダールの戦士を気に入っておる。人たらしどころか、万物たらしの素質は十分じゃな」


「ハーネイトは私のものよ、貴女になんか渡すものですか!」


 エヴィラは彼女の言葉に顔を真っ赤にし、怒りながらルべオラに対し宣戦布告を申し立てようとするがまたも何かを言われ、しばし2人はやり取りを続けていた。


 それを傍目に、謎の血徒である微生界人2人はルべオラの姿を見て、若干呆れたような顔をしつつ楽しく会話をする。


 1人はアントラックスという名前の微生界人で、あの生物兵器にも転用されるほどの恐ろしい力を持つ炭疽菌の細菌界系微生界人である。


 赤く逆立った髪と胸元を強調するスーツを着たワイルドかつ兄貴肌の見た目をしている彼は、隣にいる灰色のメカクレでややぶっきらぼうかつテンションの低い男にあることを問う。


 そのもう1人はぺスティスと言い、これまたあの黒死病で有名なペストの細菌界系微生界人である。


 彼らは細菌界で起きたある大事件の後血徒に属し秘かに成り上がろうとしていたが、偶然目にした「P」に関する資料を見てしまい組織から追われているというのである。そんな中ルべオラと出会い、彼女にかくまってもらいながら仕事を手伝っていたのであった。


「はあ、確かに俺らもPの話については少しは知ってましたが、まさかあんな力を持つ存在とは」


「思わなかったな。……俺らは人間たちに兵器として翻弄され続けてきたが、ルべオラやエヴィラのようなやり方でU=ONEになれるなら賭けるほかない。元々血徒の中でも細菌系は外様だ。見てはいけない物を見て追われているが、この際……」


「だから助けたのじゃ。全く、伯爵と昔知り合いだったと聞いてのう。これからは我らと共に動くのじゃ!」


「了解ですって。はあぁ、Sの一族があの時きちんと対応してればなあ」


「ぼやいても仕方ねえアントラックス、次に行こうぜ」


 人間たちの開発する抗菌剤や抗生物質との戦いに疲れ、もう症状を引き起こし目立つことはしたくない、人から忘れ去られたいと思うアントラックスとぺスティスは、U=ONEになれば生物に感染し取り付いても何の影響も与えず、その上で微生界人としての戦闘力は維持できるという話を聞いてここまで来たのだが、ルべオラたちのような方法でなれるならついていこうかと考えたのであった。


 ルべオラの方も、かつてこの2人が伯爵と知り合いであることを知り、彼らから「S」の一族であり、どこか様子がおかしい伯爵についての過去を洗いざらい探ろうとしており、細菌界の微生界人2人と奇妙な関係を結んでいるようであった。


 4人はその後その場を立ち去り、異界空間内に入るとある場所に向かうため、血徒に極力気づかれないように移動したのであった。

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