第65話 事務所を訪れた文香
それから3日後、無事に文香は退院し自宅に戻っていた。特にけがはなく、検査入院という形だったが何もないことが分かり父である文次郎はほっとしていた。
だが4体の具現霊は常に文香に付きまとっていた。それだけ彼女への信愛の気持ちが強い人たちということはわかるが、少し彼女もうんざりしていた。また妙に体がだるく疲れるというのも問題であった。
そこで彼女はもう一度あの人たちへお礼を言うため、そして今の現象をどうにかしたいと思いホテル・ザ・ハルバナに出向いたのであった。するとフロント近くのソファーでゆっくりしていた九龍と目が合い声をかけられる。
「おっ、文香!もう退院したんだな!」
「ええ、鮮那美。ハーネイト、さんのいる部屋はどこです?」
「地下にあるぜ。用事あったし案内するぜ」
九龍は別件でここに来たと言い、文香を案内するため共に地下の事務所を訪れた。
「兄貴ー!遊びに来たぜ!」
「……ああ、君たちか。それに文香さんも来たんだね」
「どうしたんだよ兄貴、顔色悪いぜ」
「連日徹夜で……Cデパイサーとか霊量子の研究していたから……。あのルべオラの件もあって、色々悩んでいたのさ」
ハーネイトの顔色が前より悪い。それを見た二人は不安に思っていたが次の瞬間、彼はその場で倒れてしまったのであった。いや、正確には寝ていたのであった。
「っ、兄貴はすげえが、こういう体調管理がどこかあれなのはだめな気がするぜ。それとうだうだするなよな兄貴。文香、悪いがそこのソファーまで運ぶのを……いや、そこにある毛布を持ってきてくれ」
「分かったわ鮮那美ちゃん」
九龍はやれやれだなと思いつつ、ハーネイトを引きずりソファーまで運んだのであった。そして寝かせたハーネイトに文香は近くにあった毛布をかぶせた。そしてしばらくし、ハーネイトは気が付いて目を覚ましたのであった。
「……!すまん、まさか運んだのか」
「そうだぜ、全くよ。しかし兄貴の体、すげえ引き締まってんのに重たくてびっくりしたぜ」
「……!」
「ちょ、兄貴?おい、ちょっ、どうしたんだおい、しっかりしろよ!」
九龍がそう言った瞬間、ハーネイトは顔を赤くして固まってしまったのであった。それを見て慌てる彼女。その時リリーが戻ってきたのであった。
「鮮那美、何してるの?」
「げっ、リリーさん!」
「あなた、まさかハーネイトを!」
「ここに来たらいきなり兄貴が倒れたんだよ、そっちこそ監督責任あるだろ!」
九龍と文香は事情を説明し、リリーを納得させた。そしてリリーは2人のためにお茶を入れ、その後3人で話をしていた。
「まったくもう、昔から仕事中毒な人なの。私は彼から色々魔法を教えてもらっていたけど、彼はいつも誰かのために仕事をしていたわ。私だけでなく、いろんな人に魔法を教えたり、問題を解決するために1日中奔走したり、彼はせわしないくらいよく働くのよ。心配しているのだけどどうもね」
「んにしても限度あるだろ、ったく。文香も驚いたよな」
「ああ、じゃなくてええ……」
リリーは初めて出会ってからのことを思い出し、昔からそんな感じの人であったことを話した。文香の様子に疑問を抱く九龍であったが、その時ハーネイトが元気のない声でリリーに話しかけた。
「私が悪いのだ、それ以上言うなよリリー」
「わかっているのなら寝てよね。Cデパイサーがあんたにしか作れないのはあれだけどさ」
「おかげで大体は揃った。予備機もいくつかね」
「……あ、あの!」
横になっていたハーネイトに対し文香は何かを決意したような表情で強く話しかけた。
「どうした、文香さん」
「私をチームに入れてくれ、兄貴……!」
「え、あ、ん?何か口調おかしくね?」
「まさか、後遺症……そんな」
文香の様子がおかしい、3人ともそう思い心配していたが、どうもこれが彼女の素顔のようであることに全員気付いたのであった。
「違うっす、私はあなたたちに助けられました。その恩を返したいだけなのです。私の後ろにいる4人、あれ幽霊かなんかですよね。いつも出っぱなしで疲れて……それも含めて色々教えてほしいっす」
文香は事情を話し、そのうえで鍛えたいと申し出てきたのであった。それを聞いたハーネイトはそうだなと納得した。具現霊に慣れる方法を教えなければ彼女に負担がかかり続ける。それは危険なことであり対処法を教えるべきであると考えていたからであった。
「はあ……それは構わんが、あくまで君たちは学業を優先してくれ。昼間は私たちがいろいろ回って亀裂とか異変のある場所を記録し、ある程度時間の都合がつくときに任務に参加して頂きたい。それはそうと、具現霊の制御については今すぐ教える」
その上で釘を刺すかのようにハーネイトは、九龍と文香に対しそう言い今後のやり方などについて話をした。
「そこまで配慮して動く……私は貴方が嫌と言っても勝手について行くっす!えへへ」
「キャラ変わってね?」
「おしとやかにしていたのは猫をかぶっていただけ。本当はこんな感じです、えへん!」
「驚いたわ、思っていた以上に元気っ子な感じなのね」
一番驚いていたのは九龍であった。付き合いもそれなりに長くまさかこのような感じの人だとは思ってもいなかったからであった。
「それで、父君には伝えたのかい?」
「はい、パピー、じゃなくて父さんも協力したいということです」
「実際文治郎さんも傷を負っているわけだし……その時はこちらでどうにかせねばな」
ハーネイトはそれを聞いて、困った親子だと思いながら大和と翼のことを思い仕方ないと考え、自分の意思を彼女に伝えた。
「てことは契約書と、Cデパイサーだな。これをつけて瞑想していれば、次第に具現霊を自分の思うが儘に操れるようになる。しかし君のは特殊だからな……彼ら4人に任せるのもありだろうし戦略を組んで戦うのもありだ。ったく、面白いな」
「えへへへ、色々ありがとうございます兄貴!」
ハーネイトは自分なりに少し毛色の違う具現霊とどう向き合えばいいかアドバイスをしたうえでソファーから起き上がり、棚に置いてあったCデパイサーを彼女に授けた。
「はあ、その言い方は全く……翼と九龍もそうだが、なぜそうなるのだ。先生と呼んでくれ」
翼も九龍もそうだが、どうも兄貴呼ばわれはしっくりこないところがあり一応先生と呼んでくれと言ったが、どうもあまり効果はなさそうであった。
「これで一連の事件は解決かな。……今日はたくさん、寝かせてもらうよ。近いうちに君たちに、いいものを用意してあげる……から、っ」
そうしてハーネイトは再び眠りに入り、3人はしばらく恋話などをしてから事務所を出て、九龍は五丈厳と駅前の広場で合流してからパトロールに当たっていたのであった。
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